20 過去も含めてあなたが好きです

4.あっくんと広樹

「どうしたの?やっぱり俺と2人がよくなっちゃったの?もうっ、あっくんたら仕方ないなぁ、そりゃあ俺だって2人がいいよ?でも今日は4人でもいっかって思ってたんだけどぉ、あっくんがどうしても2人がいいって言うなら仕方ないからもういいよ2人デートでも。でへへ」

広樹がひたすらデレデレしているので放っておいて、俺はコンビニのカゴに広樹の好きなチョコレートと自分用のノーカロリーの炭酸飲料を入れていく。

「あっくんち行くの?」

嬉しそうに見上げてくる広樹の耳に、俺は顔を寄せて囁く。

「早く2人になってイチャイチャしてぇ」

ぼん、と爆発音が出そうなほど一気に顔を赤くした広樹は、レジに向かおうとした俺の首に片手を添えて引き寄せると、囁き返してきた。

「勃った」
「さ、行くぞ」
「待って待って待って!」
「うぜぇ。まじうぜぇ」
「なによぉ!今のはあっくんのせいじゃんもぉ!」

ブーブー言いながらついて来て、レジ作業を一緒に見守る。

「あ、チョコ買ってくれたの」

嬉しそうな声が聞こえた。広樹の機嫌はすぐに直る。
こういうところが広樹のかわいいところだ。

会計を済ませて外へ出る。袋をぶら下げた右手。左腕に広樹が掴まる。
広樹は外で俺にくっつくことに何の抵抗もない。俺が言えば離れるけれど、あっくんの許可が下りるならいつでもお手を借りたいと言っていたことがある。
俺は元々歩くのが速いし、広樹とは身長差があるので、どうしても広樹は俺よりも速足になる。
意識して見ると、そんなところすら愛おしい。
家に着くと、広樹はぽいぽいと靴を脱ぎ、キッチンへ入っていく。

「あっくんグラス出すね」
「さんきゅ」
「膝枕してね」
「ぬ」
「してね!ねえあっくん、」

グラスを2つ持った広樹が俺の前で笑う。

「なんか今日機嫌よくない?うれしくなっちゃう」

俺はふわふわとパーマのかかった広樹の髪を撫でた。
それからベッドへ座り、自分の膝をぽんぽんと叩きながら言う。

「どうぞ」

わぁ、と呟いて目をキラキラさせた広樹は、グラスをテーブルに置いてチョコレートを持ち、テレビをつけてから、あっくんがーやさしいー、と変な歌を歌いながら小走りで寄ってきた。

「大好き!イケメンすぎて死ぬ!」

そう叫ぶと、ベッドに思いっきりダイブして俺の膝に頭を乗せた。

「あー、4人で買い物とか行かなくてほんとよかった」

一番行きたがっていた広樹の言葉とは思えず、俺は笑いながら広樹の頭を撫でた。
創樹が言っていたことが真実なのだとしたら、俺は広樹とそんな付き合い方をしていた奴らには全然嫉妬なんかしない。
俺の膝に頭を乗せてゴロゴロしながらチョコレートに手を伸ばした広樹に、俺は聞いた。

「お前は今、幸せか?」

がばりと起き上がってこちらを向いたその顔は、何を勘違いしたのか今にも泣きそうだった。
摘まんだチョコレートをぽいっと箱へ戻して俺の膝を跨いで抱きついてくる。

「やだやだあっくん、別れたくない!お願いお願い、嫌いにならないで!」

涙声になっている広樹の背中を、俺はできる限りぎゅっと抱き寄せた。

「バカ、誰が別れるっつったんだよ。幸せかって聞いたんだぞ」

広樹は俺の胸に顔をつけて、なんだ、別れ話かと思った、と、くぐもった声で言った。広樹の思考回路はごくたまに複雑だ。

「何がどうなってそうなった」
「だってあっくんがそんなこと聞くなんて変」

今日はいろいろ変、と小さく呟いてから、俺を見上げる。
その瞳が微かに濡れていて、それでも広樹は満面の笑みを浮かべた。

「すごぉくしあわせだよ?俺、あっくんがいてくれたら、あとはなんにもいらないの」

どうして。いつから。俺は男であるお前を、こんなに愛しく思うようになったんだろう。
普段は当たり前だと思っている仕草や行動ひとつひとつ、意識してみると俺はお前のいちいちにやられているんだと思い知る。
広樹があまりにきらきらした瞳で見つめるので、俺はその白いおでこをぺちっと叩いた。

「あいたっ」
「本当だろうな」
「ほんとだよ?」

あっくんも不安になったりすることあるんだ、大丈夫大丈夫、大好き大好き、ナデナデ。
などと言いながら、また勘違いしたらしい広樹は、ニコニコ笑って俺の頭を撫でた。
高校時代、こいつはどんな顔をして不幸を背負っていたんだろう。今の広樹しか知らない俺には想像がつかない。

「この先もっと幸せにしてやる」

呟いて、ぎゅうぎゅうと抱きしめながらあやすように体を揺らす。
されるままになりながら、それってプロポーズ?と俺を見上げる広樹の唇にキスをしながら、ゆっくりとベッドに押し倒した。
満足げな吐息を吐きながら俺の腕に頭を乗せた広樹の隣に、俺は横たわった。空いている右手で、広樹の顔にかかった髪を後ろに流してやる。

「あれ?えっちするんじゃないの?」
「たまにはちょっとお話しようぜ」
「お話?なんの?」

広樹は笑みを浮かべて俺を見ている。

「ごめんな。元カレの話、ちょっとだけ創樹から聞いた」

みるみる笑顔がしぼんでいく。

「何を?どんなふうに聞いたの?変に伝わってたらすごくイヤだよ」
「だから、広樹の口からちゃんと聞きたいんだって」

ふわふわの髪の毛を指で鋤く。
広樹はもそもそと起き上がってベッドの上に座った。

「怖い」
「何が」
「あっくんに嫌われるの」
「嫌わないって」
「わっかんないじゃん!創樹が何言ったのか知らないけどいい話じゃなかったでしょ?それ聞いてあっくんが俺のこと嫌いになったらもう取り返しつかないんだよ!くっそ、あんのちんちくりんが!」
「落ち着け」

白眼を剥き始めた広樹の手を、寝転がったまま握る。

「広樹」

不安そうに俺を見下ろす広樹に向かって腕を広げる。

「ほら来い。ぎゅーしてやっから」
「……んくふっ」

広樹はほわりと笑って変な声を出した。次の瞬間、広樹が思いっきり胸へ飛び込んで来た。

「グホッ」
「あはは、あっくん変な声」

ふふふ、と笑うその声にはいつものような元気がなくて、広樹が相当滅入っているのがわかった。

「お前、今日何買いたかった?」

広樹の体の重みは心地いい。抱きしめて頭を撫でると、その体からふっと力が抜けた。

「…今日?えっとね、なんかあっくんとお揃いのちっちゃい持ち歩けるもの」
「激しく漠然」
「だって、なんかほしかったんだもん!それでね、創樹たちも買えばいいって思ってたよ。なっつが喜びそうだから」
「創樹は嫌がりそう」
「何がいいと思う?俺とお揃いの」
「ペンとか。USBメモリとか」
「えー、なんかかわいくない」
「かわいさ必要なのか」
「アクセサリー系がいいの」
「じゃあ今度2人で見に行くか」
「本当?」
「いいよ」
「やった、うれしい!絶対ね!」

広樹が俺の肩をきゅっと握る。

「絶対、絶対ね」

念押しのように繰り返してから、広樹は話し出した。

「俺の元カレその1は、友達のお兄ちゃんの友達で」



友達の家に行った時にたまたま来ていたその1と、広樹は出会った。
中学に上がった頃から自分の恋愛対象が男であることを自覚していた広樹は、周りの友達に好きな人や彼女ができていくにつれ、自分も彼氏がほしいと思うようになっていた。
恋人という響きに憧れがあったのだ。年相応の、当たり前の感情だ。
その1はバイで相当遊び慣れてたんだと思う、と広樹は言った。
広樹より5つ年上の社会人だったその1は、広樹からしてみればとても大人に見えた。言われるまま付き合うことになり、舞い上がって全てを相手に委ね、すぐに体の関係を持った。

「なんかね、すごく優しくて何でも知ってるように見えて、自慢の彼氏だと思ってたの。呼ばれたらすぐ行ったし、抱きたいって言われたら絶対断らなかった」

そのうち、抱きたい時以外は会ってくれなくなった。忙しいとか体調が悪いとか言い訳をして、広樹からの電話には一切出なくなり、それでも週に一度くらいのその1からの連絡、「うちに来て」の一言を、広樹は待ちわびるようになった。

「今考えたらね、ほんとバカだよね。でもその時は、その1にフラれたら俺は生きていけないと思ってたの」

広樹の声は話の内容に反して明るくて、少し安心している自分がいる。
それは周りから見ても相当理不尽な付き合いだったらしい。その1の行きつけのゲイバーのトイレで、広樹は1人の男から声をかけられた。

「あの人は君のこと好きじゃない、利用されてるんじゃないの、君のために別れた方がいい、ってすごく真剣な顔して言われて、俺は、あんたに何がわかんのって反発した」

でも実際、その1との関係に心が疲れきっていた広樹は、何かあったら連絡をくれと無理矢理渡された名刺の電話番号に後日連絡を入れた。

「その人は弁護士だったの。はい、これが元カレその2ね。これも今考えたら、弁護士がそんな場所で高校生に名刺渡しちゃうなんてどうかしてるよね。仕事なくなっちゃうよ。相当酔ってたのかなぁ」

俺は話を聞くにつれ、それは違うと思うようになった。
多分その2は、広樹を本気で好きだったのだ。何を捨てても惜しくないくらい必死だったのだ。
その1とあっさり別れた広樹は、その2と付き合うようになる。
その2は広樹を大事にした。食事に連れて行ったり、多忙の合間を縫ってドライブに連れ出したりしてくれた。
そして、自分からは広樹に触れようとしなかった。

「だから最初は俺が誘ったの」

広樹はまた明るく言う。
しかしそこから泥沼化が始まる。
その2には妻がいた。
自分の存在が妻にバレることを恐れた広樹は別れを切り出し、その2はそれに猛反発した。
妻とはもううまくいっていないから別れる、だから頼むから捨てないでくれと哀願され、広樹は折れた。
あまりに真剣に言われて、好かれてることが伝わってきて嬉しかったけど、奥さんのことはどうしていいのかわからなかったと広樹は言った。
それはそうだろう。広樹はまだ世間知らずの高校生だったのだ。
そのうち関係が妻にばれて、それでも諦められなかったその2はストーカーと化したらしい。

「暴力振るわれそうになって、周りの知り合いに助け求めて、それでも手に負えなくて、警察に行って、大事になって、俺が未成年だったから彼は逮捕されて、それで終わった。釈放だか保釈だかで割とすぐ外に出られたらしいけど、あとのことは何も知らない」

広樹は細々とした声で言った。抱きしめているから表情は窺えない。
長い問わず語りは終わった。

「壮絶だな」

少し黙ってから言うと、広樹は俺の胸に頬を寄せたまま、自分の手を見た。
爪を弄ったり指を曲げたり、ぼんやりしている。
短く切り揃えられた小さな爪。色白で子どもの手みたいにぷにぷにしている。
その手を握ると、広樹はぎゅうっと抱きついてきた。

「……ほんと、イヤな話でごめんなさい」

呟いた広樹の声には濃い不安が滲んでいた。
俺は気づく。さっきまでの明るいトーンは空元気だったのだと。

「別に俺は平気だ」

俺が言うと広樹はしばらく黙ってから言った。

「……そう、なの」
「待て。お前今マイナスの方に考えただろ」

広樹が微かに鼻をすすった。

「広樹。ちゃんと聞け」

俺は広樹をがっちりと抱え直す。俺の気持ちが、俺の拙い言葉以上にちゃんと広樹に伝わるように。

「そいつらは広樹を大事にしなかったから結局お前と別れることになって、俺からしたらざまあ見ろだし」

広樹は黙って聞いている。

「元カレいたって話聞いたときはちょっと嫉妬したけど、今お前から話聞いて、歴代彼氏ん中でお前のこと一番大事にしてんのは俺だと思えた。それ、なんかすげえ嬉しいんだけど」

くすん、ぐす、と広樹がまた鼻をすすった。

「だからさっきの、俺は平気っつうのは、そういう意味だから」

うん、という返事は、もう涙に濡れてひっくり返っていた。

「泣くなよ。あほ」

俺は広樹の顔を覗いてデコピンを食らわせる。

「あっくんが優しいから泣くんじゃんもう!いたいぃ!」

甘えた声で言いながら俺の胸を軽く叩いて、広樹は上半身を起こして俺を見下ろした。
少しの間見つめ合う。
いつもと違って少し憂いを帯びた広樹の目は、なぜか俺の性欲を掻き立てた。
首に両手を回して引き寄せると、広樹はまた俺の上に戻ってきた。そのまま、いきなり広樹の唇に舌を割り込ませて激しいキスをする。
片手で頭を押さえて濡れた唇を思い切り吸った。

「ん……」

広樹が細い声で鳴く。
愛しさが溢れて堪らなくなった。







あっくんは男を相手にするのは俺が初めてだったけど、俺の初めてはもう何も残っていなかった。
本当はそれがずっと後ろめたかった。
俺の初めてが全部全部、あっくんだったらって、何度も思ったことがある。
今日はあっくんが優しくて、なんかいいことでもあったのかと思ったら、バカ創樹から俺の元カレ話を聞いたとかで。
正直もう終わったと思った。
今考えれば高校時代の恋は、健全な付き合いじゃなかったし、怖い思いもいっぱいした。ちゃんと話すのはとっても怖かった。
あっくんに軽蔑されて嫌われてフラれて、そしたらもう俺は今度こそ生きていけないと思った。
あっくんは俺の話を黙って聞いていて、だけどたまに手を握ってくれたり頭を撫でてくれたりしたから、俺は嘘のないように全部話した。泣かないようにがんばった。
話し終わったら気が抜けて、壮絶だなと言われて思わず涙が出そうになった。
いろんなことがあったけど、あっくんがそばに居てくれる時が、今までの人生で一番幸せな時間だと思った。
なのにもう嫌われてたらどうしようって、不安で吐きそうだった。
そしたらあっくんは、自分が広樹を大事にしていることが嬉しいって言った。
その発想は俺にはなくて、一瞬意味を考えた。そしてその優しさの深さに、言葉が出なくなってしまった。
あっくんにとって俺は、もしかしてすごく大事な人?だからそんな言葉をくれたの?
あっくんは元カレたちに嫉妬しないって言った。それは自分が広樹を一番大事にしてるからだって。
それ、すごくすごく喜んでもいい?あっくんに愛されてるって思っていい?
俺は最近、昔みたいにまた不安定になっていて、たまに怖くて仕方なくなってあっくんにしがみついていた。
けど、信じていいのかな。
女からも男からも色んな意味でモテるあっくんが俺のことだけ見てるって、自信持っていいのかな。
そう思ったら、やっぱり涙が出てしまった。
いつもみたいにデコピンをくらって、それすら嬉しくて、あっくんが俺の話を聞いても普通でいてくれたことが、また笑ってくれたことが、ぎゅってしてくれたことが、死ぬほど嬉しかった。
神さま、俺にはもうこの先いい出会いが無くてもいい。一生嫌なやつに囲まれて仕事することになってもいいよ。その代わり、俺にあっくんを。何でも我慢するから、あっくんの一生を、俺にください。
ああ間違った。
神さまに願ってもダメだよね。
いつかちゃんと、これをあっくんに伝えられるように、もう少しだけ俺に自信をください。
あっくんとたくさんたくさんキスをしながら、俺はそんなことを考えていた。

あっくんの上に乗ったまま、服を脱がし合って、キスをして、肩や背中や髪やほっぺたを撫でられて、気持ちいいことをたくさんされて、俺は幸せの意味を嫌と言うほど教えられた。
あっくんは何も言わないけれど、その指が、瞳が、俺のことが大事だと伝えてくる。
温かな肌全部が愛しくてしかたない。あっくん大好き大好き大好きだよ。こんなに好きだよって、俺もあっくんにありとあらゆる手を使って伝えたい。

「広樹」
「ん、もっと、もっとひろきって呼んで、あっくん」
「広樹……広樹…」
「あっくん、あっくん、好き……いっつも、そばにいてくれて、ありがと」

気持ちいいのに流されないように、あっくんの温度を感じながらちゃんと言葉にしてみる。
あっくんはまた何も言わなかったけど、ちょっと滅多に見られないくらい優しく笑ってくれた。
忘れたい過去を一生懸命言葉にしたこと、あんまり楽しい作業じゃなかったけど、あっくんの笑顔ひとつでそれが全部報われた気がしたんだよ。

「ねえあっくん、あっくんも言って。俺に今一番言いたいこと言ってみて」

切実だった。同じ気持ちだったらどれだけ幸せなんだろう。好きな人が自分と同じくらい自分を好きだったら。
そういうのをきっと、奇跡って言うんだよ。そんな奇跡、俺は知らないよ。
あっくんは目を細めて少し考えてから、口を開いた。

「……挿れたい」
「あっくんのえっち!そういうんじゃないのに!」

聞きたいのとは全然違う言葉。でも、すっごくエロい顔して言われたから俺も我慢ができなくなっちゃった。
ゆっくり腰を落としてあっくんのものを全部自分の中に収める。
その熱さを感じて鳥肌が立った。そしたらあっくんは、気持ちよさそうにはぁって息を吐いてから言った。

「広樹、動いて」

そしてふわりと音がしそうなくらい柔らかく笑った。
いつも受け身になっちゃう俺はそんなことを言われたのが初めてで、瞬時にイきそうになって堪えた。
あ、初めてだって。俺にも初めて、残ってた。そうだ、きっとこれからもたくさんある。あっくんとする初めてがたくさん。

「ああっん、いいよ、っ、あっくんのこと、きもちくしてあげるからっ」

思わず喘ぎながらも、ゆっくり腰を上下に動かす。
俺が動く度にあっくんが少しずつ表情を変える。ヤラしい顔。
眉間にシワが寄って、口が少し開いて、舌で唇を舐めて、うっとり目を閉じて、薄く開けて、俺を見上げて、低く小さく、うって呻く。
あっくんの喘ぎ声、超絶エロい。

「あぁん、すごいえっち、あっくんえっちぃ」
「すげ、気持ちいい」
「んふ、あっくん、っはん、かわいい」

あっくんのことかわいいなんて、今日まで思ったことなかったけど。
なんだか体より心が先にイきそうで、俺はそれを必死で堪える。幸せで幸せで意識が飛びそう。

「っく、広樹、ちょっと、やべえ」
「んっ、なにがぁ?」
「出そう、待て、ちょっと、」

あっくんが顔をしかめた。

「あぁんねぇどうしよぅあっくんかわいい」

がんばって腰を動かしていたら、ガガガッとあっくんに突き上げられた。余裕がないみたいなその顔で、俺ももう限界いっぱいいっぱい。

「ね、あっくん、ずっと、ぁうっ、こうしてたい…っ」
「ムリ。まじもう出る」
「やっ、あぁっん!」
「お前も、気持ちいい?」

だめ、そんなとこ強くつまんじゃだめ、もう!

「やぁぁぁ!イっちゃう、イっちゃうぅ!」
「は、広樹…」

もうダメだと思った瞬間、あっくんは上半身を起こして俺を抱きしめた。

「好き」
「っうぅ、あ、あっ、あ…く……」

小さく囁かれた言葉に、瞬時にいろんな感情が込み上げた。
2人してイった後も、俺たちはしばらくそのまま抱き合っていた。
体の外にも中にもあっくんの熱さを感じながら、余韻の中でなぜか泣けて仕方がなかった。
あっくんのことが好きで好きで大好きで、絶対に離れたくないと思って必死で毎日アピールして誘ってきたけど、これ、続けてたからこんなふうに言ってもらえるようになれたのかな。
本当に、幸せで死んでしまいそうだ。

「は?お前ふざけんなよ」
「えっ?あ…違う、の?」

さっき思ったことを言ったら、あっくんにすごく怖い顔で睨まれた。やばい。怖すぎておしっこ漏れそう。

「それじゃあ俺がお前の体めあてみたいじゃねえか!」

パッチーンとあっくんにお尻を叩かれて、声も出ないほど痛い。

「別に…セックス無しでも、お前から離れたくないけど」

睨まれながら言われて、ああ、あっくんてきっと神様か何かなんだな、と思った。
後光が射してるもの。

「元々ノンケの俺がこんなふうになったんだぞ。お前その意味わかってんの?そろそろ体以外にも少し自信持てよ」

やっぱり違った、神様じゃなくて、あっくんは王子様だ。俺をこんなに幸せにしてくれるんだから。
あっくんの中で嫌いなとこなんか何もないな。
あ、違う。ひとつあった。

「あっくん、この先もう一生モテなくていいよ」
「別に。モテてねえ」
「あぁん意味わかんない!モテてるじゃん!ぶうぶう!」

あっくんはブスッとした顔をして俺の頭をぐしゃぐしゃにして言った。

「他のヤツに好かれたって意味ねえんだって」

その不機嫌そうな顔に見とれていたら、あっくんはふっと笑った。

「髪、へん」
「ひどい!かわいく直して?」

あっくんは、ぐちゃぐちゃの方がお前に似合ってるとか言って、俺がそれにいじわるぅーとか言って、なんかイチャイチャ甘々しながら、撫でたり指ですいたりしてちゃんと直してくれた。

「かわいくなった?」

上目遣いで聞いてみたら、あっくんは何も言わなかったけどぎゅっとしてもらえた。うふふ。

「チョコ、嬉しかったよ」
「チョコ?」
「俺が好きなやつ、覚えててくれて。あっくんのそういうとこ、すてき」
「ふぅん」
「あれぇ?なんか照れてる」
「は?」

あっくんは照れ隠しなのか、俺の髪をまたぐしゃぐしゃにした。
そうだ。これからもたくさん、あっくんのすてきとかわいいを探そう。俺だけの、あっくんの。
それで、俺の初めてをたくさん、あっくんにあげるね。



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