美しい顔でウンコとか平気で言う系乾
美しい顔でウンコとか平気で言う系乾
1
「乾は右に曲がってる?左?」
「何が?」
「チンコに決まってるだろ。」
黒龍の集会の後、イザナが話があるというから乾はわりと真剣に聞く気持ちだったのになんのことはないチンコの話だった。イザナの足もとには缶チューハイが5本転がっている。なるほど酔っている。今日暑いもんな。飲んじゃうよな。
「え。気にしたことねえ。わかんねえ。イザナは?」
「俺は右に曲がってる。」
「へえ〜。」
「何。次どことやるのかの相談?」
斑目獅音がワクワクしながら近づいてきた。集会が終わり、イザナと乾が向かい合って何か真剣に話す様子はそれはそれは美しく絶対カッコいい会話をしている風に見えた。
「いや。違う。チンコの話。おまえは右に曲がってる?左?」
獅音はイザナの足もとを見る。缶チューハイが5本。なるほど酔ってる。次に潰すチームの話じゃなくてチンコの話だったか。
「俺、左。」
獅音は正直に答えた。
「乾、自分のチンコがどっちに曲がってるか知らないらしい。」
「マジ?それはヤベェな。自分のチンコは把握しとかねえと。」
「え。そんなヤバい?チンコごときで?」
急に心配になった乾はあろうことか、特攻服をめくりボンタンと呼ばれる不良御用達のズボンを下げた。潔くパンツも下げた。
「まっすぐだ。」
「まっすぐだな。」
「え。俺曲がってないの?」
「曲がってねえな。うん。」
そしてイザナがチンコまっすぐ!!と言いながら爆笑した。イザナと獅音と乾が真剣に語り合っている様子は隊員たちから見ると、とても素敵に見えた。きっと次の抗争の話とかしてんだ。なのに。なんのことはないチンコの話らしい。イザナは爆笑しているし、乾は桃尻を丸出しにしているし、獅音は慌てて乾のパンツを元通りにしてやっているし、カッコいいことなんて何ひとつなかった。むしろカッコ悪かった。このありさまに絶望した隊員ふたりが翌日黒龍を辞めた。これをチンコまっすぐ事件と言う。
「ていうことが昔あって。ココのチンコはどっちに曲がってる?」
「今!?今言う!?」
紆余曲折を経て九井と乾はマブになった。九井は実家に戻るのも気がすすまなかったから乾の一人暮らしする部屋に身を寄せている。きちんと進学すべく勉強もしているし、投資だってグレーなものはもうやっていない。マブになる前の乾は九井に少し遠慮していた部分があったように思う。もちろん幼馴染だから仲は良かったが、赤音のことがあるから他の友人とするようなあの芸能人かわいいよなとかそういった会話は避けていたように思う。好きなタイプはどんなのとかそういった当たり前の会話ができなかった。だが、マブになってからの乾はまったく遠慮というものを知らない。え?何?俺の好きなタイプ?ココだけどなんか文句あるか?と漢らしくせまってきて、何?この俺を抱かねえだと?信じられないココ正気か?とポジティブに襲いかかってきた。九井としては、これまで赤音さんに重ねちゃってゴメンね!みたいな罪悪感があったのに。そんなそんな俺なんかがイヌピーを抱く資格なんてそんな…とか思っていたのに。あれよあれよとポジティブシンキングオラオラ乾の猛攻により、九井は据え膳イヌピーをおいしくいただいてしまったのであった。据え膳イヌピー最高だった。なんのわだかまりもなくイヌピーとじゃれるのも。しゃべるのも。いろんな人を失って悲しかったけれど、ふたりの関係という点では楽しくて仕方がなかった。
そして、今日もベッドに入り、据え膳イヌピーとイチャイチャイチャイチャとしていたら、いきなり乾がココのチンコってどっちに曲がってる?とか言い出したのである。しかも、昔黒川と斑目の前でズボンを下ろして色々丸出しにしたという特大の爆弾つきで。そんなありがたくも神々しいもの気軽に丸出しにしないでほしい。
「そんなもの直接見たらいいか!ヨシ!」
ヨシ!じゃないんだよイヌピー!乾が大胆にふとんをめくり九井のパンツをおろし始めるからもうなんだか恥ずかしい。これからパンツを脱ぐつもりだったとはいえ改めてマジマジと見られるとほんと恥ずかしい。
「ココ…わかんねえ。」
「ん?」
「ココのチンコ今ちょっと元気にそそり立ちすぎてるから、どっちに曲がってるかなんてわかんねえ。」
「そう……。」
その後の九井の人生で、九井のがどちら向きなのかを知る人間は乾と医者だけであった。まったく浮気をしない高潔な九井なのである。
2
九井は時々柴大寿が一人暮らしするマンションへ行く。勉強していると聡明な柴大寿に色々と意見を聞きたいと思う時があるからだ。身近で自分よりも知識があり、賢いと思うのは彼だけだった。今日もいろいろと話ができてくだけた雑談をしていたところ、弟の八戒がやって来た。お手伝いさんにハッシュドビーフを作ったからおすそ分けに行ってこいと言われたらしい。
「来てたんだ。そういやイヌピーと同居してんだって?同居し始めたって聞いて、この前本人にどんな感じ?って聞いてもなんかはぐらかすんだよなぁ。照れるし恥ずかしいからとかなんとか言って。やっぱ仲直りしたてだと恥ずかしいとか?」
と八戒が言うので、九井に乾関係のことを言うんじゃねえ話長いんだからと大寿は苦々しく思った。
「へえ。イヌピーってはぐらかすとかあるんだ?珍しいな。」
「あるよ。けっこうみんなでファミレスとか行ってダラダラしゃべったりするけどさ。他のヤツらが女と何したとかそういう話になると途端に沈黙するよ。」
「イヌピー沈黙。」
「なんか、D&Dの前掃除してたら野良犬のウンコがめちゃくちゃ長かったとか。ドラケンと店が終わった後よく銭湯に行ってたけど、ドラケンのドラケンはマジでドラゴンだったから尊敬するとか。そういう下ネタは大好きでよく言うのにさぁ。キスしただのナニしただのそういう話になると急に無になる。まぁ俺も女に耐性ないから人のこと言えないんだけどさ。」
「ふーん?ああ見えてそういうのに耐性ないことないと思うけどイヌピー。」
「そうだよな?だって兄貴が総長になる前の黒龍なんて女関係でもヤバいヤツ多かったんだからエロ系の話題に耐性ないわけないだろ?そんで、この前マコトが。もしかしてイヌピー君仲間スか!!あの人に片思い中なんですか!?イヌピー君顔面偏差値東京大学なのに俺らの仲間なんスか!?って言ったら、怒るかなってまわりはヒヤヒヤしたんだけど、真っ赤になって大事な好きな人とのそういう話は自分の中だけにとどめておきたいから聞かないでくれとか言い出して。」
「イヌピー……!!」
八戒の話を聞いて勝ち誇った表情の九井を見て、大寿ははやく帰らねえかなコイツと思う。せっかく頭が良いのに恋愛となると途端にポンコツだな。と。
「そのイヌピー見たマコトが、俺世の中すべての顔のいい男が嫌いだけどイヌピー君ならいけます。あの人と別れたら俺とかどうっスか?って言ってた。」
好きな人とのあれこれを思い出したのか、真っ赤になって恥じらうイヌピー君は自分のベッドの下の秘蔵AVコレクション10本分の価値がある。可憐さおよび滲み出る妙な人妻感があった。あらたなる性癖の扉を開きそうだった。自分は女好きで男はいけないのにアレだったらいけるかもしれねぇ。と後に寺生まれの鈴木マコト氏は語った。
「よし。鈴木マコト拷問しよう。」
「まぁマコトはともかく。イヌピー彼女できて良かったなあ〜!」
「うん?」
「ん?」
「何?」
「八戒。おまえはそのまま清らかでいてくれ。」
「大寿。おたくの弟すげぇニブイけど大丈夫か?」
「え。何。どういうこと?」
「九井。やめろ。真実を話すな八戒が穢れる。」
「イヌピーには彼女はいません。彼氏がいます。俺です。この俺。将来的に旦那に昇格すべく日夜勉強してますどうぞよろしく。」
「え…?兄貴本当?」
「八戒。そんなつまらないこと忘れろ。知ってたとして何の得もないからな。」
「…もしかして俺以外みんな知ってる!?マコトもわかってあんなこと言ってたわけ!?」
「…おそらくみんな知っている。」
「嘘だろ!!なんだそれ悔しい!!」
その後、九井がイヌピーに会いたくなってきた♡と帰り、大寿と八戒がお手伝いさん特製のハッシュドビーフを食していると柚葉がお手伝いさんにデザートのプリンも持ってけって言われたんだけどと大寿のマンションにやって来た。なんだかんだ柴家兄弟は距離を保ってうまくやっている。
八戒が柚葉に九井と乾がつき合ってるって知ってたかと聞くと、そんなもの知っているしそもそも黒龍の時から相当あやしかったし見てるとイライラしたと答えた。八戒は自分と同じ鈍感仲間を見つけたくて松野千冬にも電話をかけて同じ質問をしたが、今さら何言ってんだ?と呆れられた。どうやら自分だけが気づいていなかったらしい。ショックだ。でも八戒はちょっと良いなと思った。昔は人形みたいに無表情でしゃべったとしても感じが悪く、そんな乾のことが好きではなかった。仲間になった後の乾は良いと思う。驚いたり恥ずかしがったり泣いたりだいぶ人間らしい。頻繁にD&Dの店の前の野良犬のウンコの写真を送ってくるのはやめてほしいけど、まぁおもしろいしな。彼氏も彼氏で一癖も二癖もある男だが、龍宮寺が亡くなってから店をひとりで必死に頑張っているのはみんな知っているから幸せになってほしいと思った。
3
その人はヘアスタイルがアシメだから、3週間に1回の頻度で来店する。髪型の維持が難しいというのもあるし、そもそも服装や持ち物を見るとかなりお洒落な人なんだと思う。私は新人だからまだカットには入らせてもらえなくてシャンプーやブローをすることが多いんだけど、その人が来るとドキドキするし結構重労働なシャンプーも心なしか楽しかった。彼は顔はきれい系でちょっとキツめなんだけど、しゃべり方が上品で若い男性なのに落ち着いていた。そういうところが素敵って思う。お客さんはだいたい雑誌を読んだりケータイをいじったりするんだけど、その人は難しそうな本を読んでるのもポイント高い。
今日もその人は私が仕上げのブローをしている間も本を読んでいた。ふいに鏡の前に置いていた彼のケータイが震えた。いつもだったらチラッと確認して放っておくのに、ちょっとすみませんと私にことわって電話に出た。
「どしたのイヌピー。」
鏡にうつる彼の顔は見たことないくらいの笑顔だった。
「何。また店の前の野良犬のウンコの話!?それは帰ったら聞くから。え?嘘。迎えに来てくれんの?うん。いつもの美容院。うん。わかった。待ってる。はいはい。後でな。」
その甘い声と内容から電話の相手は確実に彼女で、少し私は落ち込む。そりゃそうだ。素敵な男にはすべからくパートナーがいるものだ。しかも帰ったら聞くからって言ってたから一緒に住んでるのかな。いいなぁ。
ありがとうございました〜とお代をいただいてドアを開け彼をお見送りする。店の前に大きなバイクがあって、かたわらに金髪のスラっとした男の人が立っていた。
「イヌピー!!」
彼はその人のところに駆け寄っていく。
「仕事は?」
「これから千葉に部品取りに行かないといけなくて。店に戻ってたら閉店時間だからもう閉めてきた。部品取り行ってメシでも食って帰ろうぜ。ばっちりセットしたところメットかぶんのわりぃけど。」
「ぜんぜん。バイクで遠出久しぶりだな。」
なんだ。友達か。友達とルームシェアしてるのかな。私は希望を見出す。だって私、彼、九井さんのこと結構ねらっているから。
「あれ。ココ、ピアスは?」
「ああ。美容院だからはずしてたんだ。」
「かして。」
「ん。」
そう言って金髪の人は慣れたように九井さんにピアスをつけた。
「イヌピーサンキュ〜」
次の瞬間、九井さんは金髪の人の腰を抱いて頬にキスをしたのだった。
「外ではやめろって言ってるだろ。」
「イヌピー真っ赤になってかわいい。」
「やめろって〜!!も〜早く乗れ!!」
「はいはい。わかりました。」
そしてふたりはとても仲良さそうに去って行った。彼女じゃなかったけど、すっごくお似合いだった。私まったく脈なしじゃん。世の中まだまだ男なんて無限にいる。次いこう次!!
イヌピーのバイクのうしろに乗るのは好きだ。正直、夏は暑いし冬は寒いし雨が降ればそれはもう……。でも、好きな人が好きなものに関しては、つい興味をひかれるし理解したいだろ?だから、バイクは自分では乗らないけど、イヌピーに限り乗せてもらうのは好きだ。
ところで、さっきの美容師の子、察してくれただろうか?今はイヌピーとの関係を再構築するのに最も大事な時期で、悪いけど女の子が秋波を送ってきたりしてイヌピーに変な誤解をされたくない。今はイヌピーがいちばん大事ってことをわかってもらいたい時期だから。わざと彼女の目の前でイヌピーにキスまでかましといたんだから、さすがに脈なしってわかるよな?あの子めちゃくちゃ俺のこと狙ってるの感じるんだけど、どうか俺のことは諦めてくれ。ベテラン美容師のカットの腕が良いから美容院は変えたくないし。苦肉の策。これだから、モテる男ってのはつらいな……。
4
今日も店の前に立派なウンコがある。半年前くらいから週に2回程度店の前に立派なウンコがある。最初、人糞か!?と戦々恐々としたが、近所の肉屋の主人によると野良犬らしい。俺のガキの頃ならいざ知らず、こんな都会で現代に野良犬?と思うが肉屋の主人は情報通だからそうなんだろう。なんにせよ人糞でなくて良かった。たまにウンコが立派過ぎて感動して、八戒に写真を送ったりココに報告したりしてしまう。それはさておき、ウンコをそのままは客商売だからマズイんで掃除してると尻になまあたたかい感触がする。なんだよ!?とふりむくと、小さくてフワフワした犬がいた。そいつはヘッヘッと言いながらブリっとウンコをした。この…立派なウンコ……。
「犯人おまえか〜!!」
俺がその犬をわしゃわしゃ撫でるとクンクン言う。かわいい……。何だこれこんなかわいいもの存在していいのか?でも、これ野良犬か?こんな高級な見た目の野良犬なんているんだろうか?もしかしたら飼い主が探しているかもしれない。とりあえず犬の写真を撮ってコンビニで印刷してきて店に「迷い犬預かってます!」と貼っておいた。
「おまえ、昼間は店にいて、夜は俺んち帰ろうな?」
そう言って抱っこしたら犬はわかってんだかわかってないんだかワン!と元気よく吠えた。
「あれ。おまえキンタマついてるから男か。うちにはもう1人おにーさんいるんだ。ココって言う。ちょっと面倒なとこもあるけどいいヤツだから。飼い主見つかるまで男3人で仲良くやろうぜ。」
あとで松野に犬飼うのに何が必要なのか聞かねえとなと考えながら、俺は今日も仕事をすべく準備に取り掛かかった。
この犬。乾にはきゅるるんと懐くのだが、二重人格を疑うレベルで九井にはライバル心も歯もむき出し反抗的犬であったため、たびたび九井とガチのケンカを繰り広げることになるのだがそれはまたの機会に。
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「乾は右に曲がってる?左?」
「何が?」
「チンコに決まってるだろ。」
黒龍の集会の後、イザナが話があるというから乾はわりと真剣に聞く気持ちだったのになんのことはないチンコの話だった。イザナの足もとには缶チューハイが5本転がっている。なるほど酔っている。今日暑いもんな。飲んじゃうよな。
「え。気にしたことねえ。わかんねえ。イザナは?」
「俺は右に曲がってる。」
「へえ〜。」
「何。次どことやるのかの相談?」
斑目獅音がワクワクしながら近づいてきた。集会が終わり、イザナと乾が向かい合って何か真剣に話す様子はそれはそれは美しく絶対カッコいい会話をしている風に見えた。
「いや。違う。チンコの話。おまえは右に曲がってる?左?」
獅音はイザナの足もとを見る。缶チューハイが5本。なるほど酔ってる。次に潰すチームの話じゃなくてチンコの話だったか。
「俺、左。」
獅音は正直に答えた。
「乾、自分のチンコがどっちに曲がってるか知らないらしい。」
「マジ?それはヤベェな。自分のチンコは把握しとかねえと。」
「え。そんなヤバい?チンコごときで?」
急に心配になった乾はあろうことか、特攻服をめくりボンタンと呼ばれる不良御用達のズボンを下げた。潔くパンツも下げた。
「まっすぐだ。」
「まっすぐだな。」
「え。俺曲がってないの?」
「曲がってねえな。うん。」
そしてイザナがチンコまっすぐ!!と言いながら爆笑した。イザナと獅音と乾が真剣に語り合っている様子は隊員たちから見ると、とても素敵に見えた。きっと次の抗争の話とかしてんだ。なのに。なんのことはないチンコの話らしい。イザナは爆笑しているし、乾は桃尻を丸出しにしているし、獅音は慌てて乾のパンツを元通りにしてやっているし、カッコいいことなんて何ひとつなかった。むしろカッコ悪かった。このありさまに絶望した隊員ふたりが翌日黒龍を辞めた。これをチンコまっすぐ事件と言う。
「ていうことが昔あって。ココのチンコはどっちに曲がってる?」
「今!?今言う!?」
紆余曲折を経て九井と乾はマブになった。九井は実家に戻るのも気がすすまなかったから乾の一人暮らしする部屋に身を寄せている。きちんと進学すべく勉強もしているし、投資だってグレーなものはもうやっていない。マブになる前の乾は九井に少し遠慮していた部分があったように思う。もちろん幼馴染だから仲は良かったが、赤音のことがあるから他の友人とするようなあの芸能人かわいいよなとかそういった会話は避けていたように思う。好きなタイプはどんなのとかそういった当たり前の会話ができなかった。だが、マブになってからの乾はまったく遠慮というものを知らない。え?何?俺の好きなタイプ?ココだけどなんか文句あるか?と漢らしくせまってきて、何?この俺を抱かねえだと?信じられないココ正気か?とポジティブに襲いかかってきた。九井としては、これまで赤音さんに重ねちゃってゴメンね!みたいな罪悪感があったのに。そんなそんな俺なんかがイヌピーを抱く資格なんてそんな…とか思っていたのに。あれよあれよとポジティブシンキングオラオラ乾の猛攻により、九井は据え膳イヌピーをおいしくいただいてしまったのであった。据え膳イヌピー最高だった。なんのわだかまりもなくイヌピーとじゃれるのも。しゃべるのも。いろんな人を失って悲しかったけれど、ふたりの関係という点では楽しくて仕方がなかった。
そして、今日もベッドに入り、据え膳イヌピーとイチャイチャイチャイチャとしていたら、いきなり乾がココのチンコってどっちに曲がってる?とか言い出したのである。しかも、昔黒川と斑目の前でズボンを下ろして色々丸出しにしたという特大の爆弾つきで。そんなありがたくも神々しいもの気軽に丸出しにしないでほしい。
「そんなもの直接見たらいいか!ヨシ!」
ヨシ!じゃないんだよイヌピー!乾が大胆にふとんをめくり九井のパンツをおろし始めるからもうなんだか恥ずかしい。これからパンツを脱ぐつもりだったとはいえ改めてマジマジと見られるとほんと恥ずかしい。
「ココ…わかんねえ。」
「ん?」
「ココのチンコ今ちょっと元気にそそり立ちすぎてるから、どっちに曲がってるかなんてわかんねえ。」
「そう……。」
その後の九井の人生で、九井のがどちら向きなのかを知る人間は乾と医者だけであった。まったく浮気をしない高潔な九井なのである。
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九井は時々柴大寿が一人暮らしするマンションへ行く。勉強していると聡明な柴大寿に色々と意見を聞きたいと思う時があるからだ。身近で自分よりも知識があり、賢いと思うのは彼だけだった。今日もいろいろと話ができてくだけた雑談をしていたところ、弟の八戒がやって来た。お手伝いさんにハッシュドビーフを作ったからおすそ分けに行ってこいと言われたらしい。
「来てたんだ。そういやイヌピーと同居してんだって?同居し始めたって聞いて、この前本人にどんな感じ?って聞いてもなんかはぐらかすんだよなぁ。照れるし恥ずかしいからとかなんとか言って。やっぱ仲直りしたてだと恥ずかしいとか?」
と八戒が言うので、九井に乾関係のことを言うんじゃねえ話長いんだからと大寿は苦々しく思った。
「へえ。イヌピーってはぐらかすとかあるんだ?珍しいな。」
「あるよ。けっこうみんなでファミレスとか行ってダラダラしゃべったりするけどさ。他のヤツらが女と何したとかそういう話になると途端に沈黙するよ。」
「イヌピー沈黙。」
「なんか、D&Dの前掃除してたら野良犬のウンコがめちゃくちゃ長かったとか。ドラケンと店が終わった後よく銭湯に行ってたけど、ドラケンのドラケンはマジでドラゴンだったから尊敬するとか。そういう下ネタは大好きでよく言うのにさぁ。キスしただのナニしただのそういう話になると急に無になる。まぁ俺も女に耐性ないから人のこと言えないんだけどさ。」
「ふーん?ああ見えてそういうのに耐性ないことないと思うけどイヌピー。」
「そうだよな?だって兄貴が総長になる前の黒龍なんて女関係でもヤバいヤツ多かったんだからエロ系の話題に耐性ないわけないだろ?そんで、この前マコトが。もしかしてイヌピー君仲間スか!!あの人に片思い中なんですか!?イヌピー君顔面偏差値東京大学なのに俺らの仲間なんスか!?って言ったら、怒るかなってまわりはヒヤヒヤしたんだけど、真っ赤になって大事な好きな人とのそういう話は自分の中だけにとどめておきたいから聞かないでくれとか言い出して。」
「イヌピー……!!」
八戒の話を聞いて勝ち誇った表情の九井を見て、大寿ははやく帰らねえかなコイツと思う。せっかく頭が良いのに恋愛となると途端にポンコツだな。と。
「そのイヌピー見たマコトが、俺世の中すべての顔のいい男が嫌いだけどイヌピー君ならいけます。あの人と別れたら俺とかどうっスか?って言ってた。」
好きな人とのあれこれを思い出したのか、真っ赤になって恥じらうイヌピー君は自分のベッドの下の秘蔵AVコレクション10本分の価値がある。可憐さおよび滲み出る妙な人妻感があった。あらたなる性癖の扉を開きそうだった。自分は女好きで男はいけないのにアレだったらいけるかもしれねぇ。と後に寺生まれの鈴木マコト氏は語った。
「よし。鈴木マコト拷問しよう。」
「まぁマコトはともかく。イヌピー彼女できて良かったなあ〜!」
「うん?」
「ん?」
「何?」
「八戒。おまえはそのまま清らかでいてくれ。」
「大寿。おたくの弟すげぇニブイけど大丈夫か?」
「え。何。どういうこと?」
「九井。やめろ。真実を話すな八戒が穢れる。」
「イヌピーには彼女はいません。彼氏がいます。俺です。この俺。将来的に旦那に昇格すべく日夜勉強してますどうぞよろしく。」
「え…?兄貴本当?」
「八戒。そんなつまらないこと忘れろ。知ってたとして何の得もないからな。」
「…もしかして俺以外みんな知ってる!?マコトもわかってあんなこと言ってたわけ!?」
「…おそらくみんな知っている。」
「嘘だろ!!なんだそれ悔しい!!」
その後、九井がイヌピーに会いたくなってきた♡と帰り、大寿と八戒がお手伝いさん特製のハッシュドビーフを食していると柚葉がお手伝いさんにデザートのプリンも持ってけって言われたんだけどと大寿のマンションにやって来た。なんだかんだ柴家兄弟は距離を保ってうまくやっている。
八戒が柚葉に九井と乾がつき合ってるって知ってたかと聞くと、そんなもの知っているしそもそも黒龍の時から相当あやしかったし見てるとイライラしたと答えた。八戒は自分と同じ鈍感仲間を見つけたくて松野千冬にも電話をかけて同じ質問をしたが、今さら何言ってんだ?と呆れられた。どうやら自分だけが気づいていなかったらしい。ショックだ。でも八戒はちょっと良いなと思った。昔は人形みたいに無表情でしゃべったとしても感じが悪く、そんな乾のことが好きではなかった。仲間になった後の乾は良いと思う。驚いたり恥ずかしがったり泣いたりだいぶ人間らしい。頻繁にD&Dの店の前の野良犬のウンコの写真を送ってくるのはやめてほしいけど、まぁおもしろいしな。彼氏も彼氏で一癖も二癖もある男だが、龍宮寺が亡くなってから店をひとりで必死に頑張っているのはみんな知っているから幸せになってほしいと思った。
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その人はヘアスタイルがアシメだから、3週間に1回の頻度で来店する。髪型の維持が難しいというのもあるし、そもそも服装や持ち物を見るとかなりお洒落な人なんだと思う。私は新人だからまだカットには入らせてもらえなくてシャンプーやブローをすることが多いんだけど、その人が来るとドキドキするし結構重労働なシャンプーも心なしか楽しかった。彼は顔はきれい系でちょっとキツめなんだけど、しゃべり方が上品で若い男性なのに落ち着いていた。そういうところが素敵って思う。お客さんはだいたい雑誌を読んだりケータイをいじったりするんだけど、その人は難しそうな本を読んでるのもポイント高い。
今日もその人は私が仕上げのブローをしている間も本を読んでいた。ふいに鏡の前に置いていた彼のケータイが震えた。いつもだったらチラッと確認して放っておくのに、ちょっとすみませんと私にことわって電話に出た。
「どしたのイヌピー。」
鏡にうつる彼の顔は見たことないくらいの笑顔だった。
「何。また店の前の野良犬のウンコの話!?それは帰ったら聞くから。え?嘘。迎えに来てくれんの?うん。いつもの美容院。うん。わかった。待ってる。はいはい。後でな。」
その甘い声と内容から電話の相手は確実に彼女で、少し私は落ち込む。そりゃそうだ。素敵な男にはすべからくパートナーがいるものだ。しかも帰ったら聞くからって言ってたから一緒に住んでるのかな。いいなぁ。
ありがとうございました〜とお代をいただいてドアを開け彼をお見送りする。店の前に大きなバイクがあって、かたわらに金髪のスラっとした男の人が立っていた。
「イヌピー!!」
彼はその人のところに駆け寄っていく。
「仕事は?」
「これから千葉に部品取りに行かないといけなくて。店に戻ってたら閉店時間だからもう閉めてきた。部品取り行ってメシでも食って帰ろうぜ。ばっちりセットしたところメットかぶんのわりぃけど。」
「ぜんぜん。バイクで遠出久しぶりだな。」
なんだ。友達か。友達とルームシェアしてるのかな。私は希望を見出す。だって私、彼、九井さんのこと結構ねらっているから。
「あれ。ココ、ピアスは?」
「ああ。美容院だからはずしてたんだ。」
「かして。」
「ん。」
そう言って金髪の人は慣れたように九井さんにピアスをつけた。
「イヌピーサンキュ〜」
次の瞬間、九井さんは金髪の人の腰を抱いて頬にキスをしたのだった。
「外ではやめろって言ってるだろ。」
「イヌピー真っ赤になってかわいい。」
「やめろって〜!!も〜早く乗れ!!」
「はいはい。わかりました。」
そしてふたりはとても仲良さそうに去って行った。彼女じゃなかったけど、すっごくお似合いだった。私まったく脈なしじゃん。世の中まだまだ男なんて無限にいる。次いこう次!!
イヌピーのバイクのうしろに乗るのは好きだ。正直、夏は暑いし冬は寒いし雨が降ればそれはもう……。でも、好きな人が好きなものに関しては、つい興味をひかれるし理解したいだろ?だから、バイクは自分では乗らないけど、イヌピーに限り乗せてもらうのは好きだ。
ところで、さっきの美容師の子、察してくれただろうか?今はイヌピーとの関係を再構築するのに最も大事な時期で、悪いけど女の子が秋波を送ってきたりしてイヌピーに変な誤解をされたくない。今はイヌピーがいちばん大事ってことをわかってもらいたい時期だから。わざと彼女の目の前でイヌピーにキスまでかましといたんだから、さすがに脈なしってわかるよな?あの子めちゃくちゃ俺のこと狙ってるの感じるんだけど、どうか俺のことは諦めてくれ。ベテラン美容師のカットの腕が良いから美容院は変えたくないし。苦肉の策。これだから、モテる男ってのはつらいな……。
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今日も店の前に立派なウンコがある。半年前くらいから週に2回程度店の前に立派なウンコがある。最初、人糞か!?と戦々恐々としたが、近所の肉屋の主人によると野良犬らしい。俺のガキの頃ならいざ知らず、こんな都会で現代に野良犬?と思うが肉屋の主人は情報通だからそうなんだろう。なんにせよ人糞でなくて良かった。たまにウンコが立派過ぎて感動して、八戒に写真を送ったりココに報告したりしてしまう。それはさておき、ウンコをそのままは客商売だからマズイんで掃除してると尻になまあたたかい感触がする。なんだよ!?とふりむくと、小さくてフワフワした犬がいた。そいつはヘッヘッと言いながらブリっとウンコをした。この…立派なウンコ……。
「犯人おまえか〜!!」
俺がその犬をわしゃわしゃ撫でるとクンクン言う。かわいい……。何だこれこんなかわいいもの存在していいのか?でも、これ野良犬か?こんな高級な見た目の野良犬なんているんだろうか?もしかしたら飼い主が探しているかもしれない。とりあえず犬の写真を撮ってコンビニで印刷してきて店に「迷い犬預かってます!」と貼っておいた。
「おまえ、昼間は店にいて、夜は俺んち帰ろうな?」
そう言って抱っこしたら犬はわかってんだかわかってないんだかワン!と元気よく吠えた。
「あれ。おまえキンタマついてるから男か。うちにはもう1人おにーさんいるんだ。ココって言う。ちょっと面倒なとこもあるけどいいヤツだから。飼い主見つかるまで男3人で仲良くやろうぜ。」
あとで松野に犬飼うのに何が必要なのか聞かねえとなと考えながら、俺は今日も仕事をすべく準備に取り掛かかった。
この犬。乾にはきゅるるんと懐くのだが、二重人格を疑うレベルで九井にはライバル心も歯もむき出し反抗的犬であったため、たびたび九井とガチのケンカを繰り広げることになるのだがそれはまたの機会に。
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