大きな声では言わないけど

26 ふんどしゲーム



「ねえねえ、あっくぅん」

教室で講義が始まるのを待っていると、隣に座った広樹が手首を掴む。

「あっくん聞いて」
「あ?」
「性欲の秋だねっ!」
「わざわざ聞いてって言える勇気がすげえな」
「えへへ」
「性欲の人生の間違いじゃね」
「特に!特に強くなるよねって話!」

勘弁しろ。

「付き合ってやれなくてごめんな」
「ちょっと!諦め早くない?」
「遠慮します」
「まだ何も言ってないし!」
「彰人今日暇?」

反対側の隣に座っているのは創樹だ。

「夜なら」
「バイト?」
「おう」
「終わったらうち来い」
「ちょっと創ちゃん、なぁに?」
「飲みながらあれやろうぜ」
「ああ、あれね、うふふ」
「あれ?」

なんだかわからなくて、創樹の隣のなつめを見たけど、なつめもポカンとしている。

「なっつも来れる?」
「あ、うん、今日バイト休みだから」
「楽しみ!」

何のことやらわからないけれど、嫌な予感しかしない。







「あっくん!待ってたぁ!おつかれさま」

バイト帰りに広樹の家に寄ると、広樹の部屋になつめと創樹もいて、とりあえずなつめが出来上がっていた。

「彰人くん、僕の隣に座る?いやむしろ僕の上に」

ぽわんとした表情でなつめが見上げてくる。

「……飲ませたのかよ」
「だってなっつが少しならって言うから」
「お前らの基準で与えるな。……なつめ、大丈夫か」
「大丈夫……彰人くん抱きしめて!」

だめだ。

「何すんの、集まって」
「とりあえずあっくんも飲んで」

ビールを手渡されて一口飲む。

「いっぱい飲んで、ね?」

広樹が首に抱きついて来る。

「空きっ腹だからやべえわ。なんか食いもんある?」
「ない」
「ないの、ごめんねあっくん」
「コンビニで唐揚げとか買ってきたけど」
「食うな」
「食べちゃダメ!空きっ腹で大丈夫!」

……怪しい。怪しすぎる。

「何企んでんの、お前ら」
「別に」
「何もないよ、ただ楽しいゲームをしたいだけだよ」

広樹の甘えた口調で、どうでも良くなってくる。

「勝手にすれば」
「さきイカ少しあるけど、食べる?」
「彰人くん、僕とキスする?」
「なつめに水飲ませてやれよ!」
「無理」
「なっつがあっくんに手出さないように創ちゃんが見張ってなきゃダメじゃん!」
「なんでそんなことしなきゃいけねえんだよ。これがあるから楽しいんだろうが」

このままではなつめに襲われる。

少し距離を取りつつ、広樹と創樹がコソコソとパソコンをいじり出したのを眺める。画面はここからは見えない。

「まずなっつからいく?」
「彰人はまだ酔ってないから無理だろ」

謎の会話が怖すぎて漏らしそうだ。

「なっちゃん、いい子だから俺のいうこと聞くんだよ?」

創樹の猫なで声なんてホラーでしかないのに、なつめはなぜか感極まったような顔をした。

「僕、創樹くんの奴隷だからなんでもするよ」
「なっつ怖いんだけど」

広樹ですら引いている。

「なつめ、俺が言う言葉を、なるべく感情を込めて言え。わかった?」

こくり、と頷くなつめ。

「いくぞ?『お手洗いに行かせて下さい』」
「待て!」

何だこれは!何の拷問だ!

「うるっせえな、まだ彰人の番じゃねえんだから黙ってろよ」
「お、お手洗いに、行かせて、下さい…」

言うし!恥ずかしそうに可愛らしく言うし!

「なつめ、嫌なことは嫌と言え!」
「彰人くん、僕、なんでもするよ」

ああ、普通の人がいない悲しみ。

「やべえ。始めから飛ばしすぎた」

創樹が1人嬉しそうにしている。
広樹がパソコンを覗き込んだ。そこになにやら入力されているらしい。

「じゃあ次、俺がなっつに言わせていい?」
「お前もか…」

この双子はどんな教育をされて育ったんだろう。

「いくよ?『創樹くんは僕のものだ!誰にも渡さないんだからねっ』」
「なつめで遊ぶのはやめろ」
「だってなっつ素直なんだもん」

なつめは頬を染めながら、いや、酔って顔が赤いだけかもだが、口を開く。

「創樹くんは、僕のものだ、から、誰にも、渡さないっん、だからねー、ねー、創樹くん」
「……くそ、かわいいな」
「あっくん!かわいいのは俺でしょ!ばかぁ!もっとお酒飲んで!早く!」

渡された缶チューハイを開ける。
創樹が仏頂面なのは照れているからだろうか。

「次いくぞ。『彰人くん、全部飲んで』」
「やめろ」
「死ね弟」
「彰人くん、全部、飲んで、ハアハア」
「落ち着けなつめ!」
「じゃあ次、単語バージョン」
「いいね!」

盛り上がる双子。

「はい。じゃ、『お餅』」

もう口を出すのはやめよう。どうせなつめは明日になればこの辛い出来事を覚えていない。

「…おもち」
「やば!エロ!なんかわからんけどエロ!」
「そんなテンションの創樹なんか初めて見たわ……」

言いながら飲み干した空き缶を何気無く見て血の気が引いた。

「これって」
「缶入りの日本酒だよ、美味しかった?プププ」

悪魔の囁きが聞こえた。





 *





「広樹、もっとこっち来いって」
「わあ!ラブラブあっくん発動したっ」

うぜえ。早く彰人にも言わせよう。
エロい言葉エロい言葉。

「はい、彰人の番」
「あっくん、繰り返してね?」
「『なつめっ、もっと奥っ』」
「なにそれ!明らかにあっくんがなんかされてるじゃん!」
「彰人くんにそんなこと言われたら僕アレが」
「なつめが乗ってきた」
「うおお貴様らァァァァ!」
「広樹、もっと奥、突いて」

は?何言ってくれてんの、このイケメンは。

「あれ、なんか俺変な気持ちになっちゃったんだけど」

広樹が照れている。むかつく。

「次。『ふんどし』」

なぜかみんな黙った。彰人に注目が集まる。

「…………ふんどし」
「おおおおおおお!」
「くる。やっぱこれくる」
「彰人くん、抱きたい」

俺と広樹の意見が一致して、真面目な感じのイケメンがふんどしって言ったら絶対エロいって話になって、それでこのゲームを考えた。
広樹とあらかじめ、2人に言わせたい言葉をパソコンでリストアップしておいたのだ。

やっぱ1番くるのはふんどしだな。

あとは。

「『今年俺、先頭で御輿担ぐことになった』」
「いいね!祭りだね!ガチムチだね!」

普段の彰人なら絶対拒むけど。今は機嫌が良さそうだ。つか、広樹しか見てない。ムカつく。

「俺、先頭で御輿担ぐことになった。ふんどしで」
「フォアァァァああ!ふんどし!オプションでふんどしついた!あっくん最高!」
「彰人、次。『後ろから犯して下さい』」
「創ちゃん!誰が聞きたいんだよそんなの!」
「はい!僕が聞きたい!」
「なっつのアホ!」

いきなり彰人が広樹を抱き締めて一言。

「犯していいですか、広樹さん」
「はいどうぞっ」

こいつら……!

「彰人ルール無視すんじゃねー!」
「僕も命令を下さい、創樹くん」
「お前は今放置プレイ」
「放置プレイ……?」

嬉しそうななつめを撫でてやる。

「次。ちゃんと言えよ彰人。『潮吹きそうっす』」
「創樹!あっくんに何言わせてんのさっきから!」
「広樹、潮吹きそう?」
「くふん……あっくん、広樹お潮吹いちゃうぅ」
「広樹のなんか聞きたくねんだよ!帰れバカップル!」

ああ!つまらん!

「なっちゃん、次お前ね。『ストッキングが破けてしまいました』」
「どんなシチュエーションなんだよ」
「バカップルは黙れ」
「ご主人さま、ストッキングが、破けてしまいました、はみ出てしまいそうです」
「はい、よくできました」
「はぅ…創樹くんに褒められた……」
「なっつ、よかったね」
「うん。うんうん」

広樹がなつめの手を握ってやっている。

「じゃあ次、俺が創樹に言わせたいやつ言っていい?」

彰人が突然暴走し出す。

「お前俺に興味ねえだろ」
「ないけど。まあいいから」
「なんか嫌なんだけど」
「俺らは散々言わされたんだからお前もやれよ。『なつめのバカ!他の男なんか見るなよ、ヤキモチやいちゃうっ!』」

こいつ相当キてんな。

「それ広樹じゃねえか」
「ぼ、僕も聞きたいな、創樹くん」
「そうだよ創ちゃん、言ってあげたら?」

くそが。

「なつめのバカ!他の男なんか見んなコラ、ヤキモチ妬いて絞め殺しちゃいそう、てへぺろ!」
「ぶっ」
「創ちゃんが壊れた」
「僕はステキだと思ったよ創樹くん!」
「なつめは?なんか広樹に言わせたいセリフとかないのかよ」
「僕?えっと」

なつめはとろんとした顔を広樹に向けた。

「そうだなぁ。『あっくん、もう、おちんちん挿れたいよ…いい?』とか…」
「ゲス!お前ゲスいわ!」
「俺はネコがいいんだよぅ!」
「ダメだよ広樹くん、みんなちゃんと言ったんだから、ふ、ふふふ」

なつめもいい感じに壊れてきた。

「……あっくん、もう、広樹のおっきいの、挿れたいの、いい?あっくん……」

出たよ上目遣い。
あとお前、べつにデカくねえし。

「広樹ちょっと一緒にトイレ行こうぜ」
「えっ、あぁん、あっくんのえっち!」

風のように去って行く彰人たちを見送ると、なつめがぎゅうと抱き締めてきた。

「創樹くん、僕、ストッキング履きたくなっちゃった」
「はん。変態が。踏みつけてやるから着替えろ」
「大好き!旦那さま!」







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2013.10.25
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