姫は王子のもの。

放課後。遅い時間の、薄暗い男子トイレ。
一番奥の個室の中。
とろとろした顔の恋人が、珍しく素直に縋るような仕草をして見せた。

「…したい…して……」
「キスだけでそんな顔して…そんなに良かった?」
「…うん…」

どうしたの、そんなに素直になっちゃって。たまにはこういうのもいいか。
綻ぶ頬を抑えきれず、本城は微笑んだ。
つやつやした髪に手を伸ばし、もう一度丁寧に唇を食む。息が上がり、閉じられなくなった姫野の口から唾液が滴った。制服の上から太ももを撫でる。それだけで「あ…」と声が漏れた。
姫野のベルトを外し、制服と下着を膝までずり下げる。滑らかな太ももはあたたかく、本城を誘うように揺れた。

「はやく…ゆき…触って……?」

あまりに素直にねだられて、かえって少し冷静になる。
姫野の口に指をつっこみ、しゃぶらせて、後ろに手を回した。

「姫野には俺の指で十分でしょ?」
「あっ…あ、やぁっ!ゆき、や、やだっああっ!」
「イヤ?バカ言わないでよ、どこがイヤなの、好きなくせに。男の子なのに、手マンが好きなんだよね、いやらしい」

わざと恥ずかしい音をたてて指を突き入れる。感じるところをしつこいくらいに責めると、姫野の背中が反り、うっとりと目を閉じてひっきりなしに声をあげるようになった。

「女の子だ。姫野は、女の子だね」

ゆっくり、はっきりと、耳元で囁く。体が強張り、姫野は目を開けた。

「ち、ちがう…」
「女の子でしょ。おまんこ気持ちいいって言って」
「い、やだ…」
「言ってよ、はやく。俺をその気にさせてよ」
「ああっ!」

中で指を広げ、かき回すと、一層高い声が出た。

「やっぱり女の子だ」
「違うっ!」
「あれ、本当だ、なんかある」
「やああ!」

もう片方の手を前に回してペニスを優しく握り、先端を親指で撫でた。そこはすでに濡れていて、指がよく滑る。

「ダ…ダメ、も、っ!ゆき、あっ、あっ、イく、出ちゃう…」

泣きそうな声を出す姫野にまた笑みがこぼれて、本城はゆっくりゆっくり、指を引き抜いた。
ペニスからも手を離す。

「ゆき…?」

蕩けきった目で見上げる姫野の体を後ろ向きにして、自分のペニスを出してふとももの裏側をなぞった。

「あっ、あ、ゆき…」

それだけで期待に体を震わせ、本城に体を委ねてくる。
今日はその期待に応えてやる気はない。

「欲しい?これ」
「…ゆき……」
「欲しいかって、聞いてるんだよ」
「ああ!」

双丘を両手で広げると、ひくひくとそこがうごめいた。

「欲しい?ここ、女の子みたいになってるよ」
「っ、女の子じゃ、ない…」
「ああそう。わかったよ。俺はこっち使うから、姫野は俺が射精するの待っててよ。終わったら帰ろうね」

愛してるよ、姫野。
心の中で付け加え、姫野の先走りを借りてふとももを濡らし、そこへペニスを滑らせた。

「あ、や、ゆき、待ってお願い、っ、ゆき」

姫野が焦ったように振り向こうとしたので、頭を壁に押さえつけた。
ぐい、と腰を押し付け、ゆっくり引く。

「やだ、放して…」
「痛い?」
「んぁ、あっ、…おねが、ああっ」

痛いって、言え。

「いたっ」

そう。いい子だ。興奮が高まる。

「なんだ、ここに挿れなくても感じるんだね。かわいいよ姫野」
「んんっ」

頭を放してやり、髪をくしゃくしゃと撫でてから、ひくつく後孔を指でなぞる。
腰を前後に動かし、猛る欲望で股を擦った。

「ああん、ゆき、ゆきぃ」
「なぁに。ちゃんと聞いてるから、思ってること、言ってごらん?」

いい子だからできるよね?
優しい声で言い、ちゅっと音を立てて首筋にキスをしてやると、姫野は「んんん」と甘えた声を出した。

「ゆき、好き、好きなの、ゆき、ぎゅって、してほしい…っ、あぁ…ね、かわいいって、言って、もっと」

本城のペニスを挟んだ太ももに力がこもり、その刺激と湧き上がるなんとも言えない感情に息が上がる。

「いいよ。本当に、…っ、かわいいよ、姫野」
「んんっ、ん、あっ、あぁっ」

後ろから抱きしめてひたすら腰を振る。
姫野は性感帯に触れられているわけでもないのに、「かわいい」「好きだ」と本城が口にするたびに大袈裟なくらい体を震わせている。

「ああ、や、やっ、あんっ、あんっ、あっ、あんっ」
「ああ、姫野の体、すっごく気持ちいい、っあ、イきそう」

姫野は一層高い声で叫ぶように喘いだ。
これは、このまま俺より先にイっちゃったりして。何もしてないのに?いやらしい体だ。

「かわいいよ、大好きだ。ずっと俺のものでいてよ。ね?姫野」

姫野はもう言葉らしい言葉を発しなかった。脳が快感でとろけきっている。上気した頬を舐め、耳たぶを噛み、激しい音を立てて腰をぶつけていたら、姫野は「ひっ」と息を吸ったまま体を硬直させた。
姫野が手をついている壁に、精液が飛び散った。

「イったの?」

反応はない。ただ、ああ、ああ、と苦しそうに声を漏らしていた。

「俺も、イきそう」

挿れているみたいに気持ちがよかった。
立っているだけで精一杯という状態の姫野の体を抱き、何も考えずにただ腰を振る。

「っ、姫野、あそこ、もっと締めて」

姫野がキュッと白いももを閉じた。

「あっ、イく、…」

うう、と呻きながら精を吐き出し、姫野の体を支えたまま、後ろの壁に寄りかかった。
姫野はおとなしく、されるままになっている。体力が尽きたのだろう。
そのままお互いの息が整うのを待った。
落ち着いた頃、いろいろ思い出したらしい姫野が離れようとした。

「今日はとっても嬉しかったよ」

がっちり抱きしめ直して耳に何度もキスを落とした。

「何が」

姫野はすでに理性を取り戻していて、不機嫌極まりない声を出している。

「ゆきのこと好きってたくさん言ってくれて」
「はぁ?言ってないし」
「言ったよ」
「言ってない!言うわけないでしょ!」
「ぎゅってしてほしい、かわいいって言ってほしい、好き、好き、って言ったよ、覚えてないの?」
「し、知らない!」

個室を出ようともがく姫野を軽い力で引き止めて、本城はスマホを取り出す。

「なんなら、聞く?」
「…は?」
「全部、録ったよ」

一呼吸置いてから、姫野の得意な「意味わかんない!」が大音量で発せられた。

「うそだよ。ごめん。ちょっとからかってみただけ」
「本当?信じられないんだけど!」
「俺だってそこまで変態じゃないよ」

頭を撫でながら本城は微笑む。
まあ、本当は録ってたけど。安心して。誰にも聞かせない。
会えない時に、あの大きな家が寂しくて寝られない時に、ちょっと再生するだけだから。







「なんかあそこの奥のトイレ、放課後女の子の声が聞こえたとか聞いた」
「先週の金曜の話?俺も聞いた」
「まじ?女の子なら幽霊でもいいな」
「じゃあお前放課後行ってヤらせてもらえよ」

クラスメイトがふざけて笑うのを聞き、中川は硬直した。
先週の金曜、そのトイレから本城と姫野が出てくるのを見た。
それはそういうことだ。
女の子の声。
それは、そういうことだぞ!
相変わらずの友人カップルを思って泣きそうになりつつ、中川は目の前にあった阿部の坊主頭を優しく撫で回していた。




-end-
2017.10.17
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