ひがんのひなぎくたち
3
目的の部屋へ着くとそのまま入らず、閻魔大王はくるりと後ろへ振り返ると駿 を見た。
「駿君に一つ言っておかなければいけない事がある。十王 候補たちに本名を聞いてはいけないよ」
「どうしてです?」
疑問に思った駿は首を傾げて閻魔大王を見る。
「候補たちの中には名前にトラウマを持っている子もいるし、そもそも生前の名前を知らない子もいる。だから、ここでは皆平等に十王という役職名で呼びあってもらう事にしているんだよ。という訳で、駿君にもここにいる間は五官王 と名乗ってもらいたい。良いかな?」
「分かりました。うっかり聞かないよう気を付けます」
駿からの返事に閻魔大王は「ありがとう」と返すと、引き戸をゆっくりと開け先に入るよう促す。
「失礼します」
中に入ると六人の少年や青年が目に入る。皆、机を囲うよう椅子に座って駿の事を見ていた。

「……ん?あれ?なんか三人足りないような?」
十王候補最後の一人、そう同生天 に言われた事を思い出し駿は三人足りない事に気付く。もう一度人数を数え直そうかと思った瞬間、突如背後に誰かが立ち駿の肩を思い切り叩くと耳元で「わっ!」と驚かしてきた。
突然の声に駿はびくりと肩を震わせ驚いていると、古風な丸眼鏡をつけた顔の整った青年が指をさし「後方不注意☆」と言い、そのまま室内へと入って行く。
「…………」
何も言わずにその青年を見ていると、後ろに控えていた五官王が声をかけてきた。
「大丈夫?」
「はい、一応」
なんだったんだあいつ、と駿が思っていると今度は「ぷーくすくす」と笑い声の擬音をそのまま言葉にした声が聞こえてくる。なんだと思いそちらの方へ視線をやると、白髪に水色のインナーカラーを入れている一風変わった髪型の青年がいた。その青年は椅子から立ち上がり、駿へと近寄ると目を見開き怒涛の勢いで喋り始めた。
「五官氏よ、大丈夫ですかな?因みに漏れ氏は五道転輪王 也!!ああ、五官氏はアニメなど好きか?因みに漏れ氏の好きなアニメはあの超有名で物凄く人気の、とある村を舞台にした殺戮などが起こる例のアニメなのだが!それから、ただの人間に――などなど。嗚呼、同士が欲しい。今からでも遅くはない!五官氏よ、これから我と一緒にアニメを見ようず。どうせこの後暇であろう?さあ!我が城へい――」
「はいはい、そこまで」
五道転輪王のマシンガントークにどうすれば良いのか困っていると、白髪癖毛に垂れ目で穏やかな印象を持つ青年がこちらへ来て無理矢理話を終わらせてくれる。その青年は駿へ向き直ると困ったような表情で謝った。
「なんかごめんね。五道君テンションが上がるといつもこんな感じなんだ。びっくりしたでしょう」
「はあ、そうなんですか」
「あっ、俺は都市王 よろし――」
よろしくね、そう言おうとした瞬間、都市王の背後から五道転輪王がひょっこりと顔を出し被せるように言ってくる。
「ところで、五官氏はどのように死んだのだ?」
この空気が読めない発言に皆口を開け驚くも、すぐに都市王は五道転輪王の両肩を掴み揺さぶりながら注意した。
「ちょっと五道君!それはいくら何でも失礼過ぎるでしょう!」
都市王に物凄い勢いで揺さぶられている五道転輪王に、駿は苦笑いを浮かべるも特に死因を聞かれても気にしていなかったので「別に大丈夫ですよ」と言う。その言葉を聞き、都市王は五道転輪王から手を離した。
「本当に大丈夫?」
「はい」
「ほら、五官氏も大丈夫と言っているし良いではないか!因みに漏れは体中バラバラにされたでござる!」
聞かれていない五道転輪王が突然自己の死因を言った事により、駿はなんと返事を返せばいいのか分からず黙り込んでしまう。しかしいつまでも黙っている訳にはいかないと思った駿は口を開いた。
「俺は……その、沢山刺されて気付いたら死んでいました」
その言葉を聞き、目の前にいる二人はなんとも言えない表情になった。言葉を探しているのか都市王は何度か口を開閉させるも適切な言葉が出てこず、取り敢えず自分の事を言おうとするも言い難いのか下を向き話し始める。
「俺はなんて言えば良いんだろう……こういうのずるいって思うかもしれないんだけど、上手く言えないから秘密って事でも良いかな?」
「無理に言うものでもないですし、大丈夫ですよ」
そう言うと駿は都市王に向かって微笑みかける。都市王は安心すると、顔を上げ駿へと微笑み返した。
ガタッと椅子から立ち上がる音がし、駿はそちらへ視線をやると、そこには前髪を真ん中で分けキッチリと髪を結い上げている仏頂面の青年がいた。その青年は駿の前まで来ると徐に口を開いた。
「お前も刺殺された者なのか。……っと、いきなりすまん。自分は平等王 。お主と同じよう刺殺された」
「……泰山王 。餓死した。よろしく」
いつの間に来ていたのか平等王の隣には左目を前髪で覆い、目の下に隈のある少年――泰山王が続け様に自己紹介をする。
「おう、よろしく」
みんなすげえなと駿は内心思っていると、先程後ろから驚かしてきた丸眼鏡の青年が笑顔でこちらへ近付いてきた。
「次は僕だね!さっきは驚いてくれてありがとう。僕は変成王 。死因は銃殺!よろしくね!で、順番的に次は閻魔君なんだけど……あれ?」
変成王はキョロキョロと辺りを見渡すも、閻魔君と呼ばれた人物はどこにもいなかった。
「いないね。よく見たら秦広 君もいないし、どこ行ったんだろう?」
ね?と変成王に言われるも、二人がどういった外見の人なのか分からない駿は、適当に「そうですね」と返すことしか出来なかった。
いない事に気付いた閻魔大王は首を傾げ部屋の奥へいた幞頭 を被った黒髪の青年へと声をかける。
「篁 ……?全員集めろって言ったよね?ん?」
そう言われた篁という名の青年は困ったように眉を八の字にした。
「申し訳ありません!少し目を離した隙に、秦広様と共に消えてしまいました。今すぐ連れて来ます!」
そう言うと篁は急いで部屋から出て行った。
「バタバタしてしまってすまないね、駿君」
「いえ、大丈夫です。寧ろ俺なんかの為に全員の時間を使ってしまって、なんだかすみません」
閻魔大王は首を横に振り「そんな事はない」と返すと、今まさに立ち上がろうとしていた少年へ声をかけた。
「仕方ないから宋帝 君、先にしちゃって」
宋帝君と呼ばれた日本人形のような端正な顔立ちの少年は立ち上がると、丁寧にお辞儀をする。
「俺は宋帝王 って言います。えっと、確か死因を言うんですよね。電車に撥ねられて死にました。よろしくお願いします、五官王。あ、敬語じゃなくて大丈夫ですので」
自己紹介を終えると宋帝王はまた静かに椅子へ座り直した。すると天然パーマにそばかすのある少年が走って近寄ってくると笑顔でお辞儀をする。つられるように駿もお辞儀をすると、その少年はにこりと笑った。
「僕は初江王 !東京大空襲ってあったじゃないですか。あの時死にました。よろしくです!ところで五官君は動物好きですか?」
首を傾げて可愛らしく聞いてくる姿に駿は弟がいたらこんな子が良いなと思い、にこやかな表情になる。
「猫とか好きだな」
そう返すと満面の笑みを浮かべ初江王は喜びだした。
「そうなんですか!嬉しいなあ!僕も猫さん大好き!仲良くしましょうね」
お互い笑いあっていると部屋に悲痛な叫びのような声が響き渡り、駿は驚いて入口の方を見た。そこには先程篁と呼ばれた青年がおり、青年の両脇には二人の青年が引きずられるようにして連れられていた。
「たかむらくんはなせー!!」
「もう終わりだ……もう駄目だ……なんでこんな事に……」
片方の青年は喚き散らし、もう片方の青年は何事かぶつぶつと呟いていた。
「大王!つ、連れて来ました!」
閻魔大王に向かい篁はそう言うと隣にいた駿を見、「あっ」と声を出す。
「これはこれは五官様。お騒がせしてしまい、すみません。この二人少々人見知りでして……」
「い、いえ、えっと……」
駿が名前を思い出せなく言葉に詰まると、篁はまだ名乗っていなかった事を思い出し自己紹介を始めた。
「名乗りもせず失礼しました。私、小野篁 と申します。閻魔様の補佐兼教育係を任されております」
篁は黒髪とも赤髪とも言えない髪色の青年の方へ顔をやる。その青年はずっと「たかむらくん、はなせ!」と喚き散らしていた。
「こちらの騒がしい方が閻魔様です」
次に篁は白髪にオッドアイの青年の方へと顔を向ける。青年はずっとぶつぶつと聞こえない声で何かを言っていた。
「そして、こちらのまるでこの世の終わりのようなお顔をされている方が、秦広 様になります。少々変わっていますが、どうぞ二人をよろしくお願い致します」

二人の代わりに篁は深々とお辞儀をする。つられて駿も同じくお辞儀をし「よろしくお願いします」と言うと、騒いでいる閻魔王の方を見た。目が合った刹那閻魔王は怯えたような表情になるも、すぐに怒ったような表情へと戻り駿を睨みつける。初めて会った筈なのに何故この閻魔王という青年から、こんなにも敵意を向けられなければならないのか、駿には全く分からなかった。
(ここに来るまで俺こいつに何かしたのか?)
駿は考えてみてもここに来るまで閻魔王とは会っていない事を思い出し、謎が深まるばかりで首を傾げていると、篁の腕から抜け出した閻魔王は駿の前まで近付いてきた。睨みつけられ駿は怯んでしまい思わず一歩後ずさるも、閻魔王が一歩踏み出し近付いてくる。駿の事が怖いのかよく見てみると閻魔王は震えていた。それに気付いた駿は思わず大丈夫かと聞きそうになるも、こうも敵意を向けている相手にそれを言ってみてもいい物か考えてしまう。
(どうすりゃ良いんだ……)
困り果て五官王の方へ視線を送り助けを求める。視線に気付いた五官王もこの場をどうにかしなければと思い口を開こうとしたが、その瞬間閻魔王が大声で喋り始めた。
「ぜったいおまえなんかと、よろしくなんかしないからな!おまえのせいで、おれはっ!おれはしんだんだ!このっ、ひとごろし!!」
「……え?」
今にも殴り掛かりそうな勢いで駿へと近寄ろうとする閻魔王を、後ろにいた篁は急いで止める。
一方駿は突然人殺し扱いされ酷く困惑してしまい、思わず自分で自分の事を指さして「俺が?」と呟いていた。
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目的の部屋へ着くとそのまま入らず、閻魔大王はくるりと後ろへ振り返ると
「駿君に一つ言っておかなければいけない事がある。
「どうしてです?」
疑問に思った駿は首を傾げて閻魔大王を見る。
「候補たちの中には名前にトラウマを持っている子もいるし、そもそも生前の名前を知らない子もいる。だから、ここでは皆平等に十王という役職名で呼びあってもらう事にしているんだよ。という訳で、駿君にもここにいる間は
「分かりました。うっかり聞かないよう気を付けます」
駿からの返事に閻魔大王は「ありがとう」と返すと、引き戸をゆっくりと開け先に入るよう促す。
「失礼します」
中に入ると六人の少年や青年が目に入る。皆、机を囲うよう椅子に座って駿の事を見ていた。

「……ん?あれ?なんか三人足りないような?」
十王候補最後の一人、そう
突然の声に駿はびくりと肩を震わせ驚いていると、古風な丸眼鏡をつけた顔の整った青年が指をさし「後方不注意☆」と言い、そのまま室内へと入って行く。
「…………」
何も言わずにその青年を見ていると、後ろに控えていた五官王が声をかけてきた。
「大丈夫?」
「はい、一応」
なんだったんだあいつ、と駿が思っていると今度は「ぷーくすくす」と笑い声の擬音をそのまま言葉にした声が聞こえてくる。なんだと思いそちらの方へ視線をやると、白髪に水色のインナーカラーを入れている一風変わった髪型の青年がいた。その青年は椅子から立ち上がり、駿へと近寄ると目を見開き怒涛の勢いで喋り始めた。
「五官氏よ、大丈夫ですかな?因みに漏れ氏は
「はいはい、そこまで」
五道転輪王のマシンガントークにどうすれば良いのか困っていると、白髪癖毛に垂れ目で穏やかな印象を持つ青年がこちらへ来て無理矢理話を終わらせてくれる。その青年は駿へ向き直ると困ったような表情で謝った。
「なんかごめんね。五道君テンションが上がるといつもこんな感じなんだ。びっくりしたでしょう」
「はあ、そうなんですか」
「あっ、俺は
よろしくね、そう言おうとした瞬間、都市王の背後から五道転輪王がひょっこりと顔を出し被せるように言ってくる。
「ところで、五官氏はどのように死んだのだ?」
この空気が読めない発言に皆口を開け驚くも、すぐに都市王は五道転輪王の両肩を掴み揺さぶりながら注意した。
「ちょっと五道君!それはいくら何でも失礼過ぎるでしょう!」
都市王に物凄い勢いで揺さぶられている五道転輪王に、駿は苦笑いを浮かべるも特に死因を聞かれても気にしていなかったので「別に大丈夫ですよ」と言う。その言葉を聞き、都市王は五道転輪王から手を離した。
「本当に大丈夫?」
「はい」
「ほら、五官氏も大丈夫と言っているし良いではないか!因みに漏れは体中バラバラにされたでござる!」
聞かれていない五道転輪王が突然自己の死因を言った事により、駿はなんと返事を返せばいいのか分からず黙り込んでしまう。しかしいつまでも黙っている訳にはいかないと思った駿は口を開いた。
「俺は……その、沢山刺されて気付いたら死んでいました」
その言葉を聞き、目の前にいる二人はなんとも言えない表情になった。言葉を探しているのか都市王は何度か口を開閉させるも適切な言葉が出てこず、取り敢えず自分の事を言おうとするも言い難いのか下を向き話し始める。
「俺はなんて言えば良いんだろう……こういうのずるいって思うかもしれないんだけど、上手く言えないから秘密って事でも良いかな?」
「無理に言うものでもないですし、大丈夫ですよ」
そう言うと駿は都市王に向かって微笑みかける。都市王は安心すると、顔を上げ駿へと微笑み返した。
ガタッと椅子から立ち上がる音がし、駿はそちらへ視線をやると、そこには前髪を真ん中で分けキッチリと髪を結い上げている仏頂面の青年がいた。その青年は駿の前まで来ると徐に口を開いた。
「お前も刺殺された者なのか。……っと、いきなりすまん。自分は
「……
いつの間に来ていたのか平等王の隣には左目を前髪で覆い、目の下に隈のある少年――泰山王が続け様に自己紹介をする。
「おう、よろしく」
みんなすげえなと駿は内心思っていると、先程後ろから驚かしてきた丸眼鏡の青年が笑顔でこちらへ近付いてきた。
「次は僕だね!さっきは驚いてくれてありがとう。僕は
変成王はキョロキョロと辺りを見渡すも、閻魔君と呼ばれた人物はどこにもいなかった。
「いないね。よく見たら
ね?と変成王に言われるも、二人がどういった外見の人なのか分からない駿は、適当に「そうですね」と返すことしか出来なかった。
いない事に気付いた閻魔大王は首を傾げ部屋の奥へいた
「
そう言われた篁という名の青年は困ったように眉を八の字にした。
「申し訳ありません!少し目を離した隙に、秦広様と共に消えてしまいました。今すぐ連れて来ます!」
そう言うと篁は急いで部屋から出て行った。
「バタバタしてしまってすまないね、駿君」
「いえ、大丈夫です。寧ろ俺なんかの為に全員の時間を使ってしまって、なんだかすみません」
閻魔大王は首を横に振り「そんな事はない」と返すと、今まさに立ち上がろうとしていた少年へ声をかけた。
「仕方ないから
宋帝君と呼ばれた日本人形のような端正な顔立ちの少年は立ち上がると、丁寧にお辞儀をする。
「俺は
自己紹介を終えると宋帝王はまた静かに椅子へ座り直した。すると天然パーマにそばかすのある少年が走って近寄ってくると笑顔でお辞儀をする。つられるように駿もお辞儀をすると、その少年はにこりと笑った。
「僕は
首を傾げて可愛らしく聞いてくる姿に駿は弟がいたらこんな子が良いなと思い、にこやかな表情になる。
「猫とか好きだな」
そう返すと満面の笑みを浮かべ初江王は喜びだした。
「そうなんですか!嬉しいなあ!僕も猫さん大好き!仲良くしましょうね」
お互い笑いあっていると部屋に悲痛な叫びのような声が響き渡り、駿は驚いて入口の方を見た。そこには先程篁と呼ばれた青年がおり、青年の両脇には二人の青年が引きずられるようにして連れられていた。
「たかむらくんはなせー!!」
「もう終わりだ……もう駄目だ……なんでこんな事に……」
片方の青年は喚き散らし、もう片方の青年は何事かぶつぶつと呟いていた。
「大王!つ、連れて来ました!」
閻魔大王に向かい篁はそう言うと隣にいた駿を見、「あっ」と声を出す。
「これはこれは五官様。お騒がせしてしまい、すみません。この二人少々人見知りでして……」
「い、いえ、えっと……」
駿が名前を思い出せなく言葉に詰まると、篁はまだ名乗っていなかった事を思い出し自己紹介を始めた。
「名乗りもせず失礼しました。私、
篁は黒髪とも赤髪とも言えない髪色の青年の方へ顔をやる。その青年はずっと「たかむらくん、はなせ!」と喚き散らしていた。
「こちらの騒がしい方が閻魔様です」
次に篁は白髪にオッドアイの青年の方へと顔を向ける。青年はずっとぶつぶつと聞こえない声で何かを言っていた。
「そして、こちらのまるでこの世の終わりのようなお顔をされている方が、

二人の代わりに篁は深々とお辞儀をする。つられて駿も同じくお辞儀をし「よろしくお願いします」と言うと、騒いでいる閻魔王の方を見た。目が合った刹那閻魔王は怯えたような表情になるも、すぐに怒ったような表情へと戻り駿を睨みつける。初めて会った筈なのに何故この閻魔王という青年から、こんなにも敵意を向けられなければならないのか、駿には全く分からなかった。
(ここに来るまで俺こいつに何かしたのか?)
駿は考えてみてもここに来るまで閻魔王とは会っていない事を思い出し、謎が深まるばかりで首を傾げていると、篁の腕から抜け出した閻魔王は駿の前まで近付いてきた。睨みつけられ駿は怯んでしまい思わず一歩後ずさるも、閻魔王が一歩踏み出し近付いてくる。駿の事が怖いのかよく見てみると閻魔王は震えていた。それに気付いた駿は思わず大丈夫かと聞きそうになるも、こうも敵意を向けている相手にそれを言ってみてもいい物か考えてしまう。
(どうすりゃ良いんだ……)
困り果て五官王の方へ視線を送り助けを求める。視線に気付いた五官王もこの場をどうにかしなければと思い口を開こうとしたが、その瞬間閻魔王が大声で喋り始めた。
「ぜったいおまえなんかと、よろしくなんかしないからな!おまえのせいで、おれはっ!おれはしんだんだ!このっ、ひとごろし!!」
「……え?」
今にも殴り掛かりそうな勢いで駿へと近寄ろうとする閻魔王を、後ろにいた篁は急いで止める。
一方駿は突然人殺し扱いされ酷く困惑してしまい、思わず自分で自分の事を指さして「俺が?」と呟いていた。
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