佐々木くんの日記
○月○日
まゆたんと話した。
僕も松谷くんも、多分まゆたんを誤解していた。
見くびっていた。
「松谷くん、彼女できたから東藤くん寂しくなった?」
と聞いたら、
「いや別に、寂しくないけど」
と言った後、ちょっと黙ってから
「なんか、俺がいっつも松谷といるから、邪魔したくないとは思うけど」
って言ってた。
僕は、東藤くんをかっこいいと思った。
「それで松谷くんと距離置こうとしてるの?」
と聞いたら、
「松谷はいいやつだから、あいつ絶対彼女とか幸せにするし」
と言っていた。
東藤くん、超かっこいい。
感動したので、部活ですっごく急いで、かつ丁寧にペンケースを仕上げて、それを持って空手部を覗きに行った。
空手をやっている東藤くんは本当にかっこいい。
でも丁度休憩に入ってくれたので、廊下に呼び出した。
なんか女子みたいに。
ペンケースを渡すと、真っ赤になっていた。
すっごく真剣に見られて、ファスナーを開けたり閉めたりして、くるみボタンをくるくるっといじったりしていたので、不安になって
「気に入らなかったら作り直すよ」
と言ったら、
「全然。つかお前ほんと器用だな。売ってるやつみたい」
と言って笑ってくれた。
僕は嬉しくなったので、松谷くんの話をした時に東藤くんのこととってもかっこいいと思ったよ、と言ったら、真っ赤になって下を向いて固まってしまった。
あれはまゆたん。
無事納品できてよかった。
○月○日
今日でテストが全教科返ってきた。
順位はまだわからないけど、数学は98点でクラストップだったことを先生が教えてくれた。
ファンタジーワールドには行けそう。
もう今週の土曜日だ。
斉木は危ういみたいだけどきっと大丈夫だと信じてる。
がんばってたからな。最後は。
斉木で思い出したけど、あいつはいいやつだけどちょっと何でも口に出しすぎる。
今日、藤木田さんに聞こえるような声で(多分聞かれることをわかった上で)、
「藤木田さん本当胸でかい」
とかって言って、僕がやめなよと言ってもへらへらと笑っていたので、そういうのは良くないと説教してしまった。
斉木は
「お前はいい子すぎてたまにムカつくな」
と言っていた。
その後もなんだかむくれていた。
子どもみたいだ。
だから、
「僕は斉木に腹が立ったことなんかない。僕は斉木が大好きだよ」
と言ってやった。
なんだかクラスの雰囲気が変な感じになった。
特に女子がザワザワしていた。
斉木は呆れ顔で
「お前やっぱり変だな」
と言って笑っていた。
僕のせいなのか。
まあいい。
すぐ仲直りできてよかった。
夜、松谷くんから電話が来た。
雑談をしていたら、あんたは不思議な子だね、と松谷くんは笑った。
結局松谷くんの用件が何だったのかわからなかった。
今日やっとタぺストリーができた。
部屋に飾ってみた。
着物…やっぱいいな……
これに合わせてクッションカバーを作り直したい。
その前に、母さんにあげるカバーを父さんがくれた生地で作らなければ。
ああ、あと、まゆたんがペンケースを使ってくれていた。
とっても嬉しい。
○月○日
みんな赤点は免れていた。
無事にファンタジーワールドに行ける。
僕の総合順位はクラス1位、学年2位だった。
目標達成できてよかった。
学年1位は大野くんだった。
やるな…
あと、制服のボタンが取れた人のボタンつけをしてあげたら喜ばれた。
あんなのいつでもやってあげるのに。
部活には、今日は部長とミシン先輩しかいなかった。
父さんの生地を持っていって、前に出してもらったクッションの型紙を使って型を取った。
母さん用にはベージュの生地を使うことにした。
とてもきれいな柄が入っているので、余計な飾りは付けないで作ろうと思う。
部長とミシン先輩と話しながら作った。
ミシン先輩は
「絶対かわいくなるね!シンプルなやつ作るなら、佐々木くんの作業効率なら3日でできるわ。私のミシン使っていいよ」
と言ってくれた。
がんばろう。
ファスナーじゃなくてボタンで留めるものにしようと思う。
部長も今、ミシンでトートバッグを作っている。
見た目もなんだかモコモコしていてかわいいし、その機能的なことと言ったらもう売り物よりずっと素晴らしい。
たくさんある内ポケットが、ケータイや定期入れ用に分かれているのはもちろん、ポケットティッシュや文庫本を入れるところまで付けるみたい。
僕が感心していたら、部長は
「自分で自分のを作ると全部思い通りのオーダーメイドだから、作った後もずっと楽しいし誇らしいよね」
と言った。
パッチワーク先輩の作品を見ていつも思っていたことを、僕はなんとか実行に移せないか考えている。
オーダーメイドは無理でも、性別や年齢層に合わせて作品を作って売る。
例えばフリマとかで。
おばさんたちがたくさん集まる催しとかがあれば、一番いい市場な気がする。
パッチワーク作品、バッグや家で使う小物から、ビーズ先輩のアクセサリーやミニチュア先輩の小さな雑貨まで、売れそうなものがたくさんあると思う。
具体的にはまだ考えていないけど、材料費ととんとんくらいで売れればいいのに。
関係ないけど、地味に宿泊学習も近づいてきた。
楽しみだ。
○月○日
明日のファンタジーワールドの予定を立てていた時に、東藤くんが松谷くんに
「彼女連れて行かなくていいの」
と聞いた。
松谷くんは
「今回はいいの」
と答えて、僕がどうしてと聞いたら
「5人で約束したから」
と言って笑った。
義理堅い。
でもデートにもなるのにもったいない、と言ったら、
「藤木田さんとは今度2人で行くから大丈夫」
と言っていた。
斉木は
「そうだよな、女連れとか許せねえ」
とか言っていて、あれはただの僻みだと思う。
松谷くんがまゆたんに、楽しみだねと言って嬉しそうに笑って、まゆたんもうんと言って、珍しく松谷くん相手に真っ赤になっていた。
2人の関係が壊れたりしなくてよかった。一時期ちょっとぎこちなかったから。
余計なお世話かもしれないけど。
僕も幸せな気持ちになった。
○月○日
あー。疲れた。
楽しかったけど。
ファンタジーワールド。
前に行った時よりずっと無理がある1日だった。
松谷くんは僕と同じくらい絶叫系が平気な人で、峯は普通に乗れて、斉木はちょっとダメで、まゆたんは全然ダメだった。
少しでも怖そうなやつだとまゆたんは行きたがらなくて、斉木もそれに便乗して見学に徹して、松谷くんは僕と峯をとにかく一緒に連れ回すので、峯がダウン寸前になってしまって、そこからは松谷くんと僕のデスマッチみたいになってしまった。
みんなで乗れるものはメリーゴーランドみたいなのと大きなゴーカートみたいなのだけだった。
ファンタジーワールドのメリーゴーランドはお化け屋敷の中にある。
暗闇を進んでいくとパッと視界が開けて、幻想的なメリーゴーランドがあってとてもいいんだけど、まゆたんはお化け屋敷もダメで、でも松谷くんが
「佐々木くんと手を繋いで一番最後に来れば大丈夫」
と言ったら真っ赤になった。
「なんで手なんか繋ぐんだよ、絶対に嫌だ」
と言って聞かなかった。
でもそれに入らなかったらまゆたんは本当に今日行った意味が無くなってしまう。
なんとか説得しようとして、行こうよと言って手を繋いでみたら、最初は抵抗したけど結局嫌々ながらついてきてくれた。
まゆたんは僕の手を、入ってから出るまでずっと放さなかったし、ほとんどずっと目を瞑っていた。
メリーゴーランドも、2人乗りできる馬車みたいなのを探してまゆたんと乗った。
音楽とかはなくて、たまにお化けみたいなのがぶわっと出てきて、その度にまゆたんにすごい力でにぎにぎされた。
彼女とかいたらこんな感じなのかなと思った。
まゆたんが女の子だったらよかったのに!
まゆたんはバイトのお化けなんか空手でやっつければいいのに。
歩いてる時は、たまに息を飲む音とか、ひゃっという声とかが後ろから聞こえた。
ちょっとかわいかった。
出ると、まゆたんはなんだかぐったりしていて、ベンチで休ませた。
斉木が
「東藤って空手やってんのにひ弱っ子だな」
とかからかいつつも自販機で水を買ってきてあげていた。
ベンチに座ったまゆたんは、みんなに囲まれて世話を焼かれたり心配されたりして、ずっと恥ずかしそうにしていた。
ああいう時は峯が一番優しい。
峯はなんか癒し系だ。ぽわんとしている。
松谷くんは相変わらず、どんとしていてお母さんみたい。
そうしていたら、大きなゴーカートみたいのに乗る時間が無くなって(あとまゆたんと斉木の気力も)、そのまま帰ることになった。
果たして斉木とまゆたんは楽しめたのだろうか。
僕は楽しかった。
でも本当に疲れた。
まゆたんと話した。
僕も松谷くんも、多分まゆたんを誤解していた。
見くびっていた。
「松谷くん、彼女できたから東藤くん寂しくなった?」
と聞いたら、
「いや別に、寂しくないけど」
と言った後、ちょっと黙ってから
「なんか、俺がいっつも松谷といるから、邪魔したくないとは思うけど」
って言ってた。
僕は、東藤くんをかっこいいと思った。
「それで松谷くんと距離置こうとしてるの?」
と聞いたら、
「松谷はいいやつだから、あいつ絶対彼女とか幸せにするし」
と言っていた。
東藤くん、超かっこいい。
感動したので、部活ですっごく急いで、かつ丁寧にペンケースを仕上げて、それを持って空手部を覗きに行った。
空手をやっている東藤くんは本当にかっこいい。
でも丁度休憩に入ってくれたので、廊下に呼び出した。
なんか女子みたいに。
ペンケースを渡すと、真っ赤になっていた。
すっごく真剣に見られて、ファスナーを開けたり閉めたりして、くるみボタンをくるくるっといじったりしていたので、不安になって
「気に入らなかったら作り直すよ」
と言ったら、
「全然。つかお前ほんと器用だな。売ってるやつみたい」
と言って笑ってくれた。
僕は嬉しくなったので、松谷くんの話をした時に東藤くんのこととってもかっこいいと思ったよ、と言ったら、真っ赤になって下を向いて固まってしまった。
あれはまゆたん。
無事納品できてよかった。
○月○日
今日でテストが全教科返ってきた。
順位はまだわからないけど、数学は98点でクラストップだったことを先生が教えてくれた。
ファンタジーワールドには行けそう。
もう今週の土曜日だ。
斉木は危ういみたいだけどきっと大丈夫だと信じてる。
がんばってたからな。最後は。
斉木で思い出したけど、あいつはいいやつだけどちょっと何でも口に出しすぎる。
今日、藤木田さんに聞こえるような声で(多分聞かれることをわかった上で)、
「藤木田さん本当胸でかい」
とかって言って、僕がやめなよと言ってもへらへらと笑っていたので、そういうのは良くないと説教してしまった。
斉木は
「お前はいい子すぎてたまにムカつくな」
と言っていた。
その後もなんだかむくれていた。
子どもみたいだ。
だから、
「僕は斉木に腹が立ったことなんかない。僕は斉木が大好きだよ」
と言ってやった。
なんだかクラスの雰囲気が変な感じになった。
特に女子がザワザワしていた。
斉木は呆れ顔で
「お前やっぱり変だな」
と言って笑っていた。
僕のせいなのか。
まあいい。
すぐ仲直りできてよかった。
夜、松谷くんから電話が来た。
雑談をしていたら、あんたは不思議な子だね、と松谷くんは笑った。
結局松谷くんの用件が何だったのかわからなかった。
今日やっとタぺストリーができた。
部屋に飾ってみた。
着物…やっぱいいな……
これに合わせてクッションカバーを作り直したい。
その前に、母さんにあげるカバーを父さんがくれた生地で作らなければ。
ああ、あと、まゆたんがペンケースを使ってくれていた。
とっても嬉しい。
○月○日
みんな赤点は免れていた。
無事にファンタジーワールドに行ける。
僕の総合順位はクラス1位、学年2位だった。
目標達成できてよかった。
学年1位は大野くんだった。
やるな…
あと、制服のボタンが取れた人のボタンつけをしてあげたら喜ばれた。
あんなのいつでもやってあげるのに。
部活には、今日は部長とミシン先輩しかいなかった。
父さんの生地を持っていって、前に出してもらったクッションの型紙を使って型を取った。
母さん用にはベージュの生地を使うことにした。
とてもきれいな柄が入っているので、余計な飾りは付けないで作ろうと思う。
部長とミシン先輩と話しながら作った。
ミシン先輩は
「絶対かわいくなるね!シンプルなやつ作るなら、佐々木くんの作業効率なら3日でできるわ。私のミシン使っていいよ」
と言ってくれた。
がんばろう。
ファスナーじゃなくてボタンで留めるものにしようと思う。
部長も今、ミシンでトートバッグを作っている。
見た目もなんだかモコモコしていてかわいいし、その機能的なことと言ったらもう売り物よりずっと素晴らしい。
たくさんある内ポケットが、ケータイや定期入れ用に分かれているのはもちろん、ポケットティッシュや文庫本を入れるところまで付けるみたい。
僕が感心していたら、部長は
「自分で自分のを作ると全部思い通りのオーダーメイドだから、作った後もずっと楽しいし誇らしいよね」
と言った。
パッチワーク先輩の作品を見ていつも思っていたことを、僕はなんとか実行に移せないか考えている。
オーダーメイドは無理でも、性別や年齢層に合わせて作品を作って売る。
例えばフリマとかで。
おばさんたちがたくさん集まる催しとかがあれば、一番いい市場な気がする。
パッチワーク作品、バッグや家で使う小物から、ビーズ先輩のアクセサリーやミニチュア先輩の小さな雑貨まで、売れそうなものがたくさんあると思う。
具体的にはまだ考えていないけど、材料費ととんとんくらいで売れればいいのに。
関係ないけど、地味に宿泊学習も近づいてきた。
楽しみだ。
○月○日
明日のファンタジーワールドの予定を立てていた時に、東藤くんが松谷くんに
「彼女連れて行かなくていいの」
と聞いた。
松谷くんは
「今回はいいの」
と答えて、僕がどうしてと聞いたら
「5人で約束したから」
と言って笑った。
義理堅い。
でもデートにもなるのにもったいない、と言ったら、
「藤木田さんとは今度2人で行くから大丈夫」
と言っていた。
斉木は
「そうだよな、女連れとか許せねえ」
とか言っていて、あれはただの僻みだと思う。
松谷くんがまゆたんに、楽しみだねと言って嬉しそうに笑って、まゆたんもうんと言って、珍しく松谷くん相手に真っ赤になっていた。
2人の関係が壊れたりしなくてよかった。一時期ちょっとぎこちなかったから。
余計なお世話かもしれないけど。
僕も幸せな気持ちになった。
○月○日
あー。疲れた。
楽しかったけど。
ファンタジーワールド。
前に行った時よりずっと無理がある1日だった。
松谷くんは僕と同じくらい絶叫系が平気な人で、峯は普通に乗れて、斉木はちょっとダメで、まゆたんは全然ダメだった。
少しでも怖そうなやつだとまゆたんは行きたがらなくて、斉木もそれに便乗して見学に徹して、松谷くんは僕と峯をとにかく一緒に連れ回すので、峯がダウン寸前になってしまって、そこからは松谷くんと僕のデスマッチみたいになってしまった。
みんなで乗れるものはメリーゴーランドみたいなのと大きなゴーカートみたいなのだけだった。
ファンタジーワールドのメリーゴーランドはお化け屋敷の中にある。
暗闇を進んでいくとパッと視界が開けて、幻想的なメリーゴーランドがあってとてもいいんだけど、まゆたんはお化け屋敷もダメで、でも松谷くんが
「佐々木くんと手を繋いで一番最後に来れば大丈夫」
と言ったら真っ赤になった。
「なんで手なんか繋ぐんだよ、絶対に嫌だ」
と言って聞かなかった。
でもそれに入らなかったらまゆたんは本当に今日行った意味が無くなってしまう。
なんとか説得しようとして、行こうよと言って手を繋いでみたら、最初は抵抗したけど結局嫌々ながらついてきてくれた。
まゆたんは僕の手を、入ってから出るまでずっと放さなかったし、ほとんどずっと目を瞑っていた。
メリーゴーランドも、2人乗りできる馬車みたいなのを探してまゆたんと乗った。
音楽とかはなくて、たまにお化けみたいなのがぶわっと出てきて、その度にまゆたんにすごい力でにぎにぎされた。
彼女とかいたらこんな感じなのかなと思った。
まゆたんが女の子だったらよかったのに!
まゆたんはバイトのお化けなんか空手でやっつければいいのに。
歩いてる時は、たまに息を飲む音とか、ひゃっという声とかが後ろから聞こえた。
ちょっとかわいかった。
出ると、まゆたんはなんだかぐったりしていて、ベンチで休ませた。
斉木が
「東藤って空手やってんのにひ弱っ子だな」
とかからかいつつも自販機で水を買ってきてあげていた。
ベンチに座ったまゆたんは、みんなに囲まれて世話を焼かれたり心配されたりして、ずっと恥ずかしそうにしていた。
ああいう時は峯が一番優しい。
峯はなんか癒し系だ。ぽわんとしている。
松谷くんは相変わらず、どんとしていてお母さんみたい。
そうしていたら、大きなゴーカートみたいのに乗る時間が無くなって(あとまゆたんと斉木の気力も)、そのまま帰ることになった。
果たして斉木とまゆたんは楽しめたのだろうか。
僕は楽しかった。
でも本当に疲れた。