大きな声では言わないけど

13 彰人の愛玩



「え!広樹くん財布盗まれたの?」

お昼休みの学食で、真っ黒な背景を背負っている広樹くんに僕は聞いた。うなだれすぎて顔が見えない。
隣に座る彰人くんが、広樹くんの顔を覗き込んでいる。

「…うん…」
「どうやって?」
「…あっくんの席取って…待ってて……あっくんのお水も持ってこようと思って…バッグの中に財布入れてて……バッグ置いてお水取りに行って…それで戻ったら…財布だけ…」

途切れ途切れに言う。もうほとんど泣きそうだ。

「金入ってたの?」

創樹くんが聞いたら、広樹くんがキッと顔を上げた。

「お金はいいの!別に大して入ってないし!そんなのくれてやる!…でも財布が……あっくんがくれたやつなのに…」

ああ。それは。広樹くんにとっては宝物だろう。
彰人くんが広樹くんの後頭部をさらっと撫でる。

「財布なんかまた買ってやるから」
「ううっ…あっくん!もうやだぁ!もう今日帰る!あっくんうわあぁん!」

彰人くんの首に飛び付いた広樹くんの背中を、はいはい、と言いながら彰人くんがポンポンとたたいた。
彰人くんが広樹くんに優しい…!よかったね広樹くん!
なんで僕までキュンとしたんだろう。

「あっくんごめんね……俺すっごくすっごく大事にしてたのにっ!…ぅううだめだよもう生きてけないよ死ぬよ俺死んじゃうんだよ!こんな若さで!こんなにかわいいのにぃ!ああああん!」
「大丈夫大丈夫。広樹は死なない殺しても死なない」
「…だめ…今回ばかりは2、3回死ねるよ…」
「元気出せって」
「無理だもん…今日はもう無理だもん…あっくんち行きたい…今すぐあっくんと2人になりたい…」
「ごめんなつめ。次の講義のノート、明日貸りてもいい?」

僕は、構わないよ、と答える。
すっかりしょげてしまった広樹くんの手を引いて、彰人くんは学食を出て行った。
創樹くんが僕の隣でそれを見送りながら、あいつ本当に盗まれたんだろうな、と呟いた。







「…うう……もぅ…やだよ……誰だよ盗んだやつ……転べ……単位取り逃せ……一生片想いしろ……」

ベッドにあっくんを押し倒して上に乗っけてもらったまま、俺が沈みきってぶつぶつ言っていたら、あっくんが背中をずっととんとんしてくれた。とりあえず落ち着いて俺が黙ると、今度はぎゅっとされる。

「腹減んない?コンビニ行かね?」
「いらないもん……あっくんのご飯が食べたいの…」
「炒飯作るか?」
「…うん…」
「米炊かなきゃだから、ちょっと降りろ」
「やだよ!降りないもん…あっくん行っちゃやだ…」

自分でも支離滅裂なのはわかってる。でもほんと、あっくんがいてくれなかったらモヤモヤし過ぎて死ぬ。

「すぐ戻るから」
「やだぁ…」

あっくんの胸に顔を埋めて、ずぅーって匂いをかぐ。イケメンの匂いがする。
はぁ。あっくんの匂い、落ち着く。

「じゃあ一緒に台所来いよ。広樹がうじうじして死ぬ前に俺が腹減って死ぬわ」
「…じゃあおんぶ」
「は?」
「おんぶしてお米炊いて」
「わかったから一回降りて」

あれ、怒られなかった。ばかか!って言われると思ったのに。

「お米炊いたらベッドに戻ってね?」
「うん」
「それで膝枕してテレビ見よう?」
「うん」
「その間ずっと頭なでなでしてよ?」
「いいよ」

ああ!あっくんが優しい!
それからあっくんは本当におんぶしてくれて、軽々と歩いて行ってお米を研いだ。ほっぺをあっくんの首筋にくっつけたら、こめかみにキスをしてくれた。
それから炊飯器のスイッチを入れ、ベッドに戻って俺を降ろした。
そのままなだれ込むようにあっくんの膝に頭を乗せる。

「…テレビ見る…」
「はいはい」

あっくんがリモコンでテレビをつけた。お昼のドラマをやっている。
頭を撫でられながらぼーっと画面を見ていたら、あっくんが俺の耳たぶを軽く引っ張った。

「…なぁに?」
「なんでも」
「変なの…あっくん今日優しすぎるよ…どうして?俺せっかくもらった財布とられちゃったのに……くそ…やったやつ首もげろ…」
「広樹が悪い訳じゃないだろ」

あっくんの声は心地がいい。

「でも俺の不注意だから…」
「俺の席取ってくれて、水まで用意しようとしてくれて、だろ?」

そうだけど、と言いながら、俺は悔しくて、それからあっくんが優しくて、危うく涙が零れそうになった。

「それにな、広樹があの財布そんなに大事にしてくれてたって知らなかったからさ。なんか嬉しいわ……ありがとな」

俺は財布をもらった時のことを思い出しながら、あっくんの膝で目をごしごし拭いた。

まだ付き合い始めて間もない頃、こんなイケメンがほんとに男の俺のこと好きなのかなとか考えて少し不安定で、俺は今よりずっとめんどくさい恋人だったと思う。
そしたらいきなり、誕生日でも記念日でもないのにあっくんが小さな包みをくれて、それがあの財布だった。

「選ぶのにすげぇ時間かかった」

少し疲れたみたいなあっくんの顔に、俺はすごくすごく愛を感じたんだ。



「ぐぬぬ…やはり許せん…」

また悔しさが込み上げて恨み言をいいかけた俺の体を、あっくんが引っ張り起こした。

「広樹」
「んー?」
「お前今日、ヤりてぇって全然言わねぇな」
「えー、だって」
「俺はさっきからずっと待ってんのに」

は!

「なぁ広樹。したい」

なんかすっごい熱いキスをされた。
なんだこれ。天国?死んだの?俺やっぱり死んだの?

「や…あっく…んふ…だめだよ…」
「なんで」
「だって俺…今日悲しすぎて…勃つかわかんないもん…」

まぁ既に勃ってるけど。

「お前勃たなくてもいいだろ、使わねえんだから」
「えぇ…?もう…あっくんたら…えっちなんだから…」
「まぁな」
「どうしても、俺とじゃなきゃだめなのぉ?」

くね、って体をよじって流し目であっくんを見る。

「広樹がいい」
「やぁんもう…ほんと?俺じゃなきゃだめ?どうしても?広樹がいいの…?」

ちょっとしつこく焦らしすぎたみたいで、思いっきり後ろに押し倒されて、口がぐっちゃぐちゃになるまでキスをされた。
そのまま首筋にむしゃぶりつかれてから耳をはむはむされて、声が出ちゃう。

「あん、あうっ!や、あっくん」
「焦らしてんじゃねぇよ…ヤらせろ」

ああ!エロい!あっくんがこんなガツガツ来ちゃうなんて!夢みたい!
あっくんが俺の頭を抱き込んで、激しく舌を絡ませてくる。俺は完全にホールドされていて、肘から先しか動かせない。

「ん、ふ、あぁっ、ん」

片腕で俺の頭を抱き、くちゅくちゅとキスをしながら、もう片方の手が肩に下りて、そのまま服の裾を捲る。

「はぁん!」

なんかいやらしい。あっくんの手がいつもより数段いやらしい。
あっくんきっかけでベッドで普通に抱かれるとか何気に初体験だ!
照れる。

「ん、やっ!」
「いやじゃねぇだろ」

乳首を周りの皮膚ごとつままれていつも以上に感じちゃった俺に、あっくんが囁く。
あぁ、もう出そうだ。
あっくんは膝をついてファスナーを下げ、いきなり自分のぺニスを取り出した。

「きゃー!」

俺は目を手で覆ったけど指の隙間からガン見した。
それはもう勃ってびょんびょんしてる。本当にありがとうございます。
あっくんは俺のお腹に跨がって、俺の目の前で見せつけるようにぺニスを扱いた。

「っ、あぁ、あっくんえっちぃ」

見てるだけでイけそうな光景に喘ぐと、あっくんは俺の乳首をさっきみたく大きくつまんで、そこにぺニスの先っぽをぴと、っとくっつけた。

「あん!あ、ぁ、なにするのっ」
「なんか今日の広樹すげぇかわいい」
「んっ、いつもはかわいくないの?」

はぁはぁしながら聞いたら、あっくんは、ふ、と笑った。それから真顔に戻って、じゃあいつも以上、と言った。
うわ、って思ってたら、あっくんがぺニスを握った手を動かし始めて、ぽちっと勃ち上がった乳首に固くぬるぬるした先端が擦りつけられる。

「ああ、あっ、あっ、あああっ!」

俺は目の前のその光景に異常に興奮して、あ、しか言えない人になった。

「はぁっ…広樹」

あっくんも少し息が荒くて、やばい、と思った時にはもう遅かった。

「っああん!っあ、う…ああ…」
「もしかしてイったの?」
「だって…乳首弱いの知ってるくせにぃ…」

息も絶え絶えに言うけど、あっくんは手を止めない。むしろ激しくなっていく。俺の股間は萎える暇なく硬いままだ。

「っ、ん」
「ああっ」

あっくんが俺の胸元に射精して、それは首や顎にまでかかった。熱い。嬉しい。
先っぽに付いた精液を乳首に塗り付けて、あっくんは俺のズボンを脱がす。
俺はいやんとかだめっとか言いながら、塗られた精液を指先で自分の乳首に塗り広げた。

「はふ、ぁ、あっくんの精子が…ん」

その指をぺろっと舐めてくわえ、目にありったけのエロさを込めてあっくんを見つめた。
あっくんの唇が俺の指ごと唇を塞いで、熱い舌が指先を唾液で濡らしていく。
あっくんの指も俺の口に入ってきて、夢中で舐め合った。

「ああ!あっ…」

いつの間にか抜いた指をあっくんが俺の中に埋める。
すごくいやらしい音がする。

「んあっや、ぁん」

あっくんの熱い息が首筋にかかって声を上げたら、あっくんが荒々しい手つきで俺の体をうつ伏せにひっくり返した。

「広樹」
「あっくん、あ、待って、」

あっくんは俺を無視して腰を突き出させ、そこに体を重ねた。
後ろから耳を舐められて、指で後ろの穴もいじられる。

「い、いやぁ…!」
「何が、勃つかわかんねぇ、だよ。どんだけ感じてんだ」
「あっ、んふぅ」

俺のぺニスをさらっと撫でながら言葉でも責めてくるあっくんの熱いものが、お尻に当たって狂いそう。

「欲しいか」

あっくんがわざとに腰を擦り付けるように動かす。

「んっ、んん、ほしぃ、あっくん…」
「…ぐっちゃぐちゃに犯したい」

言われて、耳たぶを強めに噛まれたと同時に、一気に熱い塊が挿入された。

「やああっ!!あ゛!っあはぁ、」
「っ…中うねってすげえ」

いきなり激しく腰を打ち付けられて、俺の背中が反る。

「あっく、ふ、うぁ、あっくん!あっくん、いい、きもちぃ!もっと!もっとぉ!」
「エロ広樹」

そのままガツガツ貫かれる。

「あっあっ、あ、あん、あ、ああっ」

やばいもう、またイきそう、と思ったら、あっくんが俺の二の腕を鷲掴みにして後ろへ引っ張った。あっくんが膝立ちになって、俺は体を反らされて、ぺニスが深々と突き刺さる。

「あーっ!!や!やだぁ!」
「は、やべ、すげ」
「あぁ!あぁぁ、だめぇ!でるっでちゃうよ!」
「出せば?」
「あっくん、あっくん、イく、イくっあああ!」

ああやばい、体勢が体勢だけにすごい飛んだ。

「ふは、水鉄砲みたい」

あっくんが笑いながらスパートをかける。俺の体はただガクガクと揺さぶられた。二の腕が痛い。もう。
あっくん大好き。

「これすごい、絞まる…」
「ああ…もう…」
「はあっ、」

あっくんのあついのがお尻にかかった。ゆっくり体をベッドに戻されたと思ったら、仰向けにされる。
しかも自分の精液の上。

「や…背中濡れちゃう…」
「ケツも濡れてるしな」
「もう、なんで中出ししてくれなかったの?」
「ぐっちゃぐちゃにしたいって言ったろ。中出しは後でちゃんとしてやるから」
「え!まだ…するの…?」
「今日は終わる気がしない」

どうしたんだろう!ぽかーんと見ていたら、あっくんがまた、ふって笑った。

「今度の休み、一緒に財布買いに行こうな」

俺は嬉しくて、下からあっくんに思いっきり抱きついた。







「盗まれてなかったんじゃねえかよ」
「え?えへ、うん…あはは」

広樹くんの財布が盗まれた次の日、大学の落とし物コーナーのガラスケースに、僕と創樹くんは見たことのある財布を見つけた。
事務の人に事情を話すと、本人に引き取りの書類を書いてほしいとのことだったので、僕たちは広樹くんを電話で呼び出し、財布が無事広樹くんの元へ戻ったところだ。
財布を受け取った広樹くんの顔を見ただけで、僕はとても温かい気持ちになった。

「ウォータークーラーのとこにあったんなら、広樹が持って水取りに行って自分で置き忘れたんだろ」
「うん…そうみたいね…」

広樹くんの声が小さい。

「でも、誰かに持って行かれる前に学食の人が気づいてくれてよかったよね」

僕が言うと、うん、と頷く。やっぱり嬉しそうだ。

「人騒がせなお兄さまだなー」
「あっくんに何て言おう…昨日我が儘言いまくって甘えてベタベタして散々いろいろしてもらったし…」
「いろいろ…」
「…してもらった…」

創樹くんは多分すごくよからぬことを思い浮かべたと思う。なぜわかるかってそれは僕もそうだったからだ。

「あ、彰人だ」

僕たちを見つけて近づいてきた彰人くんに、広樹くんが走り寄る。

「あっくんあのね、財布あったの!…盗まれてなかった。心配かけてごめん…」

彰人くんは広樹くんが両手で差し出した財布に目を落とし、それから広樹くんに視線を戻した。

「よかったな」

広樹くんの頭をぽん、とたたいて少し笑う。それを見た広樹くんも満面の笑みを浮かべた。

「で?昨日彰人は広樹に何したわけ」

創樹くんの言葉に彰人くんが固まる。広樹くんはデレっと笑った。

「そうちゃん、聞きたい?あっくんがどんなに激しかっぐはぁっ」
「少し黙れ」
「彰人、お前その性欲を少し俺に向けられないのか」
「創樹くん」

僕は苦笑しながら、昨日のノートを彰人くんに差し出した。
絶妙な力加減で引き寄せ合う、2人の関係には今日も歪みがない。





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