漣タケ

 部屋の掃除をしている時に、コンドームの新しい箱を見つけた。
 薬局で買ったのか通販で買ったのかはわからないが、薄い袋に包まれたままの黒い箱が、四箱も。
 ――コンドームって、まとめ買いすると安くなったりするのか……?
 ベッドサイドのミニテーブルの小さな引き出しにそれは乱雑に突っ込まれており、隠す気もさらさらなさそうであった。俺は引き出しの中身を整理するために、一度全てを取り出す。
 新しい箱の他に、開封済みの箱も出てきた。ジェル付きのと、薄さに拘ったのが。使い比べてみようとして、大して違いが分からなくて、暗がりの中で手に取ったやつを使っているから、減り方も半々だ。
 六つの箱と、使いかけのローションをベッド上に並べて、俺は一人で赤面する。だってこれじゃあ、まるで、やることをこんなにも楽しみにしてるみたいだ。
 ガチャ、と寝室のドアが開いた時にはもう遅かった。心臓をばくばく言わせながらベッドの前で真っ赤になってる俺と、並べられたコンドームの箱。一瞬固まった後大笑いするアイツを前に、俺はどうにか誤解を解こうと焦った。
「チビ、そんなにオレ様とやりてーかよ」
「ちが、ちがう!」
「ちがくねーだろ、そんな用意しといて」
「整理しようと思っただけだ! オマエこそなんだ、こんなに買いためて、そんなに俺とやりたかったかよ」
「そーに決まってんだろ」
 言い返しただけなのにあっさりと返されてしまっては、もう二の句が継げなかった。ひとしきり笑ったあとおもむろに近づいてくるアイツに、思わず後ずさりする。
「ちーび」
「な、なんだ」
「逃げんな」
「逃げてなんか」
「してーんだろ」
「それはオマエだろ」
 だからそうだっつの、と言いながら伸ばされた腕にあっさりと捕まり、俺は首を振ることしか出来ない。
「ま、まだ昼だ」
「だから何だよ」
「掃除の途中だ」
「あとでまたやればいいだろ」
 降ってくる唇を拒めない。心臓はまだうるさい。獲物を得た猛獣は、この上なく楽しそうに俺を貪る。
「これ、全部使い切るぞ」
「んな無茶な……!」
 そんなことしたら死んじまう、だけどこいつならやりかねない。俺はぞっとしながら、逃れられない腕の中で、己の運命を嘆くのだった。
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