ココがうるさいけど気にしないピー

とてもうるさいココ


「最近あんまりぬけねぇんだよなぁ。」
今日は真一郎の部屋で真一郎とワカ、ベンケイ、そして青宗が食べ物と酒を持ち寄って飲んでいる。青宗が成城石◯の惣菜を大量に持ってきたからなんだなんだと聞いたらココに持たされたと言う。お母さんかよ。そして、いい感じに酔っ払ってきたところで真一郎が冒頭のセリフをはいた。
「何?ビデオでぬけねぇの?」
とワカ。
「ビデオて!まぁ動画なんだけど、男優の吐息?あえぎ?が気になってぬけねぇんだ。最近の男優うるさくね?主張が激しいというか?」
「あ〜あ〜わかるかも〜男優の声じゃなくて女優の声が聞きたいもんな。」
「そーそー。そんであえぎうるさい男優リスト作ってそれは避けてる。」
「そのリスト共有してくださる?真一郎さま」
「おいおまえらチビイヌの教育に悪いからそういう話やめろ!」
「出た!ベンケイのチビイヌモンペ!」
「そうか…そうだよな…青宗はまだ成人向け動画見れねえもんな…」
「ワカまで…」
「ね〜!!俺28だよ!!」
青宗がプンプン怒る。とってもかわいい。
「あの…あのさぁ…もしかして…抱く方が声出すっておかしいのかな…?その。そういう動画の男優がうるさいのが嫌われるってことはさ。」
青宗が急に真剣なトーンで聞く。
「どした?性生活に悩みか?」
青宗はもう長いこと幼馴染の九井一と一緒に暮らしている。25の時に都のパートナーシップ制度もたしか結んでいるから実質結婚しているようなものとまわりは認識している。いつもふたりは仲が良いから悩みなど聞いたことがないが、性生活にしろ何か悩みがあるのなら真一郎は聞いてやりたいと思った。
「あの……するとき……ココすっげぇうるさいんだけど、もしかしてそれっておかしい?」
「確認だけど、俺の勝手な認識だと青宗が抱かれるほうだと思ってんだけど、それで良い?」
「うん。そう。俺が下……なんか恥ずかしくなってきたこんなこと人に話したことないから。」
「大丈夫だ青宗。世の中のカップルみな性生活に悩みがあるもんだからな。たぶん!…ほんで、抱いてる方の九井がうるせぇと。」
「うん。別に今まで気にしてなかったけど、なんかそう言えばすげぇうるさいよなってだんだん気になってきた。俺、ココとしかそういうことしたことねぇからわからなくて。大丈夫かな?」
「なるほどなぁ。ワカ先生はどう思いますか?」
「青宗はベビーなのでセックスとかしません。ていうか九井さんって誰ですか?どこのアシメ髪の人?」
「あ…小姑に聞いた俺が馬鹿だった…。ではベンケイ先生はどう思いますか?」
「チビイヌには尻に穴なんてありません。ていうか九井さんってどこの会長ですか?副会長でしたっけ?」
「はぁ…ダメだこりゃ…。モンペしかいない。青宗は九井がうるせぇの嫌なのか?」
「ううん。ココが気持ちいいんならそれでいいかなって。」
「なんだ〜青宗!自信持てよ!性生活なんて人それぞれなんだからさ!」
尊敬する真一郎にはげまされ、青宗は抱く方である九井がうるせぇことは気にしないでおこう!と前向きな気持ちになった。まぁ。そもそも真一郎がアダルト動画の男優の声がうるせぇの嫌だとか言い出したのがそもそもの原因なのだが。ただ残念なことに、この場にいる全員が全員酔っぱらいなので、話はグダグダに始まりグダグダに終わるのであった。翌日この話を覚えてるヤツなんていないのである。





どうもサナダです。誰?って感じだよな。俺だってそう思うよ。TK&KOに九井さんに憧れて入社して今は九井さんの秘書みたいなことをしてるモブと思ってくれ。けっこうプライベートなことも頼まれるから九井さんのパートナーの乾さんのことも知っている。今日は出張帰りの九井さんと彼の荷物を空港から自宅に送り届けた時、俺今日誕生日なんですけど、この前彼女と別れちゃって寂しいんですよねと口を滑らせたがために乾さんにひきとめられ夕食をご一緒させてもらっている。九井さんはあきらかにサナダ帰れよみたいな顔をしていたが、乾さんが誕生日をサナダひとりで過ごさせるわけにはいかねぇと強く主張したので折れた。九井さんは案外尻に敷かれているらしい。乾さんが作ったらしい大量のからあげと大量の千切りキャベツと大量の缶ビールで盛大に誕生日を祝ってもらった俺だった。ケーキなくてごめんな!といい感じに酔っ払った乾さんがチョコパ◯にローソクをぶっ刺して出してきてサナダハッピーバースデ〜〜〜と歌ってくれて嬉しかった。ほら!ココも歌え!と言われ九井さんもイヤイヤ歌っていたが、有名な声優さんみたいに上手だった。そして俺は酔いつぶれて寝ていたらしい。

「あっ…んん…やだぁそこやだぁ…ココしつこい」
突如として聞こえる喘ぎ声で俺は目が覚める。
そうだよなぁ〜〜〜!!今日九井さん出張から帰ったんだもん!!普通仲良しカップルはヤルよなぁ〜〜〜!!俺が酔っ払って寝こけていると安心して九井さんと乾さんは寝室にこもっておっ始めたらしい。乾さんのアレレな声が聞こえてきた。でも、ここに!サナダ!ここに!います!いますよサナダ!イヤ〜やらないで〜どうしよう。上司のセックス事情知るとか気まず過ぎる帰ろうか。いやバタバタしたらバレて余計気まずいか。ヨシ!俺!気絶しろ!…と念じても気絶するわけもなく、寝室から聞こえてくる乾さんの喘ぎ声はどんどん盛り上がっている。そら楽しかろうな。そもそも乾さんって人は立派な成人男性なのだが顔が非常にかわいい。ちょっとお目にかかれないレベルでかわいい。だから、まあまあ有名人の九井さんが人目もはばからずイヌピーイヌピーと溺愛するのも仕方ないし、そして困ったことにノーマルの俺すら時々乾さんかわいいなと思ってしまうのだから。こんな喘ぎ声を聞いたら俺の不肖の息子ときたら元気に立ち上がるではないか。沈まれよ。チクショウ!今じゃない!なんとか息子を落ち着かせようとガンジス川に浮かぶウンコに思いを馳せて瞑想していると
「イヌピー!!かわいい!!かわいい!!もっとイヌピーの恥ずかしい顔見せてっ!!」
と九井さんのクソデカ声が聞こえてきた。うん。わかるよ。乾さんはかわいいだろうよ。
「イヌピー!!ここ気持ちいい!?」
気持ちいいんじゃない?乾さんもはや濁音しか発してないし。
「イヌピー!!最高!!俺がイクとこ見てて!!」
あ。九井さんはイクとこ見ててほしい派なんですね?ワガママだな。乾さんは息も絶え絶えにうん。見てるから。見てるからココはやくイッて。と言っている。律儀である。乾さんの顔だけじゃなくて、こういうちゃんと付き合ってくれるところが九井さんは好きなんだろうなぁと俺は思う。冷静になってきた俺。
「イヌピー!!顔と中どっちに出すのが良い!?」
いや何その鬼畜な2択〜〜〜!?乾さんの綺麗な顔にかけんなよ!?
ふたりの荒い息が家中に響き、どうやらクセ強セックスは終わったらしい。
「イヌピー俺えらい?」
何が??????
「うん。ココえらい。いっぱい出せてえらい。ヨシヨシ。」
ふだんあんなに偉そうなのに恋人にヨシヨシされてやがる。しかし良かった。九井さんの色気もへったくれもないクソデカ声のおかげで俺の息子はすっかり萎えていた。人の性生活にとやかく言うのは失礼だが、九井さんうるさくねぇ?まぁ仲が良くて何よりだよ!!俺は酔いも残っていたし、行為中のふたりに起きてるのがバレてはいけないという謎の緊張感のせいでかなり疲れて再び爆睡した。
いつも気の毒なサナダなのである。ところで顔にかけたの?中に出したの?これは九井と乾以外の人類には永遠に謎である。




3
昼休み、真一郎は気に入っている週刊誌をコンビニで買ってきて店の休憩室で読む。もちろん世相に関心があるのではない。水着グラビアを見るためである。ほ〜Gカップね〜もちょい小さいほうが好みかなぁと堪能し、ついでにページをめくり芸能ニュースも読む。
「TK&KOの九井氏、恋人との行為がうるさすぎてグアム高級ホテル出禁騒動。」
とある。

え……??????

真一郎は先日ゴールデンウィークのお土産に青宗からグアムのチョコレートをもらった。

え……??????

「TK&KOの九井氏はたびたび自身のSNSにあげては話題となる美しい恋人と極秘でグアムにバカンスに出かけた。しかし、美しい恋人を愛するあまり行為中恋人をほめる声がうるさすぎてホテルに他の客から苦情が入り出禁になったのだと言う。とんだチン騒動である。」
誰だよ!!このセンスのない記事書いたの!!チン騒動て!!!!
たしか青宗はのんきにグアムってあったかくて楽しかった〜デカい肉食べたウマイと小学生みたいな感想を述べていた。いや。きょうび小学生のほうがもう少し叙情的な感想を述べるであろう。あのいつも通りののんのんとした様子からしたら、こんな記事が出るなんて知らないはずだ。知らせてやったほうが良いだろうか?いま青宗は客先に納品に行っている。いや待て。ワカとベンケイに相談するのが先か?ひとりじゃこんなチン騒動かかえきれない。いやいやダメだ。あのふたり青宗のことまだベビーだと思ってるから行為中の声がうんぬんとか聞いたら気絶する。エマに相談する?あそこの夫婦が俺のまわりでいちばん常識がある。いや赤ちゃんの世話で忙しいよなやめよ…ハァ…めんどくせぇな…?ついにめんどくさくなった真一郎はタバコに火をつけとりあえずテレビをつけた。現実逃避というやつである。実のところ九井はビジネスの世界でけっこう有名人なので、週刊誌に出るのは初めてのことでもない。前の記事はなんだったかな。居酒屋で金髪の恋人を抱きしめるご乱心九井会長だったかな。ビジネス関係ないな。まぁ通常運転と言えばそう。

「九井さん!!九井さん!!このたびのグアムのホテル出禁騒動ってほんとなんですか!?」
真一郎がつけたテレビではお昼のワイドショーをやっており、画面には見慣れた九井がレポーターに追われている。

え……??????

どうも、九井はこの週刊誌に書かれている、恋人との行為がうるさくてホテルを出禁になった件でレポーターに追われているらしい。さすがにワイドショーは初めてかも……。

いや…え……??????

「ココ!?」
客先から帰って来たらしい青宗がテレビを見て叫ぶ。そりゃ叫ぶよ。恋人がワイドショーでレポーターに追われてたら。俺だって叫ぶよ。真一郎は思う。
「え!?なんでワイドショーに!?ココやっぱ脱税してた!?」
恋人にさえすぐに脱税を疑われるのはさすが九井である。
「いや青宗。これ見てみな。」
真一郎は件の週刊誌を渡してやる。
「あ〜……これ……良かった脱税かなんとかサイダーかと思った。これなら別にいいや。逮捕されないし。」
「インサイダーね。ていうかこの件は別にいいんだ…。青宗心広いね。」

「この週刊誌に書いてあることは真実半分嘘半分というとこですかね。」
つけっぱなしのテレビでは、レポーターにマイクを向けられた九井が冷静に答えている。
「テレビで見るココかっこいい!」
のんきか。のんきなのか青宗よ。確かにふだんアクの強い行動のせいで忘れ去られているが、九井は涼しげな美男子である。スタイルも良いしテレビばえしている。青宗は自分が西洋風な見た目であるので、九井のそのあっさりきれいな顔立ちがものすごくどストライクであるらしくよくほめる。ココのうすい唇と骨ばったきれいな手が大好きとは酔っぱらい青宗の言葉である。青宗は九井と違ってあまり吹聴するタイプではないが、九井が載っているビジネス誌をこっそり眺めてココかっこいい……♡とつぶやきながら顔を赤らめているところを真一郎は何回か目撃したことがある。仲が良いことで。
「確かにグアムのホテルで恋人とハメを外してしまって苦情はいただきました。しかし、謝罪もしておりますし出禁にもなっておりません。」
テレビにうつる九井はたんたんとレポーターに答えている。
「あの〜九井さんは恋人との行為中うるさいということですが?」
さすがワイドショーのレポーター。令和とは思えないデリカシー皆無の質問をぶっ込んでくる。
「私の恋人は私のSNSにも出ておりましてご存知のとおり非常に美しいので。そんな美しい恋人を抱くのに全力でほめない男なんているでしょうか?美しい恋人を讃えない男など失礼千万。男の風上にも置けない。」
九井はカメラ目線ドヤ顔でそう言った。
「え……ココかっこいい♡言ってることはなんかよくわかんねぇけど顔がかっこいい♡」
そう言いながら青宗はテレビ画面をスマホで撮っている。九井は青宗が恋人で良かったなと真一郎は思う。こんなぶっ飛んだ男についていける人間なんて同じくらいぶっ飛んでる青宗しかいないだろう。現に俺はついていけない。真一郎はワカみたいなモンペではないが、青宗を終身永年雇用するくらいに気に入っているので九井が何かしでかしたら全力で青宗の味方になろうとは思っている。バカップルのせいでいささか疲れた真一郎は週刊誌をゴミ箱に突っ込み、出先から帰って来て昼メシがまだな青宗のために袋麺でも作ってやろうと席を立った。



4
どうもこんにちは。あるいはこんばんはサナダです。最近TK&KOが冗談で売り出したLIN◯スタンプが売れに売れている。ワイドショーでドヤ顔で乾さんに対する愛を語った九井さんが、なんて漢!ステキ!とネット民の心を鷲掴みにし九井さんのドヤ顔動画は猫ミームと並ぶ人気ネットミームとなった。それを知った稀咲さんがもはやLIN◯スタンプにして売れば?と売ってみたところバカ売れしている。みなさんもどうです?美しい恋人を讃えない男など失礼千万!!って九井さんがしゃべるLIN◯スタンプ。けっこう便利ですよ。乾さんのまわりの人たちがおもしろがって乾さんに送りまくって乾さんは困ってるみたいですけど。
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