大きな声では言わないけど
24 彰人とかんざし
暑い。
「広樹」
「ふぁ……」
広樹が床に横倒しになったまま動かない。ぺったりと平べったい広樹。ショートパンツから伸びる白い脚。Tシャツは肩まで捲られている。
死んだように動かない。
「おい」
「……あっきゅん…」
「あっきゅんて」
「もう…らめら……あちゅい……あちゅくて……」
駄目だ。広樹が全く駄目だ。
「起きろよ」
「…おきれないれす…」
「床、冷てえの?」
「いや……もう…ぬるい……」
駄目だ。
「じゃあ、祭に誘われたんだけど行って来ていいか」
「誰とだ!」
飛び起きる広樹。
「ゼミの女子」
「はい無理」
「でも」
「はいダメ」
「さっき」
「はい死ね女子死ね」
「……口悪い」
「だってぇ」
広樹が抱きつく。
「暑いんだけど」
「俺もだけど置いてかれるよりマシ!」
「一緒に行く?」
「殺していいなら。うふ」
「違う。2人で。祭」
途端にキラキラする広樹の目。
「行く行くぅ!あっくん!早く行こ!ね、早く早く」
「断りメールするから待って」
「いいじゃーんほっとけばいいじゃーん」
言いながらも楽しそうな広樹につられて思わず笑う。
「わたあめとぉ、ヨーヨー釣りとぉ、パインあめとぉ、スパイラルポテトとぉ、お好み焼きとぉ、焼き鳥とぉ」
「そんなに食ったらデブるぞ」
「デブったらあっくんにおんぶしてもらって帰るから」
「いや意味わかんね」
「あー!」
広樹が玄関に走りながら叫ぶ。
「ちょっと30分くらい待っててー!あっくん愛してる!」
「てる」を言う頃には広樹はもう外に出ていて、俺は急に1人で取り残される。
「何なんだ」
とりあえず、広樹が戻るまで統計学の本を読むことにした。
「あっきゅん、お待たせ」
「おせえよ。つかあっきゅんて」
玄関の方から呼ばれて出ていくと。
「お前、それ」
「どーお?かわいい?」
「浴衣。持ってんだ」
「うん!似合う?」
広樹は鮮やかな水色の浴衣にクリーム色の帯を締め、てへへと笑いながらくるりと回った。
「その髪は」
「ピンでここらへんをズバズバッと留めてるの」
「それ、かんざし?」
「そう!女の子用だけどちょっと良くない?かわいい?ね、かわいい?」
上目遣いで見上げる広樹を抱き締める。
「かわいいよ」
「ほんと?!」
「女子と行かなくてよかった」
「ウオッシャア!行こ行こ、あっくん」
俺の腕を取って笑う、いつもと違う広樹に、少し胸がざわついた。
「うふぅ、あっくん。たこ焼き食べよう」
「まだ食うの」
露店が軒を連ねている。陽が落ちても暑いけれど、外で夏を満喫しようとする人でごった返していた。
さっき数え上げていた食べ物をあらかた食べ散らかして、今度はたこ焼きを手にした広樹は満面の笑みを浮かべた。
「だって!おいしいんだもの」
「お前普段そんな大食いじゃないのにな」
「だって、あっくんとお祭なんて、来年まで来られないんだよ?また1年待たなきゃだもん」
たこ焼きをハフハフ言いながら頬張る広樹の頭で、かんざしが揺れる。
「来年も来ような」
頭をぽんと触ると、広樹が唸った。
「何」
「勃った」
「死ね。たこ焼き喉に詰まって死ね」
「ちょっと!かわいい広樹が死んだら悲しくないの!」
「かんざし刺さって死ね」
「ひどい!いじわる!…ねぇあっくん、はい、たこ焼き」
「もう腹一杯」
「えぇ?たこ焼きいらない?」
「いらねえ」
「広樹は?」
「何?」
「だからぁ、広樹のこと、食べる?」
「食べない」
「うそ?食べたい?」
「全然」
「あぁあ、サンダル、足痛くなっちゃった」
広樹は道端に屈みこんだ。
「いたいぃ」
「靴擦れ?」
「うん……ね、おんぶして、あっくん」
「はぁ?」
「お願い。あっくん」
潤んだ目に見つめられ、俺は仕方なく広樹に背中を向け屈んだ。
広樹を乗せて歩き出す。
「祭、満足した?」
背中で上機嫌に鼻唄を歌う広樹を背負い直す。
「うん。楽しかったね」
「ん」
「あっきゅん」
「なんなんだ、そのあっきゅんって」
「ふーっ」
「うわ、やめろ」
耳に息をかけられて体勢を崩す。
「あっくん」
「ちょ、耳元でしゃべんな」
「ねえ、勃っちゃったの」
「しっ、知るか」
「ほらぁ……あっくんの背中に…ちんちんあたっちゃって……」
自分が唾を飲む音が聞こえた。
「あっくん、浴衣、脱がせて?」
「あとで」
「今」
「駄目」
「嫌。今」
「今って。どこでだよ」
「あっちの公園」
青姦、という言葉が目の前をぐるぐる回る。
「暑いし…お外で…しよ?」
だめだ。そんな、犯罪みたいな、
「浴衣、下からめくって、お尻…さわって、あっくん」
ふぅ、とまた耳に息をかけられ、俺は広樹を背負ったまま公園へ向かった。
「ああぁん、こんなところでぇ、いやぁ、見られちゃうぅ」
「棒読みになってんだけど」
公園の奥にある作り付けの木のテーブルに、浴衣の広樹を押し倒す。手首を頭上でまとめて固定し、キスをした。
「あっ、う、ふっ、んんっ」
「声出すなよ、聞こえるぞ。恥ずかしいヤツ」
「いやぁん…誰かいたら……」
「お前が誘ったんだろ」
「そうだけどぉっ」
「いっつもこの会話してね?まあいいや、帯解くぞ」
「やっ、えっち…」
見上げてくる大きな瞳に、浴衣を脱がすという興奮を煽られる。
いや待てよ、帯は解かないほうがエロいか。
思い直して帯から下をはだけさせると、白い太ももと派手な下着が覗いた。
「やんっ、見ないでぇ…」
「こっちは?」
「ああっ!」
上半身も両方向に引っ張って開き、乳首を指で弾いてやる。
「やだぁ、犯される…たすけて…」
「じゃあやめる?」
「いえ、よろしくお願いします」
必死な顔で言う広樹の喉に噛み付く。
「ひいっ」
小さくかわいらしい喉仏に軽く歯をあて、舐めて、また軽く噛む。
「んっ、あっくん…はやくぅ…食べて…」
「ケツ慣らすのめんどくせえんだけど」
「はっ!あっくんが鬼畜に成り下がってる!」
「どうすんの。俺はやめてもいいけど」
「ダメ、自分でするから…」
「よしよし。かわいいな」
「ほんとぅ?」
「早くヤらせろ」
「はぃ」
大きくはだけた浴衣の中に舐めて濡らした手を突っ込み、広樹は卑猥な音をたて始める。
「あぁ、くちゅくちゅきもちぃよぉ…」
俺の目を見ながら手を動かしている。
「んっ、はやく、はやく欲しくなっちゃう……あっくん…好き……」
「もう挿れていい?」
「ゃぁ、痛くしちゃうからぁ」
「広樹、ちょっとまじ急いで」
「なにそれ、もうっ…えっち…あんっ」
焦らしてるつもりなのか、エロい顔で俺を見ながら広樹の手の動きが放漫になっていく。
なにこいつ。まじで。あり得ねえんだけど。
「焦らすとか、お前ばっか楽しんでんじゃねえよ」
我慢がきかなくなって、広樹の手をどかして自分の指を2本挿入する。
「ああっ!ひやぁーっ!あっ、きもちぃ!」
「バカ、声でかい」
囁くようにたしなめた直後、草むらの向こうから声が聞こえた気がして2人で固まる。
「あっくん、なんか今、声、」
「聞こえたよな」
「悲鳴みたいに聞こえたけど」
「あっちでも誰かヤってんじゃねえの」
「お、おっ、オバケじゃないでしょうね…」
「なわけねえだろ」
悲鳴っつうか、俺にはもっとアレな声に聞こえたけど。
まあいいや。
「オバケ出るから早く終わらそうぜ」
指を抜いてズボンと下着をちょっと下ろし、一気に広樹を貫く。
「あ゛ーっ!やっ!あぁっ!」
「っ、だから、声でけえよ」
「ダメ、もうっ、見られちゃうよおぉ!ああっ、あっくん、いいっ、あっ、あっ」
「聞こえる、って」
後で後悔するんだろうなとうっすら思いながら、俺も広樹も興奮が高まっていく。
「いやっ、ちくびだめ、ぺろぺろしちゃいやぁ」
「だってすげえ締まる」
「だってきもちいんだもん!ぁんっやぁん、はぁ…あっくん、好きぃ」
「…っはぁ、広樹」
「ね、あっくん…」
「あ?」
「あっくんの精子、おなかにかけて…?」
広樹の上目遣いのおねだりに息が荒くなってしまった。ぎゅっと抱き締めながら激しく腰をぶつける。
「やああっああっああっ」
「あーやべ」
「あっくん、きもちい?」
「もうイく」
「かけて、白いのかけてっ!ああっ!ああんっ!」
寸前で抜いて、はだけた浴衣の間から覗く白い脇腹に先端をあてがう。そのまま根元を少し扱いて、望み通りかけてやった。
「ああっ…あつい……はぁ…あん……」
「なんか拭くものある?」
「うん。ティッシュ…」
広樹が浴衣の袖の中から出したポケットティッシュは5、6個あった。
「なんでこんな持ってんの?」
「え?いえいえ、別に浴衣を着た時点でヤる気満々だったわけではないですからお気になさらず、うふふ」
ため息が出る。
性欲の落ち着かない広樹にも、毎度乗せられる俺にも。
広樹の体を拭いてやり、浴衣を直してやって公園を出る。
広樹が腕にしがみついて、ぴったりくっついたまま歩いていると、前から聞きなれた声が聞こえた。
「あれ?なっつと創ちゃんだ。ん?なっつ?だよね?」
「……おう。多分」
前を歩く2人は間違いなくなつめ達だ。
一瞬男女カップルかと錯覚した。なぜかというと。
「なっつぅ!」
広樹が大声で呼んで振り返ったなつめは、淡い地に濃い桃色の大きな花がたくさんあしらわれた、女性ものに見える浴衣を着ていたからだ。
長めの髪をまとめて結って、広樹と同じようなかんざしを差している。
「あ、あ、あ、彰人くん、と、広樹くん…だ……」
「なっつも浴衣着てるの!かわいいねえ」
嬉しそうな広樹を前に、見るからに狼狽しているなつめの隣。無表情の創樹が腕を組んでいる。
これは。
「なに。なつめ、また創樹になんか理不尽な罰ゲーム押し付けられたの?」
創樹のわがままにいつも付き合ってやるなつめ。ほんと、優しいヤツだ。
「あ、え、えっと」
「違う。こいつ、好きで着てんだよ」
創樹がニヤリと笑いながらなつめを見た。
「そんなわけねえだろ。かわいそうに」
なつめを見ると、きょろきょろと周りを見回して赤くなった。
「なっつ、嫌なことは嫌って言って大丈夫だよ、創樹だって鬼じゃないんだから」
「あ、う、うん」
「そうだぞなつめ。でもお前」
なつめの後ろに回って首を撫でる。
「うなじ綺麗なのな」
「ひやんっ、彰人くん!なにを」
「あっくん!俺のうなじは?」
「なつめ、女子みてえだな。綺麗。似合うよ、浴衣」
「そう?あ、ありがとう、でいいのかな…」
「なっつ、今のあっくんのはお世辞だからね!ねえあっくん俺のうなじは!俺の方がかわいいでしょ!ね!」
創樹が1人、歪んだ笑みを浮かべているのが気になったけど、まあいつものことだ。
4人で帰り道を歩く。
「ね、あっくん、来年もお祭来ようね」
「来年はなつめと来る」
「え、彰人くんそれは」
「なっつ殺す。なつコロ」
「略された!グラコロみたいに!」
「来年もお前その浴衣着れば。変態。そんで公園で露出して」
「わーわーわー!創樹くんお願いだから黙って!」
かわいそうななつめ。
あと、むくれた広樹が少しかわいい。
暑さも落ち着いた夏祭りの夜の風。
その頭を撫でてやりながら、来年も来れたらいいなと素直に思った。
-end-
2013.8.25
暑い。
「広樹」
「ふぁ……」
広樹が床に横倒しになったまま動かない。ぺったりと平べったい広樹。ショートパンツから伸びる白い脚。Tシャツは肩まで捲られている。
死んだように動かない。
「おい」
「……あっきゅん…」
「あっきゅんて」
「もう…らめら……あちゅい……あちゅくて……」
駄目だ。広樹が全く駄目だ。
「起きろよ」
「…おきれないれす…」
「床、冷てえの?」
「いや……もう…ぬるい……」
駄目だ。
「じゃあ、祭に誘われたんだけど行って来ていいか」
「誰とだ!」
飛び起きる広樹。
「ゼミの女子」
「はい無理」
「でも」
「はいダメ」
「さっき」
「はい死ね女子死ね」
「……口悪い」
「だってぇ」
広樹が抱きつく。
「暑いんだけど」
「俺もだけど置いてかれるよりマシ!」
「一緒に行く?」
「殺していいなら。うふ」
「違う。2人で。祭」
途端にキラキラする広樹の目。
「行く行くぅ!あっくん!早く行こ!ね、早く早く」
「断りメールするから待って」
「いいじゃーんほっとけばいいじゃーん」
言いながらも楽しそうな広樹につられて思わず笑う。
「わたあめとぉ、ヨーヨー釣りとぉ、パインあめとぉ、スパイラルポテトとぉ、お好み焼きとぉ、焼き鳥とぉ」
「そんなに食ったらデブるぞ」
「デブったらあっくんにおんぶしてもらって帰るから」
「いや意味わかんね」
「あー!」
広樹が玄関に走りながら叫ぶ。
「ちょっと30分くらい待っててー!あっくん愛してる!」
「てる」を言う頃には広樹はもう外に出ていて、俺は急に1人で取り残される。
「何なんだ」
とりあえず、広樹が戻るまで統計学の本を読むことにした。
「あっきゅん、お待たせ」
「おせえよ。つかあっきゅんて」
玄関の方から呼ばれて出ていくと。
「お前、それ」
「どーお?かわいい?」
「浴衣。持ってんだ」
「うん!似合う?」
広樹は鮮やかな水色の浴衣にクリーム色の帯を締め、てへへと笑いながらくるりと回った。
「その髪は」
「ピンでここらへんをズバズバッと留めてるの」
「それ、かんざし?」
「そう!女の子用だけどちょっと良くない?かわいい?ね、かわいい?」
上目遣いで見上げる広樹を抱き締める。
「かわいいよ」
「ほんと?!」
「女子と行かなくてよかった」
「ウオッシャア!行こ行こ、あっくん」
俺の腕を取って笑う、いつもと違う広樹に、少し胸がざわついた。
「うふぅ、あっくん。たこ焼き食べよう」
「まだ食うの」
露店が軒を連ねている。陽が落ちても暑いけれど、外で夏を満喫しようとする人でごった返していた。
さっき数え上げていた食べ物をあらかた食べ散らかして、今度はたこ焼きを手にした広樹は満面の笑みを浮かべた。
「だって!おいしいんだもの」
「お前普段そんな大食いじゃないのにな」
「だって、あっくんとお祭なんて、来年まで来られないんだよ?また1年待たなきゃだもん」
たこ焼きをハフハフ言いながら頬張る広樹の頭で、かんざしが揺れる。
「来年も来ような」
頭をぽんと触ると、広樹が唸った。
「何」
「勃った」
「死ね。たこ焼き喉に詰まって死ね」
「ちょっと!かわいい広樹が死んだら悲しくないの!」
「かんざし刺さって死ね」
「ひどい!いじわる!…ねぇあっくん、はい、たこ焼き」
「もう腹一杯」
「えぇ?たこ焼きいらない?」
「いらねえ」
「広樹は?」
「何?」
「だからぁ、広樹のこと、食べる?」
「食べない」
「うそ?食べたい?」
「全然」
「あぁあ、サンダル、足痛くなっちゃった」
広樹は道端に屈みこんだ。
「いたいぃ」
「靴擦れ?」
「うん……ね、おんぶして、あっくん」
「はぁ?」
「お願い。あっくん」
潤んだ目に見つめられ、俺は仕方なく広樹に背中を向け屈んだ。
広樹を乗せて歩き出す。
「祭、満足した?」
背中で上機嫌に鼻唄を歌う広樹を背負い直す。
「うん。楽しかったね」
「ん」
「あっきゅん」
「なんなんだ、そのあっきゅんって」
「ふーっ」
「うわ、やめろ」
耳に息をかけられて体勢を崩す。
「あっくん」
「ちょ、耳元でしゃべんな」
「ねえ、勃っちゃったの」
「しっ、知るか」
「ほらぁ……あっくんの背中に…ちんちんあたっちゃって……」
自分が唾を飲む音が聞こえた。
「あっくん、浴衣、脱がせて?」
「あとで」
「今」
「駄目」
「嫌。今」
「今って。どこでだよ」
「あっちの公園」
青姦、という言葉が目の前をぐるぐる回る。
「暑いし…お外で…しよ?」
だめだ。そんな、犯罪みたいな、
「浴衣、下からめくって、お尻…さわって、あっくん」
ふぅ、とまた耳に息をかけられ、俺は広樹を背負ったまま公園へ向かった。
「ああぁん、こんなところでぇ、いやぁ、見られちゃうぅ」
「棒読みになってんだけど」
公園の奥にある作り付けの木のテーブルに、浴衣の広樹を押し倒す。手首を頭上でまとめて固定し、キスをした。
「あっ、う、ふっ、んんっ」
「声出すなよ、聞こえるぞ。恥ずかしいヤツ」
「いやぁん…誰かいたら……」
「お前が誘ったんだろ」
「そうだけどぉっ」
「いっつもこの会話してね?まあいいや、帯解くぞ」
「やっ、えっち…」
見上げてくる大きな瞳に、浴衣を脱がすという興奮を煽られる。
いや待てよ、帯は解かないほうがエロいか。
思い直して帯から下をはだけさせると、白い太ももと派手な下着が覗いた。
「やんっ、見ないでぇ…」
「こっちは?」
「ああっ!」
上半身も両方向に引っ張って開き、乳首を指で弾いてやる。
「やだぁ、犯される…たすけて…」
「じゃあやめる?」
「いえ、よろしくお願いします」
必死な顔で言う広樹の喉に噛み付く。
「ひいっ」
小さくかわいらしい喉仏に軽く歯をあて、舐めて、また軽く噛む。
「んっ、あっくん…はやくぅ…食べて…」
「ケツ慣らすのめんどくせえんだけど」
「はっ!あっくんが鬼畜に成り下がってる!」
「どうすんの。俺はやめてもいいけど」
「ダメ、自分でするから…」
「よしよし。かわいいな」
「ほんとぅ?」
「早くヤらせろ」
「はぃ」
大きくはだけた浴衣の中に舐めて濡らした手を突っ込み、広樹は卑猥な音をたて始める。
「あぁ、くちゅくちゅきもちぃよぉ…」
俺の目を見ながら手を動かしている。
「んっ、はやく、はやく欲しくなっちゃう……あっくん…好き……」
「もう挿れていい?」
「ゃぁ、痛くしちゃうからぁ」
「広樹、ちょっとまじ急いで」
「なにそれ、もうっ…えっち…あんっ」
焦らしてるつもりなのか、エロい顔で俺を見ながら広樹の手の動きが放漫になっていく。
なにこいつ。まじで。あり得ねえんだけど。
「焦らすとか、お前ばっか楽しんでんじゃねえよ」
我慢がきかなくなって、広樹の手をどかして自分の指を2本挿入する。
「ああっ!ひやぁーっ!あっ、きもちぃ!」
「バカ、声でかい」
囁くようにたしなめた直後、草むらの向こうから声が聞こえた気がして2人で固まる。
「あっくん、なんか今、声、」
「聞こえたよな」
「悲鳴みたいに聞こえたけど」
「あっちでも誰かヤってんじゃねえの」
「お、おっ、オバケじゃないでしょうね…」
「なわけねえだろ」
悲鳴っつうか、俺にはもっとアレな声に聞こえたけど。
まあいいや。
「オバケ出るから早く終わらそうぜ」
指を抜いてズボンと下着をちょっと下ろし、一気に広樹を貫く。
「あ゛ーっ!やっ!あぁっ!」
「っ、だから、声でけえよ」
「ダメ、もうっ、見られちゃうよおぉ!ああっ、あっくん、いいっ、あっ、あっ」
「聞こえる、って」
後で後悔するんだろうなとうっすら思いながら、俺も広樹も興奮が高まっていく。
「いやっ、ちくびだめ、ぺろぺろしちゃいやぁ」
「だってすげえ締まる」
「だってきもちいんだもん!ぁんっやぁん、はぁ…あっくん、好きぃ」
「…っはぁ、広樹」
「ね、あっくん…」
「あ?」
「あっくんの精子、おなかにかけて…?」
広樹の上目遣いのおねだりに息が荒くなってしまった。ぎゅっと抱き締めながら激しく腰をぶつける。
「やああっああっああっ」
「あーやべ」
「あっくん、きもちい?」
「もうイく」
「かけて、白いのかけてっ!ああっ!ああんっ!」
寸前で抜いて、はだけた浴衣の間から覗く白い脇腹に先端をあてがう。そのまま根元を少し扱いて、望み通りかけてやった。
「ああっ…あつい……はぁ…あん……」
「なんか拭くものある?」
「うん。ティッシュ…」
広樹が浴衣の袖の中から出したポケットティッシュは5、6個あった。
「なんでこんな持ってんの?」
「え?いえいえ、別に浴衣を着た時点でヤる気満々だったわけではないですからお気になさらず、うふふ」
ため息が出る。
性欲の落ち着かない広樹にも、毎度乗せられる俺にも。
広樹の体を拭いてやり、浴衣を直してやって公園を出る。
広樹が腕にしがみついて、ぴったりくっついたまま歩いていると、前から聞きなれた声が聞こえた。
「あれ?なっつと創ちゃんだ。ん?なっつ?だよね?」
「……おう。多分」
前を歩く2人は間違いなくなつめ達だ。
一瞬男女カップルかと錯覚した。なぜかというと。
「なっつぅ!」
広樹が大声で呼んで振り返ったなつめは、淡い地に濃い桃色の大きな花がたくさんあしらわれた、女性ものに見える浴衣を着ていたからだ。
長めの髪をまとめて結って、広樹と同じようなかんざしを差している。
「あ、あ、あ、彰人くん、と、広樹くん…だ……」
「なっつも浴衣着てるの!かわいいねえ」
嬉しそうな広樹を前に、見るからに狼狽しているなつめの隣。無表情の創樹が腕を組んでいる。
これは。
「なに。なつめ、また創樹になんか理不尽な罰ゲーム押し付けられたの?」
創樹のわがままにいつも付き合ってやるなつめ。ほんと、優しいヤツだ。
「あ、え、えっと」
「違う。こいつ、好きで着てんだよ」
創樹がニヤリと笑いながらなつめを見た。
「そんなわけねえだろ。かわいそうに」
なつめを見ると、きょろきょろと周りを見回して赤くなった。
「なっつ、嫌なことは嫌って言って大丈夫だよ、創樹だって鬼じゃないんだから」
「あ、う、うん」
「そうだぞなつめ。でもお前」
なつめの後ろに回って首を撫でる。
「うなじ綺麗なのな」
「ひやんっ、彰人くん!なにを」
「あっくん!俺のうなじは?」
「なつめ、女子みてえだな。綺麗。似合うよ、浴衣」
「そう?あ、ありがとう、でいいのかな…」
「なっつ、今のあっくんのはお世辞だからね!ねえあっくん俺のうなじは!俺の方がかわいいでしょ!ね!」
創樹が1人、歪んだ笑みを浮かべているのが気になったけど、まあいつものことだ。
4人で帰り道を歩く。
「ね、あっくん、来年もお祭来ようね」
「来年はなつめと来る」
「え、彰人くんそれは」
「なっつ殺す。なつコロ」
「略された!グラコロみたいに!」
「来年もお前その浴衣着れば。変態。そんで公園で露出して」
「わーわーわー!創樹くんお願いだから黙って!」
かわいそうななつめ。
あと、むくれた広樹が少しかわいい。
暑さも落ち着いた夏祭りの夜の風。
その頭を撫でてやりながら、来年も来れたらいいなと素直に思った。
-end-
2013.8.25