姫は王子のもの。

不穏。教室の空気はその一言に尽きた。

「姫野、お願い」
「いや」
「少しだけ、多分1時間もかからないから」
「いや」
「じゃあ先に帰る?あとで迎えに行くから」
「やだ」

姫野のクラスメイトたちは不穏の根源から一定の距離を置き、聞いていないふりをしながらチラチラと成り行きを見守っていた。
その中心にいる本城は今、困り果てていた。
非が自分にあることはわかっている。放課後デートをしようと言っていた今日、委員会の会議があることをすっかり忘れていたのだ。
しかも、めずらしく姫野から誘ってくれたのに。
姫野に、委員会が終わるまで待っていてほしいと打診すると、目に見えて機嫌が悪くなった。
そうなればもう、何を言っても無駄だとわかっていたが、本城はなんとか彼の怒りを鎮めようと懸命だった。

「ねぇごめん姫野。どうしても出なきゃいけないんだ」
「…約束、したのに…」

辛うじて聞こえるほどの声で言って俯いた姫野を見て、周りに人がいるのを忘れて思わず抱き締めそうになった。

「そうだよね。本当にごめん」

2人の傍らでオロオロしているのは野島だ。たまたま居合わせて2人のやり取りに巻き込まれてしまい、彼なりに空気を緩めようと勇気を振り絞る。

「あの、よかったら僕、代わりに委員会出ようか?」
「野島、いいの?」

本城が少しほっとしたような顔で野島を見た瞬間、姫野の顔が歪むのを野島は見た。

「もういい」
「あっ、姫野くん!」

野島の呼びかけも虚しく、姫野は1人で教室を出ていった。後を本城が追っていく。
残された野島に土屋が近寄って、アイス食って帰ろうぜ、と声をかけた。



「待って姫野」

玄関まで追いかけて、外靴を出そうとするその手を掴むと、邪険に振り払われた。
上靴をぞんざいにしまう後頭部に話しかける。

「終わったら連絡していい?」
「…………で」
「え?」

聞き取れずに聞き返すと、姫野がキッと振り返った。

「もう連絡しないで!」

あまりの迫力に本城が怯むと、姫野は靴を履いて走って出て行ってしまった。
相当怒ってるな。
あんなに小さな体が、全身で怒りを発散して俺みたいなデカい人間を威嚇する。そうやって姫野が素直に怒りを表現してくること。俺がどれだけ愛しく思ってるか、多分姫野は全然わかってない。
本城は追いかけたい気持ちを抑え、委員会に出席するために校内へ引き返した。



 *



本城はそれ以上追って来なかった。
姫野は携帯を握りしめたまま、自室のベッドの上で鼻をすすり上げる。高校生にもなってなぜこんなことで涙が出るのだろう。
委員会はそろそろ終わる頃だろうか。無意識に時間を気にしている自分に腹が立って、携帯の電源を切った。
もう連絡するなと言った時の本城の顔が目に焼き付いている。
まるで傷ついたみたいなその顔を、まさか本城が自分の言葉で浮かべるなどとは姫野は思ってもみなかった。
どうして、本城のくれる優しさを片っ端からはねのけてしまうんだろう。
委員会くらい、出たってどうってことないのに。あんなに謝られて、どうして1時間遅れることくらい、いいよと言ってあげられないんだろう。
でも、野島が代わりに出ると言った時の本城の反応が許せなかった。あんなにほっとして。あんな、心底助かった、みたいな。
俺が物凄いわがままを言ったみたいじゃないか。俺はただ、本城と。
本城と、少しでも早く2人になりたかっただけなのに。
とにかくあれ以上あの2人の側には居られなかった。
野島みたいにものわかりがよくて気が利いて可愛いげがあって、底無しに優しい本城にはそういうヤツの方が合うのかもしれない。俺はいつもこうやって、本城を振り回して困らせてばかりだから。そう考えたらまた鼻の奥がツンとした。
本当は誰も、本城に近づいてほしくない。本城が笑いかけるのが、自分だけだったらいいのに。そう願いながら、いつもちゃんと向き合わないのは俺の方だ。
本当に潮時かもしれない。
今なら野島もまだフリーだし。土屋は野島のこと好きなのかな。野島は本当にノンケなのかな。少しも本城のこと、好きじゃないのかな。
よくわかんない。もうなにも、俺にはわかんない。
泣いたせいで頭がぼうっとして、姫野はいつしか睫毛を濡らしたままうつらうつら眠ってしまった。



 *



委員会は、委員長以下執行委員を選出したところで思ったより早く終わった。すぐに学校を出て、その場で姫野に電話をかけたが繋がらない。『おかけになった電話は…』というメッセージに切り替わった瞬間通話を切る。
きっと家にいるはず。行った方が早いな。
学校から歩いて10分の姫野の家へ急いだが、インターホンを押しても反応がなかった。
姫野の両親は共働きで、日中は姫野しかいない。無視するつもりなのか、本当にいないのか。
姫野の部屋の窓を一瞥して、その場で携帯を取り出し、メール作成画面を呼び出した。

『委員会終わったよ。会いたい。連絡ください。』

送信してから自宅の方へは向かわずに、学校と姫野の家の間にある大型の本屋を目指した。姫野からの連絡を待つためだが、本城の心中は少し荒れていた。姫野に関することでは珍しいことだった。
会いたい。謝らせてほしいし、言い訳をさせてほしいし、抱き締めさせてほしいのに。こんな時の姫野は1人で余計なことを考えるに決まってるんだ。自棄になって別れると言い出し兼ねない。
万が一、他の誰かに相談したり慰められたりしていたら、と考えて、本城の心は波立った。
姫野はクラスメイトたちに姫、姫、と大事にされている。そのことを本城は特に悪く思ってはいなかった。
が、姫野がいつもと違う弱々しい顔で助けを求めれば、喜んで跪く者が一体何人いるだろう。
それに加えて、最近は少し気になることもあった。姫野の気づかないところで、年下の小バエがうるさく飛び回っているのを俺は知っている。
柄にもなく少し焦っているようだ。本城は内心自嘲した。
ほら、こんなに好きだよ、姫野のこと。
俺が嫉妬なんかしないと思ってる?胸を開いて見せてあげたいよ。想像するだけでこんなに苦しい。会いたい。







目を覚ますと、部屋が真っ暗だった。
姫野は一瞬、今がいつの何時なのか考えた。まぶたがぽわっと熱くて重い。そうだ、泣いたんだった、と思いながら体を起こすと、部屋の電気をつけてカーテンを引いた。
放ってあった携帯を取って、電源を切ったことを思い出したところで家のインターホンが鳴った。
玄関を開けると本城が立っていて、姫野は一気に目が覚めた。でも何かを考えるより前に、本城が笑顔で姫野を抱き締めた。

「よかった、会えた」

本城の小さな声が聞こえて、腕に力が込もるのがわかった。本城の制服は冷たくて、外の匂いがした。

「どこ…いたの」

聞くと、体を少し離して見下ろされる。

「…姫野、泣いたの?」

冷たい指先がまぶたを優しく撫でた。本城の顔は穏やかだった。

「聞いてよ、姫野に連絡つかないから本屋で待ってたけど全然返事がないし、心配で家の前で待ってたら姫野の部屋の電気がついたからチャイム押したけど、なんか俺、ストーカーみたいだったんだよ」

本城はそう言って笑い、姫野の頭を撫でた。
どうして笑えるのだろう、と姫野は思う。
あんなに理不尽に怒ったのに。それを謝ってもいないし、第一俺はまだ本城を許せていないのに。
本城は姫野の頬を撫でながら笑顔を引っ込めて言った。

「姫野、ごめんね。約束破って」

だからなんで。なんでそんなにすぐ謝れるんだ。姫野は苛立った。

「……謝らないで」
「どうして?」
「なんか、俺だけバカみたいでしょ」

言いたいことはたくさんあるのにうまく言葉にならなくて、出てくるのはこんな可愛いげのない言葉ばかりだ。
姫野はどうしようもなく悲しくなって言った。

「もう、やめよう」

本城の顔は見ない。見たら簡単に流される、そういう自分にはもううんざりだ。
もういやだ、もう。

「何を?」
「付き合うの」

本城は何も言わない。

「俺といて何かいいことある?いつも振り回されて。もう面倒でしょ」

自分の言葉に傷ついて、あとからあとから痛みが沸いてきて、それがまた悲しい言葉になった。

「俺はこういうの一生治らないだろうし。……野島、とかの方が、本城の気持ちわかってくれていいんじゃない?俺はあんなふうになれないし。なりたいとも思わないけど」

ほら、まただ。かわいくないこと言った。もう嫌だ。
付き合うのが嫌なんじゃない。俺は俺のこういうとこが嫌だ。
姫野が深く自己嫌悪に陥りそうになったその時、本城が顔を覗き込んできた。

「姫野は?姫野の気持ちはどうなの?」

すぐには返事ができなかった。俺の気持ち。

「別れたい?俺と」

優しい目。優しい触り方。頭を撫でられるのが気持ちいい。優しい声。大好きなこの人。
きっと俺の答えなんか知ってるんだ、本城は。
嘘でも、別れたいとは言えなかった。
姫野が黙っていると、本城はもっともっと優しい目をした。

「今俺がどんなに姫野のこと愛しく思ったか教えてあげるよ。あと、さっきまでどれだけ心配してたか。どれだけヤキモチやいたか」
「ヤキモチ?」

本城が誰になぜ嫉妬したのか、姫野にはわからない。結局それは妄想でしかなかったのだけれど。

「あとね、もっとたくさん話そうね。何考えたか。俺は姫野にもっともっと好きって言わなきゃだめみたいだし」

本城の笑顔に少しだけ黒いものが混じり始める。姫野は自分の体がなぜか身震いをするのを感じた。

「姫野、部屋上がっていい?」



部屋に入るなり姫野は壁に思い切り押し付けられた。ばん、と音がして、背中に衝撃が走る。同時に噛みつくようなキスをされて、押し当てられた本城の唇に姫野の前歯が食い込んだ。
本城の腕に肩を固定され、もう片方の手で前髪を緩やかに掴まれて上を向かされた。息もできないような勢いで唇と口内を犯される。
一度離れた本城の唇を見ると、うっすらと血が滲んでいた。その唇が姫野に囁く。

「お願いだから、変なこと考えないでよ。どんな姫野も大好きだけど、1人で勝手に自棄になって俺から離れるのだけは許さない……絶対」
「っは、う、ごめ、ん」

本城の低い声音にどきっとして思わず謝ると、本城がニヤリと笑った。

「はは、キスしただけで一気に素直になるよね」

また流された、そのことに気づいて目を逸らすと、見て、と言われて視線を戻す。
本城は血が滲んだ唇を舌でなぞると言った。

「舐めて」

姫野は薄い舌を伸ばして恐る恐る本城の唇を舐めた。微かに血の味がしたと思った瞬間、舌を思い切り吸われた。

「ううっ!」

フェラをするようにじゅぼじゅぼと口内で抜き差しされ、舌に軽く歯を立てられる。

「んっ、ぁう、う、…んん」

激しいキスに気が遠くなる。足の力が抜けて立っているのが辛くなった頃、足の間に膝を入れられ、体重を支えられた。

「やぁあっんっ」

自身が擦られてまた甘い声が漏れる。
すると本城は、姫野の後頭部にあった手を握って姫野の髪を引っ張った。後ろに引かれて唇が離れ、驚いてうう、と呻いた姫野に本城が片目を細め、珍しく荒い言葉遣いで呟くように言った。

「なぁ、どうしたら俺だけのものになんの?」

姫野にとってそれは、思ってもみない言葉だった。自分は本城以外のものになった覚えはない。

「そ、れは、こっちのセリフだ、けど……」

本城は髪を掴んでいた手を緩め、姫野の頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜる。

「こないだも言ったよね?俺は姫野以外いらないんだよ。そんなに野島が気になるの?」
「い゛あぁっ」

首筋に噛みつかれて小さな悲鳴をあげる。

「俺に望んでること、言ってみて」
「望んでる、こと?」
「そう。さっき泣きながら考えたこと、全部言って」

そう言うと本城は膝をぐっと持ち上げた。姫野の中心が押し上げられて痛みを覚える。

「いた、い、っん゛」
「全部叶えたげる」

ああ。悔しいけど。痛いけど。すっごくかっこいい。

「……ねぇ姫野、大好きだよ」

言われて喜ぶ暇も照れる暇もないまま、さっきよりもさらに激しく深く口付けられた。本城の手が性急に器用に姫野の服を剥ぎ取っていく。姫野も必死で本城の制服を脱がした。本城と自分の荒い呼吸がやけに耳につく。
すと、と音をたてて姫野のズボンが床に落ちた。もう下着しか身につけていない。
姫野が本城の上を全部脱がせたところで、本城が唇を離して姫野を強く抱き締めた。本城の肌に自分の肌が触れて、あたたかくてそれだけで涙が出そうになった。
安心する。今なら言える。

「ゆき……大好き」

本城が驚いたように身じろぎして、体を起こした。姫野の両肩を壁に押し付けて、ふわりと笑った。

「嬉しい」

今度は優しく食むようなキスが降ってくる。ゆっくりと侵入する舌に、姫野は自分の舌を絡めた。
互いの唾液が混ざってくちゅくちゅと音が鳴り、姫野の顎から首筋、鎖骨から胸へと透明のそれが伝っていく。
本城はそれを追って姫野の体を舐め、吸った。

「んっ、あ、あぁ、ゆきぃっ」
「ほら、言って……俺にどうしてほしい?」

姫野は思い出した。ベッドで涙を溢しながら、ずっと願っていたことを。

「みんなに……優しく、しないで」
「それから?」

自分を見る本城の目が真っ直ぐすぎて逃げたくなるのを、姫野は拳を握ってこらえた。

「みんなと、楽しそうに話さないで……俺以外のやつに、笑いかけたり、しないで」

苦しくなるほど抱きしめられて、本城の体温を抱き止めた。
本城が、いい子、と言って姫野の頭を撫でた。本城に瞳の奥を覗かれているような気がした。

「いいよ、わかった」
「嘘だ。無理だよ」
「無理じゃない。そうする。姫野が望むなら、俺にはそんなこと簡単だよ」

本城の目は真剣で、姫野は少し考えて青くなる。

「待って、嘘。やっぱりだめ、そんな本城怖い、怖すぎる」

姫野の必死さがおかしかったのか、本城はくすっと笑った。本城はそのままゆっくり視線を下げて、姫野の肩に指を這わせた。額と額がこつっとぶつかり、這わされた指が姫野の指に絡んだ。包み込むように手を撫でながら本城が囁く。

「どうしたらわかってくれる?姫野じゃなきゃだめだってこと。他のやつなんかじゃ全然だめだってこと。何でもする、俺ほんと何でもするよ。なんなら抱いてみる?」

姫野は冗談だと思ったが、至近距離で見る本城の目は、冗談を言っているようには見えなかった。

「え、いい。いらない」
「姫野にだったら抱かれてもいいのにな。好きだよ」

不意に唇を塞がれる。ゆっくりゆっくり、何度も何度も何度も。本城の味が全部なくなるんじゃないかと思うくらい、キスをした。
濡れて色づいた本城の唇を見ながら姫野は聞く。

「呆れてないの?」
「何に?」
「委員会で少し待たされるくらいで、へそ曲げたりして」
「何で俺が呆れるの。だって約束破ったのは俺だし。それにそれって結局俺のこと好きだからでしょ?」

そうか、好きだからなのか。じゃあ仕方がない。姫野は自分のぐちゃぐちゃした気持ちが一気に整理されたように感じた。

「嬉しいよ、そういうの。嬉しいし、かわいいし、本当にいいよ、姫野のそういうとこ。俺には真似できないから」
「……本城って変」
「そうかな」
「でもよかった、かも……俺の、す、好きな人が、そういう、人で」

途切れ途切れに伝えた、精一杯の感謝の気持ち。
それを聞いた本城のその顔を、見られてよかったと姫野は思った。

「姫野の好きな人って?」
「……は?」

本城が目を細めて笑う。2秒前より2度、温度の低い笑顔。

「誰?姫野が好きなの」
「何、意味わかんな、」
「誰のこと好きなの?言ってよ」

本城は、姫野が改めて聞かれると恥ずかしくなって困るのをわかっていて聞いているのだ。

「言、わない」
「なんで?言えないの?俺には言えないような人なの?」

本城の目にまた欲望が宿るのを感じた。

「嫌でも言わせてあげるよ」

壁に押し付けられて、さっきしたのとは違う、粘度の高いキスが降ってきた。







別れるなんて簡単に言わせない。

「んっ、…ぅん、……ん」

俺たちの気持ちが続いていく限り、どんな強がりも意地も見抜いて、俺が溶かすから。

「…ゆき……っ」

いくらでも俺を振り回して。いくらでも追いかけるから。

「ん、んんっ…!」

だから最後にはこうやって俺に捕まって。素直になって、ぐちゃぐちゃにされて、俺だけを感じて。俺にだけ、その顔を見せて。ほら、その顔を。

本城は舌が疲れて痺れてくるまで姫野の唇に深いキスをした。姫野も必死で本城の頬に手を伸ばしながらそれに応えてきた。
本城は姫野の乳首をぎゅっと摘まみながら下着を下げた。

「あっいたっ」
「姫野」

姫野の中心はもう勃っている。目を瞑った姫野のうしろに先走りを絡めた中指を伸ばし、一気に根元まで埋めた。

「あぅっ、ゆき、あ、あ、」

締め付けるそこを確実に広げながら、体を押し付けるようにして姫野を捕らえる。膝を足の間に割り入れ、中心にぐりぐりと押し当てながらキスをして、自分のズボンと下着を下ろした。

「姫野、ごめんね。今日あんまりじっくり苛めてあげられない」
「ん…?ゆき…」

濡れた瞳で見上げる姫野を抱き込んで体を浮かせ、一気に猛った自身を捩じ込んだ。

「っやあああぁ!!」
「はぁ…っ」

狭く蠢く内壁に痛いほど締め付けられて、本城は微かに眉を寄せた。
すると、急な衝撃に余裕などないはずの姫野が本城の首に腕を回して耳に口を寄せた。

「ゆき、して…いっぱい、もう、壊して」
「…うん」

本城は思い切り腰を打ち付けた。

「あ゛ぐっ、んあぁ!や、あ、あっ、あ、あぁ、あ」

本城の律動に合わせて姫野の背中が壁にあたってドンドンと音をたてる。

「あっ、あ、ぅ、あ、あぁ、ひぅ、んん、っあー、ゆき、きもち、あ、あ!あ!あっ!」

姫野が本城の肩に顔を埋めながらひっきりなしに喘ぐ。姫野にやらしい声をもっと出させたくて、本城はさらに激しく突き上げる。

「ゆき、ゆきぃ!ん、あ、あん、そこぉ、あ!ああん!あ、あぁ!あっ、あ、そこ、いい!あぁ!」
「ふ、えっちな声いっぱい出てる」
「あふ、だっ、て、あ、あん、ゆきの、きもちい、」
「俺の何が」
「あ゛、ゆきの、ゆきのおちんちんっきもちい、きもちいとこに、あたる、ん、ん」

もう。

「姫野、中に出してあげるね」
「だしてっ、う、あ、ああ」

抱き締めていた腕を放して姫野の背中を壁に預けると、その腰を両手で掴んで小刻みに揺らす。

「あっあっあっや、あ、ん、あっあ」

目が合った瞬間、締め付けられて限界にぶち当たった。

「好きだよ」
「すき、すきぃ、ゆきや、っあ、ん、だいすき」
「っ…イく」
「や、おれも、あ!っあああぁぁ!…はぁっ」

繋がったままずるずるとしゃがみこみ、抜けた瞬間に2人そろって小さな声をあげ、目を合わせて笑った。
幸せ。幸せ。姫野しかいらない。君が俺の全て。
壁にもたれて、広げた膝の間に姫野を抱く。姫野はくったりと本城に体を預けている。

「明日、どっか行こう。2人で」
「……やだ」

まさか断られるとは思っていなかったので、本城は固まった。

「明日、野島と遊ぶから」
「えっなにそれ!」

思わず大きな声が出て気まずい思いをした。

「約束してるの?なんで野島?」
「今日、野島に悪いことしたから。約束はしてないけど」

なぜだ。なぜ姫野は野島にだけこんなに甘いのだ。納得がいかない。

「じゃあ3人で行こう?」
「だめ。明日は野島と2人」
「えーなんで?」
「野島に委員会代わりに出てもらおうとした罰」

きっぱりと言われて、本城は少し考えた。
あの時俺が野島に助けを求めたのが気に入らないんだ。姫野らしい。

「……やっぱりまだ怒ってる?」
「当たり前」
「さっきはあんなにかわいかったのに?」
「それとこれとは別」
「じゃああさっては?俺に許してもらうチャンスをちょうだい」

後ろから首筋や肩や耳の裏に何度もキスをすると、姫野がちらりと振り返った。
その顔を見て悟る。
姫野は俺が嫉妬すればいいと思っているんだ。
そういうことなら、お姫さまの望むままに。
本城は姫野の体を寝かせて、仰向けの姫野に覆い被さってその目をじっと見つめた。

「明日は1日姫野と野島のこと考えて悶々として過ごすんだから、あさっては俺と一緒にいてくれてもよくない?」

姫野はそれを聞いて艶然と微笑んだ。それは本城の見たことのない顔で、少しドキドキした。

「明日はあさってのデートプランでも考えて過ごせば?」

姫野が笑みを引っ込めて挑むような口調で言った。
こういうところが本当に大好きだ、と思いながら、本城は姫野に優しくそっと、キスをした。





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