姫は王子のもの。

「姫の部屋きれい!」
「勝手に触んないで」
「なんかいい匂いするんだけど」
「嗅ぐなってば」

キョロキョロしながら本棚に手を伸ばす阿部と、怪しげな顔をしてくんくんしている中川を、姫野が一生懸命たしなめている。
本城は慣れ親しんだかわいい恋人の部屋に友人たちが入ってくるのを、楽しげな気持ちで眺めていた。
今日はクリスマスイブ。しかも祝日で学校は休み。
姫野と2人で何をして過ごそうかと楽しみにしていた本城に、姫野はある日の放課後、残酷に言い放った。

「イブの日、うちに中川たち来るから、本城も来れば」

姫野の頭には恋人の自分と2人だけで過ごすという考えは少しも浮かばなかったのかと軽く落ち込みかけてから、すぐに楽しいことを思いついた本城は、ゆるく首を横に振った。

「せっかく友達が来るのに俺が来たら邪魔でしょ?」
「…別に、邪魔じゃないけど」

姫野の部屋で手を握ると、姫野はわずかに眉をひそめた。

「姫野が来てほしいって言ってくれるなら、来ようかな」

本城がにっこりと微笑んでみせると、姫野は視線を逸らした。

「…どっちでもいい、けど」
「そっか。じゃあ来ない。楽しんでね」

本城は、姫野の表情の変化を見逃さないようにじっくり観察しながら、いつどんなふうに『やっぱり来て』と言ってくれるかを考えて、心が充たされた。
歪んでいる。それは自分でとっくの昔にわかっていた。
姫野が意地を張ってこのままイブ当日を迎えてしまう恐れもあるにはあったが、それならそれで次に姫野を揺すって楽しむネタになるし、などと考えていると、突然逆ギレに遭った。

「なんで来ないとか言うの?意味わかんない」

口を僅かに尖らせて自分を睨む姫野を見て、本城は折れることにした。
だったら自分は姫野に「なんで他の人と約束しちゃうの?意味わかんない」と言ってやりたかったが、それはぐっと飲み込んだ。
いろんな顔を見たいとは思うけれど、姫野を無闇に傷付けるのは本城の本位ではなかった。

「ごめんね姫野。やっぱり来てもいい?」

抱きしめながら聞くと、姫野が腕の中でこくんと頷いた。
かわいくてかわいくて意地悪がしたくなって、本城はその衝動をイブまで大事に取っておくことに決めた。
そして今日、めでたくその当日を迎えたのだった。



「飲み物は買ってきた。ケーキは今野島が取りに行ってる」

中川が本城のそばに座ってスーパーの袋からペットボトルを取り出しながら言う。

「1人で大丈夫かな」
「土屋が心配して迎えに行ったから大丈夫じゃない?」

本城の心配は杞憂に終わる。
が。

「土屋って意外と一途?」
「いや、俺もびっくりなんだけど。いつもなら失恋したらもっとあっさり乗り替えるのに、野島にはまだ未練がありそう」
「割り切って友達やってるように見えなくもないけどね」
「…つか本城さ、」

中川は本城に少し近づいて小声になる。
もっとも、阿部と姫野は姫野の中学の卒業アルバムの在処を巡って攻防を繰り広げていたので、誰に聞かれる心配もなかった。

「今日、邪魔してほんとごめん」
「ううん。大丈夫だよ。姫野も楽しみにしてたみたいだし」
「2人になりたくなったら俺らすぐ帰るからな」
「中川ってやっぱりいいやつ」
「だろー!俺のモテ期どこ行ったんだろう」

大丈夫。心配しなくても後でちゃんと2人になるし、俺と約束する前にみんなと約束しちゃった姫野には楽しいお仕置きが待ってるから。
本城の頭の中はいつも姫野で占められている。



「お待たせ」
「下、誰もいなかったから勝手に上がっちゃった。お邪魔します」

ケーキを携えた土屋と野島が到着し、男だらけのクリスマスパーティーが始まった。

「姫、ちょっとこれやって」
「…阿部まだここなの?」
「だってこっから全然進まないよ」
「姫、俺のも」
「中川、これ俺がやるとか以前の問題」

ジュースで乾杯もそこそこに、姫野と阿部と中川はゲームを始めた。
土屋はケーキを切り分ける野島を手伝っている。

「あ、ローソクとかつけなかったね」
「やりたい?今からでも立てられるんじゃね?」
「ううん、大丈夫だよ」
「せっかくだからやろうぜ」

土屋が遠慮する野島の手からローソクを取り、器用に刺していく。
本城は窓のカーテンを引いた。

「ちょ、暗い!」
「うるせえ中川、野島がローソクふうするんだよ」
「お前、俺にもそのくらい優しくしろ」
「きめえ」
「土屋くんのばか」

いじけた中川に本城が言う。

「中川、ヤキモチ?」
「ちげぇわ!あほか!」

土屋が火を点けたローソクを、皆で見つめる。

「野島、ふうしていいよ」
「え、僕だけ?」

恥ずかしそうな顔で土屋を見上げた野島。
その視線を受け止める土屋の表情は誰がどう見ても友達を見るそれではない。

「土屋、野島のこと好きすぎだろ」

あはは、と笑う阿部の言葉に、土屋の表情が僅かに引きつり、中川がそれを見て少し慌てた。

「姫野と阿部も一緒に吹いたら」

本城が言い、せーので3人が吹き消した炎は、暗がりに慣れた皆の目に残像を残した。



各々が自由に過ごしていた。
姫野と阿部は相変わらずゲームを続け、ゲームに飽きたらしい中川は本城と一緒に寝転がって漫画を読んでいた。
土屋と野島は壁際に並んで座り、雑誌を見ながら何か和やかに話をしている。

「僕はちっちゃくていっつも服選びに困るよ」
「まあそれが野島のいいとこだし」
「土屋くんみたいに背が高くて脚も長かったら不自由しないでしょ?いいなぁ」

この甘い会話は何だ、と思いつつ本城が顔をあげると、中川も密かに顔を上げて気遣わしげな表情を浮かべていた。
中川はチャラいけど本当に気が回る。多分回りすぎるのだ。
思いながら視線を姫野に向けると、阿部が楽しそうに何か言い、姫野もそれにつられて笑ったところだった。
楽しそうにしちゃって。ちょっとやそっとじゃ、許さないからね。
本城は立ち上がる。

「姫野、残ったケーキ、冷蔵庫に入れてきてもいい?」

聞くと姫野は、ちょっと待って一緒に行く、と言って立ち上がった。
ケーキの箱を持って2人で部屋を出る。
ドアを閉めた本城は、姫野の手を取って、階段と反対側に向かった。

「本城、冷蔵庫、下だけど」

戸惑う姫野には応えず、2階のトイレへ向かう。
廊下の隅にケーキを置き、個室に姫野を引き入れて中から鍵をかけてから、すでに怯え始めている姫野を壁に押しつけた。
至近距離で見つめ合うと、身長差のせいで姫野は自然と上目遣いになる。
それにぞくぞくしながら本城は冷たい目を向けた。

「な、に」
「姫野は、俺と2人になりたいとか全然考えないんだね」

自分でも、声にトゲがあるのがわかった。

「なんかすごくイライラするんだけど」

姫野の顔のすぐ横を拳で軽く殴る。姫野は体を硬直させた。

「俺は今日、ほんとは2人で過ごしたかったんだよ。わかる?他の4人はジャマ。姫野だけがほしかったのに」

顔を近づけて囁きながら、姫野の首を爪で引っ掻いた。

「ねえ、姫野は少しもそんなこと考えなかったの?」

ひ、と息を飲む音が聞こえた。

「怖がり」

耳の後ろの髪の毛を指ですく。

「寂しいな。姫野は俺といるよりみんなといる方が楽しいんだね」

低い声を出すと、慌てたらしい姫野が本城の顔に手を伸ばしてきた。
小さな手が本城の頬を撫でる。

「本城、拗ねたの?」

眉尻を下げて見上げてくる姫野の言葉に、本城は妙な気持ちになった。
なんで俺が慰められている。

「そうだよ。拗ねたよ。慰めてよ」

唇と唇が触れ合う寸前まで近づいて、本城はそっと言う。

「エロいキスして」

姫野は微かに顔を動かして唇を重ねてきた。すぐに舌が絡められ、ちゅ、と音がした。
姫野は腕を伸ばして本城の首を抱き寄せる。それに従って本城は壁に手をつき、舌を伸ばして応えた。
突然ドアノブがガチャと音をたて、姫野の体がびくりと震える。

「あれ?誰か入ってる?」

ドアの外で阿部の声がした。
本城は離れてしまった姫野の唇に再度キスを仕掛け、先程よりも激しく貪る。

「おぉい、入ってますか!」
「入ってるよ」

本城はキスの合間に返事をしながら姫野の股間に手を伸ばした。

「うっ……!」

姫野が一瞬声を上げ、慌てて自分の口を両手で塞いだ。

「阿部?何してんの」

少し離れた場所から中川の声が聞こえた。

「トイレに本城が入ってるけど、なんか、」
「阿部、今すぐ戻りなさい」

中川の声が言う。

「え、でも、」
「トイレは1階にもあるだろ、とにかく今すぐそこから離れてそっとしておきなさい」

阿部の足音が遠ざかる。
本城は姫野に激しく口づけながら、くす、と笑った。

「中川はほんと、気が利く」

本城はしばらく姫野を激しいキスで追い込んでから、ふらふらしている姫野の手を引いてトイレを出た。
姫野の部屋のドアは閉まっていて、中からは、中川が何か言った後に野島と阿部が笑う声が聞こえた。
本城は、優しげな笑みを浮かべてドアに姫野を押しつけ、首筋にキスをしながら言った。

「みんなが帰ったらたくさん俺の相手してね。楽しみにしてる」

唇を離してから見下ろすと、潤んだ瞳で恨めしそうに見上げる姫野と視線がぶつかった。
もう。堪んない。
最後にもう一度、姫野の口に舌を突っ込んで乱暴に掻き回してから、ドアを開けて姫野1人を中に押し込んだ。
また閉めてから耳をすませば、一瞬部屋の中が静まる気配に続き、野島の「姫野くん大丈夫?」という声が聞こえて、それに満足した本城は、ケーキをしまいに1階のキッチンへ向かったのだった。







姫は今頃、本城に何をされてしまっているだろう。
クリスマス会を早々に切り上げて、他の3人を追い立てるようにして姫野の家を出た中川は、土屋と並んで歩きながらそんなことを考えていた。
前を歩いている野島と阿部は、夜は家族と過ごすと言う。
中川はこれから土屋と一緒にファーストフードで夕飯を済ませる予定だ。

「姫、エロかったな」

土屋が笑いを含んだ声で言うので見ると、お前も見ただろあの顔、とニヤリと笑われた。

「部屋戻ってきた時、絶対キスした直後だったよな」
「土屋も気づいた?唇濡れてたし、赤く腫れてたし」
「やべえな。本城あいつまじ怖えわ」
「ああ、今頃どうなっちゃってんの。やっぱ今日行かない方が良かったんじゃね」
「わかってねえなあ、お前は」

土屋は持っていた空のペットボトルで中川の肩を軽く叩いた。
ぽこん、と音がする。

「本城は姫を虐めて興奮すんだろ。そのネタ提供してやったんだから本城には感謝されてるって」
「はぁ?意味わかんね。姫がかわいそうじゃん」
「姫だっておいしい思いしてるに決まってんだろ。お前は気が回るけど、人間のドロドロした欲望の部分を知らなすぎ」
「どういう意味?」
「だからさ、」

土屋は突然、中川の後頭部に手をあてて自分の顔のすぐ側へ引き寄せた。

「なに、やめろ」
「中川、キスしていい?」
「は?!」

素っ頓狂な声を出した中川に、阿部と野島が振り返った。

「なあ、いいだろ」

土屋は構わず顔を近づけてきて、中川は女にモテるその瞳に一瞬見とれた。

「って良くない!全然良くないだろバカ!唐突に何なんだ!」
「冗談だよばか野郎。頼まれたってしねえよ」
「……前はしたくせに。教室で」

パッと手を放した土屋に、中川は非難の目を向けた。

「今みたいに、嫌がりながら強引にされるのが好きなやつも居んだよ。そういうのも勉強しとけよ」
「俺は違う!全然意味わかんねえから!」
「お前すげえ勢いで拒否るよな。本当はされたいんじゃねえの。強引なのが好きなら無理矢理してやろうか」
「いらねえよ死ね!チキンおごれ!」

立ち止まって待っていた野島がニコニコ笑って言った。

「中川くんと土屋くんはほんとに仲良しだね」

どこからどう見たらそうなるんだ、と中川が不満気な表情を浮かべていると、土屋がぼそりと呟く。

「なんで野島はあんなにかわいいんだ。ヤりてえ」
「野島逃げて!全力で逃げて!」
「ヤキモチやくなって。なに、俺とヤりたいのか」
「土屋もうお前ほんと帰れ!俺も帰ってAV観るもう!」
「AV?俺も観る!」

自棄になった中川の言葉に阿部が乗っかってこんがらがる。

「じゃあ野島は俺んちでAV観る?」
「えっと、僕は、あの、」
「やめろ!野島が最大級に困って赤くなってんだろうが!」
「中川ほんとうっせえ。お前何したいの」

俺は普通に女の子のいる世界で平和に過ごしたいだけだ!
という願いも虚しく、今日も気苦労の絶えない中川だった。







ケーキに手を伸ばして指にクリームを取った本城は、その指先を姫野の口に突っ込んだ。

「ケーキおいしい?」
「んっ!……」
「好きでしょ?生クリーム」

姫野は一瞬抵抗するように顔を背けかけたが、結局はその指についたクリームを丁寧に舐め取った。
まだ夕方の6時を過ぎたばかりなのに、姫野の部屋の窓から見える景色は既に闇の中で、光の下に晒された姫野の肌の白さが一層際立っている。

「みんな、思ったより早く帰っちゃったね。寂しい?」

恐らく中川が気を遣ったのだろうと予想しながら姫野に聞くと、姫野は指を舐めるのを止めて首を横に振った。

「…ゆきと、2人がいい…」

小さな声で返されて、本城は鼻で笑った。

「ふ、約束しちゃったくせに」

姫野の首に結んだ赤いリボンを指先でくいっと引っ張ると、リボンに通してある鈴がチリ、と音をたてた。

「お仕置きしなきゃね」

指先を胸の方へ静かに滑らせる。

「あぅ、う…」
「俺がどんなに悲しかったか、姫野にはわかんないでしょ」
「ご、めん、ゆき、」
「言い訳したい?」

指の動きを止めてじっと睨むと、姫野は鼻をすすりながら頷いた。
そのまま無言で言葉を促す。

「ほんとはっ…2人がよかったけど……どうやって誘っていいか、わかんなくて……みんな来るって言ったら、ゆきも来るかと思った…から……」

途切れ途切れに結ばれたかわいらしい言い訳に、本城は姫野から視線をそらしてくすくすと笑った。
それで、俺が行かないって言ったら怒ってたのか。
ほんと、かわいい。
かわいくてかわいくて、酷いことしたくなる。

「なんだ、そうだったの。早く言ってくれればトイレであんなことしなかったのに」

本城がまた指に生クリームを取るのを、姫野はぼんやりと見ている。

「俺たちがトイレでしてたこと、中川には多分全部バレてるよ」
「…え……」

隠せてると思ってたの?と聞きながら、本城は生クリームを姫野の乳首に塗りつけた。

「あっ、なに、」
「もしかしたら土屋もわかってるかも。あいつもそういうプレイ好きそうだし」
「や、やめて、取って」

話しながら胸に生クリームをなすりつけていく。

「阿部はわかんないだろうけど、野島にバレたら恥ずかしいね」
「やだ、いやぁっ!」

先程から勃ちっぱなしの姫野の先端にも、本城は生クリームをのせた。
救いを求めるように本城を見上げる姫野の口に、本城はまた指を突っ込む。

「イチゴも乗せちゃおうか」
「っんー」

力なく拒絶する姫野を完全に無視して、4分の1にカットされた真っ赤なイチゴを、本城は先端の生クリームに乗せた。

「ほら、おいしそう。後に取っておくから落としちゃダメだよ。落とさなかったらご褒美あげる」

半笑いで見下ろすと、姫野は切なげな吐息を洩らした。
本城は生クリームのついた乳首に吸い付き、甘いものをきれいに舐めとる。

「あっ、あ、…んっ、ゃ…」
「ん……姫野、甘い…」

もう片方の乳首に指を這わせてクリームを塗り広げながら、丁寧に舐め続けると、そこはほんのり赤く色づいた。

「おいしい」
「っやぁっ、あ、あぁっ、あ、」
「ふふ、ん、んくっ、」

塗り広げたクリームと、ベタベタになった乳首と指を、大きく口を開けて一気に口に含んで舐める。
舌を大きく動かすと体を跳ねさせ、それでもイチゴを落とさないようにそろりと腰を動かした姫野に、本城は少し笑った。

「がんばって。もう少し」
「や、もうっ、取って、あぁっ…あ、」

乳首を舌と指でコリコリと弾くと、姫野は胸を反らした。
その反動でかイチゴが滑り落ち、それを視界に留めた姫野は焦って指で掬った。

「あーあ、落ちたね」

見ると、先端につけたクリームが熱で溶け出している。白くねばついたものが姫野のものを汚していた。
本城が視線を前へ戻すと、口元にイチゴが差し出されていて、次の瞬間それは本城の口の中へ納まっていた。
本城は至近距離で姫野と見つめ合いながら、さっきまで姫野のものに乗っていたイチゴを咀嚼する。姫野は恥ずかしそうな、でも少し強気な顔でこちらを見ていた。
あれ、今までにないパターンだ。
少し興奮した本城は、姫野の首についている鈴を指で弾いた。

「何。反抗期?」

冷たい声で言う。姫野は黙ったままだ。

「まあいいや。ねえ、絶対に声出しちゃだめだよ。わかった?絶対だよ」

本城は全裸の姫野を掻き抱くと、舐めて濡らした指を孔へ差し込んだ。

「っ!」
「声出したら、続きしないから」

息を飲んだ姫野の耳元で念を押すと、指を激しく出し入れし始めた。
くちゅくちゅと音をたてるそこは、声を我慢するという緊張を強いられているからか、強張っていていつもより狭い。
今すぐ挿れてしまいたい衝動を抑え込みながら、本城はますます激しく指を動かした。
肩で息をしながら本城の体にしがみついている姫野が、ふと顔を上げた。

「ゆき」

消え入りそうな声で呼ばれて、本城は姫野の唇を見つめた。

「やさしく、して」

たっぷり5秒間、本城は黙って動くのをやめた。
お仕置きだって言ってるのに。
姫野は縋るようにしながら更に言った。

「ゆき……笑って」

小さな手がまた、本城を慰めるように頬を撫でた。

「……俺が怖い?」

聞くと、姫野は微かに首を振る。

「ゆき、寂しかったの?俺が、みんな誘ったから」

どうだろう、寂しかったのだろうか、と考えていたら、姫野が背伸びをして短いキスをしてきた。
唇の温かい感触に、本城の気持ちもほぐれる。

「寂しかったのかも」

答えると、姫野は少し嬉しそうな顔をして、それを見た本城の我慢は限界を越えた。
立っていた場所から姫野をベッドに運んで座らせると、向かい合うようにしゃがむ。べたべたに溶けたクリームのついた姫野のものを、本城は口で包んだ。

「あっん……」

姫野が声をたてる。身動ぎに合わせて鈴が鳴った。

「かわいいよ。姫野。大好きだよ」

優しく、優しく。
姫野が安心できるように、柔らかい手つきで腰を撫でる。
姫野を完全に勃たせたところで、立ち上がってベッドに膝をつき、口づけた。
優しく、優しく。
パタリと後ろに倒れた姫野を追って本城も前屈みになる。自分も服を脱ぎながら、本城は思う。
命令して従わせたり、痛くしたりして興奮する、そういう性癖を俺から引き出したのは姫野なのに。それさえこうやって簡単にねじ曲げられてしまった。
優しくするつもりなんか、全然なかったのに。
悔しいような気もしたが、それよりも、今微笑みながら自分を見上げている姫野のその顔を見られたことが、本城を舞い上がらせていた。

「どうしてそんなにかわいいの」

姫野の脚を開いて自分の欲望をぴたりと沿わせると、姫野が本城の首に腕を巻き付けた。

「じゃあ、ゆきはなんでそんな、……あぁっ、あ、ん…」

続きを聞きたいと思いながら、本城は腰を進める。
体の自由を奪って全てを自分のものにしたいのに、姫野のためならなんだって犠牲にできる気もした。

「不思議」

ゆっくり欲望を埋めながら呟くと、快感に目を閉じかけた姫野が問うような視線を投げてくる。

「姫野は永遠の謎」
「なに、それっあぁっん!」
「黙って」

規則的に突き上げて、姫野から言葉を奪う。喘ぎ声をもぎ取るように唇を塞ぎながら、考えることをやめて腰を動かした。
動きに合わせてまた鈴が音をたてた。
今日もまた、姫野の違う顔を見た。
これからもずっと、そういう日々がずっと、続きますように。

「姫野……好きだよ」
「…俺も……好き……」
「明日も会いたい」
「んっ…いい、けど…」
「俺だけのものでいて」
「あたりまえ、だし」

本当でも嘘でもいい。
ずっと俺のものでいるって誓ってほしい。

「たくさん出ちゃいそう」
「あっん、や、」
「きもちい?」
「あっあ、あ、あん、いいっ、あっ、」

姫野のものをきゅっと握ると、姫野の体がビクビク痙攣した。

「はっイく、ああぁ、あ、いいっ、ゆき、ぁあんっ!」
「…っ」

本城は最後に思いっきり奥を突いて、そこにどくどくと白濁を注ぎ込んだ。
久しぶりにごてごてに甘いセックスをしてしまったと思いながら、本城は姫野の上に体重を預けた。



呼吸が落ち着いてから、本城は姫野を胸に抱いて言った。

「来年のクリスマスは俺と2人で過ごしてくれる?予約しておきたいんだけど」

姫野の顔は見えない。
息を吸う音に続いて、小さな声が聞こえた。

「……いいけど」

自分の精神構造はどんどんひねくれて歪んで複雑になっていくのに、姫野は時と共に素直になる一方な気がした。
姫野がどう変わるにせよ、自分にとって都合がいいならなんでもいいと、本城はただ1人の愛しい人を思い切り抱きしめた。





-end-
2012 メリークリスマス


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