AV絶対禁止令
AV絶対禁止令
「真ちゃんはま〜だ女子◯生とか見てんのか!!」
「そういうワカは何なんだよ…え…スゴイ…四十路人妻の初めての冒険って何!?高度過ぎるだろ!!」
残念ながら現在ものすごく酔っぱらっているが、真一郎、ワカ、ベンケイという素敵ないわゆる若中年が集まって真一郎の部屋で飲んでいるわけである。オトナってどんな話すんだろ!とワクワク初代飲み会(武臣ハブ)に参加していた青宗は冒頭の会話が始まった時点でもはや虚無である。なぜなら、酔っぱらった真一郎とワカが互いのスマホのAVの閲覧履歴を見せ合って爆笑しているから。まさかオトナってこんなアホなことばっか言ってんの?店の経営方針とか語ってんのかと思った。青宗は違う意味でビックリしていた。
「おまえらいい加減にしろ〜チビイヌドン引きじゃねぇか。」
「ええ!?でも青宗だって見るだろ!?」
「いや。青宗はそんなもの見れない。未成年だから。」
さっきまでゲラゲラ笑っていたのに急にワカがスンッとなって言うが、青宗は成年になって久しい。というかアラサーなのだが。
「もしかして…ココもこういうの見てるんだろうか。」
「見てる。」
「見てる。」
「見てる。」
まさかの満場一致であった。
「俺というものがありながらAVも見るの?」
「青宗。残念ながらそれはそれ。これはこれなんだ。」
「そうなんだ……。」
「青宗〜しょんぼりするなよ〜!!もし九井がAV見てたら俺が九井のAV閲覧履歴Xでつぶやいてやるから。な?」
「馬鹿野郎そんなもんつぶやいたらおまえのXが凍結されるわ。」
「そういう…綺麗な女の人の動画見て、現実の俺見て…ココは萎えないのかな?」
「萎えるわけない。」
「青宗がAV女優に負けるわけない。」
「むしろAVは前座だから。」
全肯定初代であった。
しかし、初代たちは青宗に甘い。ほんとのところココはどうなんだろう?青宗はどんどん不安になってくるのだった。
店が休みだからってずいぶん朝寝してしまった。今日は運良く九井と休みがかぶってるというのに。さて昼から九井と一緒にどこへ出かけようか何を食べようか…乾が思案しながらリビングに行くと、テーブルの上にタブレットが転がっていた。このタブレットはいつも九井がサブスクのドラマや映画を見ているやつだ。肝心の九井は筋トレでもしたのかシャワーを浴びているらしい。九井と暮らしてわかったことは、頭が良くて仕事ができるやつは休日も生活リズムを崩さない。スゲェよな。俺は休みはいっぱい寝る。まだバスルームからはシャワーの音がする。目の前には九井のタブレット。持ち主不在のタブレットを見て、乾の頭に先日の初代飲み会(武臣ハブ)での会話が思い浮かぶ。九井もやっぱりAVとか見るんだろうか。あんな上品そうな顔でAV?乾は九井のすっきりした品のある顔立ちがすごく好きだ。あの顔で?でも俺を抱く時は割と見境がないし…見るとしたらどんなやつ?乾はおそるおそるテーブルのタブレットを手にとる。パスコード…なんだろう。まさか俺の誕生日だったら笑えるんだけど…え、開いたほんとに1018。ココ、もしかしてバカなのか?タブがいくつかある中で目的のサイトがあった。それは日本で1番有名な成人向け動画販売サイトだった。そうか…やっぱり見てるのか…しかし何より気になるのは九井の閲覧履歴である。乾は震える指で閲覧履歴をタップした。
金髪留学生をナンパしてみたら
金髪外国人美女をハメる
金髪英語教師夜の特別レッスン
金髪高飛車スーパーモデル即落ち
金髪、金髪、金髪…
金髪好き過ぎだろ。
「あ〜!イヌピー!それ!」
シャワーから出てきた九井が、タブレットを持ったまま放心している乾を見て少し焦って言う。
「ココ……金髪美女のエロ動画が好きなんだな……。」
「え。ヤベ。履歴見た?いや〜好き……なのかな……。」
「ふ〜ん。そうか。なら俺でいいよな?金髪が好きなんならこんなもの見なくても俺でいいはず。」
言いながら乾は閲覧履歴を削除し、お気に入りも削除し、九井がダウンロード購入した動画も削除した。すべて金髪の美女が出てくるやつだった。金髪徹底してんな。
「イヌ!?イヌピー!?まさか買ったやつまで消したの!!え…!?」
「大丈夫。金髪のエロいのが見たいんなら俺でいいだろ?俺、こう見えてエロいから。な?」
そう言って乾はにっこり笑った。言ってる意味はまるでわからなかったが、とにかく九井は乾が恐ろし過ぎて、あ、ハイ。しか言えなかった。乾のその白い額に青筋が浮いている時はガチギレしてる時であることを九井はよく知っていたので。昔ならいざ知らず、現在も体力がいる仕事をしている乾と頭脳労働の九井。そんなもん殴られでもしたらおそらく九井は骨が何本か折れる。動画を削除されようが、あ、ハイと言うしかなかった。
「バカだと風邪ひかないんじゃないのか。俺の高校の成績見せてやろうか風邪の野郎。俺の成績表2がいっぱいだぞ!!」
「いや。イヌピー。風邪じゃなくてコロナだから。成績関係ないから。おとなしく寝な。」
九井が頭を撫でてやると、高熱でハイなのか騒いでいた乾はおとなしくなりとろんとした目になって今にも寝そうである。赤ちゃんかな?なまじ体力があるから元気に見えるが、乾の熱は39度近くあり九井としては休んでほしいから寝かしつけたかった。
いつも健康で前述のとおり風邪もあまりひかない乾が寒いすげぇ寒いここ東京じゃなくて北海道なんじゃねぇのと言い出したのは昨日のことだった。寒い寒いの後は暑いだるい身体中痛いとうめきだし、九井が病院へ連れて行ったところバッチリコロナ陽性が出た。同居しているから九井も検査したら陽性だった。しかし、九井は軽い咳くらいで熱もないし頭も痛くなかった。コロナは個人差が激しいと聞くが本当だなと感心した九井だった。そんなわけで2人とも5日間は仕事に行けないので、乾は熱にうなされ九井はかいがいしく乾の看病をしていた。食料どうするかなぁ宅配か?困ったなぁと考えていたら、赤音さんがコレ青宗好きなやつだから!!なんとしてでも飲ませて!!とスープ鍋をまるごと玄関前に置いていき、真一郎たちからゼリーやスポーツ飲料が入った袋が玄関前に置かれ、次の日には部下のサナダからレトルト食品が入ったAmazo◯の箱が置き配された。結局何も困らなかった。
そんなにしゃべる方でもないが乾が伏せっていると家の中が静かで寂しい。ひとり在宅ワークをするも寂しいからちょこちょこ寝ている乾を見に寝室に行ってしまい、しばし寝顔に見惚れる。あんまり言うと顔だけ好きなのかと拗ねるから言わないが、九井はこの顔が本当に好きなのだ。ずっと見ていられる自信がある。でも、白い肌は熱で赤くなっているし息も荒いししんどそうでかわいそうだ。
「ココ?」
見つめ過ぎたのか、乾の大きな瞳がこちらを向いていた。まだ熱が高そうで綺麗な緑色がうるんでいる。かんわいい〜♡と思ったが平静を装う。
「大丈夫?イヌピー飲めるなら何でもいいから飲んだほうがいいよ。」
乾は素直にスポーツドリンクをストローで飲み始めた。ふだん漢らしくペットボトルそのまま飲むのに喉が痛いらしくチビチビとストローで飲んでいる。再びかんわいい〜♡と思ったが、九井は敏腕経営者であるのでポーカーフェイスなどお手のものだった。
「ココ。」
乾がそう言って抱っこをねだるポーズをするものだから、九井はかわいさのあまり叫びそうになったがクールにハイハイと言って抱きしめてやった。乾の形の良い額にキスをすると
「俺が相手できないからってAVとか見んなよ!絶対だからな!」
とこちらを睨みながら言って再びストンと寝始めた。
「何それホント可愛いんだけど……。」
九井は今度こそ我慢できず声に出して呟いていた。
「イヌピーがAV見るなって言うから、我慢できなくて浮気しちゃったんだよね。金髪美女と。」
九井はかたわらにボディコンシャスな服を着た金髪美女をはべらせて言う。
「え……?」
「やっぱ生身の金髪美女はいいよな。俺、もう金髪美女と暮らすわ。俺たち別れよう?じゃあなイヌピー。」
九井は冷たい視線を乾によこし、金髪美女の腰を抱いて去ってゆく。
「は…?ココ!?やだ!!別れない!!」
乾は一生懸命九井を追うが、なぜか足がぜんぜん動かない。なんで……!?
「ココ!!」
「何イヌピー。すげぇうなされてたけど、熱上がってんのかな?計ろうな。」
九井は夢見が悪かったのか取り乱している乾の脇に体温計を挟んでやる。
「ココ!!AV見ていいぞ!!」
乾がガバリと起き上がる。
「ハァ……?起きていきなり何だそれ。ていうか大人しくして熱計ってんだから。」
「ココが生身の金髪美女と浮気して本気になっちまう夢見た…そんなの嫌だ…生金髪美女にいかれるくらいならAV見てくれたほうがぜんぜんマシだ……。ココいっぱいエロ動画見ろ!!」
「熱あるから変な夢見たんだろ。ほら。下がってるけどまだ37.5あるもん。でも、これくらいならなんか食えそう?持って来ようか?」
「ココ話そらすな!!」
まだ熱があるのに、変な夢で興奮してしまった乾をなだめる必要がありそうだ。このままでは下がるものも下がらない。
「ハァ〜…あのさぁ。イヌピーが何を心配してんのか知らねえけど、俺がAV見るのはなんかムラムラすんだけどイヌピーが仕事で疲れてたり気持ちよさそうに寝てたり、そういう時にイヌピーに無理させてまでヤリたくねえからAV見て自分でどうにかしてんの!大事にしてんの!おまえを!」
「え……。」
「別に見たくて見てるんじゃなくてただの処理だから。金髪系のを選んでるのはオレ目が悪いだろ?金髪だとボヤ〜とイヌピーみたいに見えなくもないからそれで金髪系のAV選んでるだけ。どうせ見るならイヌピーに似たのが良かった。」
「ココ…俺のことどんだけ好きだよ……。」
「めちゃくちゃ好きだよわりぃかよバ〜カ!!」
この後乾は九井があたためたレトルトのおかゆをモリモリ食べ、スヤスヤ寝てきっちり5日でコロナから回復した。すこやかな乾だった。熱が出たイヌピーガキみてぇでかわいかったなと九井は思った。幸いなことに彼は滅多に体調を崩さないのでそれはとてもレアなのである。
「それでAV禁止令は解除されたのか?」
「なんも言わなくなったな。ぶっ飛んだイヌピーのことだからたんに飽きただけかもしれないけど。なんか…前世で失敗でもしたのかイヌピーに同意を得ず無理矢理何かをするのは絶対ダメってDNAにすりこまれてんだよ俺。だからめちゃくちゃ言うこと聞くし、イヌピーのこと気遣うし。」
TK&KOの会長室で軽く飲みながら稀咲と雑談している。ところで、この目の前のわたくし聡明ですけどみたいな顔した稀咲ってAVとか見るんだろうか?九井は下世話な興味がものすごくわいてきた。
「なあ。稀咲ってAV何見んの?」
あ。単刀直入に聞いてしまった。
「ああいう…生々しいのはダメなんだ……。」
稀咲が困ったように答える。
「稀咲はな、ティーンズラブ小説とかが好きなんだよ。」
稀咲と待ち合わせていたらしい半間がそう言いながら音もなく会長室に入ってくる。
「ティーンズラブ?何それ?」
半間は遠慮なく会長室のエスプレッソマシンでコーヒーを入れ始める。
「少女マンガよりちょっと大人めのやつ。アダルトほどでないちょっとエロい描写があるキュンとするやつ。」
「キュンとか言うな半間。しかもバラすな半間。勝手にコーヒー淹れるな半間。」
「あ〜なるほど。なんかすげぇしっくりくる。稀咲キュン好きそう。」
「バカにしてるだろ九井!!」
「してないしてない。」
恋愛に独自の理想を持ち過ぎる稀咲なのである。
「あ〜旅館アレじゃねぇ?」
真一郎、ワカ、ベンケイ、イザナ、そして青宗の5人はバイクで秩父の温泉に来ている。S.S MOTORSと五条ジムプラスイザナの社員旅行みたいなものである。
「わ〜日本って感じ。旅館。」
「俺チェックインしてくるから。」
「ありがとな真ちゃん。あ。ベンケイ刺青隠しシール貼ってきた?」
「持ってきた持ってきた。チビイヌ風呂の前貼ってくれるか?自分でやったら刺青ちゃんと隠れたかよく見えねえから。」
「うん。いいよ。」
「青宗、風呂の後俺にサロンパス貼って。久しぶりのツーリング腰痛ぇ。」
「うん。わかった。」
「乾、おまえオジサンたちの介護してんの?」
ロビーで話しながら真一郎のチェックインを待っていると、真一郎が怪訝な顔をして戻ってきた。
「俺フツーの部屋予約したんだけど、九井様からグレードアップするよう申しつかってて料金もいただいてるとかフロントの人が言うんだよ。」
「ココが?」
「ありがたいけど、なんでだ?」
「ふ〜ん。グレードアップした部屋はそもそも部屋に露天風呂がついてんだって。なるほど。大浴場に行かなくても良いわけだ。」
イザナが旅館のパンフレットを見ながら言う。
「なるほど?九井は青宗の裸を死守しようとしてんだな?理解した。」
「もしかしてベンケイ刺青隠しシール貼らなくていいのか?」
「そうなるな。」
「ねえ。俺。みんなで風呂入りたい!」
急にイザナがきゅるるんとした顔で言いだす。
「ええ!?部屋の露天風呂に5人!?ベンケイも真ちゃんもデケェのにギッチギチじゃんヤダよ。俺は青宗と2人で入る。」
「せっかくだし!4人でギッチギチに乾囲んで風呂で写真撮って九井に送ってやろうよ!グレードアップしてくれたお礼に!」
再びイザナがきゅるるんとした顔で言う。
「なるほど〜?みんなで青宗と入るか〜楽しかったって九井様に報告しないとだもんな!」
「またイザナとワカはそういうこと言う〜」
その夜、九井のもとに部屋の露天風呂で真一郎、イザナ、ワカ、ベンケイにギッチギチに囲まれてにっこりしている乾の写真がLIN◯で送られてきた。その写真は旅館の男性従業員が撮ってくれたのであり、九井の乾の乳首を他人の視線から守りたいという思惑は大きくはずれ、乾のピンク色の乳首は一緒に旅行に行ったメンバー、旅館の従業員さんなど、さまざまな人にさらされるのであった。先回りして部屋をグレードアップまでしたのに報われない九井なのであった。
「真ちゃんはま〜だ女子◯生とか見てんのか!!」
「そういうワカは何なんだよ…え…スゴイ…四十路人妻の初めての冒険って何!?高度過ぎるだろ!!」
残念ながら現在ものすごく酔っぱらっているが、真一郎、ワカ、ベンケイという素敵ないわゆる若中年が集まって真一郎の部屋で飲んでいるわけである。オトナってどんな話すんだろ!とワクワク初代飲み会(武臣ハブ)に参加していた青宗は冒頭の会話が始まった時点でもはや虚無である。なぜなら、酔っぱらった真一郎とワカが互いのスマホのAVの閲覧履歴を見せ合って爆笑しているから。まさかオトナってこんなアホなことばっか言ってんの?店の経営方針とか語ってんのかと思った。青宗は違う意味でビックリしていた。
「おまえらいい加減にしろ〜チビイヌドン引きじゃねぇか。」
「ええ!?でも青宗だって見るだろ!?」
「いや。青宗はそんなもの見れない。未成年だから。」
さっきまでゲラゲラ笑っていたのに急にワカがスンッとなって言うが、青宗は成年になって久しい。というかアラサーなのだが。
「もしかして…ココもこういうの見てるんだろうか。」
「見てる。」
「見てる。」
「見てる。」
まさかの満場一致であった。
「俺というものがありながらAVも見るの?」
「青宗。残念ながらそれはそれ。これはこれなんだ。」
「そうなんだ……。」
「青宗〜しょんぼりするなよ〜!!もし九井がAV見てたら俺が九井のAV閲覧履歴Xでつぶやいてやるから。な?」
「馬鹿野郎そんなもんつぶやいたらおまえのXが凍結されるわ。」
「そういう…綺麗な女の人の動画見て、現実の俺見て…ココは萎えないのかな?」
「萎えるわけない。」
「青宗がAV女優に負けるわけない。」
「むしろAVは前座だから。」
全肯定初代であった。
しかし、初代たちは青宗に甘い。ほんとのところココはどうなんだろう?青宗はどんどん不安になってくるのだった。
店が休みだからってずいぶん朝寝してしまった。今日は運良く九井と休みがかぶってるというのに。さて昼から九井と一緒にどこへ出かけようか何を食べようか…乾が思案しながらリビングに行くと、テーブルの上にタブレットが転がっていた。このタブレットはいつも九井がサブスクのドラマや映画を見ているやつだ。肝心の九井は筋トレでもしたのかシャワーを浴びているらしい。九井と暮らしてわかったことは、頭が良くて仕事ができるやつは休日も生活リズムを崩さない。スゲェよな。俺は休みはいっぱい寝る。まだバスルームからはシャワーの音がする。目の前には九井のタブレット。持ち主不在のタブレットを見て、乾の頭に先日の初代飲み会(武臣ハブ)での会話が思い浮かぶ。九井もやっぱりAVとか見るんだろうか。あんな上品そうな顔でAV?乾は九井のすっきりした品のある顔立ちがすごく好きだ。あの顔で?でも俺を抱く時は割と見境がないし…見るとしたらどんなやつ?乾はおそるおそるテーブルのタブレットを手にとる。パスコード…なんだろう。まさか俺の誕生日だったら笑えるんだけど…え、開いたほんとに1018。ココ、もしかしてバカなのか?タブがいくつかある中で目的のサイトがあった。それは日本で1番有名な成人向け動画販売サイトだった。そうか…やっぱり見てるのか…しかし何より気になるのは九井の閲覧履歴である。乾は震える指で閲覧履歴をタップした。
金髪留学生をナンパしてみたら
金髪外国人美女をハメる
金髪英語教師夜の特別レッスン
金髪高飛車スーパーモデル即落ち
金髪、金髪、金髪…
金髪好き過ぎだろ。
「あ〜!イヌピー!それ!」
シャワーから出てきた九井が、タブレットを持ったまま放心している乾を見て少し焦って言う。
「ココ……金髪美女のエロ動画が好きなんだな……。」
「え。ヤベ。履歴見た?いや〜好き……なのかな……。」
「ふ〜ん。そうか。なら俺でいいよな?金髪が好きなんならこんなもの見なくても俺でいいはず。」
言いながら乾は閲覧履歴を削除し、お気に入りも削除し、九井がダウンロード購入した動画も削除した。すべて金髪の美女が出てくるやつだった。金髪徹底してんな。
「イヌ!?イヌピー!?まさか買ったやつまで消したの!!え…!?」
「大丈夫。金髪のエロいのが見たいんなら俺でいいだろ?俺、こう見えてエロいから。な?」
そう言って乾はにっこり笑った。言ってる意味はまるでわからなかったが、とにかく九井は乾が恐ろし過ぎて、あ、ハイ。しか言えなかった。乾のその白い額に青筋が浮いている時はガチギレしてる時であることを九井はよく知っていたので。昔ならいざ知らず、現在も体力がいる仕事をしている乾と頭脳労働の九井。そんなもん殴られでもしたらおそらく九井は骨が何本か折れる。動画を削除されようが、あ、ハイと言うしかなかった。
「バカだと風邪ひかないんじゃないのか。俺の高校の成績見せてやろうか風邪の野郎。俺の成績表2がいっぱいだぞ!!」
「いや。イヌピー。風邪じゃなくてコロナだから。成績関係ないから。おとなしく寝な。」
九井が頭を撫でてやると、高熱でハイなのか騒いでいた乾はおとなしくなりとろんとした目になって今にも寝そうである。赤ちゃんかな?なまじ体力があるから元気に見えるが、乾の熱は39度近くあり九井としては休んでほしいから寝かしつけたかった。
いつも健康で前述のとおり風邪もあまりひかない乾が寒いすげぇ寒いここ東京じゃなくて北海道なんじゃねぇのと言い出したのは昨日のことだった。寒い寒いの後は暑いだるい身体中痛いとうめきだし、九井が病院へ連れて行ったところバッチリコロナ陽性が出た。同居しているから九井も検査したら陽性だった。しかし、九井は軽い咳くらいで熱もないし頭も痛くなかった。コロナは個人差が激しいと聞くが本当だなと感心した九井だった。そんなわけで2人とも5日間は仕事に行けないので、乾は熱にうなされ九井はかいがいしく乾の看病をしていた。食料どうするかなぁ宅配か?困ったなぁと考えていたら、赤音さんがコレ青宗好きなやつだから!!なんとしてでも飲ませて!!とスープ鍋をまるごと玄関前に置いていき、真一郎たちからゼリーやスポーツ飲料が入った袋が玄関前に置かれ、次の日には部下のサナダからレトルト食品が入ったAmazo◯の箱が置き配された。結局何も困らなかった。
そんなにしゃべる方でもないが乾が伏せっていると家の中が静かで寂しい。ひとり在宅ワークをするも寂しいからちょこちょこ寝ている乾を見に寝室に行ってしまい、しばし寝顔に見惚れる。あんまり言うと顔だけ好きなのかと拗ねるから言わないが、九井はこの顔が本当に好きなのだ。ずっと見ていられる自信がある。でも、白い肌は熱で赤くなっているし息も荒いししんどそうでかわいそうだ。
「ココ?」
見つめ過ぎたのか、乾の大きな瞳がこちらを向いていた。まだ熱が高そうで綺麗な緑色がうるんでいる。かんわいい〜♡と思ったが平静を装う。
「大丈夫?イヌピー飲めるなら何でもいいから飲んだほうがいいよ。」
乾は素直にスポーツドリンクをストローで飲み始めた。ふだん漢らしくペットボトルそのまま飲むのに喉が痛いらしくチビチビとストローで飲んでいる。再びかんわいい〜♡と思ったが、九井は敏腕経営者であるのでポーカーフェイスなどお手のものだった。
「ココ。」
乾がそう言って抱っこをねだるポーズをするものだから、九井はかわいさのあまり叫びそうになったがクールにハイハイと言って抱きしめてやった。乾の形の良い額にキスをすると
「俺が相手できないからってAVとか見んなよ!絶対だからな!」
とこちらを睨みながら言って再びストンと寝始めた。
「何それホント可愛いんだけど……。」
九井は今度こそ我慢できず声に出して呟いていた。
「イヌピーがAV見るなって言うから、我慢できなくて浮気しちゃったんだよね。金髪美女と。」
九井はかたわらにボディコンシャスな服を着た金髪美女をはべらせて言う。
「え……?」
「やっぱ生身の金髪美女はいいよな。俺、もう金髪美女と暮らすわ。俺たち別れよう?じゃあなイヌピー。」
九井は冷たい視線を乾によこし、金髪美女の腰を抱いて去ってゆく。
「は…?ココ!?やだ!!別れない!!」
乾は一生懸命九井を追うが、なぜか足がぜんぜん動かない。なんで……!?
「ココ!!」
「何イヌピー。すげぇうなされてたけど、熱上がってんのかな?計ろうな。」
九井は夢見が悪かったのか取り乱している乾の脇に体温計を挟んでやる。
「ココ!!AV見ていいぞ!!」
乾がガバリと起き上がる。
「ハァ……?起きていきなり何だそれ。ていうか大人しくして熱計ってんだから。」
「ココが生身の金髪美女と浮気して本気になっちまう夢見た…そんなの嫌だ…生金髪美女にいかれるくらいならAV見てくれたほうがぜんぜんマシだ……。ココいっぱいエロ動画見ろ!!」
「熱あるから変な夢見たんだろ。ほら。下がってるけどまだ37.5あるもん。でも、これくらいならなんか食えそう?持って来ようか?」
「ココ話そらすな!!」
まだ熱があるのに、変な夢で興奮してしまった乾をなだめる必要がありそうだ。このままでは下がるものも下がらない。
「ハァ〜…あのさぁ。イヌピーが何を心配してんのか知らねえけど、俺がAV見るのはなんかムラムラすんだけどイヌピーが仕事で疲れてたり気持ちよさそうに寝てたり、そういう時にイヌピーに無理させてまでヤリたくねえからAV見て自分でどうにかしてんの!大事にしてんの!おまえを!」
「え……。」
「別に見たくて見てるんじゃなくてただの処理だから。金髪系のを選んでるのはオレ目が悪いだろ?金髪だとボヤ〜とイヌピーみたいに見えなくもないからそれで金髪系のAV選んでるだけ。どうせ見るならイヌピーに似たのが良かった。」
「ココ…俺のことどんだけ好きだよ……。」
「めちゃくちゃ好きだよわりぃかよバ〜カ!!」
この後乾は九井があたためたレトルトのおかゆをモリモリ食べ、スヤスヤ寝てきっちり5日でコロナから回復した。すこやかな乾だった。熱が出たイヌピーガキみてぇでかわいかったなと九井は思った。幸いなことに彼は滅多に体調を崩さないのでそれはとてもレアなのである。
「それでAV禁止令は解除されたのか?」
「なんも言わなくなったな。ぶっ飛んだイヌピーのことだからたんに飽きただけかもしれないけど。なんか…前世で失敗でもしたのかイヌピーに同意を得ず無理矢理何かをするのは絶対ダメってDNAにすりこまれてんだよ俺。だからめちゃくちゃ言うこと聞くし、イヌピーのこと気遣うし。」
TK&KOの会長室で軽く飲みながら稀咲と雑談している。ところで、この目の前のわたくし聡明ですけどみたいな顔した稀咲ってAVとか見るんだろうか?九井は下世話な興味がものすごくわいてきた。
「なあ。稀咲ってAV何見んの?」
あ。単刀直入に聞いてしまった。
「ああいう…生々しいのはダメなんだ……。」
稀咲が困ったように答える。
「稀咲はな、ティーンズラブ小説とかが好きなんだよ。」
稀咲と待ち合わせていたらしい半間がそう言いながら音もなく会長室に入ってくる。
「ティーンズラブ?何それ?」
半間は遠慮なく会長室のエスプレッソマシンでコーヒーを入れ始める。
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「キュンとか言うな半間。しかもバラすな半間。勝手にコーヒー淹れるな半間。」
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「バカにしてるだろ九井!!」
「してないしてない。」
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「あ〜旅館アレじゃねぇ?」
真一郎、ワカ、ベンケイ、イザナ、そして青宗の5人はバイクで秩父の温泉に来ている。S.S MOTORSと五条ジムプラスイザナの社員旅行みたいなものである。
「わ〜日本って感じ。旅館。」
「俺チェックインしてくるから。」
「ありがとな真ちゃん。あ。ベンケイ刺青隠しシール貼ってきた?」
「持ってきた持ってきた。チビイヌ風呂の前貼ってくれるか?自分でやったら刺青ちゃんと隠れたかよく見えねえから。」
「うん。いいよ。」
「青宗、風呂の後俺にサロンパス貼って。久しぶりのツーリング腰痛ぇ。」
「うん。わかった。」
「乾、おまえオジサンたちの介護してんの?」
ロビーで話しながら真一郎のチェックインを待っていると、真一郎が怪訝な顔をして戻ってきた。
「俺フツーの部屋予約したんだけど、九井様からグレードアップするよう申しつかってて料金もいただいてるとかフロントの人が言うんだよ。」
「ココが?」
「ありがたいけど、なんでだ?」
「ふ〜ん。グレードアップした部屋はそもそも部屋に露天風呂がついてんだって。なるほど。大浴場に行かなくても良いわけだ。」
イザナが旅館のパンフレットを見ながら言う。
「なるほど?九井は青宗の裸を死守しようとしてんだな?理解した。」
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「そうなるな。」
「ねえ。俺。みんなで風呂入りたい!」
急にイザナがきゅるるんとした顔で言いだす。
「ええ!?部屋の露天風呂に5人!?ベンケイも真ちゃんもデケェのにギッチギチじゃんヤダよ。俺は青宗と2人で入る。」
「せっかくだし!4人でギッチギチに乾囲んで風呂で写真撮って九井に送ってやろうよ!グレードアップしてくれたお礼に!」
再びイザナがきゅるるんとした顔で言う。
「なるほど〜?みんなで青宗と入るか〜楽しかったって九井様に報告しないとだもんな!」
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その夜、九井のもとに部屋の露天風呂で真一郎、イザナ、ワカ、ベンケイにギッチギチに囲まれてにっこりしている乾の写真がLIN◯で送られてきた。その写真は旅館の男性従業員が撮ってくれたのであり、九井の乾の乳首を他人の視線から守りたいという思惑は大きくはずれ、乾のピンク色の乳首は一緒に旅行に行ったメンバー、旅館の従業員さんなど、さまざまな人にさらされるのであった。先回りして部屋をグレードアップまでしたのに報われない九井なのであった。
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