我慢できそうにありません

「どう?慣れた?」
「はい、少しは」

バイトが終わってロッカールームで一息ついていたら、休憩に入ったらしい先輩が入ってきて声をかけてくれた。隣で首を傾げているらしい先輩を、俺は直視できないでいる。
その落ち着いた感じの少し鼻にかかる声も、ものすごくツボだ。



大学1年の俺は根っからのゲイで、しっかりしていて面倒見の良い年上の人が好みで、たまたまバイト先の新人教育担当の先輩がそういう人で。
何気なくフォローしてくれたり、失敗してもできるようになるまで気長に待ってくれる2歳上のその先輩に落ちるのに、そう時間はかからなかった。

ただでさえ叶わない恋ばかりなのに、惚れっぽい俺は不幸だ。



「時間見つけてここのポスター貼り替えて」
「はい」

優しい声。きっぱりと的確な指示をくれる唇。笑うと皺が寄る目尻。カラーリングで少し茶色がかった髪。俺より少しだけ背の低い、きれいな体のライン。
そして、細い、長い指。
好きだ。
好きだ。

バイト先は大学近くのCDショップ。俺のシフトは夕方からで、試用期間の今は、同じく大学生の先輩とシフトを被らせてもらっている。

俺に仕事の指示をしてから、先輩は近々4枚組のベスト版を出す海外のアーティストのポップを描き始めた。

その細長い指が、黒い紙の上で銀色のサインペンをさらさらと動かす。みとれそうになる視線をひっぺがして、古いポスターを留めているピンを外しにかかる。

不毛なんだよ。いつもいつも。どうして、わかっていても好きになってしまうんだろう。
疲れて傷ついてもうやめようと思うのに、すぐまた恋をする。物覚えの悪い犬みたいに、同じことを繰り返す。

どうにかして少しだけそばに行けないか、ちょっとだけでいいから触れられないかと、考えてしまう。

「のりちゃんは、彼女とかいるの」

描く手を止めないまま、先輩はこちらを見ずに俺に聞いた。

ひろのり、だからのりちゃん。

先輩の声はいつもふんわりと笑みを含んでいる。ずっと聞いていたい、と思っていたら返事が遅れた。

「のりちゃん?」
「あ、は、え、いや、」

狼狽えすぎてくす、と笑われた。

「連休近いからさ、デートとかあるなら早めにシフトの希望出しなよ。早い者勝ちだから」
「あ、いや、俺はまだ新人なので、そんな」

彼女なんかいません。いたこともありません。ここ2週間は毎日毎日先輩のこと考えて悶々として眠れない日々を過ごしているけど明日になればまた先輩に会えると思ったらますます眠れなくて大変ですでも幸せです好きです好きです大好きです先輩。

と言えない代わりに勇気を出してみる。

「先輩は」
「ん」
「先輩はいますか、彼女」
「いやぁ?」

横顔は穏やかだ。

「しばらくいないよ。あとさ、」

先輩が顔を上げる。

「先輩ってのやめない?この店のみんながのりちゃんの先輩なわけじゃない?なんで俺だけ苗字にさん付けじゃないの?」

それは。ひなたという先輩の苗字があまりにその笑顔に似合っていて呼ぶ度に心臓が壊れそうだからです好きです好きです大好きです。

バイトを始めて2週間。想いが深くなるのには、出会ってからの時間の長短なんか関係ないと、俺は痛感していた。



閉店してからの作業は2人体制で、今日初めて俺もその作業を任された。他の遅番のバイトたちが軽い挨拶をしながら帰っていく。

レジ締めや掃除や整頓をして、先輩が明日の早番への連絡事項をパソコンへ打ち込む。先輩のキーを打つ鮮やかな指使いを見ていたらなんだか変な気持ちになりそうで、そばにあったアイドルグループの販促フライヤーを手に取った。

「のりちゃん、そういう感じの好き?」

先輩は面白そうに俺に聞いた。

「いえ…」
「のりちゃんてあんまり話さないのな。まだ緊張してる?大丈夫だよ、良くやってるよ?」

緊張なんかするに決まってます、先輩と2人なんだから。だからその笑顔をやめてください、そんなに優しくされたら、俺は。

「俺の目もあんまり見てくれないし。照れ屋?」
「あの、先輩、」
「まーた先輩。日向だよ、日向、覚えた?ひ、な、た」

忘れるわけがない。1日に何千回も心の中で呟くその名前。

「少し時間ある?ロッカーでコーヒー飲んでから帰らない?」

きっと打ち解けようとして誘ってくれたその優しさを、俺は例え瀕死でも断らなかっただろう。



「最初はさ、ただレジにいるだけでも疲れるんだよな」

並んでベンチに座って缶コーヒーを飲む。ロッカールームの蛍光灯は古くなっているのか薄暗く、俺は横にいる先輩のスニーカーばかり見ていた。

「初日とかさ、足パンパンにならなかった?」
「なりました」

初日、先輩に付きっきりでレジ作業を叩き込まれながら、時々すぐそばまで伸びてくるそのきれいな形の指に目を奪われたことを思い出した。

「でものりちゃんて仕事早いよね」
「…そうですか」
「慣れたらきっとデキる店員になるよ」
「俺は先輩が、…」
「ん?」

思わず顔を上げて先輩を見ると先輩もこちらを見ていて、先輩より少し背の高い俺の方が見下ろすような形になって、隣に座ってるから思ったより近くて、先輩は相変わらずふんわりと笑っていて、なんかちょっといい匂いがして、どぎまぎして逸らした視線の先にはコーヒーの缶を握るきれいなきれいな指、
もうとりあえずすみませんとてもパニックですすみません。

「大丈夫?」
「先輩が。デキる、仕事、と、思いました」

あはは、と笑われた時には、俺の視線は先輩のスニーカーに戻っていた。

「なんでカタコト?はは。…のりちゃんおもしろいな」

至近距離で笑顔が見られて、今日は間違いなく眠れない、と思って大きく息を吐くと、あろうことか先輩が俺の太ももにさりげなく手を乗せた。きれいな形の、指。

「よし、明日もがんばろうな。お疲れ」

先輩は空になったらしい缶を手に立ち上がろうとしたんだと思う。
でも俺はそれを阻止してしまった。

先輩の持った空き缶を取り、肩を抱き寄せた。

「…先輩」
「え、のりちゃん?大丈夫?」
「先輩」

だめだ、こんなの、わかってるのに。嫌われる、気味悪がられる、それが一番怖いのに。
それでも止められなかった。

「先輩、好きです」

抵抗しない先輩に歯止めがきかなくなって、自分のそれより少し下にある先輩の唇を塞いだ。

「え、ちょっ、と」
「先輩、先輩」

赤くなった先輩を見て、気づいたらベンチに押し倒してしまっていた。

「のりちゃん、待って、なにを」
「好きです、先輩」
「やめろ、ちょ、のりちゃん!」

何をされそうなのかようやく悟ったらしい先輩が俺の腕を掴んで足をばたつかせた。俺は抵抗されてなぜか更に興奮してしまい、体重をかけて押さえ込んでまたキスをした。

「先輩」
「やめ、んっ、やだっ」

ベンチがギシギシと音をたてる。無理矢理舌で唇をこじ開けてちゅぷちゅぷと先輩の舌を貪る。なおも続く抵抗が、俺の支配欲を駆り立てた。

「のりっんんっ、ふ、やだ、っ、ん」

もう何でもいい、ここで俺のものにしてしまいたい。
どうせ正面から行っても叶わないんだから。

俺は先輩の服の裾から手を滑り込ませて先輩の胸の突起を探り当てた。
途端に先輩の肩がびくっと震える。

「先輩、感じますか」
「そんなわけないだろ!やめろ、もうやめ、っう」
「すみません、大好きです。ほんと、すみません」
「謝るならやめろ、放して、のりっあぁっ」

爪で突起を引っ掻くと、あからさまに快感に溶けたような声が聞こえた。

「ここ、いいんですか」
「ばか、そんなのっうっあ、やめろって!」
「声出てますよ」

なんで俺は自棄になりながらこんなに冷静なんだろう。先輩の口から漏れる、抑えたような喘ぎ声が堪らなかった。

「好きです」

先輩は顔を赤くしながら必死に抵抗するが、だんだん力が弱まってきた。
乳首をこねくりまわしながら俺は先輩の耳元に話しかけた。

「先輩、ほんと俺、よくしてもらって感謝してます」
「んっなんだそれ」
「だから、好きだけど、したかったけど、こんなこと絶対しないつもりでいたんですよ」
「じゃあやめろっあっ」
「俺、指フェチなんす」
「…は?」

先輩は訳がわからないという顔をした。

「先輩が悪いんですよ、そんな綺麗な指で俺の太もも触ったりするから」

俺は先輩の手をとって無理矢理指をしゃぶった。

「あっ!」

途端に喘ぐ先輩。

「…もしかして先輩、手、感じます?」
「ちがう!頼むから、」
「すげぇ、運命じゃないすか、俺たち」

満更でもなく思ってしまった。本当に大好きなフォルムだ、この指。指への刺激だけでイけるようになるまでいくらでも舐めてあげたい。

「俺、男の趣味はないから!」
「でも先輩、なんかあんまり嫌そうじゃないですよ」
「は?!そんなわけ、」
「先輩、おっぱい舐めていいすか」

返事を待たずに思い切り吸い付いた。

「う、うぁ」

先輩は一瞬胸を反らした。突き出されたそこをじゅっと音をたてながら責めまくる。先輩の抵抗は、時々思い出したように俺の体を押し返す程度に治まってしまった。

「先輩、おっぱいしゃぶられるの好きなんですか」
「そんなわけないだろ…!ん、もうほんとやめろ!」
「優しい先輩も好きだけど、怒った先輩もそそりますね」
「やだ、もうやめて…んうっ!」

乳首に歯をたてたら、先輩が顔を逸らして声を上げた。俺はそこを舌で舐めしゃぶりながら、先輩のジーンズに手をかけた。

「あっのりちゃんもうやめろほんとにやだっやだ!」
「まだのりちゃんて呼んでくれるんだ、すげぇ、嬉しいです。先輩」
「ちがっもう苗字忘れたからっ」
「ひど、傷付きました」
「は!どっちが!ん、んもぅやめて…やだ……」

パンツを脱がしてぺニスを握ると少し勃っていて、先輩は抵抗をやめ、弱々しい声をあげた。

「そんな泣きそうな顔しないで下さい。かわいそうになるじゃないですか」
「最低…」
「大丈夫です、絶対気持ちよくしてあげますから」

抵抗が弱まったのをいいことに、俺は先輩のぺニスを優しく扱いた。

「う……く……」

だんだん大きく固くなるそこへの刺激に、先輩は必死で声を押し殺しているようだ。

「先輩、なんで声がまんするんですか」

俺は先輩のぺニスにしゃぶりついた。

「んぁっ!まじか、ちょっと…お前……っ」

裏筋から先端までゆっくり舌を這わせてじわじわと刺激する。

「っ、はぁ、……最悪…」

口全体を使って扱くと、唾液がじゅぷ、と音をたてた。

「あぁっ、……ん、う…」

口を離して先輩の両足を持ち上げ、秘部を晒した。

「やだ!やめろって!」
「もう諦めて下さい」

ぺニスと孔の間にふーっと息を吹きかけると、先輩の体が大袈裟なほど痙攣した。

「感度いいですね、最高です。ここまでだけでもオカズにして明日から何回か抜けそうです」
「っ、嫌いに、なるからな」
「…いいですよ。最初から諦めてるんで。でも俺は大好きです、先輩」

一瞬チクリと感じた痛みを振り切るように言ったら、なぜか先輩も切ないような顔をした。
俺は舌を伸ばして先輩の孔へ埋めた。

「やだっ!そんなとこ…あっう、もう…のりちゃんっ」
「先輩、…先輩、好きです」

のりちゃんと呼ばれる度にたまらなくなった。ぺニスがどんどん張り詰めてくる。

「こんなんじゃなくって…う、…もっと普通に、…順を踏めなかったの?っん」

俺に孔の入り口を舐められながら、先輩は必死に言葉を紡ぐ。

「いきなりこんなの……恥ずかしいし…こわい、のに…」

先輩。なんだこの生き物。かわいすぎる。

「順踏んだら、受け入れてくれたんですか」
「わかんないけどっ、のりちゃんが自暴自棄になっちゃうようなこんなことしなくてよかったし、そんな気持ちにはさせなかった!」

俺は先輩の顔を上からまじまじと見た。穴が開くほど見つめた。

「な、なに」
「いや、やっぱり先輩すげぇ。かっこいいです。今の、惚れ直しました」
「じゃあとりあえず放して」
「まじ男前。早く挿れたいです」
「なんでだよ!」

なんでって。好きだから。

俺は唾液で濡れたそこに指を入れ、浅いところを優しく解していく。絶対に痛い思いはさせない。最低だったけど痛くはなかったと思われるように。

「や……やめっ、う……」

先輩は時々やめろと言いながら、体はもう抵抗を示さなかった。

俺はゆっくり指を増やして、十分に解れた頃合いを見て先輩の前立腺に触れてみた。

「ああっ!ちょっ、と待っ、んうっ!」
「気持ちいいですか」
「やだ、わかんない、」
「そうですか」

俺はもう少し強めにそこを擦った。

「あぅっや、やめて、ほんとに」
「どうして」
「どうしてとか!わかんないのか!やだからっ、うっ、はぁ」
「なんで嫌なんですか、気持ちいいのに。だって勃ってますよ」
「…気持ちいいのがいやなんだよ…お願いやめて、恥ずかしい…」

ヤバいヤバい。理性が消し飛ぶところだった。

「わかりました」

俺は指を抜いた。くちゅりと音がして、先輩は強ばらせていた体から力を抜いた。ほっとしたような顔をしている。

「多分すぐ終わります。俺すげぇ興奮してるから」

俺は前を寛げて先輩の足を抱え直した。

「まっまさかほんとに挿れるの?待って待って待って無理無理無理無理」
「大丈夫大丈夫絶対大丈夫大丈夫」
「怖い!やだ!痛いよ絶対痛いからやめろ!やめろぉ!」

またじたばたし出した先輩を全力で押さえる。そうしながら自分のぺニスを支えて先輩の孔にあてがった。

「先輩お願いします、10分だけ俺のものになって下さい。明日から先輩の前には顔出しませんから」

焦っていた先輩は、動くのをやめてじっと俺を見た。まっすぐな視線。

「バイトどうすんだよ、辞めるの?」
「こんなことしといて居座れません」
「だめだ」

先輩が厳しい口調で言い、俺は一瞬自分たちの状況を忘れて姿勢を正しそうになった。

「そんな無責任なことして、困るのは店長や他のバイトだぞ。自分のことばっか考えるなよ」
「でも先輩が」
「好きでやってんだろ、これ。なら俺の気持ちにまで責任取れ。俺が辛そうにしてたらフォローしろ。バイト辞めたいならちゃんと周り整えて、円満に辞められるようになってから辞めろ」

先輩はバカだ。これから自分を犯そうとしてるやつの頭、正論吐きながら撫でて。口調は厳しいけど表情が優しい。
バカだ。もう諦めようとしてる男を惚れ直させたりして。

「…先輩、すみません。勉強になりました」
「うん。…で、」
「じゃあ、挿れますね」
「うぉい!」

ぷちゅ、と音をたてて先端が潜り込んだ。

「ううっ」
「先輩、力抜いて下さい」
「む、りぃ」

先輩はぎゅっと目を瞑ったまま微動だにしない。
俺はゆっくり腰を進め、たまに小刻みに揺らして慣らして広げていった。

「う…あ、…っ、は……」
「もう少しで、気持ちいいとこに届きますよ」

体の位置をずらしてぐっと中を擦ると、先輩が跳ねた。

「あん!…ぐぅ…」
「やばい…先輩の声すっげそそりますね」
「うるさ、いやっはぁっ…」
「はぁ、締まる」

先輩が気持ちよさげにしているのをいいことに、腰の動きを少しずつ大きくしていく。

「先輩」
「ん……う…ぅ、っ」
「大好きです。すみません、こんなことして」

先輩は薄目を開けて俺を見た。

「その…押したり引いたりはわざとなの?」
「腰のことですか」
「違うから…んっ…なんか……面倒見たくなっちゃうよ…」

信じられない。どんだけ心広いんだこの人は。

「好きです。先輩」

丁寧にキスをしてから、いきなり奥を突いた。

「ぅあっ!」
「イかせてあげますね」
「ぐ、あ、…ふ…ぅ…」

そのまま激しく腰をぶつけて前立腺から奥までを繰り返し責める。ロッカールームに卑猥な音が響く。

「あ、あ、うっ、そこすごいっ」
「気持ちいいですか」
「ん…いい……ああっ!あ!」
「先輩、ケツで気持ちよくなれちゃいましたね」
「う、っん、あぁ!」

しつこいくらいに突き上げる。本当はもっとしてあげたいけど俺の限界も近かった。やっぱり興奮してるみたいだ。

先輩のぺニスも先走りでぐちゃぐちゃで、萎えるどころかこれ以上ないくらい固く勃っていた。俺が腰をぶつけて突っ込む度にプルプルと震えている。

「や、ばい、うう、」
「イきそう、ですか」
「んっ…ん…」

先輩は髪を振り乱してイヤイヤをしている。かわいくて仕方がない。

「好きです。先輩。…先輩」
「わかっ、たから、気持ちは、もう、死ぬほど、わかったから、ああ、だめ…出そう…」
「悪いと、思ってます、けど、絶対、後悔しません、俺は」

先輩がキツそうな顔をしながら手を伸ばして、指を俺の口に入れた。

「なんか、そこまで言われたら、悪い気しないかも、うぁ、…そんなに俺、っ、いい男だったっけ」

先輩の指の味。あのきれいな指の味。と思ったら一気に余裕を使い果たして律動を激しくした。

「あ!あ、ああぁ!」
「せんぱい」
「あっ、出る、ううっ、は、あ…っ!」
「う」

いい男です大好きです益々好きになって苦しいですって後で言わないと、と思いながら、俺は先輩とほぼ同時に果てた。



 *



「のりちゃん、絶対後悔しないんじゃなかったのかよ」
「すみません……もう…なんてお詫びすれば…いいのか…」
「そんな顔しないでよ、犯されて泣きたいのはこっちだよ」
「…はい…」

先輩はベンチに横になっていて、さっき俺がいろいろ処理をさせていただいたので、ちゃんと服をお召しになっている。

ちなみに俺は床に正座。

「何か飲み物買って来ますか」
「いやいい。…のりちゃんて結構よくしゃべるのな。まさか軽い言葉責めに合うとは思わなかった。前言撤回」

先輩の口調はいつもの優しいものに戻っていて、俺は更に居たたまれなくなった。

「はぁ…、あの、怒ってます、よね」
「うーん」
「先輩、頼りになって、厳しいけど優しくて、懐深くて、会ってすぐそういうとこに惹かれてしまって、気持ちが止まりませんでした」

先輩は寝たままこちらに顔を向けた。

「言えるんじゃん」
「何を、ですか」
「順踏めるんじゃん。最初からそうやって来てくれればよかったんだよ。ネガティブに気持ち溜めて爆発するタイプだろ。だめだよー、そういうのは良くないよ。自分にとっても周りにとっても」

本当ですね。お陰で最低です。

「不器用なんだね。でも気持ちはすごく伝わったよ。あんまり真っ直ぐでうっかり嬉しくなっちゃうくらい」
「あんなことした後でもフォローしてくれるんすね」

先輩の優しさが刺さって痛い。

「真面目で無口で朴訥としてる後輩のいいとこも悪いとこも一辺に知っちゃって、全体的にかわいく見えてきてしまった…処女奪われたのに」
「…す、すみません…」
「だから」

先輩は俺に手を伸ばす。

「ちょっと、そばにいてみてもらっていい?」
「…………………え?」
「俺も、少し好きなのかもな、のりちゃんのこと」

困ったような笑顔に信じられない思いを抱えつつ、舞い上がってしまって言葉が出ない。目さえ見られない。

だからとりあえず、俺は先輩のきれいなきれいな手を取って、自分の両手で包んだ。
その手に話しかける。

「…エッチが良かったからですか」
「違う!」






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