姫は王子のもの。

「姫野、今日は一緒に帰っていいかな?」
「…別にいいけど」

姫野未琴(ひめのみこと)が、問いかけに醒めた目で答える。
自分の問いにつれない答えを返す姫野を、恋人の本城雪哉(ほんじょうゆきや)が限りなく優しい目で見つめる。
クラスメイトたちにとっては見慣れた光景だ。
もっとも、姫野の答えはまちまちだ。

「図書館で宿題手伝って」
「気分が乗らないから嫌」
「イライラするから話しかけないで」などと、日替わりで本城を翻弄する。

だから今日は、『王子』にとっては幸運なことに『姫』の機嫌がよい、と、会話を聞いていた生徒たちは密かに胸を撫で下ろす。

姫野は、学年一背が低い。162センチ。
藍色に見えるほどの艶やかな黒髪。
色白の顔の中にある濃い色の鋭い瞳と、結ばれた厚い唇が、意思の強さと一筋縄ではいかない性格を表している。
しかしなぜか憎めない、嘘のつけないキャラクターと、男子校の中では目立ちすぎる、色気を伴うかわいらしさ。
姫野が、名前のせいだけでなく「姫」と呼ばれる所以だ。

一方の本城は、学校で一番背が高い。185センチ。
襟足まで伸びるウェーブがかった金髪やグレーの瞳が生まれつきだということを、ほとんどの生徒や教師が知っている。
日本人の、誰もが知る大企業の代表取締役である父と、イギリス人で元モデルの母を持つハーフ。
顔の作り、とりわけ長いまつ毛の下の大きな目が彼を目立たせる。
それと育ちの良さが窺える分け隔てなく優しい性格や柔らかい物腰により、本人は不本意に思っているが、冗談半分に彼を「王子」と呼ぶ者も多い。

姫と王子の身長差カップルは、ほぼ、学校公認カップルだ。



「姫野、今日はどこかに寄る?」
「寄らない」
「じゃあ帰るの?家まで送っていいかな?」
「…好きにすれば」

校門を出て大通り沿いを歩きながら、本城は姫野を見下ろしてにっこり微笑んだ。

「嬉しいよ、やっと姫野と2人になれた」
「よかったね」

仏頂面で答える姫野の本心を知るのは恐らく自分だけだろうと思うと、本城はどうがんばっても頬が緩むのを抑えられない。

「かわいいね、姫野」

本城は思わず姫野の耳元で言ってしまう。

「…っ」

顔色は変わらず、目が微かに游ぐ、その反応までが予想通りで、本城の胸は愛しさで満たされる。

「じゃあ姫野、また明日ね」

姫野の家の前で本城は手を伸ばす。
目の前にあるつやつやの黒髪。姫野が撫でられるのを好むことを知っているのは多分自分だけだ、と本城は思う。
恋人の自分以外が頭に触ることを、姫野のプライドが許すはずがない、と考えるのは思い上がりだろうか。

「…寄れば」

大人しく撫でられながら姫野が言う。決して本城の目を見ない。

「いいの?」
「いいから言ってんの。寒いから早くしてよ」

本当にかわいい。
姫野の素直にものを言わない性格を、本城は心から気に入っていた。その癖さえ知っていれば、きつい話し方や尖らせた唇まで全てが愛情表現に見えるから不思議だ。
王子はにこにこと姫の後に従った。



姫野の部屋に入ると、マフラーを外し、ベッドを背にして並んで床に座った。
途端に姫野は本城に心を許す。いつもそうだ。
顔を覗き込むと、姫野は本城の肩にコテンと頭をもたせかけた。

「どうしたの?」
「寒かった」
「そうだね。おいで、暖めてあげる」

腕を軽く広げると姫野は素直にその中に収まる。

「姫野、暖かい?」

わざと唇を耳に触れさせながら言う。こくん、と頷く恋人。

「押し倒して食べちゃいたいくらいかわいいよ」

吐息混じりに囁いてみる。姫野の体が一瞬震えたのがわかった。

「でも服脱いで姫野が風邪引いたら嫌だから、今日はこのままゲームでもしよっか」

少し体を離して言うと、姫野が顔を上げた。

「なんで…?」

思わず言ってしまった、というように口をつぐむ姫野を、本城はたっぷり時間をかけて見つめる。
沸き上がる衝動を抑えながら、胸がキリキリと締め上げられる感覚を舐めるように味わった。
かわいい。かわいいにも程がある。こうしていつも、めちゃくちゃにしたくなるんだよ。

「したい?」
「…別に」
「本当に?」
「本城がしたくないなら…別にいい」

本城は嬉しくなってしまい、ひとしきり笑った。それを見て姫野がむくれる。その顔がまた本城を喜ばせる。
ああ、もう、止まれない。

「俺はいつでもしたいよ」
「変態……んっ」

本城は姫野に口づけながら、そのまま軽く力を入れて押し倒した。
唇で挟み込むようにキスをする。
舌を絡めて貪り合うと、柔らかい粘膜が2人の唾液でどんどん濡れていく。

「んん……んふっ…っふう…」

音をたてて唇を何度も吸うと、姫野の口から吐息が漏れ出した。
それを聞いた本城はたがが外れたように姫野の口内を舌で激しく犯した。
本城はいつも、姫野の反応で自制がきかなくなっていく自分を感じる。どんどん、理性を奪われる。
めちゃくちゃにキスをしながら、性急に姫野の制服を剥ぎ取っていく。白い肌がむき出しになり、姫野が身をよじった。
そうしている間にも、本城はすぐにでも挿れたくてたまらなくなる。
姫野の呼吸も荒くなっていく。

「まだキスしかしてないのに…腰動いてるよ…」
「…っはや、く…さわってぇ…」

姫野が小さな声で誘う。
これだけの素直さを普段は一体どこに隠しているのかと考えて、本城は熱に浮かされながら、くすっと笑った。

「姫野のせいでこんなに固くなっちゃった…わかる?」

すでに昂ってしまっている自身を姫野の膝に擦り付けながら、突起に触れないように胸を撫で、聴覚を煽る。

「ぁあんんっ…!」

太ももに本城を感じた姫野が背中を反らせながら大きく喘ぐ。ぎゅっと目を瞑った姫野が、無意識でなのか、膝を本城の脚の間にあてて動かした。

「あとでこれ、姫野の中にいっぱい挿れてあげるからね」
「はぁっ……ゆき…」

潤んで蕩けた瞳が本城を捉えて、いつもより少し高くかわいい声が本城を呼んで、どんどん愛しさが募って、本城の欲望は膨れ上がる。

「あああっ!」

本城がたまらず胸の粒を口に含むと、高い喘ぎ声が聞こえた。
舌で捏ねるように舐め、唇で挟んで吸い、ちゅぷ、と音をたてて放す。舌全体を使って大きく擦り、舌先を尖らせて先端をいじめる。

「っんん……ぁあん…っや……ああぁ…」

何度も繰り返しながら、姫野の口から漏れる声を楽しんだ。
べちゃべちゃに濡れた突起が、吸われたことで赤く色づいて本城を煽る。
いつの間にか姫野の手が下に伸びていて、固くなった本城の中心を制服の上から握った。
本城は思わず息を乱して腰を震わせる。

「っ、姫野のえっち」
「…ゆきやの…舐めたい…」

言いながら姫野は本城のベルトをカチャカチャと外し、ファスナーを下ろした。
本城は体をずらして制服の下を脱ぎ、姫野の肩を跨いで片手を床につき、もう片方の手で自身をかわいい唇にあてがった。
姫野は、本城の手の上に自分の手を重ねて、ちゅ、ちゅ、と先端に何度もキスをしてから、口を開けてそれを含んだ。
ちゅくちゅくと熱い粘膜に擦られる感覚。
そのまま喉の奥まで一気に突き上げたい衝動を堪えて姫野の舌に舐め取られながら、姫野の頭を撫でる。
初めて互いの体を知ったのはもう随分前で、それ以来何度もこうして抱き合って、それでも全然足りない。
いつももっとほしくなって、もっと知りたくなって、もっと繋がって自分だけのものにしたくなった。
かわいい。たまらない。狂いそうだ。

「姫野、」

伝えたいことがありすぎて思わず呼ぶと、本城を口に含んだままで上目遣いに見つめられた。
また、熱が集まっていく。
結局、口をついて出たのは優しげな愛の言葉などではなくて、もっと淫靡な姫野を見たいがための直接的な煽り文句。

「もう、姫野の中に挿れてぐちゃぐちゃにしたくなった」

姫野は少し顔を赤らめながら口を離す。

「…口の中で出せばいいのに…」

本城はまだ、姫野の口で吐精したことがなかった。
上気した顔を見せながらも少し拗ねたように言うのは、自分の口でのやり方が良くないのだろうかという不安の裏返しだろうと想像して、また愛しさが溢れる。
本城は体を下にずらし、姫野の顔を間近に見ながら言う。

「姫野の中を掻き回しながら一緒にいきたいんだよ、1人でいったら寂しいでしょ」

さらに桃色に染まる頬。固くなる表情。
恥ずかしがっちゃって。攻めてるこっちがおかしくなりそうだ。

「姫野の口の中、気持ちいいよ。大好きだよ」

再び深く口づけてから、胸の突起を少し強めにつまんで、そこを固くした舌先で押し潰した。

「ぁあっ!やぁぁっ!」

急に戻った快感に、姫野が腹筋を震わせる。
本城は舌を動かしながら、あいている方の手で姫野の下を脱がせ、すべすべの太ももから脚の付け根までを何度も撫で上げた。

「…ぅあっ…いやぁぁっ……ゆ、き、…もう、さわってぇっ…」

本城は体を起こして姫野の肩の下に腕を入れて起き上がらせた。

「前も後ろもぐちゃぐちゃにしてあげるから、ベッドに上がって両手ついてごらん」

額にキスをしながら優しく言うと、姫野は浅い呼吸を繰り返しながらためらいがちに従った。

「ほら、こっちにお尻向けて」

ベッドを前に床に膝立ちになって本城が言うと、姫野は言われた通りに四つん這いになりながらも恥ずかしそうに振り返る。

「やらしいかっこ」

すべすべの肌を撫でながら、あちこちに舌を這わせる。姫野の呼吸が少し荒くなる。

「何を期待してるの?どうされたい?」
「…っ」
「ねぇ、前、ピクピクしてるよ。なんで?」
「や…見、ないで…」

わざと焦らしながら、局部を眺める。見られていることを知った姫野が、自身から透明な液体をぷく、と溢れさせた。

「嘘つき。見られて興奮してるくせに。えっちだね、姫野……濡れてるよ?何もしてないのに」

言葉を重ねるだけ溢れてくる先走りを手に受けながら、なおも双丘に手を這わすだけの本城に、姫野が焦れて自身に手を伸ばした。

「だめだよ、姫野の全部は俺のものなんだから。してほしいことがあるなら、ちゃんと言わなきゃだめだろ?」

伸ばされた手を取って本城が優しく言う。

「…俺のに…さわってっ…はやく、ねぇ、ぁぁんっ、ゆきっ…見られてるだけで、出ちゃいそ…」

姫野の腰が揺れる。

「自分の言葉でも興奮しちゃったの?本当にかわいいなぁ、姫野」
「ああああ!」

涎をたらし続けるそこを、本城が濡れた手のひらで強く包み込み、ゆっくり扱き始める。

「ぁあっ!…あん!…やぁ!…」

擦られるリズムに合わせたように姫野の口からかわいい声が出て、本城の手が速まっていく。

「気持ちいい?」
「んあっ…きもち、はぁっ…きもちぃ、ゆき…!ゆきや、ぁぁっ」

高まっていく姫野を見ながら、本城は後ろに顔を近づけ、蕾に舌を当てた。

「ああっ!」

姫野の体が強ばる。細い腕が崩れ落ちて、顔をシーツに埋めた。
下半身だけを掲げた体勢が、本城の理性をまた奪って、姫野を握った手が勢いを増していく。

「あ、ああ!いく、いっちゃう、ゆきや、あっああっ、いくぅぅぅ、う゛っあ、ああぁぁぁん!!!」

姫野が熱い欲望を吐き出した。
直後、手に受けきれなかった白濁をシーツにたらしながら、本城の濡れた指が、余韻に浸る姫野の孔を割った。

「やぁぁ!待って!本城、まだ、」
「待てない」

いつもより尖った声が出て、本城は自分の余裕の無さを思い知る。

「姫野見てたらおかしくなりそうだ…早く挿れたいよ」

うって変わって愛情を絡ませて囁くと、姫野が、好き、と呟いた。
ぐちゅぐちゅと音を立てながら本城の指が姫野を侵していく。その後の快感を知っているそこが、指を締め付けて中へ導こうとする。

「うっああっ、ああ!…気持ちいい、ぅう…もっと太くして…ゆき、おねがいぃ」

一気に指を3本に増やされても、姫野の感じる刺激に邪魔は入らないようだ。高い喘ぎ声をあげながら、姫野は腰を動かす。
そんな恥態を目の前に、本城の我慢が限界を迎え、指を抜いた。

「あん!…ゆき、や…」

切なそうな声で本城を呼び、振り返る姫野に、本城は立ち上がって自身の熱く焼ききれそうな先端をあてがった。

「あぁっっ…はぁっ」
「姫野、俺がほしい?」
「ほしぃ、ゆき、ゆきの、ほしい…」
「俺ので、どうしてほしい?」
「ゆきの、で、俺の中いっぱいにして、…たくさん、ぐちゃぐちゃに…し…うあ゛ぁぁぁああ!!!」

息切れの中で、必死に自分を欲してくれる姫野の声を聞きながら、本城はゆっくりと、しかし躊躇わずに姫野を貫いた。

「っ…姫野…」
「やぁぁ!いや、ああっ!」
「姫野、かわいいよ、大好きだ…」
「ゆき、ああ、あっ、」

緩やかに腰を動かしながら、後ろから乳首を弄ぶ。

「いあぁっ」

姫野の白い背中に、くっきりと背骨が浮き出ている。

「…っあ、姫野の中、きゅってなったよ?乳首、感じたの?」

言いながら本城は腰を回して、姫野の中を掻き回した。

「んあぁ…はあぁっ…それ…いい…っ」
「姫野はこれが好きだねー。俺だけが知ってる姫野の秘密、もっと増えればいいのに」

本城はぎりぎりまで自身を抜いて、勢いよく貫いた。

「あああっ!」

そのまま大きく揺さぶって、どんどん激しくする。
2人の喘ぎ声が充満していく部屋の中で、本城は胸が痛くなるほど姫野が好きだと自覚する。

「ねぇ、姫野っ、姫野は俺だけのもので…いてよ」
「いる、んん、いるからっ、…ゆきやだけの、んあぁ…ものに、してぇっ」
「あぁ、好き、好きだよ、」
「っ、お、れも…あっ、俺もすき、ゆきや、一緒に、いき、たい…」

姫野が苦しそうな顔で振り向いて、その顔だけでいきそうになる自分を押し留め、本城は姫野の体を反転させて向かい合った。

「いく顔、俺だけに見せて…姫野」

終わりの気配が2人の理性を支配する。

「あっ、あっ、ああっ、いく、いくぅ…あっ、んんん、いやぁぁぁあああ…!」
「っ未琴…」







強く抱き締めた体と体の間が、姫野が放ったもので濡れていく。
2人はそれに構わずに、相手の体に腕を回し、唇を合わせて、言葉にできない感情をぶつけ合った。
抱き合ったまま興奮がさめて、その後、どんな顔をしていいのかわからない。
だからいつも、姫野は後ろから抱きしめてもらえるように、本城に背中を向ける。
いつもは照れてまともに目さえ見られない、大好きな相手に、ああいう時だけ素直になれるのはなんでなんだろう。
最中のことを思い出して、恥ずかしさで死にたくなる。

「…姫野…寝た?」

後ろで本城が、やっと聞こえるような声で聞いたので、うん、と答える。
姫野を抱く腕に力がこもり、少し苦しくなった。

「痛い」
「ごめん」

笑いを含んだ声で本城が答えて、首筋にキスを落とされた。
本城に優しくされればされるほど、甘やかされれば甘やかされるほど、自分が子どもみたいにそれにすがるのが許せなくて、姫野は逃げたくなる。
でも結局いつもそれがほしくて、ぎりぎりのところで、本城が優しく差し伸べる手を待ってしまう。

いつまで俺を捕まえててくれるの。
どこまでのわがままなら許してくれるの。
失うのは怖いくせに、それを確かめたくて、明日もきっと、素直にはなれない。
今だけ。
今だけだからな。
抱き締めてくれる腕に、姫はキスを返した。


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