佐々木くんの日記

○月○日
今日はダラダラしてしまった。

夕方から、さゆの友達が来ていた。
また漫画を描いているらしい。
母さんは「少しは勉強もしてるのかしら」と心配していた。
楽しそうでいいと思うけど。

女子の、みどりさんに頼まれた巾着。
この間の続きから作業を再開したけど、どうしたらいいものか。
あんなことを言われたの初めてだ。
みどりさんのお父さん、すみません。
僕は娘さんに酷いことを言ったような感じがします。
そんな僕がお父さんの巾着を作っています。
もしかしたらもういらないって言われるかも。

傷つけたかな。
でもあれ以外にどう言っていいのか、本当に経験がなくてわからなかった。
逆の立場になったこともないし、気持ちがわかってあげられない。
よく考えたら、僕にはいろんな気持ちが人より足りない気がしてきた。
峯や松谷くんだったら、もっとみどりさんのことを考えて優しい言葉をかけられたのかもしれない。

考えても仕方がないけど。

考えると少し落ち込んでしまうので、今日は静かに型を取ったのを切って仮縫いをした。
手を動かしていると気持ちが落ち着く気がした。


よし。2日目の夜ご飯の話から。
夜ご飯は広い食堂で焼き肉だった。
斉木が生野菜(さつまいもととうもろこし)と生肉を食べ出して、みんな爆笑した。
みんなで食べるとなんでもおいしい。
生肉は嫌だけど。

そしてフォークダンス。
僕は委員会の仕事があったから、みんなとは離れたところにいた。
たまにクラスのみんなの方を見たら楽しそうな顔がたくさん見えて、僕も嬉しかった。

僕は大野くんといろんな話をしながら所定の位置にいて、そしたらみどりさんが来たんだった。

僕はその時まで、もちろん顔は知ってたけど、名前を覚えていなかった。
父の日巾着の女子、という認識。
酷い…。

みどりさんともう一人、女子(名前…ごめん…)が来て、
「みどりが佐々木くんと話したいって言うから」
と言ってきて、僕はその女子のジェスチャーから、その子の名前がみどりだって知った。

みどりさんは僕に
「3分で終わるから、ちょっといい?」
と言った。

あと2分で音楽を切り替えて大野くんがマイクを使う手伝いをしなければならなかったので、みどりさんに少し待ってもらって、仕事が無事終わってから、みどりさんに連れられて人がいなくて暗い方に行った。

こっちの方は先生たちが安全確認してないって言ってたから危ない、と言おうとしたら、みどりさんが僕に、佐々木くんが好きだと言った。

僕は、友達、斉木やまゆたんたちに思うみたいにみどりさんのことも好きだったから、僕も好きだよと言った。

そしたらみどりさんは泣いてしまった。
どうして泣くのかわからなかった。
でもすぐに、僕がひどい間違いを犯したことに気づいた。

みどりさんは、じゃあ付き合ってくれるってこと?と言った。
付き合う、ということを僕は考えた。
それは好きな人とすることじゃないの?と僕は言った。
みどりさんはまた泣いてしまった。
僕はそれで、みどりさんの好きが僕の好きと違うんだと気づいた。

みどりさんは、僕のことを他のみんなとは違うと思ってくれているということ。
僕は、みどりさんのことを他のみんなと同じように思っているということ。
これは似ているようで全然、全然、違うんだ。

みどりさんは泣き止んで、
「佐々木くんの気持ちはわかったから、そんなに困った顔をしないで」
と言った。

これからも好きでいていい?と聞かれて、僕は何も言えなかった。
好きでいていいよなんて、言えるわけがない。
僕はみどりさんを傷つけた悪い人間なんだから、今すぐに嫌いになってほしいと思った。

みんな、誰かを好きになったり誰かに好かれたりするたびに、こんなに大変な思いをするの?
みどりさんはいつまで、僕に振り回されることになるの?

みどりさんはクラスのみんなの方に戻って行って、一緒に僕のところに来た女子が心配そうに迎えるのが見えた。

もどかしくて、でもどうしようもなくて、悶々としたままフォークダンスは終わった。

部屋に帰ってからもそのことばかり考えていたら、峯がトイレ付き合ってと言ってきて、2人でトイレに行った。

峯は僕に「何かあったの?」と心配そうな顔で聞いてくれた。
本当にいいやつ。

峯は恋愛とかも普通にしていそうだと思ったし、優しいから、峯にだけは言おうと思って全部話した。

何て答えるのが正解だったと思う?と聞いたら、峯は
「それでよかったと思うよ」
と言ってくれた。

「みどりは佐々木のそういうとこも好きなんだと思う」
と言われて、僕にはちょっとよくわからなかったけど、峯は、仕方ないことなんだからあんまり気にするなと言った。

僕が
「峯も恋愛とかしてる?楽しい?苦しいこともある?」
と聞いたら、峯はちょっと首を傾げた。
「楽しいことはあまりない」
と言っていた。
僕は峯が心配になってしまった。

話したくなかったらいいけど、大丈夫なの?と聞いたら、大丈夫だけど、もし大丈夫じゃなくなったら佐々木に話す、と言ってくれた。

峯に聞いてもらったら少しすっきりしたけど、僕がすっきりしたところで、みどりさんはどうなんだと思ったらもう気持ちが迷宮入りしそうだった。

峯と一緒に部屋に戻ったら、松谷くんに遅かったねと言われた。
斉木が、連れウンコとかマニアックだな、と言っていたけど無視した。
まゆたんが簡易ベッドを出してくれていた。
優しい。

前に動揺した時にまゆたんの手をにぎにぎさせてもらったら落ち着いたことを思い出して、僕はまたまゆたんの手をにぎにぎしてみた。

まゆたんは「ちょ、な、なに」とか言って真っ赤になっていた。
本当に癒される。

そして僕はまた過ちを犯した。

松谷くんの前でまゆたん本人に
「まゆたんは僕の癒しだよ…」
と言ってしまったのだ。

松谷くんがまゆたんって呼んでることを知られたらまゆたんに殺されるって、前に松谷くんが言ってたのに。

その後、まゆたんは簡易ベッドの上で松谷くんに柔道の寝技をかけた。
松谷くんは体が大きいのに簡単にかけられて悲鳴を上げていた。
というか、まゆたんの動きが俊敏すぎてびっくりだ。
それに、まゆたんは空手のはずなのに、柔道もできるとは。
強すぎる。

松谷くんが死ななくて本当によかった。

また長くなったから、3日目はまた明日。
いかに宿泊学習が濃かったか、日記の長さでわかる。


○月○日
宿泊学習3日目のことを書く前に。

今日はみんなで体育館でバドミントンをした。
すごく久しぶりで、とても楽しかった。
腕がパンパン。
筋肉落ちたな。

松谷くんが、
「さすが元バド部ね」
と言って褒めてくれた。

でも斉木も峯も、野球部だから運動神経がよくて、うまい。
ビシビシ打ち合っていた。

松谷くんと藤木田さんは平和にぽよんぽよんとラリーをしていて、癒された。

最初はまゆたんが僕の相手になってくれたんだけど、
「佐々木の相手疲れる」
と言って途中で斉木と代わった。

ごめんねまゆたん。

斉木と試合をしてみたら、結構楽しく激しい打ち合いになった。
やるな斉木!
またやりたい。

でも、また来ようねと言ったら
「お前の相手疲れんな」
と言われた。
ごめん。

隣のコートを使っていた中学生らしい女の子たちが試合を見ていたらしくて、終わった後にそれを聞いた斉木がちょっかいをかけに行っていた。

戻ってくると、
「アド交換した」
と言っていて嬉しそうだった。

そしたら、帰りがけ、その女の子たちにお茶に誘われたらしくて、佐々木もって言ってると言われたけど、僕は家に帰ってスカートを直さなきゃならないからと言って断った。

微妙な空気が流れたけど、斉木が
「あいつ変態だから」
と言ってみんなが笑った。

さゆのスカートの直しを明日までと頼まれていたのだ。

斉木に引っ張られて峯もそっちに行くことになり、松谷くんと藤木田さんはそれからデートだったらしくて断っていた。

斉木がまゆたんも誘ったけど、まゆたんは真っ赤になって
「俺も用事」
と言った。

だから結局、6人は2人ずつに別れて、僕はまゆたんと帰ることになった。

バドミントンが楽しかったので僕はちょっとテンションがおかしくて、なぜかまゆたんの手をにぎにぎしてしまった。

そしたらまゆたんはやっぱり真っ赤になっていた。

「お前、こういうの、なんなの」
と言われたので
「なんだろうね、わかんないけどたまに、まゆたんの手をにぎにぎしたくなるんだよね」
と言ったら、
「まゆたんやめろ」
と言われてぎゅうううと手を握られた。
わざと痛くしようとしていたので、僕も応戦した。

ぎゅうぎゅうやり合っていたら、我慢できなくなって同時に吹き出した。
まゆたんの笑顔はかわいいなぁ。

まゆたんが前より僕と話してくれるようになって嬉しい。
別れる時にバイバイと言ったらバイバイと手を振ってくれた。

家に帰ってから、さゆのスカートを直した。
少しほつれているくらいだったので、意外とすぐ終わってしまった。

次は何を作ろうかと思ったけど、みどりさんの巾着を仕上げてからだと思って、完成させた。

ああ。複雑な気持ちってこういうのを言うんだろうか。
僕は自分が思うよりくよくよしやすいタイプなんだろうか。
そんなことを考えながら作っていて、気づいたら深夜になっていた。

月曜日に渡そう。
普通に普通に。

3日目のことはやっぱり明日書こう。




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