その他
今日はハヤトの奢りだ。本人はすごく不服そうだ。
いつも行くドーナツ屋の店内は賑わっており、席も最後の一つだった。隣の席のおじさんはパソコンに向かってかなり険しい顔をしていて、かわいらしい店内には似つかわしくなかった。
「あーあ、なんで……」
赤面したハヤトはうつぶせになる。その光景があまりに愉快で、オレは大声で笑いだしたくなるのを必死に堪えていた。
「負けたハヤトが悪いんだろー」
「だって、あんなのズルいよ……」
なんてことない、きっかけは昨日の部室でのことだった。シキが突然、「愛してるゲーム」をやろうと言い出したのだ。真顔で「愛してる」と伝えられるか、照れたら負け、という簡単なルールで、負けたら奢りなと言ったのはオレだ。
ハヤトは一番に負けて、オレは優勝した。まさかジュンの方がシキより強いのは意外だったなあ。最後はオレとナツキの一騎打ちで、勝負は随分長引いた。
「最初に負けたヤツが優勝者に奢る。これ運命なり」
「もー、ハルナに勝てるはずないじゃん……」
チョコドーナツを頬張りながら、ハヤトのふわふわの髪を撫でてみる。「外ではやめて」と言わんばかりに払いのけて慌てて顔をあげるハヤトの顔は、相変わらず真っ赤だ。
「でもいいの? せっかくの優勝なのに、またドーナツで」
「当たり前だろ。ドーナツが一番好きだし」
それに、と続ける前に、ジュースで口の中を洗った。オレンジジュースはさっぱりと爽やかで、夏の昼間にはぴったりだ。
「ハヤトと二人で食えるのが、一番嬉しいし」
「……なっ」
これ以上真っ赤になれないだろうというぐらい真っ赤になったハヤトから、湯気が見えた気がする。からかい甲斐があるというものだ。プレーンドーナツに手をのばしながら、ひっきりなしに視線を泳がすハヤトに目を細める。
「……なんで、そんなに恰好いいんだよぉ」
「さーなぁ」
自分ではそんなつもりはないけど、まあ世間がそういうならそうなんだろうな、と思っていた。何より、ハヤトにそう思ってもらえるなら嬉しい。俺にとっては、ステージの上のハヤトが一番恰好いいんだけどな。この辺はシキと気が合いそうだ。
「でも、ハルナのかわいいとこ、知ってるよ。コーヒー飲めないとこ」
ムキになったハヤトはキッとオレを見上げる。ただの小動物にしか見えないんだよなあ。そんなこと言ったら、自分だって普段から飲まないくせに。
「キスする時、苦いのいやじゃん」
「だっ、から、そういうとこ……!」
最近、ハヤトが照れるポイントが分かってきた。本当に、見ていて飽きないなあ。これが優勝した一番のご褒美だなあ。
「今日このあと、どうする?」
「えー、俺もうお金ないよ」
「いいよ、ドーナツ奢ってもらったし。次はオレの奢り。カラオケでも行く?」
でもそれじゃあ、と言い返そうとする彼に「フェアでいこうぜ」と返す。もうとっくに、優勝賞品は貰ってるのだから。
隣の席のおじさんが、険しい顔のままパソコンを閉じたのを合図に、じゃあそろそろ行こうか、とジュースを飲み干した。ハヤトも残りのドーナツを口に詰め込んで、まるでリスみたいで、今度こそ思わず笑ってしまう。笑うなよお、とまた顔を赤くするハヤトは照れ隠しのようにスマホを見て、目を見開いたままごくりとドーナツを飲み込んだ。
「あ」
「どうした」
「昨日の愛してるゲーム、シキがツイッターにアップしてて、バズってる」
「マジか」
いつも行くドーナツ屋の店内は賑わっており、席も最後の一つだった。隣の席のおじさんはパソコンに向かってかなり険しい顔をしていて、かわいらしい店内には似つかわしくなかった。
「あーあ、なんで……」
赤面したハヤトはうつぶせになる。その光景があまりに愉快で、オレは大声で笑いだしたくなるのを必死に堪えていた。
「負けたハヤトが悪いんだろー」
「だって、あんなのズルいよ……」
なんてことない、きっかけは昨日の部室でのことだった。シキが突然、「愛してるゲーム」をやろうと言い出したのだ。真顔で「愛してる」と伝えられるか、照れたら負け、という簡単なルールで、負けたら奢りなと言ったのはオレだ。
ハヤトは一番に負けて、オレは優勝した。まさかジュンの方がシキより強いのは意外だったなあ。最後はオレとナツキの一騎打ちで、勝負は随分長引いた。
「最初に負けたヤツが優勝者に奢る。これ運命なり」
「もー、ハルナに勝てるはずないじゃん……」
チョコドーナツを頬張りながら、ハヤトのふわふわの髪を撫でてみる。「外ではやめて」と言わんばかりに払いのけて慌てて顔をあげるハヤトの顔は、相変わらず真っ赤だ。
「でもいいの? せっかくの優勝なのに、またドーナツで」
「当たり前だろ。ドーナツが一番好きだし」
それに、と続ける前に、ジュースで口の中を洗った。オレンジジュースはさっぱりと爽やかで、夏の昼間にはぴったりだ。
「ハヤトと二人で食えるのが、一番嬉しいし」
「……なっ」
これ以上真っ赤になれないだろうというぐらい真っ赤になったハヤトから、湯気が見えた気がする。からかい甲斐があるというものだ。プレーンドーナツに手をのばしながら、ひっきりなしに視線を泳がすハヤトに目を細める。
「……なんで、そんなに恰好いいんだよぉ」
「さーなぁ」
自分ではそんなつもりはないけど、まあ世間がそういうならそうなんだろうな、と思っていた。何より、ハヤトにそう思ってもらえるなら嬉しい。俺にとっては、ステージの上のハヤトが一番恰好いいんだけどな。この辺はシキと気が合いそうだ。
「でも、ハルナのかわいいとこ、知ってるよ。コーヒー飲めないとこ」
ムキになったハヤトはキッとオレを見上げる。ただの小動物にしか見えないんだよなあ。そんなこと言ったら、自分だって普段から飲まないくせに。
「キスする時、苦いのいやじゃん」
「だっ、から、そういうとこ……!」
最近、ハヤトが照れるポイントが分かってきた。本当に、見ていて飽きないなあ。これが優勝した一番のご褒美だなあ。
「今日このあと、どうする?」
「えー、俺もうお金ないよ」
「いいよ、ドーナツ奢ってもらったし。次はオレの奢り。カラオケでも行く?」
でもそれじゃあ、と言い返そうとする彼に「フェアでいこうぜ」と返す。もうとっくに、優勝賞品は貰ってるのだから。
隣の席のおじさんが、険しい顔のままパソコンを閉じたのを合図に、じゃあそろそろ行こうか、とジュースを飲み干した。ハヤトも残りのドーナツを口に詰め込んで、まるでリスみたいで、今度こそ思わず笑ってしまう。笑うなよお、とまた顔を赤くするハヤトは照れ隠しのようにスマホを見て、目を見開いたままごくりとドーナツを飲み込んだ。
「あ」
「どうした」
「昨日の愛してるゲーム、シキがツイッターにアップしてて、バズってる」
「マジか」