乾の美容法を見て体調不良になりそうな三途
乾の美容法を見て体調不良になりそうな三途
1
仕事ができる男には愛人がいるものである。武田信玄には高坂昌信、ルイ15世にはデュ・バリー夫人、九井1世にはイヌピー。これは世の中の常識であるから、九井の事務所に訪ねていって九井の膝にデカいイヌが座っていても誰も何も思わなかった。もちろん最初から九井の膝にデカいイヌが鎮座していたわけではない。ある時、過労で倒れた九井がイヌピーイヌピーと繰り返しうわ言を言うので、なるほどイヌピーねと本物のイヌピーをちょっとばかし拉致して連れてきたところ九井の体調はみるみる良くなった。これがただの梵天幹部だったならばこのような好遇はあり得ない。しかし九井一なんである。この人がいなければ梵天の金はにっちもさっちもいかない。だから、その後彼が時おりイヌピーを呼び寄せてマイナスイオンを浴びていようとも誰も何も言わないのだった。
こいつ、もう30前のはずだけどあいかわらず綺麗だな。三途は思う。九井の事務所に予算申請しに行ったのだが、彼はまさにイヌピーを膝にのせてマイナスイオンを浴びているところであった。別にこれはよくあることだからなんとも思わない。しかし、三途は大事な局面で場地にそのツヤツヤロングヘアの秘訣を聞いてしまうくらいに美容マニアなので、乾の30前にもかかわらず輝くばかりの金髪だとか、白く陶器のような肌だとかが気になる。まったく変わらないのだ昔と。いや、むしろ綺麗になってる気もする。どうやって?かなり気になる。そもそも昔拉致した時にも思った。九井に関しては髪と服にめちゃくちゃ金かけてるなうらやましいと思い、乾に関してはこれじゃ掃き溜めに鶴だなと思った。三途自身そうなのだが、むくつけき不良たちの中にいるとかなり目立ってしまう。乾もそうだろうなと思うと少し親近感をおぼえた。
「なぁ。おまえってどこのシャントリ使ってんの?」
九井の膝の上でマイペースにジャンプを読む乾に聞く。
「シャン…トリ……?」
「イヌピー、シャンプーとトリートメントのことだよ。嫌だね〜若者ぶってなんでも略して〜」
「九井うるさっ!!黙って乾浴びとけや!!」
「ああ。シャンプーか。そんなのドラッグストアでその時セールになってるやつだ。だから特に決まってない。この前はメリッ◯だったし今はパンテー◯。」
「え。まずドラッグストアで買ってんの?シャンプーを?」
「ココ。こいつ大丈夫か?シャンプーっつったらドラッグストアにあんだろ。」
「あ〜この人はさぁ。美容室のサロンシャンプーしかお使いにならないらしいから。」
「へ〜。いろんなやついるんだな世の中。」
「イヌピー。そんな変なお兄さんほっとこ。」
「九井いちいちうるせえな????やかましいのはファッションだけにしとけや!!なぁ。じゃあ化粧水とかは?何使ってんの?」
「…化粧水……?俺は東京都の水しか使わねえ。」
「東京都の…水……!!!!」
「なぁココ。三途元気なくなったぞ大丈夫か。」
「ヤクでも切れたんだろ。ほっときなイヌピー。」
三途は思った。世の中不公平だと。自分はうまれもった美貌もあるけれど、それを維持するためかなりの努力をしている。しかし、世の中には稀にいるのだ。こういう場地とか乾みたいなナチュラルボーンキラキラ美形。彼らは、石鹸で髪を洗おうが、東京都の水をゴシゴシ顔につけようが、変わらずひかり輝いている。場地を見てみろ。歩道橋でロン毛をたなびかせているだけでアンニュイな色気ダダ漏れなのである。乾も場地みたいに頭ではこの後野良猫と遊ぼ♡とか考えているのに、世界を憂えているみてぇなアンニュイ顔になるんだから。やってられん。
2
「なぁ。なんで三途いんの?」
九井の部下が運転するEクラスのベンツの後部座席に九井、乾、三途と3人仲良く並んでいる。ベンツは広いし3人ともスリムであるので狭くもない。しかし、九井にはなぜ三途がジョインしているのかまったくわからない。
「乾がこれからサロン行くって言うから。その美の秘訣をこの目で見届けようと思って。」
三途がしれっと言う。三途はまだ諦めていなかった。というか必死だった。日頃の不摂生のせいか近ごろ切実に肌のくすみが気になる。どうしたらこの自分の美しさを維持できるのか?兄みたいに良く言えば崩れた色気のおっさん、悪く言えば不健康そうなおっさんになるのは絶対嫌だった。ああなったら最後ヒモとしての需要ばかりになってしまう。武臣は満足なのだろうがオレは嫌だそんなの。
しずしずとベンツが到着したのは青山のサロンで、3人は個室に通された。そしてなぜか九井が寝そべり、乾が九井の横に座りその手を握った。そこにあらわれたのは百戦錬磨みたいな年齢不詳の美魔女で、彼女はひとことも発することなく躊躇なく九井の顔面に針を何本もぶっ刺した。
「イヌピー…俺、生きてる?生きてる?」
「うん。生きてる。顔からいっぱい針はえてる。」
「顔から…針が……?イヌピー!!俺を殺して!?」
「バカ言えココ。針治療くらいで死ぬな。」
「イヌピー!!これ終わったらご褒美くれる!?」
「あげるあげる。卵かけご飯つくってやる。」
「マジで!?イヌピーのあの卵ぜんぜん混ざってない卵かけご飯!!俺!!頑張る……!!」
「がんばれ♡がんばれ♡」
そう。この青山のサロンは高名な鍼灸師である美魔女先生の美容針を受けられるところで、三途と同じく日頃の不摂生により顔のたるみ、くすみおよび自律神経の乱れに悩まされている九井御用達のサロンなのであった。では、なぜ乾がいるのか?それは、九井が注射と同じく針を身体に刺されるのが大の苦手だからである。だからこうやって施術中に九井の手を握って、乾がココがんばれがんばれと棒読みで応援している。
「なんだぁ!?この茶番はよ!!」
三途はキレる。俺が知りたいのは乾の美容法だっての!!九井の金にものをいわせた美容法じゃねえ!!
「いや。でも三途。ココ、この針治療始めてすごく元気になったぞ。」
乾が真剣な眼差しで言う。
「え。何。シミとかなくなるのかよ。」
「ううん。夜の…ココが…すごく元気……。」
乾がその麗しい顔を赤らめふふっと微笑んで答えた。
「ハァ〜!?!?ふたりともくたばれ!!!!2度と顔見せんな!!九井は腹上死しとけ!!」
三途はそう叫んでサロンをあとにした。
「なんだあれ。自分が勝手についてきたのに。」
「ココ、フクジョウシって何?」
「まさに俺の理想的な死に方かも……。」
「なんだそれ。ココまだ死ぬな。」
「うん。生きるよ♡」
三途はなんだぁ!?あのバカップルはよぉ〜!!といったんキレ散らかしたが、待てよ。東洋医学ってのは盲点だったなと思い直し、青山の美魔女先生のサロンに引き返しちゃっかりと予約を入れたのであった。
3
あーあ。朝日がまぶしい。さわやかだ。俺はドロドロに疲れきってるけどな。なにしろ裏切り者を夜通し尋問していたのだ。考えてもみてほしい。尋問される方ばっかりにフォーカスされるが、尋問する方の反社だって疲れるっての!!そう毒吐きながら荒川のほとりをトボトボ三途が歩いていると、朝日よりまぶしい何かが走り去っていった。乾である。疲れきったところにジョギング乾はまぶしすぎる。
「おい!乾!走ってんの!?おま、仕事は!?」
「お〜三途!おはよう!俺は走って、フットサルしてバイク屋に行くぜ。」
「…マジで言ってんの……?正気か?」
三途にはジョギングしてフットサルして出勤する人間の気持ちがわからない。
乾はさわやかに走り、その先のコートで誰かと待ち合わせていたのか数人でフットサルをし始めた。三途は荒川のベンチに座ってぼんやりさわやかフットサルを眺めた。いいなぁ。すんごい健康って感じ。なるほどなぁ。当たり前だけど朝起きて夜寝るカタギの生活すりゃお肌もトゥルトゥルだわなぁ。しかし、三途は反社を辞めたいとは思わない。やっと手に入った王の横にピッタリと張り付けるこのポジション。優先順位は美容よりも王。これは動かせない。そんなことを思っていたら軽いフットサルを終え仲間とバイバイした乾がベンチ横の水道でゴシゴシとそのお美しい顔を洗い、さらにゴシゴシとD&Dと書かれた上質でもないタオルでこれでもかとゴシゴシ拭いた。
「おまえさぁ。そんなゴシゴシしたら肌に悪いよ。」
「へぇ?ゴシゴシしねぇと洗った気になんねえよ。」
「まさかおまえ風呂でも銭湯のジジィみたいにナイロンのタオルかなんかでゴシゴシしてんじゃないだろうな?」
「何言ってんだ三途。乾布摩擦ジジィみたいにゴシゴシしなきゃ汚れとれないだろ。」
「ハァ〜〜〜こんな適当なのに美しいって〜〜〜やってらんねぇ〜〜〜!!」
三途は乾のジジィみたいな美容法はてんで参考にならないしむしろ具合悪くなりそうだから帰ることにする。
「なぁ。乾。九井のこと好き?」
「大好きだ。」
ちょっとからかうつもりで聞いたのに真剣に答えられてしまった。しかも即答。つまらない。
「へぇ…どこが?あいつ性格けして良くねぇよ?ツラはまぁ良いけど。金もあるし。」
「ココといたら楽しいから。ガキの頃から。ただそれだけ。」
着古したジャージで、東京都の水道水で顔を洗って雫をしたたらせているにもかかわらず、相変わらず美しい顔で乾はきっぱりと言い切った。三途はそんな風に思ってもらえる九井のことを1ミリ程度うらやましく思った。
「ふーん。ほんじゃな。」
三途はアバヨ!と去っていった。関係ないが乾は昔の真一郎君みたいなリーゼントの男が大好きだから氣志團もよく聞くが、彼らの曲でアバヨがいちばん好きである。
4
「ものすごく余ってるから好きなのとっていってくれ。」
柴大寿がバイク屋に持ってきたキレイにラッピングされた箱たちを見て乾は菓子か!?と勢い良く近づいてきたが、残念それはクリスマスコフレなのであった。
「ボス何これ。食えねぇじゃん。」
「乾は何でもすぐ食おうとするな。」
「え。これめちゃくちゃ人気なやつじゃん。予約すら負けるやつ。何個か実家の嬢にあげてもいいか?予約負けたって悔しがってたから。」
「もう。何個でも持っていってくれ。俺は使わないし困るんだ。」
大寿が扱いに困っているこのクリスマスコフレたちは弟の八戒に送られてきたものだ。メーカーが発売前に人気モデルである八戒にSNSなどで宣伝してほしいとこぞって送ってくるのだが、八戒はまだ発表されてないけれど今年のクリスマスは某ブランドのアンバサダーになっているから他のメーカーのものは宣伝できないのだ。だから、このようにダダあまりしている。
「ふぅん。じゃ。俺このシャネ〜ルにしよう。」
乾がシャネ◯の箱を持ちCMのモノマネを真顔でしてくるからドラケンは爆笑している。平和である。三途には東京都の水道水でスキンケアしてると言ったが、実のところ乾にはこのようにもらいものが多い。大寿に八戒がいらなかった高級なスキンケア用品をもらったり、三ツ谷がデザインの仕事関係でもらって余らせたヘアケア用品をもらったりと割と良いものをもったいねえからな!とわけもわからず顔や髪に塗りこんでいる乾であった。
そろそろ仕事きりあげて帰るかと乾がスマホを見るとタローさんからLIN◯がきている。もちろんタローさんなどではなく、なんのひねりもない偽名だが九井のことである。ドラケンや仲間たちにバレるといけないからタローさんで登録している。タローさんに指定されたマンションにバイクで向かう。地下駐車場からカードキーで上層階へ行く。玄関を開けリビングへ行くと九井がソファーでうたた寝していた。三途に九井のどこが好きなのかと聞かれたが、そんなのひと言ではすまない。視界に入っただけで胸がたかなるなんてこの男しかいないのだ。乾はそっとうたた寝している九井に近づき髪を撫でる。最近、傷んできたからとハイトーンのブリーチをやめてもとの黒髪に戻したから余計にドキドキしてしまう。乾はどんなに飾りたてようがそのままの九井が好きだ。少し疲れてカサついた頬も撫でる。好きだ、好きだ、と止まらなくなりそっとキスをした。が、離れようとしたら頭を押さえ込まれて舌を入れられてしまう。
「ん〜〜〜!!ココ寝たフリかよ!!!!」
「いや。寝てたよ。イヌピーが髪撫でたくらいから起きてた。」
「まあまあ起きてる!!恥ずかしい!!」
「なんかイヌピーいいにおいする。」
「大寿が八戒に送られてきた化粧品持て余してるって持ってきたからもらった。なんかクリーム手に塗った。」
言いながら乾がシャネ◯のクリスマスコフレを取り出す。
「うわぁ。これ予約すら負けるクリスマスコフレじゃん!」
「そんなすげーの?ドラケンもすげーすげー言ってた。……そうそう。これ入浴剤ついてたからもらった。一緒に入ろう?」
「そんなさぁ…かわいい顔で…風呂一緒に入ろうとか…イヌピーめちゃくちゃにされたいわけ!?」
「そうだけど?」
九井は俺の最愛ときたらとんでもねぇ小悪魔だなと天をあおいだ。
三途に言うとキッショ!!!!と全否定されるから言わないが、乾が美しいのは九井に愛されているからに他ならない。
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仕事ができる男には愛人がいるものである。武田信玄には高坂昌信、ルイ15世にはデュ・バリー夫人、九井1世にはイヌピー。これは世の中の常識であるから、九井の事務所に訪ねていって九井の膝にデカいイヌが座っていても誰も何も思わなかった。もちろん最初から九井の膝にデカいイヌが鎮座していたわけではない。ある時、過労で倒れた九井がイヌピーイヌピーと繰り返しうわ言を言うので、なるほどイヌピーねと本物のイヌピーをちょっとばかし拉致して連れてきたところ九井の体調はみるみる良くなった。これがただの梵天幹部だったならばこのような好遇はあり得ない。しかし九井一なんである。この人がいなければ梵天の金はにっちもさっちもいかない。だから、その後彼が時おりイヌピーを呼び寄せてマイナスイオンを浴びていようとも誰も何も言わないのだった。
こいつ、もう30前のはずだけどあいかわらず綺麗だな。三途は思う。九井の事務所に予算申請しに行ったのだが、彼はまさにイヌピーを膝にのせてマイナスイオンを浴びているところであった。別にこれはよくあることだからなんとも思わない。しかし、三途は大事な局面で場地にそのツヤツヤロングヘアの秘訣を聞いてしまうくらいに美容マニアなので、乾の30前にもかかわらず輝くばかりの金髪だとか、白く陶器のような肌だとかが気になる。まったく変わらないのだ昔と。いや、むしろ綺麗になってる気もする。どうやって?かなり気になる。そもそも昔拉致した時にも思った。九井に関しては髪と服にめちゃくちゃ金かけてるなうらやましいと思い、乾に関してはこれじゃ掃き溜めに鶴だなと思った。三途自身そうなのだが、むくつけき不良たちの中にいるとかなり目立ってしまう。乾もそうだろうなと思うと少し親近感をおぼえた。
「なぁ。おまえってどこのシャントリ使ってんの?」
九井の膝の上でマイペースにジャンプを読む乾に聞く。
「シャン…トリ……?」
「イヌピー、シャンプーとトリートメントのことだよ。嫌だね〜若者ぶってなんでも略して〜」
「九井うるさっ!!黙って乾浴びとけや!!」
「ああ。シャンプーか。そんなのドラッグストアでその時セールになってるやつだ。だから特に決まってない。この前はメリッ◯だったし今はパンテー◯。」
「え。まずドラッグストアで買ってんの?シャンプーを?」
「ココ。こいつ大丈夫か?シャンプーっつったらドラッグストアにあんだろ。」
「あ〜この人はさぁ。美容室のサロンシャンプーしかお使いにならないらしいから。」
「へ〜。いろんなやついるんだな世の中。」
「イヌピー。そんな変なお兄さんほっとこ。」
「九井いちいちうるせえな????やかましいのはファッションだけにしとけや!!なぁ。じゃあ化粧水とかは?何使ってんの?」
「…化粧水……?俺は東京都の水しか使わねえ。」
「東京都の…水……!!!!」
「なぁココ。三途元気なくなったぞ大丈夫か。」
「ヤクでも切れたんだろ。ほっときなイヌピー。」
三途は思った。世の中不公平だと。自分はうまれもった美貌もあるけれど、それを維持するためかなりの努力をしている。しかし、世の中には稀にいるのだ。こういう場地とか乾みたいなナチュラルボーンキラキラ美形。彼らは、石鹸で髪を洗おうが、東京都の水をゴシゴシ顔につけようが、変わらずひかり輝いている。場地を見てみろ。歩道橋でロン毛をたなびかせているだけでアンニュイな色気ダダ漏れなのである。乾も場地みたいに頭ではこの後野良猫と遊ぼ♡とか考えているのに、世界を憂えているみてぇなアンニュイ顔になるんだから。やってられん。
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「なぁ。なんで三途いんの?」
九井の部下が運転するEクラスのベンツの後部座席に九井、乾、三途と3人仲良く並んでいる。ベンツは広いし3人ともスリムであるので狭くもない。しかし、九井にはなぜ三途がジョインしているのかまったくわからない。
「乾がこれからサロン行くって言うから。その美の秘訣をこの目で見届けようと思って。」
三途がしれっと言う。三途はまだ諦めていなかった。というか必死だった。日頃の不摂生のせいか近ごろ切実に肌のくすみが気になる。どうしたらこの自分の美しさを維持できるのか?兄みたいに良く言えば崩れた色気のおっさん、悪く言えば不健康そうなおっさんになるのは絶対嫌だった。ああなったら最後ヒモとしての需要ばかりになってしまう。武臣は満足なのだろうがオレは嫌だそんなの。
しずしずとベンツが到着したのは青山のサロンで、3人は個室に通された。そしてなぜか九井が寝そべり、乾が九井の横に座りその手を握った。そこにあらわれたのは百戦錬磨みたいな年齢不詳の美魔女で、彼女はひとことも発することなく躊躇なく九井の顔面に針を何本もぶっ刺した。
「イヌピー…俺、生きてる?生きてる?」
「うん。生きてる。顔からいっぱい針はえてる。」
「顔から…針が……?イヌピー!!俺を殺して!?」
「バカ言えココ。針治療くらいで死ぬな。」
「イヌピー!!これ終わったらご褒美くれる!?」
「あげるあげる。卵かけご飯つくってやる。」
「マジで!?イヌピーのあの卵ぜんぜん混ざってない卵かけご飯!!俺!!頑張る……!!」
「がんばれ♡がんばれ♡」
そう。この青山のサロンは高名な鍼灸師である美魔女先生の美容針を受けられるところで、三途と同じく日頃の不摂生により顔のたるみ、くすみおよび自律神経の乱れに悩まされている九井御用達のサロンなのであった。では、なぜ乾がいるのか?それは、九井が注射と同じく針を身体に刺されるのが大の苦手だからである。だからこうやって施術中に九井の手を握って、乾がココがんばれがんばれと棒読みで応援している。
「なんだぁ!?この茶番はよ!!」
三途はキレる。俺が知りたいのは乾の美容法だっての!!九井の金にものをいわせた美容法じゃねえ!!
「いや。でも三途。ココ、この針治療始めてすごく元気になったぞ。」
乾が真剣な眼差しで言う。
「え。何。シミとかなくなるのかよ。」
「ううん。夜の…ココが…すごく元気……。」
乾がその麗しい顔を赤らめふふっと微笑んで答えた。
「ハァ〜!?!?ふたりともくたばれ!!!!2度と顔見せんな!!九井は腹上死しとけ!!」
三途はそう叫んでサロンをあとにした。
「なんだあれ。自分が勝手についてきたのに。」
「ココ、フクジョウシって何?」
「まさに俺の理想的な死に方かも……。」
「なんだそれ。ココまだ死ぬな。」
「うん。生きるよ♡」
三途はなんだぁ!?あのバカップルはよぉ〜!!といったんキレ散らかしたが、待てよ。東洋医学ってのは盲点だったなと思い直し、青山の美魔女先生のサロンに引き返しちゃっかりと予約を入れたのであった。
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あーあ。朝日がまぶしい。さわやかだ。俺はドロドロに疲れきってるけどな。なにしろ裏切り者を夜通し尋問していたのだ。考えてもみてほしい。尋問される方ばっかりにフォーカスされるが、尋問する方の反社だって疲れるっての!!そう毒吐きながら荒川のほとりをトボトボ三途が歩いていると、朝日よりまぶしい何かが走り去っていった。乾である。疲れきったところにジョギング乾はまぶしすぎる。
「おい!乾!走ってんの!?おま、仕事は!?」
「お〜三途!おはよう!俺は走って、フットサルしてバイク屋に行くぜ。」
「…マジで言ってんの……?正気か?」
三途にはジョギングしてフットサルして出勤する人間の気持ちがわからない。
乾はさわやかに走り、その先のコートで誰かと待ち合わせていたのか数人でフットサルをし始めた。三途は荒川のベンチに座ってぼんやりさわやかフットサルを眺めた。いいなぁ。すんごい健康って感じ。なるほどなぁ。当たり前だけど朝起きて夜寝るカタギの生活すりゃお肌もトゥルトゥルだわなぁ。しかし、三途は反社を辞めたいとは思わない。やっと手に入った王の横にピッタリと張り付けるこのポジション。優先順位は美容よりも王。これは動かせない。そんなことを思っていたら軽いフットサルを終え仲間とバイバイした乾がベンチ横の水道でゴシゴシとそのお美しい顔を洗い、さらにゴシゴシとD&Dと書かれた上質でもないタオルでこれでもかとゴシゴシ拭いた。
「おまえさぁ。そんなゴシゴシしたら肌に悪いよ。」
「へぇ?ゴシゴシしねぇと洗った気になんねえよ。」
「まさかおまえ風呂でも銭湯のジジィみたいにナイロンのタオルかなんかでゴシゴシしてんじゃないだろうな?」
「何言ってんだ三途。乾布摩擦ジジィみたいにゴシゴシしなきゃ汚れとれないだろ。」
「ハァ〜〜〜こんな適当なのに美しいって〜〜〜やってらんねぇ〜〜〜!!」
三途は乾のジジィみたいな美容法はてんで参考にならないしむしろ具合悪くなりそうだから帰ることにする。
「なぁ。乾。九井のこと好き?」
「大好きだ。」
ちょっとからかうつもりで聞いたのに真剣に答えられてしまった。しかも即答。つまらない。
「へぇ…どこが?あいつ性格けして良くねぇよ?ツラはまぁ良いけど。金もあるし。」
「ココといたら楽しいから。ガキの頃から。ただそれだけ。」
着古したジャージで、東京都の水道水で顔を洗って雫をしたたらせているにもかかわらず、相変わらず美しい顔で乾はきっぱりと言い切った。三途はそんな風に思ってもらえる九井のことを1ミリ程度うらやましく思った。
「ふーん。ほんじゃな。」
三途はアバヨ!と去っていった。関係ないが乾は昔の真一郎君みたいなリーゼントの男が大好きだから氣志團もよく聞くが、彼らの曲でアバヨがいちばん好きである。
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「ものすごく余ってるから好きなのとっていってくれ。」
柴大寿がバイク屋に持ってきたキレイにラッピングされた箱たちを見て乾は菓子か!?と勢い良く近づいてきたが、残念それはクリスマスコフレなのであった。
「ボス何これ。食えねぇじゃん。」
「乾は何でもすぐ食おうとするな。」
「え。これめちゃくちゃ人気なやつじゃん。予約すら負けるやつ。何個か実家の嬢にあげてもいいか?予約負けたって悔しがってたから。」
「もう。何個でも持っていってくれ。俺は使わないし困るんだ。」
大寿が扱いに困っているこのクリスマスコフレたちは弟の八戒に送られてきたものだ。メーカーが発売前に人気モデルである八戒にSNSなどで宣伝してほしいとこぞって送ってくるのだが、八戒はまだ発表されてないけれど今年のクリスマスは某ブランドのアンバサダーになっているから他のメーカーのものは宣伝できないのだ。だから、このようにダダあまりしている。
「ふぅん。じゃ。俺このシャネ〜ルにしよう。」
乾がシャネ◯の箱を持ちCMのモノマネを真顔でしてくるからドラケンは爆笑している。平和である。三途には東京都の水道水でスキンケアしてると言ったが、実のところ乾にはこのようにもらいものが多い。大寿に八戒がいらなかった高級なスキンケア用品をもらったり、三ツ谷がデザインの仕事関係でもらって余らせたヘアケア用品をもらったりと割と良いものをもったいねえからな!とわけもわからず顔や髪に塗りこんでいる乾であった。
そろそろ仕事きりあげて帰るかと乾がスマホを見るとタローさんからLIN◯がきている。もちろんタローさんなどではなく、なんのひねりもない偽名だが九井のことである。ドラケンや仲間たちにバレるといけないからタローさんで登録している。タローさんに指定されたマンションにバイクで向かう。地下駐車場からカードキーで上層階へ行く。玄関を開けリビングへ行くと九井がソファーでうたた寝していた。三途に九井のどこが好きなのかと聞かれたが、そんなのひと言ではすまない。視界に入っただけで胸がたかなるなんてこの男しかいないのだ。乾はそっとうたた寝している九井に近づき髪を撫でる。最近、傷んできたからとハイトーンのブリーチをやめてもとの黒髪に戻したから余計にドキドキしてしまう。乾はどんなに飾りたてようがそのままの九井が好きだ。少し疲れてカサついた頬も撫でる。好きだ、好きだ、と止まらなくなりそっとキスをした。が、離れようとしたら頭を押さえ込まれて舌を入れられてしまう。
「ん〜〜〜!!ココ寝たフリかよ!!!!」
「いや。寝てたよ。イヌピーが髪撫でたくらいから起きてた。」
「まあまあ起きてる!!恥ずかしい!!」
「なんかイヌピーいいにおいする。」
「大寿が八戒に送られてきた化粧品持て余してるって持ってきたからもらった。なんかクリーム手に塗った。」
言いながら乾がシャネ◯のクリスマスコフレを取り出す。
「うわぁ。これ予約すら負けるクリスマスコフレじゃん!」
「そんなすげーの?ドラケンもすげーすげー言ってた。……そうそう。これ入浴剤ついてたからもらった。一緒に入ろう?」
「そんなさぁ…かわいい顔で…風呂一緒に入ろうとか…イヌピーめちゃくちゃにされたいわけ!?」
「そうだけど?」
九井は俺の最愛ときたらとんでもねぇ小悪魔だなと天をあおいだ。
三途に言うとキッショ!!!!と全否定されるから言わないが、乾が美しいのは九井に愛されているからに他ならない。
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