大きな声では言わないけど

21 広樹の彼シャツ



「あっくん、雨止まないねぇ」
「いいんじゃね。今日はもうこのまま家で」
「勉強はしないもん!」
「しろよ!」

広樹はいつもレポートの提出期限当日まで粘る。前日ではない。当日だ。あり得ない。

「あーあー買い物行きたかったのに!」

多少の雨なら買い物くらい行けるけれど、今日の雨は容赦ない降り方で、近くのコンビニに行くのも躊躇してしまう。

「明日大学帰りに寄れるだろ」
「んーそうだけど」

この間約束した、揃いのアクセサリーが買いたいらしい。

「とりあえずレポートやれ」
「やだよぅめんどくさい」
「俺は土日バイトだし、今日終わらすけどな」
「なんで!俺がいるのに!つまんない!」
「だから今日一緒にやればって言ってんだろわかんねぇやつだな」

参考資料とパソコンを交互に睨む。あと1時間もあれば終わるだろう。

「やぁ…あっくん、怒ったの?」

広樹が悲しそうな声で言いながら背中に抱きついてくる。

「怒ってはねえよ」
「本当に?」

首にぴとりと柔らかい感触。キスをされているらしい。

「お前がガキみたいだから」
「うぅん…じゃあさあ、コンビニ行こう?」
「は?」
「チョコ食べたらがんばれる」
「やっぱりガキだな」
「ねぇ行こう行こうあっくん」

二の腕を引かれて渋々立ち上がる。

「じゃあチョコ食ったらがんばれよ、俺は当日ギリギリで手伝うのは嫌だからな」
「うんうんうん!チョコ食べながらがんばろう?」
「がんばるのはお前だって」
「傘は一本でいいよね」
「聞いてんのか」

玄関のドアを開けると、雨粒があらゆるものを叩く音が響き渡る。

「うわうわ!なんかワクワクするね、あっくん」

キラキラした笑顔で俺を見上げる広樹に、苦笑が漏れる。

「お前今度長靴買ってやろうか。黄色くてキャラクターついたやつ」
「ちょっと!それって幼稚園の子のやつじゃないの!」

わいわいしながらコンビニに行って、チョコとアイスを買う。コンビニの床も、掃除が追い付かずにつるつると滑った。
家に戻る頃には傘の意味は無くなっていて、2人ともずぶ濡れだった。

「あっくん乳首透けてる!激エロなんですけど!」
「ちょっと待て、お前頭も濡れてんだけど。タオル持ってくるから。傘さしてたのになぜ頭」

だって、と言って広樹は俺を見上げる。

「あっくんの背の高さの傘だったら俺は意味ないもん」
「…あぁ」

気づかなかった。

「ごめんな」
「いいの。大丈夫。ね、あっくん、着替え貸して?タンス漁っていい?」
「ん」

アイスを冷凍庫にしまい、自分の体を適当に拭く。
広樹の頭を乾かそうと洗面所からドライヤーを持ってきたところで、広樹が戻ってきた。
その姿に絶句する。

「これがちょうどよかったぁ、ふふ」
「……そうは見えないんだけど」

広樹は俺のカッターシャツを着ている。サイズが合っていなくてタプタプしている。裾と袖が長すぎる。
それはいい。それは置いておこう。
なぜ下も脱いだ…。

「下も濡れちゃったしぃ…下はあっくんの絶対合わないしぃ……」

広樹はもじもじと膝を擦り合わせながらチラチラと俺を見た。
彼シャツ……!これ、彼シャツの上目遣い……ヤバい。

「お、おう…」
「大丈夫?あっくん」
「早く髪、ほら、乾かすぞ」

動揺が半端ない。本当にヤバい。俺、これ弱いかも。

「あー!乾かしてくれるの?やったぁ」

床に座って笑顔で見上げてくる広樹の後ろに座り、ドライヤーのスイッチを入れた。
手を動かしながら、投げ出された足に、膝に、太ももに目を奪われる。
下着はうまく隠れていて、晒された白い肌を見ていたらムラムラした。触りてえ。

「んふふ、あっくん温かい」
「よ、よかったな」
「大好き。あっくん」

俺の胸にすりすりと頬を寄せてきた広樹の半乾きの髪から、トリートメントかなにかのいい匂いがした。
またか、また流されるのか、と思いながらドライヤーを置く。

「どうしたの…?」
「どうしたのじゃねえよ、わざとだろ、誘ってんだろ?」

ゆっくりと太ももに指を這わすと、広樹が目を伏せながら微かに体を震わせた。

「ねぇあっくん、俺のこと、好き?」
「あ?」
「勃っちゃう?俺見て」
「うるせえ、早く触らせろ」

照れ隠しで愛想のない声を出すと、広樹は膝立ちになって俺の方を振り返った。

「あっくん、パンツ脱ぐからぁ……見てて?」

広樹は潤ませた目を少し伏せて、手をシャツの裾から中に入れた。ゆっくり下がる下着が見えて、無意識に喉が鳴ってしまった。
んふ、と笑った広樹は太ももまで下着をずらすと横座りになり、俺を上目遣いで見る。

「……意地悪して…?」

ばか野郎。本当に、殺したいくらいかわいい。

でもな。

「さ。レポートやるぞ」
「えー!」

すがり付いてくる広樹を引き剥がしてパソコンに向かう。

「やだぁ!寒いよ!あっくん暖めてよ!」
「パンツ履けば?」
「ひどい!やだやだ!なんで俺レポートに負けるの!」
「チョコ食いながらがんばるんだろ」
「がんばれない!えっちしてくれないとがんばれないもん!」
「がんばったらいくらでもしてやる」
「……ほんと?」

涙目。かわいいやつ。

「してほしいこと、全部してやるよ」

なるべく優しく言ってやると、広樹は膝立ちでパンツをあげながらズリズリと歩いてきた。

「あっくん」
「なに」
「イケメン過ぎてズルくない?」
「意味わからん」
「俺、がんばるね」
「偉いな」

頭を撫でると嬉しそうに笑う。
プリントやノートや教科書をぱらぱらとめくりながら真剣な目をして集中しだした広樹に目をやる。
頬がぷくっとしていて、かわいい。
あ。やべ。彼シャツ。
真面目そうに見える上半身に反して、少し崩した正座。露出した、太ももから下の白い肌。
汚したい。ぐちゃぐちゃにして、もうやめてって叫んでも許さないで責めたてたい。
衝動に勝てず、ラリアットをくらわすみたいに押し倒す。

「ぐえっうっ」
「レポートあとで手伝うから」

急いでキスをして、太ももを性急に撫でまわす。

「あっあん…ん…」
「…お前、覚えとけよ」

そんな格好して誘ったバチが当たれ。
乱雑な手つきで下着を下ろして足を使って脱がす。手はシャツの裾から上半身へ。

「どうしてほしい?」
「はぁっ、あっくん…」
「なに」

広樹は頬を染めて口を少し開けている。はあはあという呼吸がエロい。

「激しくして……?」

なんだよ。なんなんだ。俺は広樹の耳に唇を寄せる。

「すっげぇ勃ったんだけど」

囁くと広樹は「えぇ?」と言って笑った。

「誰のせいだと思ってんの?…責任とれよ」

笑う余裕なんかなくしてやる。
広樹の体を反転させて、俯せにして手を背中でまとめる。余っている両腕の袖を縛り、自由を奪った。

「ああっいやっだめえぇぇ!乱暴しないでぇ!」

本当は嫌でもなんでもないくせに嫌がるふりをする広樹。

「痛いことしていい?」

呟いて耳たぶをかじる。強めに。

「あっふ…いた…う……」

広樹の体が震えた。その耳をすーっと舐めあげる。腰を持ち上げてなめらかな肌をすべすべと撫でたら、広樹が大きく息を吐いた。穴のふちをゆっくりなぞりながら首筋にカプカプと噛みつく。

「あっくん…やぁ…っ」

下半身丸出しになって手を後ろで縛られた、エロい格好の広樹の体を抱え上げ、俯せのまま上半身をテーブルにもたせ掛けた。
広樹は無言の俺が怖かったのか、少し不安そうな顔で振り向いた。
やべえ。興奮する。
膝をついた格好の太ももを閉じさせて、その間にローションを垂らした手を滑り込ませる。

「ひゃん、冷たいよ、あっくん」

自分の息が荒くなるのを感じながらズボンと下着を腿まで下げると、完勃ちのそれを濡らした広樹の内腿に滑り込ませた。

「ああっ!や!えっち!やああ!」
「やっばい。すぐイきそう」
「ええっずるい!俺もしてよう!あんっ」

腰をぶつけるたびに俺の先端が広樹のタマに当たって広樹が喘ぐ。

「いやぁん!なに、これ、あ、だめ!どうしよ…あっ…ぁっ」

広樹の体がぶるりと震えた。

「お前も、はっ、きもちいの?」
「う、んん、いい、いいよ」
「やべえ…俺、これ好きかも」
「んっはぁ、ん、う、嬉しい…」

照れたように笑った広樹の腰を掴んでこすり付けると、異常なくらい興奮した。

「あん!あ、あ、いい、あ、あっくん!んぁ!ん」
「ああ、やばい…出る、っ!」
「やーっ、あ、ああ!あつい…あ…んく…うう」
「はぁ……あれ、お前も出したの…?」
「……てへへ…」

まさか。素股だけでイくとは。

「お前の体ってどうなってるんだろうな」
「俺の体?俺の体はねえ、あっくんが気持ちよくなったらイくようにできてるんだよ?」

かわいいことを言うので撫でてやる。

「レポート、手伝ってくれるって言ったもんね?ふふふん」
「仕方ねえな…どこから」
「何もしてないから最初から」
「……はあ……」

コンビニに行くとき、傘をわざと1本しか持って行かなかったんだと俺が気づくのは、もう少し後になってからだった。
やられた。
彼シャツ。






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2013.4.28
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