初恋泥棒ピーと心の狭いココ

初恋泥棒ピーと心の狭いココ


「なあ真ちゃん。アイツ。見て。」
「あ〜ヤバいヤツかな。めちゃくちゃ見てるな。ストーカーとかにならなけりゃいいんだけど。」

どうも。小姑のワカです。いや別に血縁的に小姑じゃねえんだけど、青宗がかわいいもんだからちょっとばかしモンペムーブかましてたら小姑とか言われるようになったんだけど。別にそれはいいんだけどさあ。俺さっきから真ちゃんの店でサボってんだけど、あの客ずっと青宗のこと見てんだよね。青宗はどヤンキーなんだけど顔がかわいいから変なのに粘着されることがあるから心配だ。例えば、青宗にことあるごとに犬のぬいぐるみを渡してくるぬいぐるみオジとか。手づくりのお世辞にも上手いとは言えない菓子を押しつけていく女だとか。しつこくサウナに一緒に行こうと誘ってくるボディービルダーのオジとか。実にバリエーションに富んでいる。あの客も妙な動きしてるからな。どさくさにまぎれて青宗の尻触ったりしたらつまみ出さねえと。お。話しかけたな。

「あの…」
「はい。いらっしゃいませ〜。何かお探しのものありますか?」
「違ったらごめんだけど、セイちゃんだよな?おぼえてないと思うんだけど…幼稚園の頃体操教室で一緒だったんだ…一緒にサボってねり消しつくったり…」
「…う〜ん…?」
そう言って青宗が1センチくらいまでソイツに近づいて凝視するから、ソイツは真っ赤になってしまっている。
「おまえ…!!ねり消しのシュン!!」
「あ。そうそう!!ねり消しのシュンだよ!!思い出してくれた!?」
「シュン!!体操教室が同じだったけど、小学校も中学校も違うからどうしてんだろうなあって思ってたんだよ!!おまえよりねり消し作るのうめえやついないからな。」
「俺もだよ。セイちゃんバイク屋さんで働いてるんだね!カッコいい!いや。ごめん。本格的なバイクじゃなくて自転車代わりのスクーター探してて。でもここカッコいいバイクばっかだもんな。」
「いや。スクーターけっこうあるぜ。見てけよ。ほんといろいろあるから。」

「なんだ。幼馴染に再会しただけか。良かった。」
俺はひと安心する。
「良かった良かった。スクーターも売れるかもしれねえし。」
真ちゃんもスクーターが売れそうでご機嫌だ。実のところ、真ちゃんが溺愛する弟の万次郎が中坊の頃ホーク丸と名付けた原付をこよなく愛していたため、真ちゃんの店にはホンダの原付はじめスクーターもけっこうな種類を取り揃えている。まあ。それはともかく。この青宗がなつかしの幼馴染に再会したって展開アイツはおもしろくないだろうな。青宗の恋人でそれこそ幼馴染の九井一は。





それは本当に偶然だった。職場が移転して少し遠くなったから、スクーターがあったらいいなと思ってブラブラ探していた。見つけたバイク屋はすごくキラキラしていてスクーターって感じじゃないなと思って他の店を探そうと思ったら、キラキラのバイクを整備しているキラキラの店員が目に入った。背が高く顔が小さく、よく手入れされた金髪を長めに伸ばしたその店員はガラス張りの店というのもあってそれはそれは人目を引いた。その店員の麗しい顔なんだけど、どうも見たことがある。もう少しその人を見たら思い出すかもとバイク屋に入り、バイクを見つつその人を盗み見た。その人はLIN◯か何かきたのか作業着の尻ポケットからスマホを出してチェックしている。親しい人から嬉しいメッセージでもきたのだろう、スマホを見てフフって微笑んだ。その微笑みを見た途端俺は幼い頃の記憶がたくさんよみがえってきた。間違いない。このバイク屋の店員は幼稚園の頃体操教室で仲良くしていたセイちゃんこと乾青宗だ。思いきって声をかけたら、セイちゃんも俺のことを思い出してくれてすごく嬉しかった。通勤にちょうど良さそうなスクーターも出してくれて、俺はセイちゃんにも再会できたしスクーターも買えたしとても良い日になった。さしつかえなかったらLIN◯教えてくれない?と俺が言ったらもちろん!とセイちゃんはニコニコして交換してくれた。めちゃくちゃ嬉しい。なぜなら、セイちゃんって俺の初恋の人だから。なんていうか。セイちゃんによって俺の性的嗜好はなかなかにねじ曲がってしまった気がする。

セイちゃんに初めて会ったのは5歳の時だった。そんな時の記憶があるのは、ひとえにセイちゃんがかわいくてビックリしたからだ。セイちゃんは天使のような見た目だったが、なかなかの悪ガキで体操教室を抜け出したり、飛び箱の上につかまえたカマキリを置いて女の子を泣かせたりしていた。俺はそんなセイちゃんがおもしろくて一緒になって悪さをしたり、すごく楽しい時間を過ごした。幼稚園を卒園して、小学生になっても俺もセイちゃんも体操教室を続けていた。でも、三年生の夏休み母親から中学受験をするから体操教室は夏休みが終わったらやめようねと言われてしまう。体操教室をやめたくないというよりかは、セイちゃんとは小学校が違うから、やめてしまうとセイちゃんと会えない。それだけが嫌だった。

最後の体操教室の日、セイちゃんがきれいな丸い石を俺に渡してきて、俺の宝物の拾った石シュンにやる。シュンはずっとダチだから。と。そして、その綺麗な石よりずっと綺麗な薄緑の大きな瞳からボロボロと涙を流したのだ。俺はセイちゃんのその泣き顔を見て、これは初恋だったのだと悟った。だってセイちゃんのきれいな涙を飲みたいなと思ったのだから。こんなこと友達には思わないだろう。セイちゃんは俺のことを友達だと思ってくれているが、俺はセイちゃんには友達に向けるべきでない感情を持っていた。そして怖くなった。セイちゃんとのことは美しい思い出にしておきたかった。嫌われたくない。だから、頑張って連絡をとろうと思えばとれたのかもしれないが、あえてそうしなかった。その後、俺はまったく女性に興味が持てなくなり、大人になるとセイちゃんに似たようなハーフっぽいきれいな男の人を好きになってつきあっては振られるという悲しい恋を繰り返している。セイちゃんに似た男の人は俺と別れる時必ず言う。シュンは俺のことが好きなんじゃないよね。誰かと重ねてるだけだ。と。そうだ。俺はずっと乾青宗が好きだった。今回再会できたのは良いことなのかもしれない。あわよくば付き合えるかもしれないし、コテンパンに振られてスッキリ今度こそ新しい恋ができるかもしれない。俺はもうすぐ30なのだし、この長年の恋心に区切りをつけたかった。




3
休日のよく晴れた気持ちの良い昼間。だというのに最近イヌピーが昔のダチに再会したとかで、ソイツとLIN◯をしている。正直言っておもしろくない。俺のおもしろくないことランキング第1位は花垣にしっぽブンブン振って懐くイヌピー。第2位は佐野真一郎にしっぽブンブン振って懐くイヌピー。第3位はその他もろもろの人間にしっぽブンブン振って懐くイヌピー。おわかりの通り、俺以外に懐くのがとにかくイヤ。不快。だって俺のイヌピーなんだから。触らないでほしい。
「なあ。ココ!シュンがうち遊びに来たいって!いい?」
シュンだかジュンだか知らねえしそんなもの嫌に決まってるが、イヌピーお願いそんな顔で見ないでかわいいかわいい何でも許しちゃう。
「いいけど?」
俺はかっこいい彼氏なので、努めてクールに返事をした。まあ。シュンとやらが来たらちょっとばかしわからせてやればいい。イヌピーは俺のだってな!!手始めにイヌピーの手からスマホをポイと放り投げると、昼間だが寝室に連れ込んだ。イヌピーは見た目こそ天使のようでいやらしいことなんかしたことないみたいな顔をしているが、実際のところ快楽におぼれることが嫌いではない。こうやって昼間から誘うと、なんか悪いことしてるみたいでドキドキする!と無邪気に笑いながら待ちきれないように俺の服を素早く脱がすのだから天使のような娼婦のようなとんでもない小悪魔なのである。性に淡白でもなく、俺がイヌピーに挿入すると、イヌピーは自ら自分のいいところを探し腰を動かして行為に耽溺する。その時の快楽のことしか頭にないであろう彼の顔は、ものすごく綺麗で俺は大好きだ。この顔は一生誰にも見せたくない。恋人の座も幼馴染の座も俺は誰にも譲る気はない。




4
セイちゃんの店でスクーターを購入してからも、彼と楽しくLIN◯で交流を続けていた。さすがバイク屋さんで、俺カッコいいバイク持ってるんだぜと言うので、軽い気持ちで見たいなあと言ったらセイちゃんはウチ来る?ときた。願ってもないことだ。
待ち合わせの駅前で待っていると、バリバリとまあまあ迷惑な音とともにカッコいいバイクに乗ったセイちゃんがあらわれた。フルフェイスのヘルメットをとってツヤツヤの金髪がこぼれ出てくる様はヴィーナスのようであったことをここに記しておく。駅前でバイクうるせえな!ヤンキーかよ!と言っていたサラリーマンぽい2人が、あらわれたセイちゃんを見て、ぜんぜんうるさくないね。うん。ほんと静か。と言っていたのがおもしろかった。
「よお〜シュン!乗れよ!」
とセイちゃんがヘルメットを渡してくるので、ドキドキしながら乗る。片手をタンデムシートに、片手を俺の肩か腰に置けしっかりだぞ危ねえから!とセイちゃんが言うので、失礼ながら腰に手をまわさせてもらう。下腹が薄くて何の無駄な肉もないのでつかみやすい。この腰をつかむやつ…いるのかな…。うらやましいな。
到着したマンションはけっこう高級なファミリータイプで、失礼ながらバイク屋さんの店員に買えるんだろうか?という感じの物件だった。駐車場にバイクをとめると、隣の駐車場には青色のカイエンがとまっていてまわりの駐車スペースを見ても高級車ばかりだった。
「セイちゃんすげぇとこ住んでんな!これ隣の青色のカイエンじゃん。こすったら大変だ。」
「ああ。このカイエンは同居人のだから、こすっても怒られねえ。」
「え。セイちゃん一緒に住んでる人いるの!?」
「うん…なんていうか…ソイツすげぇ口うるさいと思うんだけど…悪いやつじゃないから…」
セイちゃんの歯切れが悪すぎるので、にわかに不安になる。だってカイエンに乗ってて口うるさいって怖いしかないじゃん。そして、バイク用のグローブをはずしたセイちゃんの左手薬指の指輪と、マンションで待ちかまえていた派手髪カイエン男の左手薬指の指輪がおそろいなのを見て俺は全てを悟る。30を前にして初恋に区切りをつけることができそうだ。…ていうか、この派手髪カイエン男って、テレビとかにも時々出るなんかデカい会社の会長じゃね…?チャリティーとかにも熱心な…いやセイちゃんすげぇ旦那つかまえたな…さすがだぜ…。




5
イヌピーが連れて来た幼馴染だとかいう男は、俺の左手薬指の指輪とイヌピーの左手薬指の指輪を見てあきらかに落胆した顔をした。やっぱりだ。イヌピーは幼い頃から人の性癖を目覚めさせるのだから。このシュンという幼馴染だって、もとから男が好きではなかったはずだ。イヌピーと接してそちらに目覚めてしまったものと思われる。イヌピーってやつは稀少な宝石みたいな男で、どうにかして触ってみたい、囲ってみたい、舐めてみたい、涙を流させてみたい、などさまざまな欲望の対象となる。シュンだけではない。小学校の時、教育実習の男がイヌピーにねっとりとした視線を向けていた。黒龍の時、イヌピーがかかとがすり減ったからと捨てたミュールを拾って帰るやつがいた。今だって小姑今牛のおかげでどうにかなっているがヘンタイじみた客が店に来たりする。みんなイヌピーを自分の欲望のままにどうにかしたいのだ。かくいう俺だってそうなのだが。
我が家に遊びに来たシュンはそんなヤツらの中では比較的マトモな部類だろう。背もイヌピーくらいあるし、顔もあっさりとしたさわやかな青年だ。勤め先を聞いたら都民なら誰が聞いても知っている信用金庫だったし、イヌピーが出したコーヒーやお菓子を口にする様子を見ても育ちの良さがうかがえる。つまりはとても素敵な男性ということだ。しかし、イヌピーがずっと一緒にいるのはこういう普通の好青年ではない。この俺なのだ。その事実に俺はひどく興奮した。シュンが予想に反してイイヤツだったため、自他共に認める心の狭さを持つ俺もなごやかに会話をし、それなりに楽しい時間を過ごせた。

シュンが帰り、楽しかったとはしゃいでいたイヌピーは眠くなってきたらしくリビングのラグの上をゴロゴロし始めた。俺はソファーに寝そべってスマホでメールチェックをしていた。そうしたらずしりと重みを感じる。イヌピーの重さだ。イヌピーは本能で生きているから、俺に乗っかって下腹部をすりつけてくる。これはセックスがしたいという意味だ。
「ココ。しよう。」
「なに。俺じゃない幼馴染と会って興奮した?」
「意地悪言うなココ。俺はおまえじゃないとダメだってわかってるくせに。」
言いながらイヌピーは俺に乗っかったままポイポイと服を脱ぎ、おしげもなくその美しい裸体をさらした。
うすいわき腹をさすってやると気持ちよさそうに目を細める。
「な。ココ挿れて。はやく。」
いつの間に準備したのかイヌピーは俺の指を導く。こんな美しい生き物をこれから好き勝手できる幸せを俺はかみしめた。
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