姫は王子のもの。

「姫野、チョコナッツとキャラメルクッキー、どっちがいい?」
「チョコ」

右手のアイスクリームを手渡して、姫野の横に座る。
冬休み中の日曜の今日、屋内ショッピングモールは家族連れやカップルで混雑し、外の寒さが嘘みたいに暖かかった。
横に目をやると、僅かに舌を覗かせながらアイスを食べる姫野は、ベンチの向かい側にあるフレッシュジューススタンドを見つめていた。

「これ食べたら、ジュースも飲む?」

視線を追われていたことが気まずかったのか、姫野は若干眉をひそめて目を泳がせた。

「いらない」

姫野は甘いものが好きだ。

「じゃあほら、こっちも食べる?」

食べかけのアイスを差し出すと、姫野は何も言わずにあーんと口を開けた。
くそっ。無自覚でデレた。
コーンごと持たせようとしていたことはおくびにも出さず、開けられた口にアイスを近づけると、姫野は一口かじって俺を見た。

「何。ニヤニヤしてキモい」
「いや、かわいいなと思って。おいしいね」
「ん」

姫野が仏頂面で、自分のアイスを俺に向けたので、一口もらう。
姫野と俺はこれから、中川のライブに行く。

『今度の日曜ライブ誘われたから、1人でもいいんだけど、本城も、ついて来て、も、いい、けど』

なんとも歯切れの悪い誘い文句と一緒に差し出されたチケットを受け取って、我慢できずにそのまま押し倒してしまった。
きっと精一杯譲歩して誘ってくれたに違いない。そういうところも本当に好き。
せっかくだからその前に少しデートしようと言うと、いいけどベタベタニヤニヤ変態みたいなことしないでね、と釘を刺された。

「アイス、どっちが好き?」
「…本城は?」
「姫野が食べたあとのとこがおいしい」
「ばかじゃないの」

冷たい視線を笑顔で受け流して、パリパリとコーンをかじる。

「本城は何味」

食べ終わって立ち上がろうとしたところで姫野が床をガン見しながらぽつりと言った。
ジュース飲むんだね。

「姫野は?」
「マンゴーオレンジ」
「じゃあ俺はイチゴミルク」

多分、姫野の第2候補はイチゴミルクだから。交換できるように。

俺たちはジュースを片手に、ライブハウスに向かうためショッピングモールを出た。
外に出るとさすがに寒い。空いた手で何気なく姫野の手を引いたら、キュッと握り返された。
俺の理性を誉めてあげたい。



 *



「姫!本城も!2人で来てくれたんだな!ありがと!」
「中川、すごいんだね、かっこよかった」
「本城がすごいすごいうるさかった」

自分たちの出番が終わって、遊びに来てくれた姫と本城を相手に雑談をしていると、メンバーの連れの女の子たちが寄ってきた。
少し皆で話した後で姫と本城がトイレに行った。
その瞬間がっつかれる。

「中川くんの友達?」
「まじイケメンなんだけど!」
「黒髪の方かわいすぎる!」
「誰なの?」
「彼女は?」

いやあいつらはなんて言うかお前らのこと多分これっぽっちも興味ないっていうかそもそも女子が目に入ってるかどうかも怪しいっていうか

「ねぇ今度みんなで遊ぼう?」
「中川くんさっきの人たち誘ってよ!」
「ねぇだから誰?」
「同じ高校?」

おい姫!
お前らのことどこまで言っていいの?!
学校ではほぼ公認だけどうち男子校だから別に目立たないってか守られてるけど他校に漏れてもいいのか?!
お前らは男子校だから成り行きで付き合ってるって感じじゃないよね?本気でもう他人が入る隙なんかないよね?!

「聞いてんの中川くん!」

どうなんだよ姫!



 *



なんでだ。少し拗ねてみただけなのに、トイレの個室に押し込まれて唇を塞がれた。

「…ん……だって本城が…っんん…」
「俺が何」
「女に…優しくしたから!…んやぁ…んはぁっ」
「姫野はかわいいけど本当に何もわかってないね」
「んん…んふっ…」
「こんなに姫野しか見てないのに…かわいい、もうここでしちゃおうか」
「んっだめ!やめろ中川が怪しむって、ぁあっ」
「いいじゃない、どうせ中川は知ってるよ。ね、姫野、大好き」
「ライブハウスのトイレだよ?!誰か、ぅ、入って来、あんっ」

本城が嬉しいこといっぱい言ってるけど噛み締める暇がない。
こんな狭いトイレでこんなことしてたら見つかる。俺は本城と違って変態じゃないのに。
あぁ…
でも抵抗する力が…
もう…本能に…負けそう…
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