大きな声では言わないけど

番外 森田と岡崎31 幸せに



「俺と冷やし中華、どっちが好き?」
「お、かざきさん」

森田さんは最近、俺の唐突でおかしい質問にもあまり困らないで答えてくる。少し不満だ。困った顔が好きなのに。しかも律儀に愛を伝えてくるし。うける。
俺はニヤつく顔をそのままに、森田さんの顔を盗み見た。

森田さんは冷やし中華が好きだ。ラーメン屋で期間限定で出てるやつ。夏しか食べられないから、と言うけど、本当は冬も食べたいんじゃないか。冷やし中華大盛りゆで卵トッピングとチャー丼を待つ森田さんの隣で、俺は醤油ラーメン大盛りチャーシュートッピングと餃子とライスを待っている。

「森田さん、紅しょうがってどうやってあんな赤くするか知ってる?」
「知らない……あれは、なんでか……岡崎さん、知ってるの?」
「知らね」

はぁ、と、森田さんは気の抜けたような声を出す。ラーメン早く来ないかな。腹減った。朝っつーか昼まで寝てて何も食べずにもう午後2時だ。

「餃子、森田さんも食うでしょ?」
「いいよ、岡崎さん、全部食べて」
「いいって、半分こしようと思って頼んだから」
「じゃあ、うん、食べる」

いつでも遠慮がちだけど、俺には余計な気を遣ってるわけじゃないこの感じを、ほんとにほんとに好きだと思う。こんな人は幸せにしてあげるべきだ。運ばれてきた料理を受け取りながら、ほとんど正義感みたいな気持ちでそう思う。

「ラーメンちょっと食う?」
「……うん」
「そっちもちょっとちょうだい」
「うん」

冷やし中華の皿を受け取り、ラーメンを横へずらす。お互いの割り箸が交換されて、森田さんは冷やし中華の皿に置かれた箸を取ろうとしたけど、俺がそれを掴んでそのまま食べたので、仕方なく、俺の箸でラーメンを食べ始める。

「まあ、うまいよね、冷やし中華」

ごま油と醤油と酢を混ぜたみたいなタレが、冷たい麺に絡んで。きゅうりやハムや薄焼き卵や焼き豚の細切りが、いろんな食感を運んでくる。
添えられた真っ赤な紅しょうがも少しもらった。

「ラーメンも、おいしい」
「チャーシュー食っていいよ」
「あ、うん」

森田さんは一番小さいチャーシューを取って、どんぶりを返してきた。
幸せにしなきゃな。うん。
並んでそれぞれ好きなものを食べながら、休みの日は割りといつも、考えることだ。

「んっ」
「……ん」

家に帰ってごろごろしているうちに、そんな雰囲気になってしまった。仕方がない。夏だから。肌の露出も多いし。まぁ、冬は冬で、あれだけど。

「はぁっ、ねえ森田さん」
「ん」
「舐めたい」
「今は……風呂、入ってない、から」
「いいじゃん……ん……ね……」
「だめ、っ、岡崎さん」

無理矢理下を脱がそうとしたら手首をおさえて止められた。仕方ない。こうなったらどうしたってしゃぶりたい。

「森田さん、愛してるよ」
「あ、い……」
「森田さんも俺のこと愛してるでしょ?」
「は、そ、それは」

不意打ちを食らって力の抜けた彼の手をよけて、一気にジーンズと下着をおろす。

「ちょっ、だめ」
「愛してるって言って。ちゃんと言ってくれなきゃイヤ」

甘えるみたいに太ももへ頬ずりすると森田さんはぴたりと抵抗をやめた。そのすきに、かぷ、と性器を口の中へ押し込む。勃起しかけている。ほんと、でかい。にやけそうになる。

「んっ」
「っ、あ、岡崎さん……」
「んっ、んっ」

なでなで、なでなで。森田さんの手が、俺の髪の毛を優しくまぜる。その手つきに興奮して、完勃ちでもないそれを口いっぱいで扱く。唾液で濡らしながら、じゅぶじゅぶと音を立てて。

「っ、ん、はぁっ」

頭がクラクラする。このまま俺の口に出して、罪悪感でいっぱいになった森田さんにそのあとめちゃくちゃ甘やかされながら抱かれたい。と思ったらめちゃくちゃ興奮してきた。

「おかざき……さん……」

夢中でしゃぶって扱いて舐めまわしていると、森田さんの、何かを我慢しているような声が聞こえた。腰がたまに、ガクッと痙攣している。

「ね、もう、あの、っ、お願いだから……っは」

余裕のない森田さんが少し強引に引き剥がそうとしてくるけど、必死に食らいつく。両腕で森田さんの腰を拘束して、頭を前後させて喉奥まで咥え込む。そのまま息を吸うと、ブブブ、ズルズル、と下品な音がたった。

「んっ、あ……っ、でそう、だから、岡崎さん……」

はやく。はやく。

「んんっ飲ませて、森田さんの飲ませて」

ダメだ自分もめちゃくちゃに勃ってる。はやく何とかしたい。逃げようとする体をがっちりホールドして舌を動かす。

「あ、っ、……出る、ごめん、え、あの? いや、口に……」

混乱しているらしい森田さんは、ほんの少しだけ、腰を前後に揺らした。

「……う、」
「ん……!」

喉の奥に生暖かい体液がたっぷりと注がれ、それを飲み込みながら、俺は森田さんの声に煽られてケツを思い切り締めてしまった。
まだしゃぶっていたかったのに、イってすぐ森田さんはペニスを俺の口から抜いて、それから俺の顔を覗き込んだ。まゆげの間に、おもいきりシワが寄っている。

「し、正気……?」
「なにそれ。正気だよ」

それから平謝りする森田さんを無視して、そんなことより、と言いながらその上に馬乗りになる。

「ねえ、次は俺の中に出して……」

森田さんがなにか言う前に、唇をふさぐ。頭を抱きかかえるようにして固定して、舌を入れると、森田さんはすぐに、俺の体を抱き返してくれた。



「う、んっはぁ、はぁ、」

森田さんの上で、汗だくになりながら、ひたすら腰を前後に動かしている。2回目だからか、森田さんは若干余裕そうで、俺の腰を撫でたり髪の毛を触ったりしてくるのがかわいくて、何度も何度もキスをした。永遠に続いてほしい時間が、それでも終わりに近づく。

「あー、やば、イきそう」
「岡崎さん、すごい、俺は……あの、愛してる」

何それあぶね、かわいくて笑っちゃうとこだった。
俺がふざけて要求したこと、でもほんとは欲しくてたまらない言葉を、森田さんはちゃんと、いつも、大事にして、届けてくれる。
それが俺にとって、どれだけ。

「俺もだよ」

上半身を少し起こした森田さんに、もう一度優しく深いキスをして、俺は欲望を放出した。

どれだけ、そのことに、救われてきたか。

森田さんの胸に耳をぴたりとくっつけて乱れた呼吸をそのままに、言葉にならない気持ちを燻らせた。

幸せにしてあげるべきだという決意は結局いつも、森田さんにもらうひと回り大きな幸せに、ふわふわとつつまれていく。




-end-
2019.9.1
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