雨想
雨の代わりに傘が降ってくるようになって、久しい。
つまりどれだけ濡れても構わないということだねー、と言うと、人は「それは何か違うだろう」と言って眉を顰める。だって、いつでも傘をさせるのだから、同じことだろうに。
兄さんと暮らしているマンションの前の道路に、傘が積み上がっていた。雪かきのように、もしくはイチョウを掃くように端においやっているのは、雨彦さんだった。
「おはよう、北村」
「おはようございますー、どうしてここにいるのー?」
「お前さんに会いたくてな」
雨が降らない世界で、農作物は枯れていく。近いうちに人類は滅ぶのだろう、傘の焼却も追いつかない。雨彦さんは家業が忙しいとかで近頃会えなかったから、実は寂しくて、僕はこっそり祈っていた。だから、僕は傘に感謝した。家まで出迎えに来てくれたのだ。濡れなくてもいいし、僕はこれでいい。
「ねえ。雨彦さんの傘ってどれー?」
「家にあるさ。もう使う事もないだろう」
一仕事した、と晴れやかな顔をしている雨彦さんと連れ立って、電車に乗った。電車に傘を持って乗っている人はひとりもいない。窓の外に広がる風景の、ほとんどが積み上がった傘だった。川がそろそろ氾濫しそうだ。
「人々が、願ってやまなかったんだろうな。止まない雨はないだなんて言って、雨自体を疎んで」
「……僕は、雨、好きだったよー。雨彦さんの名前だから」
雨彦さんは照れた様に笑って、僕の頭をぽんぽんと撫でた。僕の名前は想楽、空だ。雨のない空なんて、からっぽだ。
つまりどれだけ濡れても構わないということだねー、と言うと、人は「それは何か違うだろう」と言って眉を顰める。だって、いつでも傘をさせるのだから、同じことだろうに。
兄さんと暮らしているマンションの前の道路に、傘が積み上がっていた。雪かきのように、もしくはイチョウを掃くように端においやっているのは、雨彦さんだった。
「おはよう、北村」
「おはようございますー、どうしてここにいるのー?」
「お前さんに会いたくてな」
雨が降らない世界で、農作物は枯れていく。近いうちに人類は滅ぶのだろう、傘の焼却も追いつかない。雨彦さんは家業が忙しいとかで近頃会えなかったから、実は寂しくて、僕はこっそり祈っていた。だから、僕は傘に感謝した。家まで出迎えに来てくれたのだ。濡れなくてもいいし、僕はこれでいい。
「ねえ。雨彦さんの傘ってどれー?」
「家にあるさ。もう使う事もないだろう」
一仕事した、と晴れやかな顔をしている雨彦さんと連れ立って、電車に乗った。電車に傘を持って乗っている人はひとりもいない。窓の外に広がる風景の、ほとんどが積み上がった傘だった。川がそろそろ氾濫しそうだ。
「人々が、願ってやまなかったんだろうな。止まない雨はないだなんて言って、雨自体を疎んで」
「……僕は、雨、好きだったよー。雨彦さんの名前だから」
雨彦さんは照れた様に笑って、僕の頭をぽんぽんと撫でた。僕の名前は想楽、空だ。雨のない空なんて、からっぽだ。