大きな声では言わないけど

番外 森田と岡崎 29 真夏の光源



「あちー」

ペタ、ペタ、ペタ、ペタ。
深夜の住宅街に響くのは岡崎の履いているサンダルの音。
岡崎と俺の他には誰も歩いていない。

「夜でもこんな暑いんだもん。店向かう時間とかほんと地獄だよ」

ペタ、ペタ。

「森田さんなんか荷物運ぶのイヤになんない?」
「……まあ……仕事だから」

まじめ、と言って岡崎は笑う。
ペタ、ペタ、ペタ、ペタ。
コンビニだけが明るい。
店内にも、客は一人もいなかった。

「もう決めてたから俺これ」
「じゃあ、俺は、これで」
「あーうんそれもウマいよね、一瞬迷ったわ」
「水も、買おうかな」
「飲みながら帰ろ、ちょっとちょうだい」
「うん」

アイスを二つと、水を一本、買って帰る。
帰り道にもやっぱり、誰もいない。
ペタ、ペタ、ペタ、ペタ。

「あちーな」

岡崎が、着ているTシャツの胸元を掴んでパタパタと空気を動かしている。
俺は半歩ほど後ろで、それを見ている。
綺麗な後頭部だ。造形が、成功している。

「水ちょうだい」
「うん」

ガサガサ。

「森田さんが飲んだあとのがいい」

はっとして脚が止まる。
振り返った岡崎が、すぐそばにいる。
さらに顔を近づけるようにして、岡崎は俺を少し見上げる。

「アイス食ったら、服脱いで寝ようね」

息を止めた俺を、岡崎はまた笑う。

ずっと夏だったらいいのにと、生まれて初めて思った。




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2018.8.10
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