姫は王子のもの。

最近、本城が変だ。
普段学校で見せている優しくて紳士的な王子の顔と、俺と2人でいる時の少しだけ意地悪なあいつと、その振り幅が大きくなっている気がする。
学校では特に変わった気はしないから、俺といる時のSっ気がちょっと増してるという感じ。
それで、たまに、ヤってる最中にあんな顔をするから。



「ん……んふ、んっ…う…」

口内をぬめる舌で犯されて、俺は必死でそれに自分の舌を絡める。くちゅくちゅと濡れた音が耳につく。唾液が顎を伝ってぽたりと落ちた。

「姫野、服、自分で脱いで……全部」

激しいキスの合間を縫うように、本城が低い声で言うのを聞いただけで、俺の心臓は期待で高鳴る。
その声が低く冷たくなるほど、俺の興奮は増していく。
差し出された本城の舌をぺろぺろと舐めながら、そこが離れないように慎重に、服を脱いでいった。
最後に残ったボクサーパンツの中心は既に濡れ始め、中から押し上げられている。ゴムに指をかけて下ろすと、半勃ちのものがぷるんと顔を出した。

「もう勃ってるね」
「ああっ!」

本城が俺のものを指で弾き、俺は異常に感じてしまう。

「ふふ、ちょっと触っただけですっごい声」
「う、るさぃ……」

口答えをしながらも、本城が俺の恥態を言葉にして伝えてくることにも興奮して、中心がぴくりと膨張した。
本城は俺の背中を抱くとそのままベッドに組み敷き、自分のベルトを外して俺の両手をベッドヘッドにくくりつけた。

「本城、」
「怖くないよ、姫野、大丈夫……ああ、すっごく綺麗だよ。すべすべだ」
「んんっ…」

本城は優しい目で俺を見下ろして、脇腹を撫でた。俺の体が軽く跳ねる。

「すべすべで、白くて、おっぱいの先っぽがピンクで、ちょっと固くなっちゃってるね、ほら」

言いながら微かにそこに触れていく。

「はっ…あん…」

手を動かせない分、腰がいやらしく動いて、完全に勃ち上がった中心がふるふると揺れる。
本城は俺が外した制服のネクタイで俺の目を覆った。暗闇に包まれて視覚以外の感覚が敏感になって、本城の息づかいと衣擦れが間近に聞こえた。
これから本城が何をするのか、ぼんやりした頭で想像して、理性が飛びかける。

「あーすごいそそる。…ね、久しぶりだね」

耳元で息を吹きかけながら言われてぞわぞわと鳥肌が立った。
テスト期間の1週間前からテスト最終日の今日まで、俺たちは家で会うのをやめていた。こうやってゆっくり本城に触られるのも、約2週間ぶりだった。

「ね、会えなかった間、1人でここ弄った?」
「ん……」
「恥ずかしいの?姫野は本当にかわいいねー」

くすくす笑いながら言う本城の声を聞いて、以前本城が見ている前で自分を慰めさせられたことを思い出し、恥ずかしさで体が強ばった。

「大丈夫だよ、今日は嫌なことしない…たくさん気持ちよくさせてあげる」
「…はぁ…ぁ、んっ」
「はあはあしちゃって…見られて興奮してるの?ずっとこのまま見てたいよ」
「ああぁ!」

本城が言葉とは裏腹に乳首を摘まんで、俺は背中を反らせた。

「あっ、んん……んぅふっ」
「姫野のかわいい声、もっと聞きたい」

全神経が触られる乳首に集まる。緩急をつけて摘ままれたまま、先端を別の指で擦られる。

「…あっ…あぁん……は、んああっ!」

もう片方の乳首に生温く濡れたものを感じて、腰を突き出してしまう。本城の舌が乳首を這い、唇が締め上げて、それを指が擦っていく。ちゅ、くちゅ、と音が聞こえて、俺は自身が先走りを垂らすのを感じた。

「ああぁ、っもう…ほんじょ……さわって…」

伝っていく粘液にも敏感に反応したそこに、刺激がほしくてたまらなくなる。

「んー、まだだめ。姫野がもっとやらしくなってから」
「あっ、ああぁ、やぁっ!」

本城の楽しそうな声が聞こえて、乳首へ与えられる刺激が強まり、俺は嬌声を高めてしまう。
覆い被さる本城に中心を擦りつけようと腰が動くが、本城はそれをわざと避けているようで、もどかしさに更に興奮が募っていく。

「濡れちゃってすごいね、どんだけエロいんだよ」
「ん、んふ、ゆきぃ…いじ、わる、ぅあっ」

乳首を引っ張ったりつねったりしながらぺちゃぺちゃと舐められる。その本城の声音がだんだん冷気を含んできて、俺はもっと責められ苛まれることを望んだ。

「ゆき、んん!もっと、あぁっ……もっと、いじめてぇ!」

本城の動きが止まった。
言ってしまったことを後悔し始めた時、いきなり乳首に痛みが走って、目隠しで作られた暗闇がちかちか光った。

「あぅ!っいた、痛い!なに…?」
「…虐めてって言うから虐めてるんだよ、嬉しいんでしょ?」

本城の声が低く這うように俺の全身を包む。乳首に歯を立てられているらしく、ちくちくした痛みがなぜかすごく……。

「や!やぁ!あっああん!ゆき!きもち、いぁぁっ…!」
「痛いのがいいの?姫野、いつからそんな変態になったの?」

言われながら、歯を立てられていない方の乳首を思い切り引っ張られた。

「あー!いや!あっうぅ…もっと…ゆき、もっとぉ!」

何でだろう。痛いのに、おかしくなるくらい気持ちいい。

「あーっ!う、もっと噛んでぇ…!うっあ、いだ、い、あ、あっ、ああぁぁあん!」
「…姫野?」

わずかに上擦った声が聞こえて、痙攣する両足と腹に生温い感触、何よりこの脱力感…
まさか。

「姫野…乳首噛まれていっちゃったの?」
「…っふ……え…」

よくわからない。俺の頭はまだ余韻のなかでぼーっとしていた。
本城から発せられる雰囲気が一気に醒めた気がして、そちらに神経を集中させると、しばらくして本城が言った。

「変態」
「…は、だって本城が…」
「はー、もうどうしようもないね」

その声に微かに侮蔑の色が浮かんだ気がして、血の気が引いた。待って、違う。

「や、だ…本城、」

嫌わないで。
言おうとした言葉が喉につっかえて、代わりにううっという唸り声が漏れた。鼻の奥がツンとして、熱い目蓋を覆うネクタイに涙が染み込む。
そのネクタイが乱暴に取り払われ、俺は眩しさに目をしばたかせた。

「姫野が悪いんだよ。こんなに俺を…」

俺を見下ろして囁く本城の顔に冷徹な感情が見え隠れするようで、俺は動けなくなる。
この顔、最近セックスの途中でたまに見せるこの顔。
もう俺に愛想を尽かした?
わがままばっかりで、本城の気持ちなんかそっちのけでくだらない意地やプライドばかりが働くひねくれた恋人なんか、かわいくないよな。
もう、俺じゃだめなの?

「……もう変なこと言わない、だからっ、」
「嫌なことしないつもりだったけど、もう俺、我慢しないから」

本城は俺の言葉を遮ってにこりと笑ったけど、それはやっぱり見慣れた笑顔とは重ならなかった。



「……?」

本城が言った言葉に、絶句する。そんなの……。

「聞こえなかったの?ほら、早く」

本城の声は優しいけど、どこか棘を含んでいて、逃れられないと思った。
俺は両手の拘束を解かれて、本城と向かい合うように、壁を背にしてベッドの上に座っていた。

「でも、それは俺…自分で、っ、したことなくて」

本城はさっき、らしくない薄っぺらい笑顔で言った。

『穴に指つっこんで1人でぐちゃぐちゃになってエロい声いっぱい出して俺を誘ってみて』

「いつも俺がしてるからわかるよね?ちゃんと見ててあげるから、足開いて、これで指濡らして。泣くなよ、逆効果だよ?」

自然に溢れていた涙を手の甲で乱暴に拭いながら、俺は抵抗した。

「…や、できない…」
「早く」
「ねぇ本城、なんで…怒ってる?」
「許さない」

今まで聞いたことのない本城の冷たい声に、一瞬息が止まる。

「それ、ちゃんと自分でできるまで、俺は姫野を許さないよ」

愕然とした。痛いのが気持ちいいから?許せなくなるほど俺の性癖はおかしいんだろうか。
いつもなら、恥ずかしいことをさせられてもどこかあたたかさを滲ませるのに、今の本城は冷気を纏っている。初めて見る顔だった。
本城との距離が限りなく開いてしまった気がして、泣いている自分が惨めになった。
でもなぜか、強く拒否できない。
のろのろと足を開いて、本城に全てを晒す。それだけで恥ずかしくて死にそうだと思った。
ローションを指に垂らし、それを後孔に持っていく。
怖くて寂しくて胸が痛い。こんなのは嫌だ。本城が触るから気持ちいいのに。俺の中心はもうすっかり萎えていた。
くちゅ、と音をたてて孔の周囲を撫でるけど、中に挿れる勇気がどうしても出ず、もたもたしてしまう。
すると本城が近づいて、俺の手を取り、指をつぷ、と押し込んだ。

「うぅっ!…やっぱりや、だ、本城」

泣き声になるのに構わず言うと、本城が目を細めた。

「あと2本は入るからね」

耳を疑った。俺の声が届いていない。また目が熱くなった。泣くしかない自分が情けない。
空いた手でごしごしと顔を拭い、俺はもう感情を殺すことにした。
本城が求めていることがわからない。俺に何をさせたいの?なんで怒ってるの?
薄い笑顔で俺を見ている本城にそれをちゃんと聞けない俺は甘ったれだ。
俺は指を深く沈めた。



はあはあと息が上がる。
俺の後孔は自分の指を3本くわえてぐちゅぐちゅと音を立てている。
いつの間にか俺の中心は勃ち上がり、指や腰が動く度に揺れていた。

「んっ、んぅ…っはぁ…」

声も少しずつ大きくなってしまう。本城はこんな俺を見て楽しいのだろうか。
楽しんでいるのかどうかすら怪しいような、無表情に近い顔で俺を見ている彼の目に、なぜか俺は勝手に煽られて、中を指で掻き混ぜた。

「っあああ!んっうう──」

途端に強烈な快感が走り、体が跳ねた。

「あ、ああっ、きもちい…きもちいいよぉ…!」

何も考えられなくなり、指先でそこばかり刺激する。

「っはああ、あっ、あっ、ああん!」

開いたままの足が痙攣して、腰が前後に動く。更に快楽を追おうとした俺の耳に、本城の声が久しぶりに届いた。

「気持ちいいのはいいけど、1人で楽しみすぎじゃない?最低」
「あ、ふ、ごめん…ゆきや、おれ…」
「ねー、俺を誘ってって言ったよね?ほら、何か言って俺を興奮させてみてよ」

冷たく睨まれただけで、俺はまた腰をぴくんと跳ねさせた。その目を見ながら、俺はくちゅりと指を回しながら言った。

「あぅ、ゆき、ここっ、はあぁ…すごい気持ち、いいの、だから……あぁっ」

本城のグレーの瞳が僅かに熱を持ったような気がして、俺は理性を手放した。

「ゆきぃ、おねがい、っ、ぐちゃぐちゃに犯して…」

本城の答えは嘲笑だった。

「ふん、もう欲しいの?淫乱」
「…ぁあっ…ゆき、ごめんなさ…」

言葉で突き放されただけで熱い吐息が漏れた。

「まだそっちにはあげない。そこ弄ったまま、」

本城は言いながら、自分のファスナーを下ろして、勃起したものを取り出した。

「口でしてよ」

緩く自分のものを扱きながら艶然と微笑む本城を見て、俺は吸い寄せられるように口を開く。
後ろに指を突っ込んだまま膝をつき、前に倒れ込むと、本城が肩を支えてくれた。
目の前にあるものに何度もキスをする。本城の全てが愛しくて、大事に舌を這わせた。先端を舌先でつつき、括れを舐め回す。
冷たい空気を発しながらもこんなに欲情してくれてたんだ、という安心が、俺の行為に火をつけた。
空いている手で裏筋を撫で、優しく扱く。頭上で本城が息を詰めた。

「っ、くちゅくちゅの音が聞こえないよ…?ちゃんと指でオナニーしなよ」
「ふっ…んぐ、ん……」

本城の息が少し乱れているのを聞いて、口淫が勢いづく。
奥深くまでくわえ込んで口内を締めると、本城のものがぐっと反応した。
自分の中にある指を出し挿れし、本城に聞こえるようにぴちゃぴちゃと音を立てる。

「姫野、必死だねー。エロいこといっぱいして」
「んんっ…ふ…うぅん…」
「…ふふ…姫野、かわいいよ…」

ずっと酷い言葉をぶつけられていたのに、優しく言われてさわさわと頭を撫でられた。
それだけで俺の中心に一気に血液が集まって、快感に持っていかれそうになった。

「ん゛ーーー!」

本城が、肘をついて下を向いていた俺の乳首を両方同時につねった。
後孔を弄りまわし、口淫で既に限界近くまで興奮していた俺は、乳首への刺激でまた達してしまった。ぼたぼたとシーツに染みができていく。

「っんぅ…」

達すると同時に喉の奥を締めてしまったらしく、本城が呻く声が聞こえて、先走りの味がした。
幸せ。唐突にそう思った。

「んぐ!う゛っ、うう」

本城が思いきり喉の奥を突いて、一瞬息が詰まった。

「はー…姫野…」

俺の口内で熱いものが激しく何度も擦られて、大きくなるのがわかる。俺は苦しさと愛しさに胸がつまりそうだった。
いつもは口から出ていってしまうのに、もしかしたら本城が俺の口でいくかもしれない、そのことで頭が一杯になって必死で食らいつく。

「っ、姫野、出すよ…」
「ん、っん…」

本城の腰が一層激しく突き上げる。喉が裂けてもいいと思った。

「あぁっ、みこと、飲んで…」

苦しそうに息をしながら、本城が熱い体液を吐き出した。
ん、ん、と鼻で息をしながら俺はそれを少しずつ、全部飲み干した。
うれしくてドキドキした。

「おいしい?」

切なそうな声で聞かれて、こくりと頷く。
しばらくそのままくわえて舌をゆっくり動かしていると、息を整えた本城が腰を引き、ちゅぷ、と離れたものに本城が手を添えた。

「ね、これ、ほしい?」

本城の声が低く冷静なものに戻っていて、弄ることを途中で放棄した孔がひくっと震えた。

「ほし、い…ゆき…」
「どんなふうにほしいの?」
「え…」
「言ってよ。こうされたいからここからこうやって挿れて、って言ってみて?」

声から色気が立ち昇るようでくらくらする。
それに抗わずに俺は膝立ちになり足を開いて、本城の顔を見る。

「ん…下からたくさん突いていかされたいから、…はぁ、上に座った俺のことぐちゃぐちゃに、して……ゆきや」

「ふふ、じゃあ、あげる」

本城がまた、にこりと冷たく笑った。



「あっ、あっ、あっ、あぁ、あ、あん!」

俺は座った本城に跨がって下からじゅぼじゅぼと律動を受けて、本城の先端が中を擦るたびに淫らに鳴いた。

「あ、あん、っあ、あああん…はあっ」

もうとっくに理性なんかなくなって、俺の体はただただ本城を感じていた。
がつがつ、ぱんぱん、と音が大きくなり、俺も本城も高まりすぎていた。

「あぅ、すごい、やらしい音、する…」
「未琴の中ぐちょぐちょだよ」
「ぅあ、ゆき、気持ちい…」
「犯されて気持ちいいとか、本当、淫乱」
「ああー!あ、あっ、だ、だめも、うぅ…いっちゃう、いっちゃうよぉ!」
「…いけよ、っほら、おれので汚れろよ、この淫乱」
「あ、いあぁー、ああ、いく、いくっ、やああああん!!!」
「っ、は…あ……」

奥に欲望を放たれ、自身からも噴き上げて、俺はくったりと本城の肩にもたれかかる。
それをしっかり抱き止めながら、本城も後ろに倒れ込み、俺は本城のものを突っ込まれたまま腹の上に抱かれた。
しばらくどちらも何も言わなかった。
俺はもう本城なしでは生きられないと思ったし、俺を素直に鳴かせられるのは本城だけだ。絶対に。誇っていいよ、本城。
普段も少しだけ、ほんの少しだけなら、素直になれるかもしれない。
本城の体温をいろんな所に感じながら、本城の鎖骨に額を擦り付けた。

「…姫野」

少し掠れた声が俺を呼び、俺が無言で答えると本城が続けた。

「今日ね、俺、姫野を傷つけた?」

俺が顔を上げて本城の顔を見ようとすると、腕できつく抱きしめ直され、動けなくなる。

「嫌なこといっぱい言ったし、させた……でも俺ね、それ見て、すごく興奮するんだ。姫野の照れた顔とか困った顔とか…泣いた顔、とか…見ると、自分の性欲、抑えきる自信がない。…少し、俺、多分少し、変だよね?」

言った声が心許なく揺れているような気がした。
身動きが取れないほどの腕の力に後押しされて、俺は普通モードの声で、はっきり伝わるように言った。

「本城はそのままでいていいから、だから、ずっと俺のそばにいるでしょ?」

う、という声が聞こえて、さらに強く抱き締められた。
だって俺のそばにいられるのは本城だけなんだから。こんなに意地張るのだって、素直になれないのだって、本城にだけなんだから。
しばらく我慢したけど抱きしめる腕があまりに苦しくて、本当に超変態だけどね、と冷たく言い放つ。
姫野に言われたくない、と笑って腕を緩めた本城が、思い切り腰を突き上げて、その存在を忘れていた俺は一度余分に喘がされた。
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