大きな声では言わないけど

番外 森田と岡崎13+本編4人 正六角関係



「正浩、今日休みだって!お酒買ってきてもらおうよぅねぇあっくん、だってもう外出るの面倒だよぉ」

広樹くんが携帯から顔を上げるなり彰人くんに甘え始めた。

「あいつ来れんの?」
「来てもらう!電話しよ」

広樹くんはニコニコしながら彰人くんの膝にまたがった。

「うっぜ」

僕の隣でポテチを食べながら、創樹くんがボソリと呟いた。

今日もまた、彰人くんの家で飲んでいる。買ったお酒が残り少なくなってきて、彰人くんが、買いに出るかと広樹くんを誘ったところだった。

「正浩ー!ねぇ、あっくんちで飲んでるからお酒買って来て?……えー嫌だぁ、お願い!……だってどうせ暇でしょ?……うん……いいじゃん!うん……ビールとワイン。……うん、なんでもいいよ」

広樹くんは至近距離で彰人くんの顔をガン見して唇を指でふにふにと触ったりしながら電話で正浩くんと話している。彰人くんは既に少し酔っていて、たまに広樹くんを撫でたり微笑んだりしている。
イケメン。

そして僕は今日、飲んでいない!

「おいなつめ、いや、下僕」
「ん?」
「なんで今日飲まねえの。殺すぞ」
「え!いや、明日試験だから、二日酔いになったりしたら困るし…ごめんね」
「つまんね。帰れば」
「えー嫌だよ、せっかく休みなんだから創樹くんと居たいよ」
「帰るかもしくは女装しろ」
「なぜその二択!」
「じょ、そ、う!じょ、そ、う!」
「女装コールやめて!ここでは無理!」
「ここでは?」
「…今度ね…創樹くんの家でね……」
「当然だ」

若干お腹が空いたので、買って来ていた冷凍のピザとポテトをチンして、テーブルにガサガサと並べる。

彰人くんが僕に笑いかけて、「さんきゅ」と言ってくれたので笑顔を返そうとしたら、膝の上の広樹くんがホラー映画のクライマックスのような顔で僕を見た。

その時、玄関のチャイムが鳴った。

「あ!正浩だよーきっと!ほら、なっつ、行ってきて」

広樹くんに命じられるまま、ドアを開けに行く。

「あーなっつくん、元気ー」

ビニール袋を手にした正浩くんは、今日もおしゃれさんだ。

「お使い頼んでごめんね、上がって。僕の家じゃないけど」
「いやー、俺今日このまま帰るわ」

びっくりしてしまう。

「そうなの?用事?」
「つか、人待ってんの。あー、…あんね、森田さんと付き合うことになってさー」
「え!ええ!いつ、いつから、どうして!」
「ま、色々あって。で、今そこで森田さん待ってんの」
「えー!」
「だから行くねー。また今度遊ぼ」

にっと笑ってひらひら手を振る正浩くんに、聞きたいことがいっぱいあった。
でもとりあえず部屋へ声をかける。

「正浩くん帰るって!」

嬉しくて泣きそうになってしまった僕を、正浩くんは照れ笑いで見て、それでハグしてくれた。

「なっつくん。ありがとね」
「よかった、よかったね、ほんとに」
「ん」
「幸せにね」
「つかもう幸せですでにやべーよ」
「そう…そうか」

そして後ろから創樹くんに蹴られる。

「えー、なんで?お酒は?」

広樹くんがパタパタと走って来るなり正浩くんに聞く。

「お前は酒さえあれば満足だろ」
「うん」
「正直だな」

後から彰人くんも出て来て、僕は興奮気味に「森田さんと付き合ってるんだって、それで今外にいるんだって」と報告してしまった。

そして、森田さん嫌がるし今度ちゃんと紹介するから待て、という正浩くんの制止を無視して、僕たちは外に停めてあった車にどやどやと近づいた。

運転席で何か紙を眺めていた森田さんは、広樹くんの窓ノックに顔を上げ、僕たちを見て大層驚いた様子。

「森田さんごめんね、野次馬が」

正浩くんがドアを開けて謝ると、森田さんはぎこちなく頷いた。
ああ、この人はきっと、誠実な人だろう。直感でそう思う。

口々に挨拶をする。森田さんは律儀に名乗ってくれたけど、眼鏡をかけた目が泳いでいた。

「森田さんも正浩も上がって行けばいいじゃん!ね、あっくん」
「ん」
「今日は無理」

正浩くんがばっさり切り捨てる。森田さんは助手席に座った正浩くんを見た。

「…岡崎さん、遊んで来ても、全然、大丈夫ですよ」

森田さんは、とても静かに話す人だった。
そしてその言い方に、正浩くんや僕たちへの配慮が滲んでいてほんわかした。

「んーん、いいの。今日は。森田さんと約束だもん」

森田さんの方を向いて返事をした正浩くんの顔は、僕たちからは見えなかった。

2人を乗せて遠慮がちに走り去って行った車を見送り、家に戻る。

そうか。正浩くんと森田さんは、岡崎さん、森田さん、って呼び合うんだ。

「…正浩の声、聞いた?」
「吐きそう」
「俺も…」

広樹くんと創樹くんが酷いことを言っている。

でも全然、全然違った、ということだけは僕にもわかる。

「特別なんだね、森田さん」

あんなに甘い、優しい話し方を、正浩くんがしていた。普段の、僕たちと接する時や働いている時とは全然違う。
その声は、僕たちの中に強く残ったのだった。

そしてしばらく、苗字にさん付けで呼び合うのが流行った。







「よかったの…?」

あきくんの家から少し離れてから、森田さんが言った。
今日はあまり天気がよくない。もう暗い時間だけれど、曇っていて、蒸し暑い。

「だって今日は大事な約束だから。俺が、森田さんと2人がよかったの」

何も言わない森田さんに目をやると、目をこすっているその耳が赤い。
ああ。かわいい。さわりたい。

「でも、あいつらだったら森田さんも大丈夫だと思うよ。今度メシ行こう?」
「いや、でも、俺は…」
「大丈夫。森田さんが心配するようなことはない。だってあいつらバカばっかだから」

森田さんは、は、と短く小さく笑った。

「多分、知らないうちにめんどくさいくらい巻き込まれるよ」
「何の、友達ですか」
「ちっさいのが2人いたでしょ」
「あぁ…」
「あれ、頭のおかしい双子なんだけど、高校の友達」
「へえ」

森田さんがすげえ人だって、あいつらにも自慢したい。かっこいい、尊敬する、俺の…俺の。

「あとの2人は普通の人、でもないか、ちょっとやっぱおかしいけど。でも、仲良くできると思うよ」
「…邪魔じゃない、ですか」
「邪魔なわけない」

じゃあ、今度、と控えめに答えた森田さんを見て、その時が楽しみで少しわくわくした。

「あ、ここ。ここに車停めて」

俺のアパートのそばの空き地の前に車を停めてもらう。

今日は、初めて、森田さんをうちに呼んだ。



「どーぞ。きたねえけど」

気合い入れて掃除した狭い部屋に森田さんを招く。

「あ、お、お邪魔します…」
「適当に座って座ってどうぞ」

カーテンを引いた窓の近くの壁際に、森田さんは遠慮がちに座った。少し離れてベッドにもたれる感じで俺も座る。

目が超きょときょとしてて、部屋も俺も見ようとしない。

「緊張しないでよー」
「いや…」
「写真でも見る?」

袋にがさっと入れてある、飲みとか海とかの写真を森田さんに渡してから、冷蔵庫に飲み物を取りに行く。

水。森田さんが好きな水。
と、俺の甘い紅茶。

戻ったら、森田さんは丁寧に写真を見ていた。小さなテーブルの上で。

「整理とかしてねーから時期とかごっちゃだけどね」
「…本当、友達、多いですね」
「いやー?そんなことないよ、友達の友達とかも来るしねー」
「楽しそうで、いいね」

写真に目を落としたままその目を細める森田さん。

「岡崎さん」

んーと返事をすると、森田さんは顔を上げて一瞬俺を見た。すぐに逸らされた視線は、テーブルの上の水へ移る。

「…よければ、あの…写真、を」
「撮る?一緒に」

俺も森田さんと写真撮りたい、と言おうとしたけど、森田さんは焦ったように否定する。

「それはっ、ちょっと、勿体ないので」
「もったいない?って?」
「岡崎さん、だけの、を、…いや、あの」

なんだなんだ、1人でパニクりすぎ。
かわいいので観察しながら次の言葉を待った。
でも結局、森田さんはそのまま黙ってしまった。

もしかして。いや、そうだったらちょっと引くほどやべえんだけど。

「もしかして、かわいい俺の写真がほしい?」

冗談ぽく聞いてみると、森田さんは眼鏡を外して顔をゴシゴシし始めた。また、耳が赤くなっていく。

「いいよ、あげる。好きなやつどうぞ。それとも携帯で撮ってく?今」

追い打ちをかけるように言うと、あう、と変な声を出したので笑った。

「いや…どれ、ど、どれだと…いいですか…」
「どれでもいいけど…これは?すげくね、この顔。はは」

よりすぐりの変顔写真を差し出すと、森田さんは俺の顔を見た。

「…お…おお……」

何だよ!

「森田さんておもしれー。最近思うけど」
「すみません…」
「楽しいねぇ」

いじり倒したくなってきた。
その気配を感じたのか、森田さんはおもむろに立ち上がる。

「ちょっと、トイレ、借ります」
「一緒に入っていい?」
「は…」
「嘘だって!行ってきなー、はいどうぞ、そのドアね。電気はその下」
「行ってきます…」

森田さんが俺の写真を欲しがるなんて。
ふふ。
ふふふ。

「はぁー…幸せ…」

机に突っ伏して思い切りニヤニヤした。







最悪だ。最近少し岡崎に慣れたと思ったのに、今日は緊張して全然話せない。

写真が欲しいと思った。たくさんの場面の、たくさんの岡崎。たくさんの友達に囲まれて。

岡崎が1人で写っているものが良かったのに、そんな写真はありそうになかった。
かと言って、今撮らせてもらうようなものでは、と尻込みしてしまう。

用を足して手を洗いながら、隣の浴槽にちらっと目をやる。
岡崎の家だ。
そう思うとまた緊張感が増した。

そっとため息をつきながら、ユニットバスを出た。











「森田さん、これこれ、こいつらだよ、さっきの」

広樹たちと5人でキャンプをした時の写真が出て来たので、トイレから戻った森田さんに見せる。

「ああ…」
「これとこれが双子で、こいつの恋人がこっちで、こっちがこいつの」
「…はぁ…」

ぼんやり聞いている森田さんの顔を覗き込む。

「森田さん聞いてた?恋人、って言ったんだけど」
「え…あ……」
「付き合ってんだよ、この人たち。2カップルだよ」
「…本当に?」
「うん。みんなホモだね」

奇跡的。なにこれ。キモ。

森田さんはしばらく、その写真を見ていた。

「だから俺らのことも、話して大丈夫な人たちだよ。理解はしてくれる」
「…岡崎さんに、その…そういう友達が、いて、よかったですね」

森田さんのその言葉を、空気と一緒に体に取り込む。深く。

「そうかもね」

どうしてこの人は、こんなに優しいんだろう。

「森田さん。好きだよ」

横に体を倒して、森田さんの肩に頭をのせる。森田さんはびくっとしてしまった。でもそのまま、じっとしてくれた。
でもちょっと、ぎゅっとしてくれてもいいよ、と願ってみる。
そしたら森田さんは、俺の指を握った。

ああもう。焦れる。けど、少しずつ少しずつ。毎日少しずつ、俺は森田さんに近づけている。
会いたいと思えば会えて、手を伸ばせば届いて、それで、触ってよくて、俺のもので、森田さんのもの。

なんて、ちっぽけで莫大な幸福でしょうか。
もっと触りたい、触られたいって思うこの状況が一生続いても、俺はきっと、幸せだって胸を張れる。

…負け惜しみかな。

「…部屋、綺麗、というか、なんか、たくさん、オシャレなものとか、ありますね」

森田さんがやっと部屋を見回した模様。
俺はそのままの体勢で森田さんの視線を追う。

「どこがー」
「あの、なんか、置物みたいな、のとか」
「あれはアクセが入ってる」
「ああ…あの、ポスターとか、壁のあれ、とかは、自分で買うんですか」
「そう。なんか良くね?」
「うん…岡崎さん、ぽいです」
「俺っぽいとかどんな?そのイメージ」
「わからないけど…俺には思いつけないような、感じ」
「へえー。いや俺だって店で見てただ買っただけだけどね」
「色とかも…なんか、統一感があって、整頓されてる、感じが」
「でもちょっと最近もの増えた。森田さんちみたいにすっきりできたらいいのにな」
「いや、岡崎さんの家は、これで、この、方が、いいと思います、けど」

森田さんの声がどんどん部屋に染みていく。あとでまた再生できるような気がする。

「森田さん」
「はい」
「キスして」

なんとなく言ってみただけなのに。
嘘だまさかと思う間もなく、森田さんが体勢を変えてキスをしてくれた。
唇に。

「森田さんあなた…そういう不意打ちを…」

どこで身につけたの。さっきまでの流れと違うだろ。もっと照れたり嫌がったりしないわけ?
こっちが赤面する。

「いや、でも」
「そうだねごめん、俺が言ったんだけどさ」
「岡崎さん、俺は、好きとか、そういう言葉で、表せない…なんて言ったらいいのか、」

森田さんは俺の両肩に手をかけた。

「好き、だけど、そういうんじゃなくて、もう、なんか、大事とか、」

ああ?あれ?なんか、すごく森田さんが近くて、力も強いし。

「俺、岡崎さんしか、いません、とか、そういう、ちょっと、気持ち悪いような、感じで、」

さっきまでもたれていたのは俺だったのに、もう、あと少しで俺の背中が床に着いてしまう。

「怖い…自分の気持ち…最近、持て余して」

その小さな声を、俺は森田さんの下で聞いた。

「限度も、わからないまま…岡崎さんのこと、どんどん、欲しくなってしまって」

心細そうな声。

ねえ森田さん。
欲しくなって。
俺のことを。
もっと。
もっと。

どっちからかは、わからなかった。
抱き寄せ合って、唇がまた重なって、俺は森田さんの首に、森田さんは俺の背中を床から浮かすみたいに、腕を回して。

どちらからともなく、薄く口を開いて、濡れたところを探して舌を伸ばした。熱くて、甘い。森田さんの、舌。

「んっ…う、ん……」

今までは武器にしていたはずの、敏感な、感じやすい体質が、心底恥ずかしかった。

森田さんは静かだけど真剣なキスをしてくれた。これ以上ないくらいに優しく抱きしめられながら、これまじで夢じゃねーよな、と、意識が遠のきそうになる。

「岡崎さん」

呼ばれて目を開けると、森田さんが少し心配そうに俺を見下ろしている。

「ふぁ」
「…大丈夫?」
「ん」
「少し、寝てた?」

うそうそ。まさかそんなはずは。
恥ずかしくてなんか悔しくて、森田さんの首にかじりつく。

「森田さんのキスが、すっごい気持ちよくて」

耳元で囁いてみたら、森田さんが息を飲むのがわかった。

「ねえ…もっとしよ」

今度は腕だけじゃなくて、脚も使って森田さんを引き寄せる。膝をついていた森田さんはバランスを崩して横に倒れて、さっと眼鏡をはずした。

森田さんの頬を両手で包んで、何度も何度もキスをした。森田さんは目を細くして、俺の鼻のあたりを見ている。

「んん」

ダメだ。すっごい気持ちいい。
キスをこんなに丁寧に、ちゃんとしたのは初めてだ。

「…森田さん…気持ちいい?」

自分の声じゃないみたいな、甘えた声。

「…綺麗だよ。岡崎さん」
「え?」

綺麗だ、と、森田さんはもう一度言った。

そして、そっと笑った。

「森田さんのその顔、好き」

そしてその瞳の方が何倍もきれいなのにと俺は思う。

「ああ…もう…ダメ、森田さん…ね…もっといっぱい触ってほしい…」

体に力が入らなくて、くたくたと森田さんに擦り寄る。

「好きだよ森田さん」

森田さんはちゃんと抱きしめ返してくれた。

「森田さん。好き。……好き」

大丈夫?ちゃんと、この気持ちが伝わってるのかな。こんなに、こんなに、って、何回言っても足りない気がする。

森田さんが、俺の頭を自分の肩にくっつけた。

「岡崎さん。俺、ちゃんと、岡崎さんの、その…恋人みたいに、できるか、自信がない」
「どういう意味?」

顔を見たいのに、森田さんは顔を上げさせてくれない。

「優しく、できるか…岡崎さんを、傷つけないか、とか、心配で…嫌がられないか…引かれないか…俺は……」
「大丈夫。森田さん」

顔を見せてくれないから、森田さんをできる限り抱き寄せる。

「俺だってそんなの、よくわかんない。でも、もう森田さんのこと離さないよ」

だって、やっと、やっと、すげー長い道のりの向こうが、今のここなんだから。

「森田さんは俺のものでしょ…?」
「…岡崎さん」
「んー」

しばらく、ぎゅうぎゅうし合っていた。
嬉しい。幸せ。
でも、もっとって、やっぱ思っちゃう。強欲。

「森田さん、もっとしたい」

具体的に何をかは言わないで、森田さんの反応を窺う。

「それは…」

森田さんの声は、少し戸惑っているみたい。
森田さんのお腹をぺろっとめくってみる。焦って隠そうとする森田さんを見つめる。

綺麗な目。もっと、見てほしい。俺を。

「俺のことが欲しいって、言ったよね。あげるよ。全部。森田さんに」

だから。

「ヤりたい…森田さん」

たじろぐ森田さんの上に覆いかぶさって、キスをしようとした瞬間。

「岡崎さん」

森田さんに抱きしめられた。だから自然に、キスを避けられた。

「岡崎さん、ごめん…もう少し、あの、違って、あの、嫌なわけじゃない、触りたい、けど、…俺……」

残念だし、興奮も冷めやらないけど、森田さんの言葉を待つ。森田さんの声も話し方も、俺、大好きだ。

「ちゃんと…その…言葉でまず、あ、えっと……し、仕方を、教えてほしいし…注意、した方がいい、こととか…なんか、俺…知らないから……岡崎さんを、ちゃんと…」
「わかったよ。なんか、ありがとね」

充分だ。もう。
優しい。本当に。
その気持ちを、俺は受け止める。

「俺、森田さんに大事にされてる?」
「され、…して、る、というか、大事で…大事です、すごく」
「森田さんってもう、なんかあれ。仙人みたい。悟り開いてる系じゃね」

戸惑う森田さんを見て、俺は森田さんの上でくすくす笑った。

ゆっくりで大丈夫。じわじわ幸せを噛み締めながら縮めていくことにする。
森田さんに眼鏡をかけてあげると、森田さんはすこし眩しそうにした。

携帯が鳴ったので手を伸ばして見ると、広樹からの着信だった。

「そだ!行こう森田さん」

「あ、え」

森田さんの人間怖い病を治してあげたい。軽くしてあげたい。多分あいつらの中にいたら、そんなの馬鹿馬鹿しくなるに決まってる。
自然に笑えるようになる。きっと。
てか、こういう時に役に立たないならあいつら何なの。

そして、今これ以上ここにいたら、体に毒。

「い、今から」
「うん!あっちが酔ってる時の方が森田さんも入りやすくね。明日になったらみんな忘れてるし」
「あ…はぁ…」

明らかに緊張し出す森田さん。表情が固い。

「大丈夫だよ。俺がいるし。ね?」
「…そうですね」

森田さんは迷ってから少し笑ってくれた。

「うわーちょっと感動した、俺がいたら安心?どうよ?」

優越感!俺だけなんじゃねーのってちょっと優越感ー!
森田さんは一回下を向いてから、「さあ」と言って、ちょっとふざけて体を揺らした。
ああ。好き。

家を出る前に、森田さんは申し訳なさそうに写真を一枚選んだ。
海の写真。俺が写っている写真。











「いらっしゃい、入って入って。森田さん、どうぞ」

夜10時を過ぎてから、正浩くんと森田さんが遊びに来た。大歓迎だ。

「おじゃまー」
「お邪魔、します」
「森田さんだぁ」

広樹くんがにこにこして迎えると、森田さんはとっても困った顔をしていて微笑ましかった。
人見知りだって前に言ってたな、と思い出す。

「どうぞどうぞ座ってね?そんで正浩お酒は?」
「るせーな、買ってきたって。お前飲むんだから用意しとけよ」
「だってぇ、重いんだもん」
「あれ?あきくんは?」
「彰人くんね、酔っ払って寝ちゃったんだ。ベッドにいるよ」
「近づいたら殺す」
「広樹きっしょ」

森田さんは落ち着かなそうに正浩くんの後ろに立っていて、創樹くんは黙ってそのやり取りを観察している。

「正浩はあっち。なっつのとこ。森田さんはここー」
「なんで広樹が座るとこまで仕切る」
「だって森田さんとお話ししたいもん」

正浩くんと引き離されて、これでもかと言うくらい心細そうな顔をした森田さん。
正浩くんはそれを見て眉を下げて微笑んだ。

「こっち来な、森田さん」

森田さんは行きたそうで、でも広樹くんに気を遣ったのか、迷っている。

「森田さんは、なんてお名前?」

広樹くんは構わず続けた。

「え、あ、名前、下の…?」
「うん。森田、なにさん?」
「誠吾です」
「せいごさんね!俺は広樹だよ」
「広樹、さん」
「ぶっ」

正浩くんと創樹くんが同時に吹き出した。森田さんは戸惑いながらその2人を見ている。

「森田さん、広樹にさん付けとかしなくていいよ。こいつそんな価値ねーから」
「なにそれぇ!ひどいぃ!」
「森田さん、何飲みます?」
「あ、森田さんは水だよね。これ、はい」

僕が聞くと、正浩くんが袋からペットボトルを取り出して手渡す。

「せいごせいご…」
「…ん…?」

何か思案顔の広樹くん。名前を呼ばれて戸惑う森田さん。

「くだらねえあだ名つけられる」

今まで黙っていた創樹くんがぼそりと言って、森田さんは、ふわっと頷いた。

「せいちんは?」
「はー?森田さんにそんな軽い名前つけんなよ、最悪。センスゼロ」

正浩くんは半ば本気で怒っている。

「せいちゃん」
「ダメ」
「せいごん」
「お前さー、森田さん年上だからな?」
「じゃあ、ごっちゃん」

ふ、と笑ったのは森田さん。それを見て広樹くんが満足そうな顔をして、正浩くんは2人を見比べた。

「決まり!ごっちゃんね。ごっちゃん優しそう」

広樹くんは森田さんを気に入ったみたいだ。

「ここね、あっくんの家でね、あっくんてね、俺の彼氏なんだけどね。あっくんは寝ちゃってるから後でね。それで、これが弟の創樹で、こっちが創樹の彼氏のなっつね。本名はなつめね」

僕が頭を下げると、森田さんもぎこちなく礼を返してくれる。
創樹くんはなぜか言葉少なになって、黙ってお酒を飲んでいた。

「森田さん。なっつくんとあきくんは、元々ノンケだよ」
「ノンケ…?」
「ゲイじゃなかった人。悪魔の双子のせいで、同性と付き合うことになった人。森田さんとおんなじ」

正浩くんが言うと、広樹くんが「悪魔って何」と言った。
創樹くんは、「お前も悪魔だろ」と正浩くんに言った。
森田さんはちらっと僕を見た。でもすぐに目は逸らされていく。本当に人見知りなんだ。

「てか、今日なっつくん飲んでないの?普通だけど」
「明日試験があるんだよね」
「まじ使えねえ」

創樹くんの機嫌が悪くなるので急いでお菓子を取り出す。

「創樹くん、ポテチ食べる?」
「唐辛子のやつ」
「開けるね」

恭しく差し出すと、正浩くんがニヤニヤしていた。

「俺、創樹の彼氏だけは嫌だ。はげそう。ストレスで」
「うるせえよ。ピアスぶっちぎるぞ」

いつものやり取りだけど、森田さんは初めて聞くからだろう。少し驚いた様子で正浩くんを見ている。

「森田さんは明日お仕事ですか?」
「…あ、はい」
「正浩のとことかも?ごっちゃんが行くの?」
「そう、です…」
「すごいね、トラック運転するんでしょ?」
「…です」
「かっこいい!」
「お前らは?明日大学?」
「僕は試験だけど、あとのみんなは休みだよ」

試験は日程がばらけているので、完全に休みの日もある。

「はぁ、聞いた?森田さん。学生はいいよねー、この暇人どもめ!」

正浩くんが楽しそうに笑う。
森田さんは、正浩くんを見ていた。

「ひろー…」

寝室の方から弱々しい声が聞こえて、広樹くんがすっとんで行く。

「あっくんどうしたの?愛してるの?」
「んー…少し…」
「ちょっとぉ!」
「嘘…キスして」
「えーもうっ、うふふ、正浩たち来たよ」

かわいい会話が聞こえてきて少し照れていたら、創樹くんが咳き込んだ。

「親族がキモい…」
「大丈夫?」
「ビール…」
「あ、うん、冷えてるの持ってくるね」
「あっくんがね、お水飲みたいんだって。もう、赤ちゃんみたいなんだからぁ」

広樹くんがデレデレしながら戻ってくる。

「水、風呂場にある」

創樹くんが意味不明なことを言い出す。

「え?創ちゃんなぁに?」
「ペットボトルの水。全部風呂場」
「えぇ?なんで?」
「いいから取ってこいよバカ兄貴が」
「意味わかんないっ」

口を尖らせながら広樹くんがお風呂場に向かうと同時、創樹くんが素早く立ち上がって寝室へ走った。

「あっくーん、ちゅーしてー」

棒読みながらも広樹くんそっくりの声が聞こえて、なんだか嫌な予感。

「んー?…水は?」

そして寝ぼけと酔いで気づいていない彰人くん。完全にいけない流れ。僕も立ち上がる。止めなきゃ!

「今持ってくるーだからちゅー」
「んー………」
「あんっ、だめ、どこ触ってんの変態死ねバカ彰人、広樹に殺されろ」
「…う…うおおおおおおお!」
「ねえ創ちゃん、水無いよ、っごっるあああああああ!!」
「創樹くん!ダメよ!おいで!」

なんとか無理矢理引き離して、広樹くんは彰人くんに任せて居間に戻ると、正浩くんがけらけら笑っていた。

「お前らまだそんなことやってんの、すげーな」

森田さんはちょっと頬を赤くして下を向いていた。そして正浩くんをちらっと見た。

「森田さんの横行こ」

みんなが席を外して落ち着かないうちに、正浩くんが森田さんの隣に移る。
その時の森田さんの顔を見て、僕はとても幸せな気持ちになった。

正浩くんを迎えた森田さんは、長く息を吐き、体から力を抜いた。心底ほっとしたような表情だ。
きっとすごく緊張してたんだ。それで、正浩くんの隣だと、安心なんだ。

正浩くんに「大丈夫?ごめんねうるさくて」と言われ、ふと笑って首をふる。

2人の信頼関係を垣間見た気がした。
それに。
森田さんは、正浩くんのことをよく見ている。正浩くんにしか目が行かない、と言った方が正しいだろうか。

意識がずっと正浩くんに向いているのがわかる。

広樹くんを抱っこしながら寝室から出てきた彰人くんは、寝起き顔で多少寝癖がついているというのにまったくもってイケメン度が落ちていない。

森田さんと彰人くんが照れながら挨拶し合って、6人がそろった。

「どうやって、付き合うことになったの?」

正浩くんたちが持ってきてくれたコンビニの焼き鳥を開けながら聞くと、正浩くんが一瞬森田さんを見た。
森田さんは下を向いてしまっている。

「森田さんに無理矢理押し倒されて…まじもうすごくて…」
「えっ」

正浩くんが自分の体を抱きしめながら言うと、森田さんが目を見開いて顔を上げた。

「そ、…え、」

森田さんは眼鏡を押し上げながら言葉にならない声を出している。

「ごっちゃん大丈夫?お水飲む?」

広樹くんがペットボトルを指し示す。

「いや…大丈夫です…」

挙動不審になる森田さんと、それを見てふふふと笑う正浩くん。
なんだか、いいコンビ。

「良かったねぇ」

こっちまで自然に笑顔になってしまう。

「ごっちゃんは、正浩の何がいいの?顔?」
「森田さん、素直に言っちゃっていいのよ?」

広樹くんと正浩くんに攻められて途端に顔を赤くする森田さん。

「おいお前やめろよ森田さんイジんなよ」

正浩くんが今度は森田さんの肩を持つ。

「まぁ整ってはいるよね、あっくんの足元にも及ばないけどね」
「うっせーよハゲ」
「顔、も、いいです、けど」

顔、も。
その一言に、森田さんと創樹くん以外の皆がそわそわする。
正浩くんは下唇を噛み、彰人くんは頭をわしゃわしゃと掻き、僕は座り直して、広樹くんは顔に「楽しいです」と書いてある。
創樹くんのポーカーフェイスに「ドキッ!きゅん!」としていたら、森田さんが口を開いた。

「…まあ…ほ……まあ……」

みんなのそわそわがうつったのか、言い淀んで黙った。

「ほ、って言ったね、ごっちゃん」
「言った」
「ホモのほ?」
「惚れたのほじゃね」

広樹くんと正浩くんは楽しそうだ。

「ごっちゃん、正浩のキスってどう?キモい?」
「前提おかしくね?」
「ごっちゃんねぇ、どう?キモい?」
「るっせー黙れ」
「あぁん!やだ!首締めないで!あっくん助けて!かわいい広樹が殺されるぅ」
「よしよし。大丈夫大丈夫」
「あきくん酔いすぎ」

森田さんは無言で真っ赤になっていく。
でもちらっと正浩くんを見た。

「気持ち悪い、とか…思ったこと、ないよ」

ボソボソと言う森田さんに、今度は正浩くんが真っ赤になった。

「珍しい!正浩くんの赤面」
「あー!ほんとだ!やだぁ、ねーあっくん」
「うっさいうっさい、ほんとやだよ、あー来なきゃよかった」

正浩くんが森田さんに「ね」と言って、森田さんはすっと目を逸らして微かに笑った。

「ああ、なんか、忘れていた大事なものを思い出す気がする…!」
「どうしたなつめ」
「ごっちゃん、相談があるの」
「唐突だなお前は」
「あのね、あっくんてね、イケメンだと思う?」

広樹くんに聞かれて森田さんはちらりと彰人くんを見た。彰人くんは居心地悪そうにしている。

「そう、ですね」
「やっぱそう?年上から見てもそう?」

森田さんは迷いながら頷く。

「やっぱりかぁ」

落胆した様子の広樹くん。

「あきくんがイケメンなのなんか今に始まったことじゃないじゃん」

焼き鳥をかじって言う正浩くんの顔を一瞬見る森田さん。

「これから俺たち就活とかするじゃん。そんで新しい出会いとかもあるじゃん。それで新入社員になったら先輩とか上司もできるでしょ。そして後輩もできる…最悪なんだけど!それ考えたら気が狂いそうだよ!」
「バーカ」

白目を剥く広樹くんと、小さな声でひどいことを言う創樹くん。

「大丈夫だよ、信じてあげて、彰人くんのこと」
「いやーわかんないよ、案外超浮気したりして」

正浩くんがニヤニヤしている。

「しねえよ、お前しかいらねえし」

彰人くんが愛を囁くと、広樹くんが目を潤ませる。

「だってね、あっくんイケメンだから、信じてるけどっ、でもいつも心配なのっ」
「広樹」
「あっくん…!」

ひしっと抱き上う2人。

「イラつく」
「いたっ」

創樹くんに殴られる僕。

「ちょっと、わかる、かも、です」

突然森田さんが声を発したので、みんな一斉にそちらを見た。
すると森田さんはなぜかあぐらを崩して正座をする。正浩くんが笑った。

「どしたの、森田さん」
「いや…すみません…」
「ごっちゃん!わかる?何が?」

広樹くんが彰人くんから離れて森田さんに詰め寄った。

「いや…あの…」

森田さんはみんなの注目を集めてしまって驚いたみたいだ。もじもじして、なんだか微笑ましい。年上だけど、どこか親近感がわく人だと思った。

「ごっちゃんもそういうことある?」
「あ、はい、なんか…岡崎さんが、その、モテる、と思うので…いつも、怖いというか…不安…?自分で本当に大丈夫なのか、1日に10回くらい、考えます」

なんていじらしい人なんだろうか。
隣の正浩くんが、優しく笑って、その後照れて下を向き、また、嬉しそうに笑った。
正浩くんのそういう表情を、僕は初めて見た。

「ごっちゃんっ!わかるよ、俺もほんとそうなの!毎日不安で病みそうなんだよ!どうしてもっとブサメンに生まれてくれなかったんだろうこの人、とか思うけど、でもその顔が大好きなのでありがとうございますなんだけど、でもね、でもね!」

広樹くんが森田さんの手を握った。
森田さんは顔を引きつらせた。

ん、何だろう大丈夫かな、と思った瞬間、正浩くんが森田さんの手を広樹くんから奪う。

「ちょっとーやめてよ、気安く森田さんに触るな。ビッチが移る」
「ビッチじゃなぁい!一途だもん!」
「広樹」

ほっぺを膨らます広樹くんを、彰人くんが抱き寄せた。

「お前なに他の男に触ってんの」

彰人くんが嫉妬だと…!
わくわくして若干顔が熱い。

「あっきゅん…!」

広樹くんが彰人くんにキスをして、彰人くんも返して、ああ、あれ、エスカレートして、あ、これは、ダメなやつ!

「死んでほしい」
「いたっ」

創樹くんに頭突きをされる僕。

そして気づく。
森田さんと正浩くんが手を繋いだままだ。

「なつめ。セーラー着て来い」
「無理だよ!なに言ってるの!」
「…あ?」

どうしよう。創樹くんの機嫌が暗黒だ。

「今度ね、明日ね」
「俺の言うこと聞けよ、イヌが」
「創樹くん、今はほら、みんないるし」
「こっちは気遣ってセーラーって言ってやったんだろうが。ピチピチの競泳水着着せるぞクソが」
「創樹くんちょっと勘弁して下さい。明日なんでもするんで」

正浩くんがふははと笑っている。
森田さんはちらちらと、正浩くんと繋がれた手を見ている。

「創樹くん。僕なんか幸せな気持ち」
「女装しろしろ言われてる現状で?キモいし」
「うん、まあ、何でもいいかな」
「まじキモい。アホ。アホ」

どうしたんだろう創樹くんは。

「お膝に乗りますか」

殴られる覚悟で創樹くんを抱き寄せたら、珍しく体に腕を回されてときめく…!

「かわいいね創樹くん」
「うるせえな」
「どうしたの」
「お前さ」

創樹くんが僕の耳に手を添えて囁く。

「俺が森田さんちょっといいなと思ったって言ったら、どうする」
「は!」

どうするって…?どうするってなに?!

「創樹くんやめてよ!僕死んじゃうよ!」

創樹くんの肩をがくがく揺さぶってしまった。
創樹くんはニヒルに笑ってされるがままになっている。

「え、創樹くん、ほんと、どうしたの、どこに向かってるの!僕を置いて行かないでよ!」

必死な僕の顔を見て、創樹くんは冷たく笑う。

「嫌だろ」
「嫌だよ!嫌だ!」
「じゃあちゃんと俺を捕まえててね?」

ひしっと抱きついてくる創樹くんのおでこに思わずキスをしてしまった。

どうしたんだろう。今日の創樹くんはいつもの倍くらい天使だ。











広樹たち4人は相変わらずだった。
下らなくて、アホで、気楽に明るい。

広樹が森田さんの手を握った時は焦った。森田さんが無意識に手を振り払って広樹が引いて森田さんが傷つくみたいなことを避けたくて、とっさに取り返してしまった。

しかもなんか、広樹が森田さんに懐きすぎて少しむかついてずっと手を繋いでた。
森田さんは緊張しっぱなしで、疲れそうだったし、明日も仕事だから深夜1時頃にあきくんの家を出た。

あきくんも創樹もなんか変だったな。何なんだよ。

考えていたら、運転中の森田さんが俺をちらっと見たのがわかった。

「どうしたの。疲れた?」
「…いえ…あの……」
「うん」
「俺の家に…来てくれますか、今から…大丈夫?」
「大丈夫!てかそのつもりだった、勝手に」

ああ。2人きりがいい。やっぱり。
あいつらと会うのはたまにでいいな。

「ずっと森田さんと2人でいたいな。仕事も行かないで」

声に出してボソボソ言ってしまって、森田さんは何も言わなくて、気まずくなって窓から外を見た。

何かが手に触れて、見ると、森田さんの手が重なっていた。

「岡崎さん…」

運転しながら手を伸ばしている森田さんは、顔が赤い。
そして言葉を続ける。

「…ありがとう…」

何がなのか、具体的には全然わからなかった。
あきくんの家でしたことのどれかについてなんだろうけど、何だろう。

そう思ううち、手を握る森田さんの手の力が強くなって、俺はなぜかすごく、森田さんに触られたくて仕方がなくなった。

服とか、今すぐ全部脱いじゃいたい。
直接触ってほしい。
いろんなところ。
森田さんの手で。

そう思ったら激しくムラムラしてきて、ちょっと戸惑う。
ドキドキして、手が汗ばんだ。
森田さん、車停めて、俺を押し倒して。

どうしよう。どうしよう。
キスしたい。
でもなんか、言えない。
あまりにも激しい感情で、それを森田さんに伝えるのが少し怖かった。

そしたら森田さんが、少し待って、と言った。

どうして、何が、伝わってしまったんだろう。

そのまま、その強い欲を抱えたまま、俺たちは森田さんの家へ帰った。





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2014.7.27
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