漣タケ

 数をかぞえる。一から十まで、ゆっくりと。
 風呂に入る時、アンガーマネジメントとやらで怒りを鎮める時、そして、ライブのステージに立つ前の深呼吸。
 いち、に、さん。
「今日まで繋いできたパッションをぶつけよう」
 よん、ご、ろく。
「届かせよう。皆の思いを、この歌を」
 なな、はち、きゅう。
「We are 315!」
 じゅう。
 みんなのそれぞれの、自分を鼓舞する声の中。ゆっくりと十、かぞえる。
「チビ、どうした。怖気づいたかァ?」
 アイツが高らかに笑いながら、俺の肩を小突いた。オマエだって、武者震いが止まらないくせに。
「そんなわけ、ないだろ」
「今日も勝負だからな」
 アイツはニヤリと笑った。十かぞえた俺は、無敵だ。小突き返しながら宣言する。
「オマエの勝負。受けて立つ」
「お、やる気じゃねーか」
「いつまでも。いつまででも、受け続けてやるよ」
 それは、この事務所の繁栄が、発展が、いつまでも続くようにというおまじないだ。いつまでもライブに出続けよう。いつまででも、やりあおう。
 俺の言葉を聞いたアイツは満足げに「ハッ」と笑った。それでこそチビだ、と言いたげな眼光に、俺も負けじと視線をぶつける。
 絶対に、勝ちは譲らない。
 ステージ袖で、円陣を組んだ時。アイツと隣になった。
 重ねた手のひらは、今までで一番熱かった。
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