20 過去も含めてあなたが好きです
1.なっつと広樹くん
ドリンクバーはあちらのグラスをお使いください、と言ってウェイトレスさんがテーブルを離れる。
「広樹くん、何飲む?」
「えっとね、アイスミルクティー」
「持ってくるね」
「え!いいの?ありがと、なっつ」
広樹くんのかわいい笑顔が炸裂して、僕も思わず笑顔になった。
今日は4人でお買い物デートをしようということになり、その集合場所が、昼食を兼ねてファミレスになったのだけれど、彰人くんと創樹くんが目下遅刻中なのだ。
飲み物を持って席へ戻ると、広樹くんは肘をついて窓の外を見ていた。
「創樹くんと一緒に来なかったんだね」
「だってね、創ちゃんは俺が家出る時にはまだ寝てたんだよ」
うん。
起こさなかったんだね。
という言葉は飲み込む。
まあ、起きていても一緒には来ないか。この双子はそんなに仲がいいわけではない。
「彰人くんが迎えに行ってくれるみたいだけど」
「あっくんたら、俺が迎えに来てって言っても断ったのに」
「きっと広樹くんは自分で来られるだろうって、信頼されてるんだよ」
そうかな、そうなのかな、えへへ、と照れ笑いをする広樹くんは本当にかわいい。
親戚の子どもみたいだ。
広樹くんはアイスミルクティーを、僕はカフェオレをゆっくり飲む。
「なっつはいつも創ちゃんのお守り、大変じゃなぁい?」
「大変じゃないよ」
「本当に?すっごく手がかかるでしょ?」
「そこがかわいいんだよね」
「創樹が?かわいい?」
広樹くんは、全然わからないという顔をした。
「僕がいないとなんにもできない赤ちゃんみたいになればいいって思ったりもするよ」
「えーっいいなぁ。俺もあっくんがいないと何もできないのに、あっくんはなっつより冷たいよ」
口を尖らす広樹くんに、僕は思わず微笑んだ。
「彰人くんは、広樹くんのこと大好きだよね」
「えー、そう?」
「そうだよ。広樹くんだってわかってるでしょう?」
「えー?へへ、そうかなぁ」
満更でもなさそうに笑う広樹くんを見ていたら、僕たちの始まりの日のことを思い出した。
「広樹くんは、彰人くんに一目惚れだったの?」
広樹くんはストローから口を離してからこくりと頷く。
「だってすごく目立ってたの、学食で。俺と創ちゃんはあの時一緒にイケメン探ししてて、」
イケメン探し…。
なんですかその健全でない遊びは…。
「俺はあっくんを見つけて、創ちゃんはなっつを見つけたんだよ」
「僕は創樹くんに『体つきが好みだった』って聞いてるけど」
「そうなの?でも創ちゃんはあの時迷いなくなっつを選んだし、それに本当は顔が好みだとしてもなっつに素直にそれを言うとは思えないよ」
「そ、それは、そうかもね…」
あ、なっつ顔あかぁい、と言って、広樹くんは笑った。
「俺ね、創樹がなっつを見つけて本当によかったって思ってるんだよ?」
広樹くんは一瞬、お兄ちゃんの顔をした。
「創樹の初カレがなっつみたいにほんわか優しいひとでよかった」
「……え、ちょっと待って」
僕は広樹くんの言葉を反芻する。
「初カレって言った?」
「そうだよ。創ちゃん今まで男のひとと付き合ったことないと思うよ」
「広樹くん!詳しく!そこ詳しく!」
「えー、なっつ知らなかったの?今日が俺の命日かもしれない…」
「大丈夫!僕が代わりに餌食になるからお願い教えて!」
うんー、と唸ってから、広樹くんは少しずつ教えてくれた。
「創ちゃんは俺と同じでゲイだけど、すっごく、えっと何て言うの?惚れやすいの反対。好きなひと全然できない人だったのね?」
「うん」
「でもさぁ、ゲイの友達とかはすぐできるの。で、好かれたり、取り合われたりもあったけど、全部相手にしなかったの」
「うん」
「俺はあっくんの前に2人彼氏がいたんだけど、創樹はずっと恋人作らなかったから、なんでって聞いたら」
「聞いたら?」
「そこまで好きでもないのに付き合って2人になって、万が一無理矢理されたりしたら耐えられないって言ってた。俺たち体が小さいでしょ。襲われたらとか、そんなの汚えし痛そうだし絶対無理、って。俺は、創樹は初えっちはほんとに好きなひととしたいんだって思ってたよ」
僕は広樹くんの話に衝撃を受けていた。
僕が、創樹くんの初めての彼氏。
そして、初えっちは好きな人と。
「……もしかしてそれって」
「だから、なっつとしたのが創ちゃんの初えっちだったでしょ?」
「……知らなかった」
「……うそでしょ」
「…ほんと……」
「待って待って!違うかもしれない!……でもね、軽く見られたりするけどね、創ちゃんはそうでもないよ?正浩も、さっきの高校の話とかは知ってると思う」
なっつ、ねぇなっつ、と声をかけられるまで、僕はぼんやりと、すっかり冷めてしまったカフェオレのカップを見つめていた。
ドリンクバーはあちらのグラスをお使いください、と言ってウェイトレスさんがテーブルを離れる。
「広樹くん、何飲む?」
「えっとね、アイスミルクティー」
「持ってくるね」
「え!いいの?ありがと、なっつ」
広樹くんのかわいい笑顔が炸裂して、僕も思わず笑顔になった。
今日は4人でお買い物デートをしようということになり、その集合場所が、昼食を兼ねてファミレスになったのだけれど、彰人くんと創樹くんが目下遅刻中なのだ。
飲み物を持って席へ戻ると、広樹くんは肘をついて窓の外を見ていた。
「創樹くんと一緒に来なかったんだね」
「だってね、創ちゃんは俺が家出る時にはまだ寝てたんだよ」
うん。
起こさなかったんだね。
という言葉は飲み込む。
まあ、起きていても一緒には来ないか。この双子はそんなに仲がいいわけではない。
「彰人くんが迎えに行ってくれるみたいだけど」
「あっくんたら、俺が迎えに来てって言っても断ったのに」
「きっと広樹くんは自分で来られるだろうって、信頼されてるんだよ」
そうかな、そうなのかな、えへへ、と照れ笑いをする広樹くんは本当にかわいい。
親戚の子どもみたいだ。
広樹くんはアイスミルクティーを、僕はカフェオレをゆっくり飲む。
「なっつはいつも創ちゃんのお守り、大変じゃなぁい?」
「大変じゃないよ」
「本当に?すっごく手がかかるでしょ?」
「そこがかわいいんだよね」
「創樹が?かわいい?」
広樹くんは、全然わからないという顔をした。
「僕がいないとなんにもできない赤ちゃんみたいになればいいって思ったりもするよ」
「えーっいいなぁ。俺もあっくんがいないと何もできないのに、あっくんはなっつより冷たいよ」
口を尖らす広樹くんに、僕は思わず微笑んだ。
「彰人くんは、広樹くんのこと大好きだよね」
「えー、そう?」
「そうだよ。広樹くんだってわかってるでしょう?」
「えー?へへ、そうかなぁ」
満更でもなさそうに笑う広樹くんを見ていたら、僕たちの始まりの日のことを思い出した。
「広樹くんは、彰人くんに一目惚れだったの?」
広樹くんはストローから口を離してからこくりと頷く。
「だってすごく目立ってたの、学食で。俺と創ちゃんはあの時一緒にイケメン探ししてて、」
イケメン探し…。
なんですかその健全でない遊びは…。
「俺はあっくんを見つけて、創ちゃんはなっつを見つけたんだよ」
「僕は創樹くんに『体つきが好みだった』って聞いてるけど」
「そうなの?でも創ちゃんはあの時迷いなくなっつを選んだし、それに本当は顔が好みだとしてもなっつに素直にそれを言うとは思えないよ」
「そ、それは、そうかもね…」
あ、なっつ顔あかぁい、と言って、広樹くんは笑った。
「俺ね、創樹がなっつを見つけて本当によかったって思ってるんだよ?」
広樹くんは一瞬、お兄ちゃんの顔をした。
「創樹の初カレがなっつみたいにほんわか優しいひとでよかった」
「……え、ちょっと待って」
僕は広樹くんの言葉を反芻する。
「初カレって言った?」
「そうだよ。創ちゃん今まで男のひとと付き合ったことないと思うよ」
「広樹くん!詳しく!そこ詳しく!」
「えー、なっつ知らなかったの?今日が俺の命日かもしれない…」
「大丈夫!僕が代わりに餌食になるからお願い教えて!」
うんー、と唸ってから、広樹くんは少しずつ教えてくれた。
「創ちゃんは俺と同じでゲイだけど、すっごく、えっと何て言うの?惚れやすいの反対。好きなひと全然できない人だったのね?」
「うん」
「でもさぁ、ゲイの友達とかはすぐできるの。で、好かれたり、取り合われたりもあったけど、全部相手にしなかったの」
「うん」
「俺はあっくんの前に2人彼氏がいたんだけど、創樹はずっと恋人作らなかったから、なんでって聞いたら」
「聞いたら?」
「そこまで好きでもないのに付き合って2人になって、万が一無理矢理されたりしたら耐えられないって言ってた。俺たち体が小さいでしょ。襲われたらとか、そんなの汚えし痛そうだし絶対無理、って。俺は、創樹は初えっちはほんとに好きなひととしたいんだって思ってたよ」
僕は広樹くんの話に衝撃を受けていた。
僕が、創樹くんの初めての彼氏。
そして、初えっちは好きな人と。
「……もしかしてそれって」
「だから、なっつとしたのが創ちゃんの初えっちだったでしょ?」
「……知らなかった」
「……うそでしょ」
「…ほんと……」
「待って待って!違うかもしれない!……でもね、軽く見られたりするけどね、創ちゃんはそうでもないよ?正浩も、さっきの高校の話とかは知ってると思う」
なっつ、ねぇなっつ、と声をかけられるまで、僕はぼんやりと、すっかり冷めてしまったカフェオレのカップを見つめていた。