買い物に行こう!
買い物に行こう!
アバッキオはミスタと買い物にマーケットに来ている。アジトには冷蔵庫があるが、中のスプライトやコーラが勝手に増えるわけもなくこうして時間ができたメンバーが適宜補充するのが暗黙の了解となっている。ミスタはチームに入ってきて日は浅いが、人懐こく話好きでこちらから話題を提供する必要もないので嫌いじゃないとアバッキオは思う。自分からしゃべるのはだるいが、人が話しているのを聞くのは割に好きだ。チームメンバーと食事をするときギャアギャアうるさいのも苦ではないし、うるさすぎたらヘッドフォンをするし全く問題ない。ミスタはなんかよぉー最近小腹がすいてすいてよぉーと言いながら、ポテトチップスだの安いチョコレートだのをマイペースにカートに放り込んでいる。アバッキオは子どもの頃からそういった駄菓子類が好きではなかったからミスタの好みに任せることにする。たぶんフーゴも自分と同類だろうなと思う。自分の母親もフーゴの母親も子どもに駄菓子類は口にさせず家庭でつくったものか馴染みのパティスリーで買ったものかしかおやつに出さないタイプだろうと思う。まったくそんな家庭で育ったのに2人ともどうしてこんなことになっちまってるんだ、と思わず笑ってしまった。アバッキオ珍しく機嫌が良いじゃねーの!あんたにはコレだな!と言われミスタに手渡されたのは缶に入ったラムネ菓子だった。クラシカルなデザインの缶にいろんな種類のラムネ菓子が入っているらしい。レオーネっていうラムネだぜ!あんたと一緒だな!
言われてアバッキオはビックリする。ミスタおまえ俺の名前なんか覚えてたのかよ
言われたミスタはそれこそ驚いた顔をしてチームメンバーのフルネームくらいおぼえるだろうがよ普通!まさか俺の名前知らないのかよ⁈と騒ぐので、知ってる知ってる。グイード・ミスタ知ってる。と答えた。やはりおもしろいやつだなと思った。
アバッキオがナランチャとCDショップに行くはめになったのは全くの偶然だった。アバッキオはこの日シマの売春宿の女の子にストーカーまがいのことをしている困った大学生にちょっとばかしヤキを入れるという仕事があったのだが、女の子に入れあげるあまり留年してしまった大学生を田舎の両親が連れ戻しにきたらしくヤキを入れる必要もなくぽっかりと時間があいてしまった。アバッキオはたんたんと命じられた仕事をするのが好きであり、こういうふうにぽっかり時間があくのはあまり好きではなかった。考えたくもないことを考えるのはたくさんだからだ。一応報告はしねえとなとアジトに帰ると、ナランチャがフーゴにつっかかっており、そばでしらけた顔をして銃を磨いていたミスタによると、計算ドリルが5枚終わったらCDを1枚買ってやるとフーゴが言ったのにあまりに不正解が多いので買ってやるもんか!となったらしい。殴り合いの末飛んできたドリルを見ると、二桁二桁の掛け算はできていないが一桁二桁の掛け算はできているではないか。少し前は九九もおぼつかなかったのにまあまあの進歩じゃないか。
おめえらうるせんだよ!これがとけたら俺がCD買ってやるから静かにしろ!と言って一桁二桁の掛け算を紙に三問書いて投げつけた。ナランチャはびっくりした顔をしたが、みるみる笑顔になって転がっていた鉛筆を拾ってときはじめた。結果全部できていた。ナランチャは決してバカではない。何かきっかけさえあれば理解することができる。二桁二桁の掛け算だって彼の中のきっかけさえつかめればすぐにできるはずだ。そうしてCDショップに2人で来たわけだが、アバッキオは早くも後悔している。ナランチャが好むのはカリフォルニアあたりのギャングスタによるラップミュージックであり、耳ざわりは良いが歌詞はめちゃくちゃである。ハイスクールの英語の成績はまあまあ良かったから歌詞カードを見るにヤリまくるだの吸いまくるだの羅列してあってうんざりしてしまう。ナランチャのことは感覚もするどいし幼い顔をして敵と見たらためらいなく殺せるしメンバーとして信用しているが、私生活に関しては幼い弟のようにしか思えなかったから彼がヤリまくるだの吸いまくるだのの英単語を覚えるのはなんか嫌だなと思うのであった。案の定ナランチャがこれにする!と元気よく持ってきたのはスヌープドッグのアルバムであり、教育に悪いなあと思いながらも約束は約束だからなとレジに向かった。
店の奥の個室で次々に出てくるネックレスや指輪をシャンパンを飲みながら眺めている。今日はブチャラティの使いでブルガリに買い物に来ていた。幹部の娘さんの誕生日パーティーだとかで何かしらプレゼントを持参しなければならないのだと言う。パーティーは夜からで今のうちにプレゼントを用意しておかなければならない。ブチャラティが俺が行ければ良いのだがあいにく昼間はポルポさんの面会があるのだと言うので、フーゴが俺が行ってきますよと答えた。が、ブチャラティはしばし無言でフーゴのイチゴのピアスを見つめるとアバッキオも一緒に行ってくれと言った。そうして耳もとでANNA SUIじゃないぞ。ブルガリかさもなくばティファニーあたりにしといてくれと囁いた。フーゴのアルファロメオの助手席に乗りこんだとたん、じゃANNA SUIで良いですかね?と言うので、ANNA SUIも良いと思うが個性が強いからプレゼントは無難にブルガリが良いと思うぜと答えておいた。ついてきて良かったなと思った。次々と目の前に並べられるジュエリーはどれも美しい。なんだかんだ言ってチームメンバー全員金目のものは好きだ。むしろ嫌いなやつなんているのか?しかし、恋人のブチャラティが知らない女にジュエリーを送るというこのシチュエーションは心底気にくわない。仕事は仕事とはいえ、絶対指輪だけはナシだぜと選んだ結果ふたつの輪っかが組み合わさりダイヤモンドが散りばめられたネックレスにすることにした。フーゴは蛇のモチーフにダイヤモンドが埋め込まれた指輪をめちゃくちゃ推していたのでとても不本意そうだった。しかしフーゴよ、40代のマダムには似合うと思うがはたちそこそこの女にそのデザインは…まあ…ナシだと思うぜ。
買い物に行こう!と休日のおだやかな朝にブチャラティが言い出した。アバッキオとしてはもう少し惰眠をむさぼっていたくて、抵抗の意味もこめてサイドテーブルのタバコに手を伸ばして火をつけた。
なんで?服屋?と煙を吐き出しながら聞くと、おまえはミスタとよく買い出しに行っているし、この前はナランチャがアバッキオにCD買ってもらって帰りにジェラート食わせてもらったって騒いでいたし、一昨日はフーゴとブルガリにおつかいに行って帰りに2人でバールに寄り道した。とブチャラティは真剣な表情で言う。そして息を吸い込むと俺とは買い物に行かないのに⁈とデカい声で言い放った。近所迷惑だ。だがしかし、確かにそうかもしれぬとろくすっぽ吸わずに煙だけモクモクと吐き出しながら考えた。ブチャラティはバレンシアガのブティックに颯爽と入っていって上から下まで90万近く使うような男だからそもそも一緒に買い物しようというのはちょっと思いつかなかった。スーパーマーケットというのも2人とも外食が好きだから、そろって出かけたことはなかったかもしれない。
うーん。レンタルビデオ屋でも行く?とサイドテーブルの灰皿にタバコを押しつけながら聞くと、明らかにブチャラティはご機嫌になり、そこのカフェでブランチをしてレンタルビデオ屋でなにかかりて見ようぜ!と言うがはやいかクローゼットにむかって行った。きっとこの前買ったエトロのすごい柄のシャツを着てくるなと予想し、アバッキオも身支度をしようと立ち上がって腰が悲鳴をあげた。まったく好き勝手やってくれる。アバッキオはガタイも良いし丈夫だが、考えてもみてほしい。ブチャラティだってイタリア人の平均身長よりデカいし更に職業柄鍛えているのだ。そんなヤツが全力で襲ってくるって考えてほしい。かなりの重労働だ。俺、丈夫で良かったな。と何年も会っていない両親に感謝した。
アバッキオはミスタと買い物にマーケットに来ている。アジトには冷蔵庫があるが、中のスプライトやコーラが勝手に増えるわけもなくこうして時間ができたメンバーが適宜補充するのが暗黙の了解となっている。ミスタはチームに入ってきて日は浅いが、人懐こく話好きでこちらから話題を提供する必要もないので嫌いじゃないとアバッキオは思う。自分からしゃべるのはだるいが、人が話しているのを聞くのは割に好きだ。チームメンバーと食事をするときギャアギャアうるさいのも苦ではないし、うるさすぎたらヘッドフォンをするし全く問題ない。ミスタはなんかよぉー最近小腹がすいてすいてよぉーと言いながら、ポテトチップスだの安いチョコレートだのをマイペースにカートに放り込んでいる。アバッキオは子どもの頃からそういった駄菓子類が好きではなかったからミスタの好みに任せることにする。たぶんフーゴも自分と同類だろうなと思う。自分の母親もフーゴの母親も子どもに駄菓子類は口にさせず家庭でつくったものか馴染みのパティスリーで買ったものかしかおやつに出さないタイプだろうと思う。まったくそんな家庭で育ったのに2人ともどうしてこんなことになっちまってるんだ、と思わず笑ってしまった。アバッキオ珍しく機嫌が良いじゃねーの!あんたにはコレだな!と言われミスタに手渡されたのは缶に入ったラムネ菓子だった。クラシカルなデザインの缶にいろんな種類のラムネ菓子が入っているらしい。レオーネっていうラムネだぜ!あんたと一緒だな!
言われてアバッキオはビックリする。ミスタおまえ俺の名前なんか覚えてたのかよ
言われたミスタはそれこそ驚いた顔をしてチームメンバーのフルネームくらいおぼえるだろうがよ普通!まさか俺の名前知らないのかよ⁈と騒ぐので、知ってる知ってる。グイード・ミスタ知ってる。と答えた。やはりおもしろいやつだなと思った。
アバッキオがナランチャとCDショップに行くはめになったのは全くの偶然だった。アバッキオはこの日シマの売春宿の女の子にストーカーまがいのことをしている困った大学生にちょっとばかしヤキを入れるという仕事があったのだが、女の子に入れあげるあまり留年してしまった大学生を田舎の両親が連れ戻しにきたらしくヤキを入れる必要もなくぽっかりと時間があいてしまった。アバッキオはたんたんと命じられた仕事をするのが好きであり、こういうふうにぽっかり時間があくのはあまり好きではなかった。考えたくもないことを考えるのはたくさんだからだ。一応報告はしねえとなとアジトに帰ると、ナランチャがフーゴにつっかかっており、そばでしらけた顔をして銃を磨いていたミスタによると、計算ドリルが5枚終わったらCDを1枚買ってやるとフーゴが言ったのにあまりに不正解が多いので買ってやるもんか!となったらしい。殴り合いの末飛んできたドリルを見ると、二桁二桁の掛け算はできていないが一桁二桁の掛け算はできているではないか。少し前は九九もおぼつかなかったのにまあまあの進歩じゃないか。
おめえらうるせんだよ!これがとけたら俺がCD買ってやるから静かにしろ!と言って一桁二桁の掛け算を紙に三問書いて投げつけた。ナランチャはびっくりした顔をしたが、みるみる笑顔になって転がっていた鉛筆を拾ってときはじめた。結果全部できていた。ナランチャは決してバカではない。何かきっかけさえあれば理解することができる。二桁二桁の掛け算だって彼の中のきっかけさえつかめればすぐにできるはずだ。そうしてCDショップに2人で来たわけだが、アバッキオは早くも後悔している。ナランチャが好むのはカリフォルニアあたりのギャングスタによるラップミュージックであり、耳ざわりは良いが歌詞はめちゃくちゃである。ハイスクールの英語の成績はまあまあ良かったから歌詞カードを見るにヤリまくるだの吸いまくるだの羅列してあってうんざりしてしまう。ナランチャのことは感覚もするどいし幼い顔をして敵と見たらためらいなく殺せるしメンバーとして信用しているが、私生活に関しては幼い弟のようにしか思えなかったから彼がヤリまくるだの吸いまくるだのの英単語を覚えるのはなんか嫌だなと思うのであった。案の定ナランチャがこれにする!と元気よく持ってきたのはスヌープドッグのアルバムであり、教育に悪いなあと思いながらも約束は約束だからなとレジに向かった。
店の奥の個室で次々に出てくるネックレスや指輪をシャンパンを飲みながら眺めている。今日はブチャラティの使いでブルガリに買い物に来ていた。幹部の娘さんの誕生日パーティーだとかで何かしらプレゼントを持参しなければならないのだと言う。パーティーは夜からで今のうちにプレゼントを用意しておかなければならない。ブチャラティが俺が行ければ良いのだがあいにく昼間はポルポさんの面会があるのだと言うので、フーゴが俺が行ってきますよと答えた。が、ブチャラティはしばし無言でフーゴのイチゴのピアスを見つめるとアバッキオも一緒に行ってくれと言った。そうして耳もとでANNA SUIじゃないぞ。ブルガリかさもなくばティファニーあたりにしといてくれと囁いた。フーゴのアルファロメオの助手席に乗りこんだとたん、じゃANNA SUIで良いですかね?と言うので、ANNA SUIも良いと思うが個性が強いからプレゼントは無難にブルガリが良いと思うぜと答えておいた。ついてきて良かったなと思った。次々と目の前に並べられるジュエリーはどれも美しい。なんだかんだ言ってチームメンバー全員金目のものは好きだ。むしろ嫌いなやつなんているのか?しかし、恋人のブチャラティが知らない女にジュエリーを送るというこのシチュエーションは心底気にくわない。仕事は仕事とはいえ、絶対指輪だけはナシだぜと選んだ結果ふたつの輪っかが組み合わさりダイヤモンドが散りばめられたネックレスにすることにした。フーゴは蛇のモチーフにダイヤモンドが埋め込まれた指輪をめちゃくちゃ推していたのでとても不本意そうだった。しかしフーゴよ、40代のマダムには似合うと思うがはたちそこそこの女にそのデザインは…まあ…ナシだと思うぜ。
買い物に行こう!と休日のおだやかな朝にブチャラティが言い出した。アバッキオとしてはもう少し惰眠をむさぼっていたくて、抵抗の意味もこめてサイドテーブルのタバコに手を伸ばして火をつけた。
なんで?服屋?と煙を吐き出しながら聞くと、おまえはミスタとよく買い出しに行っているし、この前はナランチャがアバッキオにCD買ってもらって帰りにジェラート食わせてもらったって騒いでいたし、一昨日はフーゴとブルガリにおつかいに行って帰りに2人でバールに寄り道した。とブチャラティは真剣な表情で言う。そして息を吸い込むと俺とは買い物に行かないのに⁈とデカい声で言い放った。近所迷惑だ。だがしかし、確かにそうかもしれぬとろくすっぽ吸わずに煙だけモクモクと吐き出しながら考えた。ブチャラティはバレンシアガのブティックに颯爽と入っていって上から下まで90万近く使うような男だからそもそも一緒に買い物しようというのはちょっと思いつかなかった。スーパーマーケットというのも2人とも外食が好きだから、そろって出かけたことはなかったかもしれない。
うーん。レンタルビデオ屋でも行く?とサイドテーブルの灰皿にタバコを押しつけながら聞くと、明らかにブチャラティはご機嫌になり、そこのカフェでブランチをしてレンタルビデオ屋でなにかかりて見ようぜ!と言うがはやいかクローゼットにむかって行った。きっとこの前買ったエトロのすごい柄のシャツを着てくるなと予想し、アバッキオも身支度をしようと立ち上がって腰が悲鳴をあげた。まったく好き勝手やってくれる。アバッキオはガタイも良いし丈夫だが、考えてもみてほしい。ブチャラティだってイタリア人の平均身長よりデカいし更に職業柄鍛えているのだ。そんなヤツが全力で襲ってくるって考えてほしい。かなりの重労働だ。俺、丈夫で良かったな。と何年も会っていない両親に感謝した。
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