20 過去も含めてあなたが好きです

2.彰人と創樹

「おう。起きたか」
「……広樹が何回も電話してきてうるせえから起きた」

広樹と創樹が住んでいる家のインターホンを押すと、明らかに寝起きの創樹が顔を出した。

「彰人は?なんで遅れた?」

話しながら当然のように2階に上がって行くので、一応おじゃましますと断ってから、後に続く。

「兄貴から電話来てちょっと時間取られた」
「は?お前兄貴いんの?」
「いるけど」
「へえ。似てる?」
「いや。似てねえって言われる」
「なんだ。つまんね」

創樹の部屋は意外と片付いていた。
創樹が着替えのためにタンスやクローゼットをひっかき回し始めたので、俺はイスに座って支度が終わるのを待つことにした。

「双子って外見以外は全然似ないもんなのか」
「あいつの部屋は汚いんじゃなくて物が多すぎんだよ」
「そうだな」

広樹の部屋はあらゆる「思い出があって捨てたくないもの」で溢れている。

「元カレの遺留物も転がってんじゃねえの」

創樹が言いながらにやけ顔でこちらを見た。

「あいつの元カレとか、創樹も知ってんの」
「知ってる。2人とも」

胸がざわつく。

「……2人いたんだ」
「そういうこと聞いたことねえの?」
「ない」
「ふうん。気になる?」
「微妙」
「ま、あんまいい話じゃねえから聞かないほうがいいかもな」

創樹は話しながら着替えを済ませて部屋を一旦出て行った。どうやら洗面所へ向かったようだ。
なんだ、あの言い方。
俺は広樹の過去の話を一度も聞いたことがなかった。聞いていいものかもわからなかったし、聞いてもプラスになることはないような気がしていたから。
広樹から言い出したら聞こうとは思っていたけれど、広樹もそういうことを口にしたことは一度もない。

「彰人考えすぎ」

いつの間にか戻っていた創樹が、見透かしたような顔をして立っていた。

「気になるなら広樹に聞けば」
「いい話じゃないって、どういう意味。聞かれて嫌な話なら、本人に聞きたくねえ」
「あいつってさぁ」

髪もセットし終わったらしい創樹はベッドに座って続けた。

「もし彰人が男とヤりたいだけだったら、あんな引っかけやすいやついないと思わねえ?」

返事に窮する俺に構わず創樹は続けた。

「恋愛体質で、好きになったやつの言うことなんでも聞いて、そいつのことばっか考えて、エロいことにも抵抗なくて、高校ん時だから若くて、しかも俺と同じでかわいい顔してて」

そこはあえて返事をしない。

「あいつは2回とも、それを利用しようとする悪い大人に捕まった。広樹がどう思ってんのかは知らねえけど、俺にはそう見えた」

なんとも言えない胃の痛みに襲われる。その痛みから俺を救い出すようなことを、創樹は言った。

「彰人と付き合いだして、すっげえムカつくほど幸せオーラ出し始めて、改めて俺はあいつの過去2回の恋愛は不幸せだったんだと思った。全然楽しそうじゃなかった。ふにゃふにゃふやけた感じになったのは、お前と付き合ってからだ。前にも増してめんどくせえ兄貴になった。なんとかしろ」

どこにでもついて来たがって、何でも一緒にしたがって、俺がいいよと答えた時の無邪気な、幸せそうな広樹の顔を、俺は思い出した。

「最初は彰人のこと顔だけで選んだくせに、イチャイチャデレデレしすぎなんだよバカ野郎」

創樹が醒めた目でなぜか俺を睨む。
思い出す。始まりの日のことを。

「お前はあの時、なんでなつめに声かけた?」
「体つきが好みだったから。あのすっきりした体にいい具合に筋肉ついてるとすげえエロいんだから」
「お前さ」

俺はふと気づいて創樹に尋ねる。

「俺と2人だとまともだな。俺と寝ろとか言わねえな」

創樹はむすっとした表情をして、もう行こうぜ、と立ち上がる。

「もしかしてお前、なつめに嫉妬させてえだけなんじゃねえの」

そんなわけあるかよ、じゃあ今ここでヤるか、と鼻で笑う創樹に、俺は目を細めた。

「素直じゃねえな」
「それはお前もだろ。だから素直なわんわんを側に置いておきたくなんだろ」
「まあ。そうかも」
「俺、彰人とは気が合わねえ気がする」
「同感」

言っている言葉の持つ意味より遥かに軽くて平和な言い合いをしながら、俺たちはファミレスへと向かった。



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