雨想(〜2024.2.18まで/以降はtopから)

 甘やかな怠さが身体を支配しているのを口実に、布団の中で惰眠を貪っていた。お互いの目覚ましアラームが何度か鳴って、でもそれを止めては無視するのを繰り返して。裸の肌にシーツが気持ちいい。
 うっすらと起きては横にいる雨彦さんの鼻筋をなぞり、うとうとしてきては、彼の胸に顔を埋めて。今日の彼はお寝坊だ。いつも早起きして掃除してるのに。疲れが溜まっているのだろうか、昨夜も盛況だったし。
 久方ぶりにお互いの休日が被ったとなれば、自然、僕は雨彦さんの家に泊まる。だらだらと甘い夜を過ごして、のんびりと起きるのがお決まりだ。大学も午後からだし、レポートも済ませてある。
 カーテンから漏れる光加減から見るに、今日は快晴だ。こんな天気のいい日に、二人でベッドの中にいることの背徳感、ある種の開放感。ふふ、と笑うと、雨彦さんは「何を笑ってるんだ」とおかしそうに僕の鼻を摘んだ。
「……あ」
「どうしましたー?」
「今日、水曜日か」
 彼はそう呟くと慌ただしく飛び起き、がさごそとゴミ袋を取り出した。ゴミ箱、台所のネット、風呂場の排水溝。そうだった、燃えるゴミの日だった。
 僕は手伝うこともせず、ドアの開く音を聞きながら、先ほどまで雨彦さんが寝ていた箇所に倒れ込んでみた。スゥー、と鼻腔いっぱいに、彼の残り香を堪能する。少し甘い匂いがする気がする。寝る前にチョコレートを食べたから? 今日はバレンタインだ。
「ふう」
「間に合いましたー?」
「おかげさまで」
 おはよう、と僕にキスをする彼を、両手で受け止める。バレンタインですから、甘い朝も歓迎です。
「散歩でも行くかい?」
「いいですねー、行きましょうー」
 彼に抱き起こされ、そのまま朝の支度をする。換気のために窓を開けると、爽やかな風が少し肌寒かった。まだ春には遠そうだ。
 帰ってきたら、ホットミルクにひとかけら、チョコレートを入れよう。とっておきの宝物みたいに、大切な時間を過ごそう。僕はまたふふっと笑い、雨彦さんに鼻を摘まれる。
「どこまで行こうか?」
「どこまででもー」
 愛に溢れた日、隣に歩ける喜びを胸に。
 二人分の靴が並んだ小さな玄関で、僕らはもう一度キスをした。
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