ココを祝うピー

カワイから見たココイヌなど

1
俺はカワイ。九井さんの部下…まあ秘書のようなものと思ってくれてかまわない。10代目黒龍の時からの付き合いだからもうけっこう長いな。だから、プライベートなことも割と頼まれる。現在も九井さんと一緒に暮らしている乾さんに飯を食わせるよう命じられて彼らのマンションに向かっている。九井さんに指定されたデリでサラダボウルをピックアップして。当の本人は現在プーケットへ出張で早朝の飛行機に乗ったはずだから不在だ。豪奢なタワーマンションのパーキングに駐車して最上階の部屋へ向かう。これは乾さんの1番の部下コヤマには秘密なのだが、俺にだけは合鍵が渡されている。理由は簡単で、俺カワイは愛妻家で4人も子どもがいるから乾さんに下心がないと九井さんに判断されているからだ。コヤマはノーマルをうたっているが、俺から見ても少し乾さんに傾倒し過ぎている。だから合鍵は渡されてない。合鍵を使って部屋に入りカーテンを開けて食卓を整える。次に寝室に入り、出張前恒例の九井さんによる抱き潰しでダウンしている乾さんを介抱する。蒸しタオルで、鬱血痕と体液にまみれた乾さんを拭いていく。この作業は愛妻家の俺でないとできないだろうなと思う。コヤマあたりだと手を出しかねない。
「起きれますか?」
と尋ねるとカスカスの声で腰がイカれちまってると言うので、寝室に食事を運び食べさせる。それが終わったらシーツをかえ、再び乾さんを寝かせるとひとまず仕事は終わりだ。
「九井さんのお帰りは5日後の昼過ぎです。何かあれば俺に電話くださいね。」
と言うと、乾さんは5日後…とつぶやいて寂しそうな顔をする。
「…しばらく俺でよかったらいましょうか…?」
と言うと、乾さんはわかりやすく嬉しそうな顔をするので、困ってしまう。男性にこう言うのは好かないが、あまりに素直だから子どものようにかわいらしく思えて。立派な体格の反社だというのに。10代目黒龍の頃から乾さんにはこういう無垢なかわいらしさがあったように思う。ふだんはアイスドールのようだから、余計にこの時々出てくるかわいらしさのギャップに狂わされるのだというのは酔っぱらった九井さんの言葉である。結局俺は子どもが4人いるからか寂しがっている乾さんを放っておけず、ベッドの上にスイッチを持ってきてポケットなモンスターを3時間ほどふたりでやり俺は帰宅した。何回も言うが、乾さんの部下のコヤマなら手を出しているところなので、九井さんは俺に感謝してほしい。





2
今回の抱き潰された乾さんの世話だとか、人によっては気持ちが悪いと嫌悪するのかもしれない。九井さんのことをよく思ってない人は、九井は乾をがんじからめにしていると言う。黒川さんあたりはふたりの異常性に気がついているだろうし、あの人はどちらかというと乾さんに肩入れしている節がある。そこまで乾さんに思い入れはないが、かわいいペットだから逃してやりたい。黒川さんのことだから、そんなところだろうか。確かに九井さんの乾さんの守り方は昔から間違っている。けれど九井さんにはそれしかできない。九井さんの愛は深いし偽りないのだけど、決定的に間違っている。だからふたりはこんな世界でこんなふうに生きているのだ。自分もそうだからわかる。俺の妻だって、俺と結婚さえしなかったらパートに出てみたりママ友をつくったりできただろうに。俺は反社だからそういう普通の生活をさせてやれないから、金をありったけ使って妻や子どもたちには豪華な生活をさせている。たぶんこれだって彼らと同じく間違っているのだ。でも、どうしたって俺は妻と一緒にいたいのだ。絶対に手放したくない。手放したほうが妻は幸せかもしれないのに。こうした考えが非常に九井さんに似ており、聡い九井さんは俺のこの思考はお見通しで、だから俺は長年彼のいちばんの部下におさまっているのだと思う。
「おまえの愛妻家ぶりけっこう好きだぜ。カワイ。おまえ俺と似てるな。」
と過去に一度だけ九井さんに言われたことがあるくらいには似ている。俺が九井さんにこれまでついてきたのは、もちろん彼の才能や努力にひかれたのもあるが、その自分との類似性が理由なのだと思う。九井さんは基本的に口も悪いし態度も悪いが、彼の地雷さえ踏まなければとても良い上司だ。ベタベタとした反社にありがちな馴れ合いもないし、他の幹部が喜ぶ太鼓持ちみたいなことは嫌うからしなくてもいいし、何より評価が高ければ高いだけ報酬もはずんでくれる。これから中国に手を広げるのならと空き時間を使って少しずつ何年もかけて広東語を習得したら、コツコツひとりで勉強するヤツは信頼できるし評価に値すると言ってかなり給料を上げてくれた。九井さんのこの合理的なところが気に入っている。乾さんの部下たちには苛烈な上司で大変だなと同情されるが、俺としては何も不満はないのだった。




3
ココがプーケットに出張に行くからって手ひどく抱かれた。海外に行く前は必ずそういうことをする。人前で脱げないような身体にしておかないと、イヌピーが他のやつに手を出されるかも。こんなに身体に抱かれたあとがあったら、イヌピーが浮気したって浮気相手萎えるだろ。と自信満々にココは言う。ココは頭が良いのに馬鹿だ。俺はココ以外とこういったことはやらないし、万が一物好きに襲われそうになったってそこそこ強いから相手を殺せるのに。ココは馬鹿だ。でもそんなところが好きなのだから。

抱き潰されても俺は体力があるから丸一日休息をとれば復活する。まあ。酷使された尻の穴だけはだいぶ回復に時間がかかるんだが。そういうわけで、今も半間と元気よく、まぎれこんでいた敵対組織のヤツを痛めつけたところだ。3、4日動けないように痛めつけて泳がせてみるらしい。さっさと殺せば良いのにと単純な俺なんかは思うが、頭の良い稀咲の指示なんだから従ったほうが良い。結局、稀咲然りココしかり、反社とはいえ上の方は頭が良いヤツが牛耳る。そういうものだ。しかし、3、4日動けないように痛めつけるってのはけっこう匙加減が難しかった。昔読んだギャングの漫画で3、4年動けないように痛めつけろという描写があったがそれも難しそうだなと思い、ふふっと笑ってしまった。

「そういうとこだぞ〜。」
仕上げに蹴りを入れていた半間が終わったのかそう言いながら俺に近づいてくる。
「ん?」
「おまえがさあ。時々そうやってフフって微笑むから情緒おかしくなる部下がたまにいるらしい。」
「まさか。」
「まあ。おまえ。顔だけは綺麗だからな。」
「そうかな。」
その瞬間、俺の腹はグーと間抜けな音をたてる。そう言えば、カワイが持ってきてくれたオシャレな草がたくさん入ったサラダ以降ほとんど何も食ってない。こういう仕事の前は集中力を高めたいからそもそもあんまり食わないようにしている。俺の腹の盛大な音を聞いてゲラゲラ笑っていた半間が息も絶え絶えに「なんか…メシでも…行く…?」と言う。半間とメシとか何を話せば良いのかわからないし億劫だが、この空腹は如何ともし難い。それに、ココのいない家に帰ったってカップ麺に湯を注ぐだけなのだから、それならば半間と何か食べた方が良い気がしてきた。半間も会話を楽しむタイプでもなし大丈夫だろう。とにかく米をたくさん食いたい。
「何食う?牛丼?」
「選択肢ねえじゃん。牛丼一択なんじゃん。」
そう言って半間は再びゲラゲラ笑った。案外良いヤツなのかも。




4
今日は稀咲に敵さんから送られてきたねずみを3、4日動けないよう痛めつけろと言われた。殺さないようにと。難しいな。一緒に行った乾も殺さないの難しいなみたいな顔をしていたのがおもしろかった。乾はそこそこ動けるし古参みたいに余計なことは一切言わないから便利だ。ひとつだけめんどくさいのは九井と現在進行形で昼メロみたいな関係を続けていることくらいだろうか。今日もあらわれたとき、あきらかに臀部をかばった歩き方でどんだけ尻穴かわいがられたんだよと舌打ちしたい気分だった。まあ仕事中乾の動きに尻穴の影響はなかったから許すが。そして、仕事が終わったらのんきに腹の音を盛大に鳴らすのだから笑っちまう。思わずメシに誘ってしまった。
どこにでもある牛丼チェーン店で乾が嬉しそうに牛丼をほおばっている。先程の仕事のせいで少しヨレているが、その九井プロデュースであろう仕立ての良いスーツと高貴な顔面のせいで牛丼屋のカウンターで激しく浮いている。まあ。己だって目立つ容姿と目立つタトゥーで浮きまくってるのだから人のことは言えないのだが。
「牛丼好きなん?」
「ん。好き。」
俺が尋ねると乾は子どものように答える。俺にくらべると小柄だがそれでもガタイの良い成人男性なのに、乾は時々無防備で。そのギャップがたまらないというのは一部マニアの意見だ。俺にはただのケンカ大好き牛丼大好きなシンプルな人間にしか見えないが。
「牛丼久しぶりに食った〜。」
「俺も。」
「牛丼好きなのに?久しぶり?」
「ココが行く店はなんかしゃらくせえ高え店だから。まあ。うまいんだが。たまにラーメンとか牛丼とか食いたい。」
「わかる…わかる…幹部会とか飽きるよな。ああいう料理…うまいけどさあ。」
「まあ。牛丼屋で幹部会とかしたら明らかにおかしいから。ああいう店になるのはわかるんだけど。たまには食いたいよな。こういうの。」
「…なあ。明後日さあ。たしか山に埋めに行くよな?俺とおまえで。帰りにモツ煮込み食わねえ?」
「…半間…最高かよ…」
乾がエメラルドみたいな瞳をキラキラさせて見つめてくる。やめろや照れる。でも名案だろ?正直なところ死体を処理した後は腹が減る。だって体力的にめちゃくちゃ大変なんだからさ。でも、一緒に行ったヤツは気持ち悪い気持ち悪いっつってメシどころじゃないことが大半だから、てっきり仕事の後はメシに誘っちゃダメなんだと思ってた。なんか俺って怖がられるし。俺顔悪くないと思うのにな。なんでだろ。女にだってけっこうモテる。て、それはどうでもよくて。乾は死体処理後のメシオッケーなタイプだったんかよ〜はやく言えよな!しかもメシの好きな傾向も俺と似ている。マジそういうことは早く言えよ〜!

そして、2日後死体処理をしに行き、本当に乾と峠のモツ煮込み定食を食べた。やっぱ仕事の後は米とほかほかのおかずなんだよ。こってり脂の浮いた麺でも良いなあ〜。その後も乾と仕事をした後はB級グルメ珍道中をすることとなる。乾と仕事となると、やたら俺が浮かれるので不審に思った稀咲が問い詰めてきた。乾とそういった関係を持つのだけはやめろ九井が死ぬほどめんどくさいからと言うので、今まで巡ったB級グルメをかっ食らう乾の色気もへったくれもない写真を稀咲に見せると、何やってんだテメェらよお〜!?と不倫とかじゃなくて良かったと安堵するとともにガチで呆れていた。九井や一部の部下みたいにヤツの尻穴に興味はないが、かわいいワンちゃんという感じで気に入っている。綺麗でよく食うワンちゃん。最高だろ?




5
どうも。スワンナプーム空港でトランジットのため貧乏ゆすりしながら搭乗時間を待ってる九井です。貧乏ゆすりするけど金持ちですけどね。プーケットってトランジットがあるから時間がかかって嫌だ。イヌピーと5日も離れてるなんて耐えられないのに。旅立つ前さんざんイヌピーを抱いたがまだ足りない。いつも最後らへんはふたりともわけがわかってなくて、特にイヌピーは受け入れるほうだから疲労が激しくて薄緑の瞳が溶けそうになる。あんな綺麗なもの他にはない。INUPI SUKI 飲みもしないのにスタ◯で買ったアイスラテの水滴でそう書いてみる。俺何してんの?ハア。とにかくはやくイヌピーに会いたい。

飛行機でずっと眠っていたため俺は絶好調である。空港にカワイが迎えに来ているからそのまま車に乗る。ほんと使えるヤツ。
「イヌピーは元気か?」
なんだかんだLIN◯のやりとりはイヌピー本人とやっていたが、俺不在中の生のイヌピーの様子を聞きたくてカワイに尋ねる。
「ずっと元気そうにしてらっしゃいました。期間中半間さんと2回仕事に出られましたが、どちらも怪我などされてません。」
「ふうん。なんか可愛いエピある?まあいつも可愛いけども。」
「九井さんが不在で寂しそうにしてらしたので、テレビゲームをふたりでしましたが、乾さんが勝つまで帰していただけませんで。3時間くらいやったと思います。うちの次男よりは強いですね。」
「平和で何よりだ。俺不在で寂しいイヌピーの描写もう少し詳しく。」
そうこうしているうちにマンションに着く。
「ほんじゃ。カワイありがとな。荷物は自分でやる。」
カワイに小遣いとタイで買った限定コフレを愛妻にやっとけよと渡して車から降りる。

「ただいま〜」
久しぶりの我が家に帰宅すると、なんだかいいにおいがする。
「おかえり。ココ腹減ってる?」
「飛行機ずっと寝てたからめちゃくちゃ腹減ってる!」
「ふふ。良かった。」
いいにおいにつられてキッチンをのぞくと、シンプルなエプロンをつけた非常にエロいイヌピーがなんと天ぷらをあげている。
「イヌピー!?どうしたの天ぷらなんて!!怖くない?大丈夫?」
「この前の幹部会でココやたら天ぷら食ってたから。つくったら喜ぶかなって。IHだから大丈夫。」
状況はよくわからないが、とりあえず荷物を置き着替えてテーブルにつくと、エプロンをつけた大変エロいイヌピー(腰がキュッと引き締まって大変やらしい違うよろしい)により揚げたての天ぷらが目の前に並べられる。
「え。スゴ。イヌピーふだんそんな料理とかしねえのに上手じゃん。でも、なんで?」
「誕生日おめでとうココ。いつもありがとう。」
「あ〜!!そういや。時差でわけわかんなくなってた!!もう1日?今日。」
「そう。もう4月1日。食ってみて。」
そう言われて腹も減っているし遠慮無く食う。
「サクサクとした軽やかなコロモとごま油の豊かな香り。まるで銀座の一流店のような逸品。」
「ココの食レポおもしろい。」
「いやほんとイヌピーありがとう。うまいよ。」
「ケーキもあるけど。これも揚げる?」
「お願いだからケーキは揚げないでイヌピー。」
「チーズケーキとか揚げたらうまそう。」
「イヌピー待って待って。何でもかんでも揚げないで。」

これが最善だとは決して思わないが、今年もこうやってイヌピーと自分の誕生日を過ごせて幸せだと思う。彼を地獄に引きずり込んだのだとしても、やはり離れたくないと改めて思った。彼のはいた息すら自分のものにしたい。

「でも、今度半間と行く串揚げ屋にはケーキ揚げたのもあるって。」
「イヌピー半間とメシ行ってんの!?いつの間に!?」
「あれはいいメシ仲間。大福揚げたのも楽しみ。」
「ええ…心配過ぎる…いやでも、半間はポジション的に仲悪くしとくよりかは得策だけども…ええ…???てか大福?その串揚げ屋は大丈夫なのか!?」

その後半間と仲良くなり過ぎたイヌピーにココがジェラシー爆発したりなどするが、それはまた別の機会に。
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