大きな声では言わないけど
43 なつめと夏の終わり
小さな神社の境内は、信じられないほど賑わっている。20軒ほどの露店にはすでにあかりが点っていて、家族連れやカップルや友達同士とみられる人々が群がり、人いきれに目眩がした。
「キモい」
「創樹くん、大丈夫? 具合悪い?」
隣のなつめがすぐに顔を覗き込もうとするので、軽く頬をつねった。ふにふにでやわらかい。
「いたた」
「見んな」
「元気そうでなによりだよ」
「どこがだよ。目ついてんのか」
なつめはにこっと笑って辺りを見回した。
「何か食べる?」
「なんか適当に買って来い。俺ここで待ってる」
境内の端、でこぼこと土に埋めて並べられた大きな石のひとつに腰を下ろして、なつめを見上げた。
「焼きそばかお好み焼きがいい?」
「たこ焼き」
「わかった」
俺の犬は、もう一度笑顔を見せてから、人混みの方へ歩いて行った。
なつめが近所の神社の夏祭りに行きたいと言い出して、帰りに酒を奢ると言うのでしぶしぶついてきた。人の多い場所は嫌いだ。特にこういう、浮かれたやつの多い場所は。
たこ焼きとツイストポテトを両手に持って戻ってきたなつめは、隣に座って俺がたこ焼きを食うのをなぜか嬉しそうに見ていた。
「なんだよ」
「いや。創樹くんって何しててもかわいいなぁと思って」
「目ん玉くり抜くぞ」
「なんで?!」
たこ焼きを1個、爪楊枝でぶっ刺して、ふにゃふにゃだらしないなつめの口に突っ込んだ。
なつめは、ふにゃふにゃした顔のまま、それをもぐもぐと噛んで、ごくりと飲み込んだ。喉仏が上下するのを見て、なぜだか無性になつめの体を噛みたくなった。
指なんかでは足りなそうで、かと言ってこんな所で服の内側を噛むわけにもいかない。
「喉乾いた。なんか、飲ませて」
そう言ってから、視線を動かす。なつめの目から、ゆっくり下におろしていって、股間で少し止めて、それからまた、絡めるようにゆっくり、視線を目に戻す。
なつめは困ったような表情を浮かべて、何度も瞬きをした。
アホなやつ。
笑いそうになるのを我慢して、黙って小銭を渡す。
「飲み物。買って来て」
一瞬、何を言われたのかわからないみたいな顔をしてから、なつめは顔を赤らめた。ああ、うん、と言ってとぼとぼとその場を離れていく。
ほんとに。アホ。
ペットボトルの炭酸飲料を買って戻った犬のまえあしを握って公衆トイレの個室に入る。なつめは大人しくついてきたくせに、いざボトムをおろそうとすると少し抵抗した。眉毛が縦になりそうなくらい下がっている。
「なんだてめえ、殺すぞ」
「こんな、不衛生なところで……創樹くんお腹壊しちゃったら僕、」
「うっせえ。黙って従えよ。クソが」
「でも」
「しっかり勃起してんじゃねえか。変態がよぉ」
「ごめん」
和式の便器なので使えるスペースが狭くてイラつきながら、なつめの下着を下げる。
しっかり臨戦態勢になったペニスを根元からゆっくり撫でると、なつめは切なそうに息を吐いた。
先端から透明の液体がとろっと垂れたのでそれを舌先ですくい上げる。
「んんっ」
なつめは身体をびくつかせて声を漏らした。そして俺の頬に手を伸ばしてきたので、思わず指をぱくりと咥え、歯を立てた。
「ああ、っ、創樹くん……」
そのまま、勃起したものを放置して、人差し指に舌を這わせる。ちゅぷ、と音を立ててしゃぶり、奥まで咥え込んで、ひくひくと動く指先を喉の奥へ飲み込む。
「待って、なんか……っ、なんかこれ、やばいかも」
ちらりと見上げるとなつめは細めた目でこちらを見下ろしていた。なつめの分際で。
本体は完全に勃起したまま放置されている。
人差し指と中指。2本。なつめの指は、太くはないけど普通に男の手だ。
そして、ふと思う。これが自分の中に入って、中を、腹が立つくらい、中を。
何を考えているのか、と我に返って、指の第二関節の当たりをつぷ、と噛んだ。
「っ、創樹くん……噛むの、好き?」
笑いを含んだ声が聞こえて、頭を優しく撫でられる。腹が立ったので、薬指も増やしてじゅーっと吸ってやった。
「なんか……このまま、指だけしゃぶられて、イっちゃったらどうしよう」
「さすがにお前でも、それは無理じゃね」
「でも創樹くんがしてくれるの見てたら、なんか、すっごい気持ちいい」
変態が。
「本体しゃぶってほしいか」
「本体ってなに?」
「おめーの本体はちんこだろ」
「僕の本体は僕だよ!」
「ガタガタうるせえ。ちんこしゃぶってほしいかって聞いてんだよ」
「……うん」
「ぶち殺す」
「なんで?!」
口の中とはいえ粘膜をなつめの指で触れられることに少し耐えられなくなって、でもこんな汚い場所でヤるのは絶対に嫌だから。仕方なく、仕方なく、仕方なく。放置したのになぜかガマン汁を垂らすそっちへ、舌をのばした。
「あ、っ創樹くん……」
「ん……」
軽く歯を立てる。
「い、」
なつめの体が強ばる。多分少し痛いんだろう。
ほんとうはもっとがぶっと噛みたい。その欲に素直になって、ペニスから口を離して腿に噛みついた。
「いた……」
柔らかい声。また、頭を撫でられる。ペニスはびんびんのままだ。噛んだあとに歯型がついた。そこをぺろぺろと舐める。
「あっ、だめ、待って……創樹くんっ気持ちいい……」
腿から舌を這わせ、ペニスを再度口に含む。
「はぁ、は、創樹くん、」
カリを舌先で刺激して、先端に唇を押し付けるようにしながら、手で根元から扱いたら、なつめが体を少しひねって耐えている。
「……出ちゃいそう、創樹くん……」
「飲ませて」
「は?」
「出せよ。飲んでやる」
ぜんぶ、と言い足して、上目遣いで見上げる。
「っ、だめ、ほんとに出る、出すよ……出る……っ」
イく寸前から、射精の瞬間、そこから3秒間。
なつめは完全に男の顔をした。言葉にならないような複雑な気持ちが押し寄せて渦巻き、ほとんど無意識に、なつめの精液を全部飲み干した。
はあ、はあ、と息を荒くしながら、なつめは素早く身支度を整えて、俺の体をやわやわと抱き寄せた。もう、男くさいにおいはすっかり消え失せている。
「ごめんね……飲ませて」
「帰るぞ。酒奢れ」
「そうだね」
個室の鍵に手をかけたところで、トイレの中へ人が入ってくる気配があった。なつめが俺の体をまた抱き寄せる。至近距離にあったなつめの唇に、俺は深く深くキスをした。首に抱きついて、多少「ちゅ」と音が出たけれど、気にもかけずに。
なつめはただ従って、それを静かに受けている。
蒸し暑い。人も多い。公衆トイレなんて、長居したいわけがない。
早く帰ればいいものを。
人の気配が去ったところで、なつめの小さな声が聞こえた。
「もう少しだけ」
もう一度唇を合わせたところへ、遠くの方で、花火の上がる音がした。
-end-
2019.9.8
小さな神社の境内は、信じられないほど賑わっている。20軒ほどの露店にはすでにあかりが点っていて、家族連れやカップルや友達同士とみられる人々が群がり、人いきれに目眩がした。
「キモい」
「創樹くん、大丈夫? 具合悪い?」
隣のなつめがすぐに顔を覗き込もうとするので、軽く頬をつねった。ふにふにでやわらかい。
「いたた」
「見んな」
「元気そうでなによりだよ」
「どこがだよ。目ついてんのか」
なつめはにこっと笑って辺りを見回した。
「何か食べる?」
「なんか適当に買って来い。俺ここで待ってる」
境内の端、でこぼこと土に埋めて並べられた大きな石のひとつに腰を下ろして、なつめを見上げた。
「焼きそばかお好み焼きがいい?」
「たこ焼き」
「わかった」
俺の犬は、もう一度笑顔を見せてから、人混みの方へ歩いて行った。
なつめが近所の神社の夏祭りに行きたいと言い出して、帰りに酒を奢ると言うのでしぶしぶついてきた。人の多い場所は嫌いだ。特にこういう、浮かれたやつの多い場所は。
たこ焼きとツイストポテトを両手に持って戻ってきたなつめは、隣に座って俺がたこ焼きを食うのをなぜか嬉しそうに見ていた。
「なんだよ」
「いや。創樹くんって何しててもかわいいなぁと思って」
「目ん玉くり抜くぞ」
「なんで?!」
たこ焼きを1個、爪楊枝でぶっ刺して、ふにゃふにゃだらしないなつめの口に突っ込んだ。
なつめは、ふにゃふにゃした顔のまま、それをもぐもぐと噛んで、ごくりと飲み込んだ。喉仏が上下するのを見て、なぜだか無性になつめの体を噛みたくなった。
指なんかでは足りなそうで、かと言ってこんな所で服の内側を噛むわけにもいかない。
「喉乾いた。なんか、飲ませて」
そう言ってから、視線を動かす。なつめの目から、ゆっくり下におろしていって、股間で少し止めて、それからまた、絡めるようにゆっくり、視線を目に戻す。
なつめは困ったような表情を浮かべて、何度も瞬きをした。
アホなやつ。
笑いそうになるのを我慢して、黙って小銭を渡す。
「飲み物。買って来て」
一瞬、何を言われたのかわからないみたいな顔をしてから、なつめは顔を赤らめた。ああ、うん、と言ってとぼとぼとその場を離れていく。
ほんとに。アホ。
ペットボトルの炭酸飲料を買って戻った犬のまえあしを握って公衆トイレの個室に入る。なつめは大人しくついてきたくせに、いざボトムをおろそうとすると少し抵抗した。眉毛が縦になりそうなくらい下がっている。
「なんだてめえ、殺すぞ」
「こんな、不衛生なところで……創樹くんお腹壊しちゃったら僕、」
「うっせえ。黙って従えよ。クソが」
「でも」
「しっかり勃起してんじゃねえか。変態がよぉ」
「ごめん」
和式の便器なので使えるスペースが狭くてイラつきながら、なつめの下着を下げる。
しっかり臨戦態勢になったペニスを根元からゆっくり撫でると、なつめは切なそうに息を吐いた。
先端から透明の液体がとろっと垂れたのでそれを舌先ですくい上げる。
「んんっ」
なつめは身体をびくつかせて声を漏らした。そして俺の頬に手を伸ばしてきたので、思わず指をぱくりと咥え、歯を立てた。
「ああ、っ、創樹くん……」
そのまま、勃起したものを放置して、人差し指に舌を這わせる。ちゅぷ、と音を立ててしゃぶり、奥まで咥え込んで、ひくひくと動く指先を喉の奥へ飲み込む。
「待って、なんか……っ、なんかこれ、やばいかも」
ちらりと見上げるとなつめは細めた目でこちらを見下ろしていた。なつめの分際で。
本体は完全に勃起したまま放置されている。
人差し指と中指。2本。なつめの指は、太くはないけど普通に男の手だ。
そして、ふと思う。これが自分の中に入って、中を、腹が立つくらい、中を。
何を考えているのか、と我に返って、指の第二関節の当たりをつぷ、と噛んだ。
「っ、創樹くん……噛むの、好き?」
笑いを含んだ声が聞こえて、頭を優しく撫でられる。腹が立ったので、薬指も増やしてじゅーっと吸ってやった。
「なんか……このまま、指だけしゃぶられて、イっちゃったらどうしよう」
「さすがにお前でも、それは無理じゃね」
「でも創樹くんがしてくれるの見てたら、なんか、すっごい気持ちいい」
変態が。
「本体しゃぶってほしいか」
「本体ってなに?」
「おめーの本体はちんこだろ」
「僕の本体は僕だよ!」
「ガタガタうるせえ。ちんこしゃぶってほしいかって聞いてんだよ」
「……うん」
「ぶち殺す」
「なんで?!」
口の中とはいえ粘膜をなつめの指で触れられることに少し耐えられなくなって、でもこんな汚い場所でヤるのは絶対に嫌だから。仕方なく、仕方なく、仕方なく。放置したのになぜかガマン汁を垂らすそっちへ、舌をのばした。
「あ、っ創樹くん……」
「ん……」
軽く歯を立てる。
「い、」
なつめの体が強ばる。多分少し痛いんだろう。
ほんとうはもっとがぶっと噛みたい。その欲に素直になって、ペニスから口を離して腿に噛みついた。
「いた……」
柔らかい声。また、頭を撫でられる。ペニスはびんびんのままだ。噛んだあとに歯型がついた。そこをぺろぺろと舐める。
「あっ、だめ、待って……創樹くんっ気持ちいい……」
腿から舌を這わせ、ペニスを再度口に含む。
「はぁ、は、創樹くん、」
カリを舌先で刺激して、先端に唇を押し付けるようにしながら、手で根元から扱いたら、なつめが体を少しひねって耐えている。
「……出ちゃいそう、創樹くん……」
「飲ませて」
「は?」
「出せよ。飲んでやる」
ぜんぶ、と言い足して、上目遣いで見上げる。
「っ、だめ、ほんとに出る、出すよ……出る……っ」
イく寸前から、射精の瞬間、そこから3秒間。
なつめは完全に男の顔をした。言葉にならないような複雑な気持ちが押し寄せて渦巻き、ほとんど無意識に、なつめの精液を全部飲み干した。
はあ、はあ、と息を荒くしながら、なつめは素早く身支度を整えて、俺の体をやわやわと抱き寄せた。もう、男くさいにおいはすっかり消え失せている。
「ごめんね……飲ませて」
「帰るぞ。酒奢れ」
「そうだね」
個室の鍵に手をかけたところで、トイレの中へ人が入ってくる気配があった。なつめが俺の体をまた抱き寄せる。至近距離にあったなつめの唇に、俺は深く深くキスをした。首に抱きついて、多少「ちゅ」と音が出たけれど、気にもかけずに。
なつめはただ従って、それを静かに受けている。
蒸し暑い。人も多い。公衆トイレなんて、長居したいわけがない。
早く帰ればいいものを。
人の気配が去ったところで、なつめの小さな声が聞こえた。
「もう少しだけ」
もう一度唇を合わせたところへ、遠くの方で、花火の上がる音がした。
-end-
2019.9.8