漣タケ
足首と膝が痛かった。転んだりもぶつかったりもしていない。アザも腫れも見当たらない。それでも夜中に目が覚めるほど痛かった。
「成長痛かもしれないなあ」
「セイチョウツウ」
「もっと小さい頃に、同じ痛みがなかったか? その歳でもまだ背が伸びるかもしれないんだなあ」
「昔の痛みなんか忘れた」
らーめん屋から教わったセイチョウツウとやらは、背が伸びる時にくるそうだ。怪我や病気でなくて安心した。ふとチビを見ると、どこか不機嫌そうな顔をしていた。いつもなら無関心を装っているのに。
「なんだァ? チビ」
「……オマエ、これ以上高くなるのか」
「くはは、チビが更にチビになるなぁ!」
それはそれで楽しみだ。この痛みを乗り越えた先、チビをさらに見下ろすことが出来るのだ。その未来のためなら、この煩わしい痛みも我慢してやろうという気になる。チビはきっと、身長差が開くことにムカついているのだろう。オレ様は愉快で仕方なく、その日のラーメンも超大盛を頼んだ。
夜。チビの家に行くと、チビはまだむくれていた。そんなに身長でオレ様に負けるのが悔しいのか。オレ様はふたつ、明確にチビに確実に勝てていることがある。年齢と身長だ。チビはそこで張り合おうとはしないけれど、こんなに意識されているとなると、からかってやりたくなる。
「ちーび」
「……うるさい」
「チビにチビって言って何が悪いんだよ」
「勝手に言ってろ」
ああ、楽しい。大笑いしながらチビの頭に手を乗っけると、チビは振り払った。振り払ったが、オレ様の手を掴んだままだった。何事かと思うと、みるみるうちに頬が染まっていく。なにやらもごもご言うので、なんだよ、と詰めると、オレ様から目を逸らしたまま小さな声を発した。
「……キス、しづらくなる」
「……!」
「今なら、俺が背伸びしたら届くのに」
オレ様はチビの手を引っ張り、お望み通り口づけしてやった。チビは自分で言っていた通りに少しだけ背伸びをしている。そうか、これじゃ足りなくなるのか。きっとオレ様が屈まないとだめなんだ。
「チビも伸びりゃいいだろ」
「無茶言うな」
「まあチビが伸びても、オレ様よりチビなんだろうけどな」
チビはむっとした顔のまま、オレ様の襟ぐりを掴み、攻撃的なキスをした。コイツにしては乱暴だ。チビの荒い息遣いを聞きながらうなじを撫でると、ビク、と全身を震わせた。
自分が大きく伸びた時のことを想像した。チビはキスをしたくなったら、こうしてオレ様をたぐり寄せるのだろう。そしてオレ様は屈むのだ。チビの背に合わせて膝を曲げて。きっとその体勢は辛くなって、あっというまに押し倒してしまうに違いない。チビはそれを望んで、オレ様の襟首を掴むのかもしれない。今みたいに顔を真っ赤に染めて。
「……いつかオマエの背、超えてみせるから」
「チビには無理だ」
「わからないだろ」
「チビはチビでいいんだよ」
オレ様はチビの髪をぐしゃぐしゃに混ぜた。この景色も今だけかもしれない。沢山味わおう。チビはやっぱりオレ様を振り払って、オレ様はそれを追いかけるのだった。
「成長痛かもしれないなあ」
「セイチョウツウ」
「もっと小さい頃に、同じ痛みがなかったか? その歳でもまだ背が伸びるかもしれないんだなあ」
「昔の痛みなんか忘れた」
らーめん屋から教わったセイチョウツウとやらは、背が伸びる時にくるそうだ。怪我や病気でなくて安心した。ふとチビを見ると、どこか不機嫌そうな顔をしていた。いつもなら無関心を装っているのに。
「なんだァ? チビ」
「……オマエ、これ以上高くなるのか」
「くはは、チビが更にチビになるなぁ!」
それはそれで楽しみだ。この痛みを乗り越えた先、チビをさらに見下ろすことが出来るのだ。その未来のためなら、この煩わしい痛みも我慢してやろうという気になる。チビはきっと、身長差が開くことにムカついているのだろう。オレ様は愉快で仕方なく、その日のラーメンも超大盛を頼んだ。
夜。チビの家に行くと、チビはまだむくれていた。そんなに身長でオレ様に負けるのが悔しいのか。オレ様はふたつ、明確にチビに確実に勝てていることがある。年齢と身長だ。チビはそこで張り合おうとはしないけれど、こんなに意識されているとなると、からかってやりたくなる。
「ちーび」
「……うるさい」
「チビにチビって言って何が悪いんだよ」
「勝手に言ってろ」
ああ、楽しい。大笑いしながらチビの頭に手を乗っけると、チビは振り払った。振り払ったが、オレ様の手を掴んだままだった。何事かと思うと、みるみるうちに頬が染まっていく。なにやらもごもご言うので、なんだよ、と詰めると、オレ様から目を逸らしたまま小さな声を発した。
「……キス、しづらくなる」
「……!」
「今なら、俺が背伸びしたら届くのに」
オレ様はチビの手を引っ張り、お望み通り口づけしてやった。チビは自分で言っていた通りに少しだけ背伸びをしている。そうか、これじゃ足りなくなるのか。きっとオレ様が屈まないとだめなんだ。
「チビも伸びりゃいいだろ」
「無茶言うな」
「まあチビが伸びても、オレ様よりチビなんだろうけどな」
チビはむっとした顔のまま、オレ様の襟ぐりを掴み、攻撃的なキスをした。コイツにしては乱暴だ。チビの荒い息遣いを聞きながらうなじを撫でると、ビク、と全身を震わせた。
自分が大きく伸びた時のことを想像した。チビはキスをしたくなったら、こうしてオレ様をたぐり寄せるのだろう。そしてオレ様は屈むのだ。チビの背に合わせて膝を曲げて。きっとその体勢は辛くなって、あっというまに押し倒してしまうに違いない。チビはそれを望んで、オレ様の襟首を掴むのかもしれない。今みたいに顔を真っ赤に染めて。
「……いつかオマエの背、超えてみせるから」
「チビには無理だ」
「わからないだろ」
「チビはチビでいいんだよ」
オレ様はチビの髪をぐしゃぐしゃに混ぜた。この景色も今だけかもしれない。沢山味わおう。チビはやっぱりオレ様を振り払って、オレ様はそれを追いかけるのだった。
1/81ページ