我慢できそうにありません
「のりちゃんさぁ、果物好き?」
くだもの。くだもの。
先輩に言われて固まっていたら、先輩はすぐに、正直に、と付け加えた。
危ない。また悪い癖が出るところだった。
「あんまり、まあ、その」
「得意では…」
「…ないですね」
そうか、と言って先輩が笑う。
ああ、かわいい。
「かわいいです、先輩」
「そっ、そういうとこばっか素直になっちゃって」
先輩は少し照れたみたいで、ぶっきらぼうに言った。
「あ、でも」
そういえばくだもので1つだけ。
「いちごだけは好きで」
「いちご!」
先輩の目が輝く。
「のりちゃん、今度休み合わせよう」
「あ、はい」
「そんで、いちご狩りデートをしよう」
「デート……」
先輩とデートだ。喜ばしい。どこに行ったって何をしたって、先輩と一緒なら。
「楽しみですね」
「うん」
先輩が、笑う。
ビニールハウスに入ると、途端に甘い匂いが強まった。
「うわぁ、すごいね」
「鈴なりですね」
「食べ放題だね」
先輩と俺は、あまりに平和なその光景に、当たり前のことを口にした。
先輩がしゃがんで、恐る恐るいちごを手にする。
「もいでいいんだよね」
「いっちゃいましょう、ブチンと」
「うん。ブチンとね」
先輩は小さな声でいただきますと言いながらいちごをもいだ。俺も続く。
真っ赤に熟れたいちごをもいでから先輩の顔を見る。
待ってくれていたらしく、目が合うとニコリと笑っていちごを口に入れた。
どうしよう。先輩がかわいい。
「うわ、甘い」
先輩は甘いを「あんまい」と発音した。
「ですね」
「おいしいね」
「はい」
「デートだね」
う、と言って固まった俺を、先輩は楽しそうに見ている。
「純情なのりちゃん」
「…純情って、いうのは、なんか、ちょっと違うような」
「だって今日はデートだよ、恋人と」
「デート、こ、恋、人と」
はははと笑う先輩に、顔が熱くなる。
「昼メシ抜いてきた甲斐があったなぁ。こんなに食べ頃のいちごがいっぱい。あ、でものりちゃんは無理すんなよ。無理したらまた説教だから」
「…先輩、優しいですね」
「ねえ広範」
先輩の目がキラキラしている。
「一番おいしそうないちごを見つけた方が勝ち」
「あ、はい」
「よーいドン!」
子どもみたいに楽しそうな先輩を見ていたら、幸せで堪らなくなった。
しゃがみこんでいちご達に手を伸ばす。
これは違う。これも違う。
じっと見つめながら品定めしていく。
ふと顔を上げると、向かい側の列で先輩がひどく真剣な顔をしていちごを探していた。
視界まで甘い。
「あった?」
「あ、はい、一応。先輩は?」
「ふふふ、ありましたよ」
先輩は両手を、おにぎりを握るみたいな形に重ねて笑った。俺も真似をしていちごを隠す。
「せーので見せるよ」
「はい」
「せーの」
「うわ」
「おおっ」
先輩の手にあるのは、俺のより小ぶりだけれど真っ赤に熟れていて綺麗な形のいちごだった。
「これは、先輩の勝ちですね」
「そうかな、のりちゃんのもヤバい。大きくておいしそう」
俺は自分のいちごのヘタを取り、にこにこしている先輩の口元に差し出した。
「先輩、口、開けて」
素直に開かれた口に、そっといちごを入れる。ピンクの舌が覗いた。
ゆっくり閉じられた唇に一瞬指が触れて、心拍数が上がる。
いちごを咀嚼する間、先輩は俺の目を見ていて、怪しい気持ちになりかけた。
喉仏が上下して、先輩がいちごを飲み込んだ。
「あまーい!すごい!な、のりちゃんも食べて、俺の」
「先輩、セリフが、エロくて」
「は?え、なに、ああ……もう!エロのりめ!」
「エロのり…」
変なあだ名がついて凹んでいると、綺麗な形のいちごが差し出された。
「広範、俺のいちご、食べて?」
先輩はふざけてわざとエロい声を出して言った。
どきどきして先輩の目を全然見られない。
口を開けると先輩の指がいちごを運んで、ポロっと中に入れてくれる。
その瞬間口を閉じて指を捕まえる。仕返しだ。
「あっ、ちょっと、のりちゃん」
焦る先輩がかわいくて、わざとゆっくり舌を動かして、綺麗な指の形を確かめる。
こうなると俺の心はしんと静まる。
「…のりちゃん……」
眉を下げて恥ずかしそうにしている先輩を堪能して、いちご味の指も堪能して、それからやっと解放した。
「もう……」
先輩は頬を少し赤くしてムスッとしている。
俺はそれからゆっくりいちごを噛んで飲み込んだ。
「甘いです」
「何が」
「いちご」
「ああ、いちごね、いちご」
先輩は、はいはいいちごねと言いながらまたいちごを探し始めた。
「先輩」
俺はしゃがんで先輩の耳に口を近づける。
「先輩の味はまたあとで確かめますね」
「なっ、この…エロのり!」
「エロのり……」
「帰り、のりちゃんち寄るね」
先輩がさりげなく俺の手に触れて、不本意なあだ名に対する不満は散っていく。
「先輩、エロいこと考えてます?」
「考えてないです」
「嘘ついても駄目ですよ。ここ、濡れてますよ」
しゃがんだ先輩のお尻をさらっと触ると、先輩がハッとした顔をした。
それを見て笑うと、先輩が顔を赤くした。
「やっぱり。エロいこと考えてたんですね」
「ひどい。のりちゃん。この二重人格」
「すみません」
かわいくてかわいくて、遠慮なく虐めたくなってしまう。触って、舐めて、涙目にさせたい。
「せっかく来たからいちご、たくさん食べましょう」
「……うんー」
先輩はもじもじしながらいちごを探し始めた。
「んんっ、は、んぅっ……のりちゃん……ん……」
玄関のドアを閉めてすぐ、家に入るまで我慢していたキスを仕掛けると、先輩はとろんとした顔で受けてくれた。
先輩の頭を撫でながら、持ち帰り用に箱に入れてもらったいちごを傍らに置く。
「先輩」
「んっ、や、やめっ」
後ろに両手を回して小さいお尻を揉み上げる。
「かわいいですよ、先輩」
「……えっち」
「ここでしていいですか」
「えっ」
先輩は後ろを振り返る。
先輩は外へ続くドアを背にして立っていて、鍵は開いていた。
「か、鍵、閉めたい」
「大丈夫ですって。誰も来ませんよ。手、ついて下さい」
先輩をドアへ向かせて前に手を回し、ゆっくりデニムのジッパーを下げる。
はあ、はあ、と息をしながら素直に俺に身を委ねてくれる先輩を、虐めたくて仕方がなくなった。
「先輩」
「な、に」
「ここから、自分で出して下さい」
「…自分で?」
「ここから、手入れて」
ジッパーを下ろしただけのそこに先輩の手を導き、後ろから肩越しに下を覗く。
「恥ずかしいよ…」
「どうしてですか。恥ずかしいくらい勃起してるんですか」
「…違う…」
先輩はゆっくり自分のものに手を添えて、それを露出させた。
「あぁ」
先輩が熱い息を吐いた。
「違わないじゃないですか。すげえ。こんなに」
「あっ、ん、や、見ないで」
「興奮してるんですか」
「して、ない…」
「先輩、嘘つきって言われたいんですね」
先輩の綺麗な手がイヤらしく勃起して濡れたものを握っている。その上から包み込むようにして、ゆっくり優しく扱いてやる。
「やっん、んっ、んっ」
かわいい声を上げる先輩に我慢ができなくなって、ドアに押し付けて後ろから唇を貪る。
「先輩」
「あっ、あぁん、のりちゃん…」
「ほら。手、動かして下さい」
「あっ、はぁ、はぁ、はぁっ」
その時、ドアの向こうで人の歩く音が近づいてきた。途端に先輩の体が強ばる。
「だ、誰か、来た」
「うちに宅急便だったりして」
「え、や、やだ、のりちゃん、放して」
「嫌です」
「のり、っいや!」
逃げようとする先輩を改めてドアに押し付ける。ドス、と音がした。
「今ドア開いたら大変ですね」
「っん、んふぅ、ん、う」
先輩は自分の手で口を押さえている。
「先輩…挿れてあげる」
「ぁ、はぁ、だめ…」
小さな声で拒否しながら、先輩のものがビクッと反応した。
「欲しいですよね」
自分のジッパーを下げると、先輩が手を後ろにやって俺のぺニスを外に出した。
「欲しいんだ」
「あっ、あ、はぁ、のりちゃん」
「かわいい。先輩、まじ、大好きです」
かわいい。かわいすぎて、めっちゃくちゃにしたい。外の誰かにも、かわいい声を聞かせてやりたい。
「ああっ!だめ、だめぇ!」
腰を掴んでズボンを下ろし、そのまま挿入する。
「やぁっ!まだ、入んない!ああっ!あっ」
「ふぅ…入ってますよ」
「いや、だぁ…」
「すげえ…中、ぎゅうぎゅうだ」
ゆっくり何回か出し入れすると、先輩の体から段々力が抜けていくのがわかった。
「はぁ、はぁ、のりちゃん」
「気持ち、いいですか」
「のりちゃんっ、もっと…」
「もっとしてほしいすか」
「ああぁっ!……あぁ…」
一度ガツンと奥までつっこんで、そこからまたゆっくり引き抜いて優しくしてあげると、先輩は甘い声を出して腰を揺らした。
「まじエロいっすね」
先輩はゆっくりと頭を振った。
先輩の首筋を舐め上げながら、両手首を掴んでドアに固定する。
「先輩、俺が欲しいって言って下さい」
「え、や、やだ、声、聞こえるっ」
「遅くないですか、その心配」
「あっ…!まっ、待って、だめっああっ!」
「さっき散々大きい声出てましたよ。ね、言って下さい…俺が欲しいって」
先輩は優しいからきっと言ってくれると思ってぴたりと止まると、先輩は少しだけ顔を後ろに向けた。
「はぁっ…のりちゃん……」
「はい」
「のりちゃん、欲しいよ…のりちゃん、もう、お願い…して…」
ああ。もう。
「あ゛ぁっ」
「好きです、先輩」
両手を掴んだまま腰を激しく前後に動かす。
「あっ、あぁ、あ、んっんっんっ」
「聞こえる。外に」
「ひ、いや、あっあっ広範、や、やぁっすき、好きだよ、のりちゃん、あぁ」
先輩が右手を上から後ろに伸ばして俺の頭を撫でる。
「先輩」
好きだ。
「のりちゃんっ、あっああ、もっと、もっとして!イヤらしいことして、のりちゃん」
好きだよ先輩。
「ああっ、あ、や…うぅっ、はげし…あぁ……」
「先輩、もっと声出して…」
「んっああっあっあっあっ」
記憶が飛びそうなくらい激しく先輩の中を擦る。ドアがガンガンと音をたてている。
ふと、ドアの外に人の気配を感じた。
音がしたわけではないし、アンアン言っている先輩は感じ取れなかったらしい、小さな気配。
それでもそこに、宅配業者かそうではないのかとにかく誰かがいて、先輩の声を聞いていると俺は確信した。
確信して、興奮した。
先輩と付き合う前は他人に自分の恋愛対象や性癖を知られるのがあんなに怖かったのに、という思いは一瞬で掻き消える。
「やばい…先輩、もっと激しくしていいですか」
「あ、あっ、だめぇ!やあっあっあっん、く、あっ!んっあっあっあっ」
先輩の体が浮くくらいの勢いで突き上げながら、先輩の手を放してドアノブを握った。
「俺がここ、開けたらどうします」
先輩の耳元で言う自分の声も小刻みに揺れる。先輩の中がきゅうと締まった。
「こわい、から、やめて、よっ」
「あぁ、先輩、イきそう」
「のりちゃっ、ん、好き、う、好きだよっ、あん、あぁ」
「大好き、先輩、かわいい」
ビタビタと肌が肌を打つ音と荒い呼吸が先輩と俺の耳を支配して、あとは何も聞こえなくなる。
視界には先輩の頭と、その先のドアについた綺麗な手。
綺麗な指、指、指が
「イっちゃ、う、のり、ちゃん、っあぁ!」
「俺も、もう、イくっ」
「ああ、あ、は、うぅーっ」
一気に脱力して、たたきに座り込みそうになった先輩を両腕で支えて抱き抱えた時、遠ざかる微かな足音を聞いた気がした。
「せ、先輩、大丈夫ですか」
「大丈夫だよ。のりちゃんはそれ、変わんないな。終わったらすぐ、おどおどし出すんだから」
ベッドに横になってもらい、怖々聞くと、笑顔と共に指が伸びてきて俺の頬を撫でていった。
「すみません…いっつも、なんか、無理させちゃって……」
「いいって。俺だって散々、…ねだっちゃったし……」
先輩が照れくさそうに言って、それから手で顔を覆ってしまった。
「恥ずかしい」
「かっ、かわいすぎて、先輩が、もう……人間とは思えません」
「褒められてる気がしないんだけど」
「……さっき外に、」
言った途端、先輩ががばりと起き上がった。
「誰か来たとか言ってたよね!ほんと?どうしよう…!聞こえたかな……」
先輩があまりに恥ずかしそうなので、言わないでおくことにする。
「いえ。通りすぎる音だったし、大丈夫だと思います」
そっかそっか気を付けなきゃね、と言って先輩はまた横になった。
軽く夕飯を食べて、持ち帰ったいちごを半分袋に入れて先輩に渡し、必要ないと言う先輩を押しきって家まで送った。
「なんで?俺、男なんだから大丈夫なのに。まあ、嬉しいけどさ」
先輩の家の前で、先輩は俺を見上げた。
「すみません、あの、一応です、一応」
さっき聞いていた奴が危ないやつではないという保証はない。冷静になった今、ひどく後悔していた。万が一、先輩が危ない目に遭ったら。
「過保護な彼氏だね」
「すみ、ません……大事なんで」
先輩は、むふふ、と笑った。
「のりちゃんこそ、帰り気を付けてよ」
「俺なんか、なんとでもなるんで。大丈夫です」
のりちゃんは優しいな、と言って先輩が微笑んで、俺はまた胸が苦しくなった。
好きです。先輩。
こんなにかわいいんだから、襲われたり誘拐されたりという可能性もあると、そう思ってしまうくらいに、先輩はかわいい。
そして相変わらず、手が綺麗だ。
考えながら1人、家に向かって歩く。
先輩と付き合い始めて、少しずつ先輩が近くなって、先輩といることにも少しずつ慣れて、気が緩んでいる、と、自分に喝を入れるために両頬をぺちりと叩いた。
守らなきゃ。その責任が、強引に手を出した俺にはある。
大切な人の笑顔を思い出して拳を握る。
一瞬、甘いいちごの香りが鼻をくすぐった気がした。
-end-
2013.10.2
くだもの。くだもの。
先輩に言われて固まっていたら、先輩はすぐに、正直に、と付け加えた。
危ない。また悪い癖が出るところだった。
「あんまり、まあ、その」
「得意では…」
「…ないですね」
そうか、と言って先輩が笑う。
ああ、かわいい。
「かわいいです、先輩」
「そっ、そういうとこばっか素直になっちゃって」
先輩は少し照れたみたいで、ぶっきらぼうに言った。
「あ、でも」
そういえばくだもので1つだけ。
「いちごだけは好きで」
「いちご!」
先輩の目が輝く。
「のりちゃん、今度休み合わせよう」
「あ、はい」
「そんで、いちご狩りデートをしよう」
「デート……」
先輩とデートだ。喜ばしい。どこに行ったって何をしたって、先輩と一緒なら。
「楽しみですね」
「うん」
先輩が、笑う。
ビニールハウスに入ると、途端に甘い匂いが強まった。
「うわぁ、すごいね」
「鈴なりですね」
「食べ放題だね」
先輩と俺は、あまりに平和なその光景に、当たり前のことを口にした。
先輩がしゃがんで、恐る恐るいちごを手にする。
「もいでいいんだよね」
「いっちゃいましょう、ブチンと」
「うん。ブチンとね」
先輩は小さな声でいただきますと言いながらいちごをもいだ。俺も続く。
真っ赤に熟れたいちごをもいでから先輩の顔を見る。
待ってくれていたらしく、目が合うとニコリと笑っていちごを口に入れた。
どうしよう。先輩がかわいい。
「うわ、甘い」
先輩は甘いを「あんまい」と発音した。
「ですね」
「おいしいね」
「はい」
「デートだね」
う、と言って固まった俺を、先輩は楽しそうに見ている。
「純情なのりちゃん」
「…純情って、いうのは、なんか、ちょっと違うような」
「だって今日はデートだよ、恋人と」
「デート、こ、恋、人と」
はははと笑う先輩に、顔が熱くなる。
「昼メシ抜いてきた甲斐があったなぁ。こんなに食べ頃のいちごがいっぱい。あ、でものりちゃんは無理すんなよ。無理したらまた説教だから」
「…先輩、優しいですね」
「ねえ広範」
先輩の目がキラキラしている。
「一番おいしそうないちごを見つけた方が勝ち」
「あ、はい」
「よーいドン!」
子どもみたいに楽しそうな先輩を見ていたら、幸せで堪らなくなった。
しゃがみこんでいちご達に手を伸ばす。
これは違う。これも違う。
じっと見つめながら品定めしていく。
ふと顔を上げると、向かい側の列で先輩がひどく真剣な顔をしていちごを探していた。
視界まで甘い。
「あった?」
「あ、はい、一応。先輩は?」
「ふふふ、ありましたよ」
先輩は両手を、おにぎりを握るみたいな形に重ねて笑った。俺も真似をしていちごを隠す。
「せーので見せるよ」
「はい」
「せーの」
「うわ」
「おおっ」
先輩の手にあるのは、俺のより小ぶりだけれど真っ赤に熟れていて綺麗な形のいちごだった。
「これは、先輩の勝ちですね」
「そうかな、のりちゃんのもヤバい。大きくておいしそう」
俺は自分のいちごのヘタを取り、にこにこしている先輩の口元に差し出した。
「先輩、口、開けて」
素直に開かれた口に、そっといちごを入れる。ピンクの舌が覗いた。
ゆっくり閉じられた唇に一瞬指が触れて、心拍数が上がる。
いちごを咀嚼する間、先輩は俺の目を見ていて、怪しい気持ちになりかけた。
喉仏が上下して、先輩がいちごを飲み込んだ。
「あまーい!すごい!な、のりちゃんも食べて、俺の」
「先輩、セリフが、エロくて」
「は?え、なに、ああ……もう!エロのりめ!」
「エロのり…」
変なあだ名がついて凹んでいると、綺麗な形のいちごが差し出された。
「広範、俺のいちご、食べて?」
先輩はふざけてわざとエロい声を出して言った。
どきどきして先輩の目を全然見られない。
口を開けると先輩の指がいちごを運んで、ポロっと中に入れてくれる。
その瞬間口を閉じて指を捕まえる。仕返しだ。
「あっ、ちょっと、のりちゃん」
焦る先輩がかわいくて、わざとゆっくり舌を動かして、綺麗な指の形を確かめる。
こうなると俺の心はしんと静まる。
「…のりちゃん……」
眉を下げて恥ずかしそうにしている先輩を堪能して、いちご味の指も堪能して、それからやっと解放した。
「もう……」
先輩は頬を少し赤くしてムスッとしている。
俺はそれからゆっくりいちごを噛んで飲み込んだ。
「甘いです」
「何が」
「いちご」
「ああ、いちごね、いちご」
先輩は、はいはいいちごねと言いながらまたいちごを探し始めた。
「先輩」
俺はしゃがんで先輩の耳に口を近づける。
「先輩の味はまたあとで確かめますね」
「なっ、この…エロのり!」
「エロのり……」
「帰り、のりちゃんち寄るね」
先輩がさりげなく俺の手に触れて、不本意なあだ名に対する不満は散っていく。
「先輩、エロいこと考えてます?」
「考えてないです」
「嘘ついても駄目ですよ。ここ、濡れてますよ」
しゃがんだ先輩のお尻をさらっと触ると、先輩がハッとした顔をした。
それを見て笑うと、先輩が顔を赤くした。
「やっぱり。エロいこと考えてたんですね」
「ひどい。のりちゃん。この二重人格」
「すみません」
かわいくてかわいくて、遠慮なく虐めたくなってしまう。触って、舐めて、涙目にさせたい。
「せっかく来たからいちご、たくさん食べましょう」
「……うんー」
先輩はもじもじしながらいちごを探し始めた。
「んんっ、は、んぅっ……のりちゃん……ん……」
玄関のドアを閉めてすぐ、家に入るまで我慢していたキスを仕掛けると、先輩はとろんとした顔で受けてくれた。
先輩の頭を撫でながら、持ち帰り用に箱に入れてもらったいちごを傍らに置く。
「先輩」
「んっ、や、やめっ」
後ろに両手を回して小さいお尻を揉み上げる。
「かわいいですよ、先輩」
「……えっち」
「ここでしていいですか」
「えっ」
先輩は後ろを振り返る。
先輩は外へ続くドアを背にして立っていて、鍵は開いていた。
「か、鍵、閉めたい」
「大丈夫ですって。誰も来ませんよ。手、ついて下さい」
先輩をドアへ向かせて前に手を回し、ゆっくりデニムのジッパーを下げる。
はあ、はあ、と息をしながら素直に俺に身を委ねてくれる先輩を、虐めたくて仕方がなくなった。
「先輩」
「な、に」
「ここから、自分で出して下さい」
「…自分で?」
「ここから、手入れて」
ジッパーを下ろしただけのそこに先輩の手を導き、後ろから肩越しに下を覗く。
「恥ずかしいよ…」
「どうしてですか。恥ずかしいくらい勃起してるんですか」
「…違う…」
先輩はゆっくり自分のものに手を添えて、それを露出させた。
「あぁ」
先輩が熱い息を吐いた。
「違わないじゃないですか。すげえ。こんなに」
「あっ、ん、や、見ないで」
「興奮してるんですか」
「して、ない…」
「先輩、嘘つきって言われたいんですね」
先輩の綺麗な手がイヤらしく勃起して濡れたものを握っている。その上から包み込むようにして、ゆっくり優しく扱いてやる。
「やっん、んっ、んっ」
かわいい声を上げる先輩に我慢ができなくなって、ドアに押し付けて後ろから唇を貪る。
「先輩」
「あっ、あぁん、のりちゃん…」
「ほら。手、動かして下さい」
「あっ、はぁ、はぁ、はぁっ」
その時、ドアの向こうで人の歩く音が近づいてきた。途端に先輩の体が強ばる。
「だ、誰か、来た」
「うちに宅急便だったりして」
「え、や、やだ、のりちゃん、放して」
「嫌です」
「のり、っいや!」
逃げようとする先輩を改めてドアに押し付ける。ドス、と音がした。
「今ドア開いたら大変ですね」
「っん、んふぅ、ん、う」
先輩は自分の手で口を押さえている。
「先輩…挿れてあげる」
「ぁ、はぁ、だめ…」
小さな声で拒否しながら、先輩のものがビクッと反応した。
「欲しいですよね」
自分のジッパーを下げると、先輩が手を後ろにやって俺のぺニスを外に出した。
「欲しいんだ」
「あっ、あ、はぁ、のりちゃん」
「かわいい。先輩、まじ、大好きです」
かわいい。かわいすぎて、めっちゃくちゃにしたい。外の誰かにも、かわいい声を聞かせてやりたい。
「ああっ!だめ、だめぇ!」
腰を掴んでズボンを下ろし、そのまま挿入する。
「やぁっ!まだ、入んない!ああっ!あっ」
「ふぅ…入ってますよ」
「いや、だぁ…」
「すげえ…中、ぎゅうぎゅうだ」
ゆっくり何回か出し入れすると、先輩の体から段々力が抜けていくのがわかった。
「はぁ、はぁ、のりちゃん」
「気持ち、いいですか」
「のりちゃんっ、もっと…」
「もっとしてほしいすか」
「ああぁっ!……あぁ…」
一度ガツンと奥までつっこんで、そこからまたゆっくり引き抜いて優しくしてあげると、先輩は甘い声を出して腰を揺らした。
「まじエロいっすね」
先輩はゆっくりと頭を振った。
先輩の首筋を舐め上げながら、両手首を掴んでドアに固定する。
「先輩、俺が欲しいって言って下さい」
「え、や、やだ、声、聞こえるっ」
「遅くないですか、その心配」
「あっ…!まっ、待って、だめっああっ!」
「さっき散々大きい声出てましたよ。ね、言って下さい…俺が欲しいって」
先輩は優しいからきっと言ってくれると思ってぴたりと止まると、先輩は少しだけ顔を後ろに向けた。
「はぁっ…のりちゃん……」
「はい」
「のりちゃん、欲しいよ…のりちゃん、もう、お願い…して…」
ああ。もう。
「あ゛ぁっ」
「好きです、先輩」
両手を掴んだまま腰を激しく前後に動かす。
「あっ、あぁ、あ、んっんっんっ」
「聞こえる。外に」
「ひ、いや、あっあっ広範、や、やぁっすき、好きだよ、のりちゃん、あぁ」
先輩が右手を上から後ろに伸ばして俺の頭を撫でる。
「先輩」
好きだ。
「のりちゃんっ、あっああ、もっと、もっとして!イヤらしいことして、のりちゃん」
好きだよ先輩。
「ああっ、あ、や…うぅっ、はげし…あぁ……」
「先輩、もっと声出して…」
「んっああっあっあっあっ」
記憶が飛びそうなくらい激しく先輩の中を擦る。ドアがガンガンと音をたてている。
ふと、ドアの外に人の気配を感じた。
音がしたわけではないし、アンアン言っている先輩は感じ取れなかったらしい、小さな気配。
それでもそこに、宅配業者かそうではないのかとにかく誰かがいて、先輩の声を聞いていると俺は確信した。
確信して、興奮した。
先輩と付き合う前は他人に自分の恋愛対象や性癖を知られるのがあんなに怖かったのに、という思いは一瞬で掻き消える。
「やばい…先輩、もっと激しくしていいですか」
「あ、あっ、だめぇ!やあっあっあっん、く、あっ!んっあっあっあっ」
先輩の体が浮くくらいの勢いで突き上げながら、先輩の手を放してドアノブを握った。
「俺がここ、開けたらどうします」
先輩の耳元で言う自分の声も小刻みに揺れる。先輩の中がきゅうと締まった。
「こわい、から、やめて、よっ」
「あぁ、先輩、イきそう」
「のりちゃっ、ん、好き、う、好きだよっ、あん、あぁ」
「大好き、先輩、かわいい」
ビタビタと肌が肌を打つ音と荒い呼吸が先輩と俺の耳を支配して、あとは何も聞こえなくなる。
視界には先輩の頭と、その先のドアについた綺麗な手。
綺麗な指、指、指が
「イっちゃ、う、のり、ちゃん、っあぁ!」
「俺も、もう、イくっ」
「ああ、あ、は、うぅーっ」
一気に脱力して、たたきに座り込みそうになった先輩を両腕で支えて抱き抱えた時、遠ざかる微かな足音を聞いた気がした。
「せ、先輩、大丈夫ですか」
「大丈夫だよ。のりちゃんはそれ、変わんないな。終わったらすぐ、おどおどし出すんだから」
ベッドに横になってもらい、怖々聞くと、笑顔と共に指が伸びてきて俺の頬を撫でていった。
「すみません…いっつも、なんか、無理させちゃって……」
「いいって。俺だって散々、…ねだっちゃったし……」
先輩が照れくさそうに言って、それから手で顔を覆ってしまった。
「恥ずかしい」
「かっ、かわいすぎて、先輩が、もう……人間とは思えません」
「褒められてる気がしないんだけど」
「……さっき外に、」
言った途端、先輩ががばりと起き上がった。
「誰か来たとか言ってたよね!ほんと?どうしよう…!聞こえたかな……」
先輩があまりに恥ずかしそうなので、言わないでおくことにする。
「いえ。通りすぎる音だったし、大丈夫だと思います」
そっかそっか気を付けなきゃね、と言って先輩はまた横になった。
軽く夕飯を食べて、持ち帰ったいちごを半分袋に入れて先輩に渡し、必要ないと言う先輩を押しきって家まで送った。
「なんで?俺、男なんだから大丈夫なのに。まあ、嬉しいけどさ」
先輩の家の前で、先輩は俺を見上げた。
「すみません、あの、一応です、一応」
さっき聞いていた奴が危ないやつではないという保証はない。冷静になった今、ひどく後悔していた。万が一、先輩が危ない目に遭ったら。
「過保護な彼氏だね」
「すみ、ません……大事なんで」
先輩は、むふふ、と笑った。
「のりちゃんこそ、帰り気を付けてよ」
「俺なんか、なんとでもなるんで。大丈夫です」
のりちゃんは優しいな、と言って先輩が微笑んで、俺はまた胸が苦しくなった。
好きです。先輩。
こんなにかわいいんだから、襲われたり誘拐されたりという可能性もあると、そう思ってしまうくらいに、先輩はかわいい。
そして相変わらず、手が綺麗だ。
考えながら1人、家に向かって歩く。
先輩と付き合い始めて、少しずつ先輩が近くなって、先輩といることにも少しずつ慣れて、気が緩んでいる、と、自分に喝を入れるために両頬をぺちりと叩いた。
守らなきゃ。その責任が、強引に手を出した俺にはある。
大切な人の笑顔を思い出して拳を握る。
一瞬、甘いいちごの香りが鼻をくすぐった気がした。
-end-
2013.10.2
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