20 過去も含めてあなたが好きです

6.なんだかんだな4人

「やきにくぅーあっくんとー焼いたりーちちくりあったりー」
「広樹うるさい」
「だって焼肉楽しみなんだもの!」
「変な歌うたう癖、恥ずかしいから外ではやめろ」

彰人と広樹が某焼肉店に入る。
混み合う店内を見て、広樹は不安そうな顔をした。

「待つ感じかなぁ」
「いや大丈夫、予約したし」
「えー!さすがあっくんステキ!でもいつ電話したの?」
「いや、なつめが」

なっつが?と聞き返した広樹の目に、よく知る笑顔が飛び込んできた。

「広樹くん彰人くん!こっちだよ」

え、なんで、という疑問は、その隣にいる肉親への憎悪に消し飛ばされた。

「そうきぃ!」
「なんだてめえこっちだって言いたいこと山のようにあるぞこのぶりっ子チビが!」

双子の間に入る彰人となつめは顔を見合わせて苦笑した。

「仲直りも兼ねておいしいものでも食べようかって、彰人くんとメールしてたんだよ」
「多分こうなると思ったから」

彰人となつめは自分の恋人から、双子の片割れの秘密を密告したことを聞き、衝突を避けるべくこの場を企画したのだった。

「カルビ食べようね、創樹くん」
「広樹は何食うの」

とりあえず席についた4人は、とりあえず注文を済ませ、とりあえず乾杯した。

「でもさーひどすぎない?人のプライバシーを勝手に話しちゃうとかさ。弟だと思えないもう!」
「うるせえよお互い様だろ。元々お前の弟だなんて思ってねえから。絶対お前が弟だ」

いや、どっちでもいいけど絶対に血は繋がっている、と思う彰人となつめ。

「こっちは創樹のせいで別れかけたんだからね!」

広樹はほっぺたを膨らませる。

「大変だったんだね。でも大丈夫だよ、2人はラブラブでしょ」

なつめは創樹に焼けた肉を取ってやりながら言った。

「別れかけてねえって。妄想やめろ」

彰人も広樹に焼けた肉を取ってやりながら言った。

「知るかよ。そんくらいで別れるくらいならもう今すぐ別れて彰人とヤらせろ」

馬鹿にしたような目で兄を見る創樹を、彰人が意味ありげな笑みを浮かべて見つめる。

「んだよ、彰人キモいんだけど」

その視線に気づく創樹。

「お前、少し素直になってなつめに可愛がってもらった方がいいんじゃねえの」
「うるせえよ」
「大丈夫だよ彰人くん。さっき創樹くんのことたくさん可愛がったから。すごくかわいかったんだよ、ふふ」

なつめが満面の笑みを浮かべながら創樹を愛おしそうに撫でた。

「黙れよ駄犬が」
「痛いっ!」
「なっつ趣味悪すぎ」

テーブルの下で旦那さまから下僕へと蹴りが入り、広樹が醒めた目で弟カップルを見た。

「結果的には広樹だっておいしい思いしただろ」

ホルモンをひっくり返しながら彰人がさらりと言った言葉に、創樹は吐き気を催し、なつめは目のやり場に困り、広樹は照れながらも彰人の唇にキスをした。

「お前っ、外で!」
「だってぇ、好きなんだもん」
「クソバカップル帰れ」
「創樹くん、冷麺一緒に食べようよ。あとトントロ追加しよっか」

一時休戦の体で食べ進めていると、広樹がふと思い出したことを語り始める。

「そういえば正浩さぁ、なんか気になってた人とアドレス交換したとかですっごい浮かれてた。こないだ電話した時に」
「そんだけで?あいつそんなキャラじゃねえじゃん」
「ねー。俺も超違和感だったけど。すごいいい男なんだって。今度会わせてって言ったら、森田さんはそういうんじゃねーから、とか意味わかんないこと言ってた」
「ふぅん」

さっきまで一触即発だったのに普通のトーンで会話を進める双子に、さすが血縁者、と彰人となつめは思うのだった。

「創樹くん、冷麺来たよ」
「あっくん俺も冷麺食べたい」
「なつめ犬、ホルモンも追加しろ」
「広樹それ焦げてる。こっちのやつ食え」
「彰人くん優しいね」
「なっつ、きらきら笑顔であっくんのこと見ないでよ」
「彰人照れてんの?まじキモい」
「あっくん冷麺。冷麺半分こしよ?頼んでいい?」
「いいけどこのピーマンも食えよ」
「やだ!」
「なつめは玉ねぎ食うなよ、犬には毒だぞ」
「わかったよ」
「なつめ、いいのか、お前の人生それで」
「大丈夫だよ彰人くん。僕、一生創樹くんについて行くって決めたから」
「なっつかわいそう。ピーマンあげるね」
「広樹、ピーマンは食え」

あらかた食べ終わり、なつめは創樹に、彰人は広樹に目をやってからなんとなく顔を見合わせた。

「いろいろあったけど結果オーライだね」
「知れてよかったかも。いろいろ」

だって、その過去も含めてあなたを。
あたたかい気持ちで微笑み合う2人の傍らで、双子は最後の牛タン争奪戦を繰り広げていた。





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2013.1.26
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