大きな声では言わないけど

41 彰人とAV



携帯を確認する。広樹からの連絡はまだない。
今だ。今しかない。
ケースから中身を取り出してプレイヤーにセットする。
久々の感覚に、震えそうになる指で再生を押した。

穏やかなインタビューから始まるタイプだ。
貧乳でショートカット。昔はこういう趣味ではなかったのに、おかしなものだ。
少女趣味っぽい淡い色の下着をずらされて薄い胸を揉まれる女。
恥ずかしそうに顔を背け、か細く高い声で喘ぐ。
これは。この感じは。愛しいあの子に似て。

「あっくんが…女のAV観てる…」

後ろから地を這うような声がして俺は文字通り飛び上がった。
着地して足がプレイヤーにあたり、再生が止まる。動揺して停止を連打してしまった。

「広樹、お前いつからそこに」
「あっくんがぁ…うわあああ!」
「いや泣くなよ、これは、あれだから」
「観てたでしょ!女が、やっぱり女がいいんだ!」
「いや観てたけど、これは」
「観てたんだ!やっぱり観てたんだ!」
「待て、落ち着け、観てたけど」
「観てたの?!」
「…観てたけど、これは」
「観てたの?!」

観てたのを見たんじゃないのかよ…鎮まれ広樹様……。
恋人の怒りを思い、生唾を飲み込んだ。下手をすれば命がない。落ち着け。俺も落ち着け。

「女の何がいいのさ!あんなの胸に多少肉のあるただのぶりっ子じゃん!」
「ちょっと待て!冷蔵庫を持ち上げようとすんな!電子レンジもだめだ!」
「あっくんのバカ!あっくんのバカぁ!」

手当たり次第に家具を持ち上げようとする広樹を抱きかかえて止める。

「広樹。聞いて」

落ち着いた声を出して囁くと広樹は戸棚の扉を外そうとしていた手を止めた。

「俺が悪かった。友達から借りて…断るのもなんか変な流れになっちゃって…借りたらちょっと観てみっかってなって」
「女が…女がいいんだ……」
「違うよお前、AVと実際付き合ってるヤツは関係ないっつーか、そんな話あるだろ?あれだ、付き合うヤツと結婚するヤツは違うっていう、あれみたいな」
「あっくんは俺とは結婚してくれないんだ…ううう…うわぁん!」
「違う違う違う違う」

間違えた。

「興味本位っつーか、ほら、返す時にどんなだったか知らねえと不自然だろ?一回は観とかないと失礼だろ?どう?違う?」
「……うん」
「別に女とやりてえとか思ったわけじゃねえよ」
「じゃあちんちん勃たなかった?」
「え?」
「勃ったの?」
「なんて?」
「勃ったんだ!あっくんは女のAV観てちんちん勃ったんだ!うわぁん!」

勘弁してくれ…。勃起は自然の摂理だろうが……。
何か言わなければ。

「馬鹿野郎!」

腹に力を込めて発声する。間違ったら大変な場面だ。試されている。広樹の彼氏としての力量を問われている。いや、意味がわからない。絶賛パニック中だ。
広樹は濡れた目で俺を見上げた。アホみたいにかわいい。

「ばっかやろうお前、広樹は勃起する俺と勃起しない俺、どっちが好きなんだ!」
「え?あっくん?…勃っちゃうあっくんが好き……」
「俺のこと好きだろ?」
「あっくん、好き…」
「俺も大好きだよ、広樹」
「あっくん…」
「ヤる?」
「うん」

なんとかなったのか?まだ油断ならないのか?
俺の心配をよそに、えへへ、と笑って広樹はプレイヤーに向かう。

「待って広樹。何でもするから。それ借り物だから」
「知らないもん」

ばきっと音がして、友達の私物は在りし日の姿を失った。

「しよ?あっくん」

上目遣いでにこりと笑う広樹を、やっぱり世界で一番かわいいと思う。
ああ。病気だ。




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2017.8.16
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