雨想
雨彦さんからチョコレートを貰った。二粒。それがバレンタインの影響だと気付くのに、たっぷり五秒かかった。
「誰かから雨彦さんへの想いがこもってるんじゃないのー? 横流しはよくないよー?」
「安心しな、叔母さんが買い物をした時におまけで貰ったものだそうだ。企業の購買欲を煽る気持ちしかこもってないさ」
結局横流しじゃないか、と言うのはやめにして、ありがたくチョコレートの包み紙を剥いた。丸いチョコレートは姿を現すとうっとりとするような香りを放ち、口に転がせば濃厚な甘さが舌の上に広がった。噛んで球体を割ると、中からどろっと液体が溢れる。少しの酸味と、爽やかな柑橘系の後味。
「オレンジチョコみたい。おいしいよー」
「そいつはよかった」
鼻の奥に広がる香りを飲み込んで、喉が甘さに焼けたところに、雨彦さんがコーヒーの入ったマグカップを渡してくれる。僕は受け取ったそれをテーブルに置いて、雨彦さんの肩に手を伸ばす。
「雨彦さんは食べないのー?」
「二週間後から、嫌になるほど口にするだろう。それに備えて甘いものを控えてたんだが」
雨彦さんはおかしそうに微笑んで、僕の左頬に右手を添える。お互いがお互いの魂胆を知り、思わず笑う二人の間にこっくりとしたカカオの匂いが漂う。
「味見をどうぞー?」
「それじゃ、遠慮なく」
深い深いキスで混ぜられた、恋の味と称される甘さ。猛毒って、もしかしたらこんな味なのではないだろうか、などと考える。甘さに蝕まれ、視界がくらくらと揺れ、頭がぼうっとする。
コーヒーが冷めていく。せっかく淹れてもらったのに。それでも構わずキスをする。どろどろの恋の味、猛毒の味。
「あと一粒あるぜ」
「おかわりがほしいのー?」
もう一粒の毒はどんな味だろうか。僕は雨彦さんと一つに溶けながら、これだから二月は、と心の中で呟いた。
まずはこの毒を飲み干してしまおう。あとで冷めたコーヒーで流し込むのだから、今だけは、甘さに溺れたっていい。雨彦さんの手が僕のズボンにかかるのを、どこか遠いところで感じていた。
「誰かから雨彦さんへの想いがこもってるんじゃないのー? 横流しはよくないよー?」
「安心しな、叔母さんが買い物をした時におまけで貰ったものだそうだ。企業の購買欲を煽る気持ちしかこもってないさ」
結局横流しじゃないか、と言うのはやめにして、ありがたくチョコレートの包み紙を剥いた。丸いチョコレートは姿を現すとうっとりとするような香りを放ち、口に転がせば濃厚な甘さが舌の上に広がった。噛んで球体を割ると、中からどろっと液体が溢れる。少しの酸味と、爽やかな柑橘系の後味。
「オレンジチョコみたい。おいしいよー」
「そいつはよかった」
鼻の奥に広がる香りを飲み込んで、喉が甘さに焼けたところに、雨彦さんがコーヒーの入ったマグカップを渡してくれる。僕は受け取ったそれをテーブルに置いて、雨彦さんの肩に手を伸ばす。
「雨彦さんは食べないのー?」
「二週間後から、嫌になるほど口にするだろう。それに備えて甘いものを控えてたんだが」
雨彦さんはおかしそうに微笑んで、僕の左頬に右手を添える。お互いがお互いの魂胆を知り、思わず笑う二人の間にこっくりとしたカカオの匂いが漂う。
「味見をどうぞー?」
「それじゃ、遠慮なく」
深い深いキスで混ぜられた、恋の味と称される甘さ。猛毒って、もしかしたらこんな味なのではないだろうか、などと考える。甘さに蝕まれ、視界がくらくらと揺れ、頭がぼうっとする。
コーヒーが冷めていく。せっかく淹れてもらったのに。それでも構わずキスをする。どろどろの恋の味、猛毒の味。
「あと一粒あるぜ」
「おかわりがほしいのー?」
もう一粒の毒はどんな味だろうか。僕は雨彦さんと一つに溶けながら、これだから二月は、と心の中で呟いた。
まずはこの毒を飲み干してしまおう。あとで冷めたコーヒーで流し込むのだから、今だけは、甘さに溺れたっていい。雨彦さんの手が僕のズボンにかかるのを、どこか遠いところで感じていた。
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