漣タケ

「ハナビ?」
「恭二さんに貰ったんだ。マグルの祭りで使われるんだと。火花が出るらしい」
「そんなの杖ふりゃすぐだろーが」
「マグルは杖を持ってない」
 少し頭を使えばわかるだろうに。短絡的なアイツにやれやれと頭を振りながら、透明なビニール袋を破り、説明書きを見る。
 恭二さんはマグル出身だ。時々マグル界に帰った後、お土産を買ってきてくれる。俺や隼人さんたちの、密かな楽しみだ。今回は「夏祭り」に行ったらしく、そのおすそ分けだと言っていた。
「えーと、バケツに水と、ライターを用意する」
「マグルらし」
 アイツは杖をひと振りして、俺が持ってきていたタライに水を張る。途端に重みを増したそれを俺は慌てて地面に下ろし、ハナビの一つを手に取る。
 アイツはいつも、俺が恭二さんから貰うマグル界のお土産のおこぼれを貰おうとする。マグルを見下したいのかと思っていたけど、どうやらそうではないらしい。物珍しいものが好きなようだ。仕方なく、俺はいつもアイツと半分こをする。
「ホラ、オマエも」
「一番デカいやつにしろ」
 それぞれを手に持ち、先端に杖を向け、火を放つ。ハナビはちりちりと煙を出したかと思うと、突如、鮮やかな火花を散らした。俺は緑色、アイツはピンク色。魔法で見慣れているきらめきとは少し違う、人工的な輝き。自分の意思とは関係なくじゅんじゅんと燃える棒を持つのはドキドキして、俺はすっかり夢中になった。
「綺麗だな」
「……フン」
 火花が生まれるだけで、その先に火も水も花も現れるわけでもないそれを、アイツも気に入ったようだ。一つのハナビが終わった途端、他の棒を取ろうとビニール袋を漁る。
「あ、それ、それは静かなヤツだって」
「どれだ」
「深緑色の、小さいヤツ。おすすめって言ってた」
 センコウハナビと言うらしいその棒を、俺とアイツは一本ずつ手に取った。風のないところで、下に向けて持つとのことだ。俺は二つの棒にゆっくりと火を点けた。
 じりじりと火を飲み込んでいった棒は大人しく、俺とアイツは顔を見合わせた。不発だろうか。もう一度火をつけたら変わるかと思い杖を向けたその時、棒の先端の火の玉が輝いた。
「わ……」
 ぱちぱち、と小さな花を散らす火の玉は、頬に温かく鮮やかだった。弾ける火の可憐で美しいこと。少しずつ激しくなる火花の踊りにワクワクする。
 二人して無言で、火の音だけを聞いていた。俺たちの手の中の、小さな宇宙。か細い、脆い、あっけない命の炎。きっと一過性だから美しいのだろう。しゅんしゅんと縮んで、小さな火の玉になっただけのそれを、俺たちはいつまでも見ていた。
「……先にこの火の玉落とした方が、レポート代理な」
「なんでそんな事……あ」
 ぽと、と玉を落とした俺を、フフンと鼻を鳴らしてアイツが笑う。アイツの火の玉はまだ棒の先端でまるまると太っている。
「俺は引き受けてない」
「負けは負けだ」
 そもそも勝負をしていなかったというのに。ぽと、とアイツの火の玉も落ちて、地面に焼けこげを作った。二人で遊んだ後始末はいつも俺一人でやる。アイツはどこ吹く風だ。
「最後の、面白かったな」
「センコウハナビ。俺も好きだ」
「また貰ってこい」
「伝えておく」
 マグルの作る、繊細な美が好きだ。それをアイツと二人で楽しむのも。このとっておきの時間は、魔法で守れやしない。きっとこれも、一過性だから美しいのだろう。
 元通り綺麗になった地面を確認して、俺たちは談話室へ戻る。夜中に抜け出していたことがバレたら困るから、今日のことは寮のみんなには秘密だ。
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