ep24. 君のその話は「面白くない」
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休憩が終わるまで少し時間を残して、月島は名前と一緒に廊下を歩いていた。
用事を終えたと連絡をしてきた母親と靴箱で待ち合わせになった名前と中庭まで一緒に行くことになったのだ。
そこへ、不意に聞こえてきたのが、女子生徒達の声だった。
「あ、黒尾と夜久くんだ。」
「本当だ。あ、そういえば、今日から合宿って言ってたよ。」
それは、換気のために開いていた窓から聞こえてきた。
聞こえてきた名前に反射して、声のした方に視線を向ければ、すぐそばの窓の向こうに音駒高校の制服を着た女子生徒3人の肩から上が見えた。どうやら、彼女達は窓のすぐ近くでお喋りをしているようだ。
校舎側には背を向けて、中庭の向こうを見ている。その先には、今、彼女達が話題に上げている黒尾と夜久の姿があるのだろう。
でもその姿を目で見て確認が出来なかったのは、月島の腕を強引に引っ張った名前につられて、窓の下に身を隠す格好になってしまったせいだ。
驚いたのは、名前が自分の腕に触れたほんの一瞬だけで、その後は、彼女に合わせて屈むと、壁に背を向けて座るしかなくなった。
名前が思い詰めたような顔をしていたせいではない。
なんとなく自分も、黒尾からは隠れた方が良いような気がしたからだ。理由は分からない。けれど、今はそうするべきだと、本当は月島も思っていた。
「また何か言い争ってる。」
「あの2人、本当仲良いよね。」
窓の向こうで、女子生徒達がクスクスと楽しそうに笑う。
月島の脳裏にも、見覚えのある黒尾と夜久の言い争う姿が浮かんだ。
基本的に、黒尾は、学校問わずに誰とでも仲良くしている。反対に、夜久はクールな印象で、どこか近寄りがたい雰囲気もある人だ。
けれど、黒尾の隣にいるときの夜久は、大きな声で文句を言っていたり、腹を抱えて笑っていることもある。アレがきっと、夜久の素で、気を許した人にだけ見せる姿なのだろう。
チラリと名前の方を見ると目が合った。そして、唇の前に人差し指を立てて「シー!」と喋るなとアピールしてくる。
彼女達のすぐ向こうにいるらしい黒尾と、今はもう再会したくないということなのだろう。
面倒くさそうに両肩を竦めれば、名前が小さく笑った。
「1年のあのめっちゃ可愛い子。本当に黒尾と付き合ってんのかな?」
「え、なにそれ。ほんと?」
ドキリとする話題だった。
思わず名前を見ると、目を見開いて固まっていた。
目を見開いたのは、きっと驚いたせいだ。
そして、廊下の小さなシミをじっと睨むように見つめて、唇を噛んでいるのは、涙を流さない為なのだと思う。
痛々しいその姿を見せられて、まるで、彼女の胸の痛みや苦しみが自分の胸にも流れ込んでくるみたいだった。
(なにが、もう吹っ切れただよ。全然、チャンチャンじゃないし。)
あんなにも清々しく笑っていたのに嘘だったのか。
いや、そう思い込んでいただけで、実際は、まだ引きずっていたということの方が正しい気がする。
考えの甘い名前に呆れて、腹が立った。
漏れそうになったため息を飲み込んで、月島は名前に手を伸ばした。そして、大きな手で彼女の両耳を塞ぐ。
驚いた名前が、驚いた顔をして月島を見た。
泣くのを我慢して、瞬きも堪えていたせいで、目が真っ赤だ。
まるで、寂しいと死んでしまうなんて、バカみたいな迷信があるウサギのようだ。
「マジなんじゃない?一緒に帰ってんの見たって聞いたよ。」
ちょうどいいタイミングで耳を塞げたようだ。
名前に聞こえていなかったらいい。
「めちゃくちゃ言い寄ってたもんね。わざわざ3年の教室まで会いに来てたし。」
「そうそう。あんな可愛くておっぱい大きい子に言い寄られて落ちない男います?」
「いませーん。」
女子生徒達が、面白そうに笑う。
でも、名前は、グッと目を瞑って、小さく肩を震わせていた。
耳を塞いでいる月島の手にも、名前の震えが伝わってくるというのに、女子生徒たちは、手の早そうな黒尾と甘え上手な彼女はどこまでいったのかなんて下世話な話題で盛り上がり始めた。
他人の恋の話をして、なにが面白いのか。月島には全く理解出来なかった。
そして、ハッとする。
そうだ。さっきの違和感の正体はコレだ。
月島は、耳を塞いでもらいながら微かに震え涙を堪える名前を見下ろす。
そして、 ポツリと本音を漏らす。
「…面白くない。」
名前には聞こえただろうか。
面白くないのだ。初恋の話なんて興味はないし、知りたくもない。
名前と黒尾がどれくらい仲が良かったのかなんて話を聞かされるのは、面白くない。
だからもう聞きたくないーーーー月島は、耳を塞ぐ手に力を込めた。
いつの間にか、女子生徒達はどこかへ行っていた。でも、意味のない休日のチャイムが鳴り響くまでずっと、名前の耳を塞ぎ続けた。
用事を終えたと連絡をしてきた母親と靴箱で待ち合わせになった名前と中庭まで一緒に行くことになったのだ。
そこへ、不意に聞こえてきたのが、女子生徒達の声だった。
「あ、黒尾と夜久くんだ。」
「本当だ。あ、そういえば、今日から合宿って言ってたよ。」
それは、換気のために開いていた窓から聞こえてきた。
聞こえてきた名前に反射して、声のした方に視線を向ければ、すぐそばの窓の向こうに音駒高校の制服を着た女子生徒3人の肩から上が見えた。どうやら、彼女達は窓のすぐ近くでお喋りをしているようだ。
校舎側には背を向けて、中庭の向こうを見ている。その先には、今、彼女達が話題に上げている黒尾と夜久の姿があるのだろう。
でもその姿を目で見て確認が出来なかったのは、月島の腕を強引に引っ張った名前につられて、窓の下に身を隠す格好になってしまったせいだ。
驚いたのは、名前が自分の腕に触れたほんの一瞬だけで、その後は、彼女に合わせて屈むと、壁に背を向けて座るしかなくなった。
名前が思い詰めたような顔をしていたせいではない。
なんとなく自分も、黒尾からは隠れた方が良いような気がしたからだ。理由は分からない。けれど、今はそうするべきだと、本当は月島も思っていた。
「また何か言い争ってる。」
「あの2人、本当仲良いよね。」
窓の向こうで、女子生徒達がクスクスと楽しそうに笑う。
月島の脳裏にも、見覚えのある黒尾と夜久の言い争う姿が浮かんだ。
基本的に、黒尾は、学校問わずに誰とでも仲良くしている。反対に、夜久はクールな印象で、どこか近寄りがたい雰囲気もある人だ。
けれど、黒尾の隣にいるときの夜久は、大きな声で文句を言っていたり、腹を抱えて笑っていることもある。アレがきっと、夜久の素で、気を許した人にだけ見せる姿なのだろう。
チラリと名前の方を見ると目が合った。そして、唇の前に人差し指を立てて「シー!」と喋るなとアピールしてくる。
彼女達のすぐ向こうにいるらしい黒尾と、今はもう再会したくないということなのだろう。
面倒くさそうに両肩を竦めれば、名前が小さく笑った。
「1年のあのめっちゃ可愛い子。本当に黒尾と付き合ってんのかな?」
「え、なにそれ。ほんと?」
ドキリとする話題だった。
思わず名前を見ると、目を見開いて固まっていた。
目を見開いたのは、きっと驚いたせいだ。
そして、廊下の小さなシミをじっと睨むように見つめて、唇を噛んでいるのは、涙を流さない為なのだと思う。
痛々しいその姿を見せられて、まるで、彼女の胸の痛みや苦しみが自分の胸にも流れ込んでくるみたいだった。
(なにが、もう吹っ切れただよ。全然、チャンチャンじゃないし。)
あんなにも清々しく笑っていたのに嘘だったのか。
いや、そう思い込んでいただけで、実際は、まだ引きずっていたということの方が正しい気がする。
考えの甘い名前に呆れて、腹が立った。
漏れそうになったため息を飲み込んで、月島は名前に手を伸ばした。そして、大きな手で彼女の両耳を塞ぐ。
驚いた名前が、驚いた顔をして月島を見た。
泣くのを我慢して、瞬きも堪えていたせいで、目が真っ赤だ。
まるで、寂しいと死んでしまうなんて、バカみたいな迷信があるウサギのようだ。
「マジなんじゃない?一緒に帰ってんの見たって聞いたよ。」
ちょうどいいタイミングで耳を塞げたようだ。
名前に聞こえていなかったらいい。
「めちゃくちゃ言い寄ってたもんね。わざわざ3年の教室まで会いに来てたし。」
「そうそう。あんな可愛くておっぱい大きい子に言い寄られて落ちない男います?」
「いませーん。」
女子生徒達が、面白そうに笑う。
でも、名前は、グッと目を瞑って、小さく肩を震わせていた。
耳を塞いでいる月島の手にも、名前の震えが伝わってくるというのに、女子生徒たちは、手の早そうな黒尾と甘え上手な彼女はどこまでいったのかなんて下世話な話題で盛り上がり始めた。
他人の恋の話をして、なにが面白いのか。月島には全く理解出来なかった。
そして、ハッとする。
そうだ。さっきの違和感の正体はコレだ。
月島は、耳を塞いでもらいながら微かに震え涙を堪える名前を見下ろす。
そして、 ポツリと本音を漏らす。
「…面白くない。」
名前には聞こえただろうか。
面白くないのだ。初恋の話なんて興味はないし、知りたくもない。
名前と黒尾がどれくらい仲が良かったのかなんて話を聞かされるのは、面白くない。
だからもう聞きたくないーーーー月島は、耳を塞ぐ手に力を込めた。
いつの間にか、女子生徒達はどこかへ行っていた。でも、意味のない休日のチャイムが鳴り響くまでずっと、名前の耳を塞ぎ続けた。