雨想

 僕のカバンの中には、常に甘いものが入っている。飴とかチョコとかキャラメルとか、そんな小さなものばかりだけれど、ふとした時に口寂しくなると、それらはちょうどよく僕の心の隙間を満たしてくれるのだ。
「雨彦さん、キャラメルいるー?」
「おお、ありがとさん」
 運転中の彼の口に、キャラメルをひとかけら放り込んだ。器用な彼のことだから、助手席の僕の方へ片手を伸ばすことくらい造作もないだろうに。雛鳥のように口を開けた様が少し間抜けでおかしかった。
「最近、よく甘いものを食べてるな」
「そうだねー。なんか小腹がすいちゃうんだー」
 適当に誤魔化して、僕もキャラメルを頬張った。ほろ苦い甘さが口の中に広がる。窓の外の街路樹は立派に生い茂っていて、道に濃い影を落としていた。
 セックスの後の、シャワーを待つ音がどうにも寂しくて、甘いものを持ち歩くようになったなんて知ったら、雨彦さんは何ていうだろう。あのどしゃぶりは僕の孤独の輪郭をいっそう強調して、さっきまで繋がっていた温もりがどんどん冷えていく。ベッドの窪みをなぞりながら、一人じゃないはずなのに、一人ぼっちでいることを余儀なくさせられる、あの時間。飴は、チョコは、キャラメルは、僕を繋ぎ止めてくれる。
「……北村」
「なあにー」
「最近北村の口を吸うと、いつも甘いな」
「……えー?」
 いつも、彼に隠れて食べてるはずなのに。こんなバレ方をするなんてなあ。僕も詰めがあまい。
「勉強中はラムネもおすすめだぜ」
「ああ、そうだねー。次はラムネを探してみるよー」
 太るから食べるな、とか、歯に悪いから控えろ、とか言わない、彼なりの不文律。ありがたいやら、恥ずかしいやら。
 あとで車を降りる時、きっと彼とキスをする。キャラメルとキャラメルが混ざったそれは、僕を一人ぼっちにはさせない。
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