ep23. 君には教えなかった東京合宿で
Name change
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「ね、可愛いでしょ〜。」
名前が猫の前脚の付け根に両手を入れて抱き上げると、月島に突き出すように見せつけてきた。
ふてぶてしい猫は、相変わらずふてぶてしい顔で月島を見下ろしてくる。
特別、猫派なわけでもない。可愛くないとは思わないけれど、そんなにデレデレするほど可愛いのかは、月島には分からなかった。
すぐに、夏合宿に烏野高校バレー部も参加しているのだと理解した名前と猫を追いかけてしまうほど暇を持て余していた月島は、中庭のベンチに座って、暇つぶしのお喋りをすることになった。
誘ったのは名前で、いつもの公園のベンチが、音駒高校の中庭のベンチになっただけだ。
ここが音駒高校だと思うと不思議で仕方ないけれど、並んで座る彼女の笑顔もお喋りもいつもと何も変わらない。
「名前さんは、どうして音駒高校に来てるんですか。」
しきりに月島に猫を抱かせようとする名前を軽くあしらって、月島は疑問を投げかける。
烏野高校が合宿に参加しているとすぐに気づけるくらいに、名前は音駒高校男子バレー部の年間スケジュールを把握していた。
だから、合宿中の黒尾に会いに来たのかーーーーそんなことを考えたけれど、わざわざ合宿に合わせる必要もない。
会いたい時に会いにくるくらい、名前なら出来そうだ。
だからきっと、名前は名前で、音駒高校に用事があったというのが理由だろう。それは何なのだろうーーーちょっとした疑問くらいだったのだ。
でも、月島が訊ねた途端、名前は表情に陰を作った。
無邪気な笑顔は消えて、一瞬だけ泣きそうになった後、誤魔化すように下手くそな笑みを見せる。
「バタバタって転校しちゃったから、手続きとかが終わってないことがあったの。
今、お母さんが校長先生達と話してる。」
「そうですか。」
月島は転校というのをしたことがないから、手続きなんていうものがどれほど面倒なものなのかは知らない。
けれど、生徒1人の転校のために、わざわざ引っ越して行った学生とその親を呼び出して手続きするほどのことがあるのだろうか。
しかも、校長先生まで出てくるなんて、少し大袈裟な気もした。
でも、それを深掘りするほど、名前との仲が親密なわけでもない。今はそれよりも、気まずそうな空気を出した名前の気持ちを読んで、話を逸らすのが正解だ。
「それで、休日は昼まで寝てるって宣言してた名前さんが
珍しく早起きしてたんですね。」
月島が普段通りの嫌味で返せば、素直な名前はハッとした顔をした後に、口を尖らせて言い訳を始める。
「お昼休憩、まだあるの?」
「そうですね。後20分くらい。」
「じゃあ、私が音駒高校を案内してあげる!」
「大丈夫です、必要ありません。」
キッパリと断った月島の声は、いつもいつも不思議と名前には聞こえないらしい。
言いたいだけ言ってピョンっと椅子から飛び起きた名前は、軽やかに月島を見下ろすと「さ、行こ!」と右手を前に出す。
さっきまで彼女の膝の上でウトウトしていた猫は、いつの間にかベンチにおろされ、本格的に昼寝を始めている。
「名前さんの耳って、僕の声が聞こえないように出来てるんですか。」
ため息を吐いた月島は、楽しげに差し出されている小さな右手に仕方なさそうに自分の大きな手を重ねた。
思いがけず触れた名前の手は、あまりにも華奢で、力を入れたら壊してしまいそうだった。まるで、手の形をした硝子細工だ。
重ねるしか出来なかった月島の手を、名前はいとも容易くギュッと握りしめる。
「まさか!ちゃんと聞こえてるよ。」
名前がわざとらしく目を見開いて、ニッと悪戯っ子みたいに笑いながら、自分よりも大きな月島を引っ張り上げるようにグッと右手を持ち上げた。
そして、立ち上がり隣に並んだ月島を見上げて、大袈裟な舞台役者のように喋り出す。
「わお!とっても良い提案だね!僕も今、そう思っていたところだったんだ!
ーーーでしょ?」
「全然違います。」
キッパリと否定すればするほど、名前はいつも面白そうに笑う。
今日もまた声を上げて笑う彼女の横で、月島は大きな呆れのため息を漏らした。
ーーーそして、こっそりと小さく笑った。
名前が猫の前脚の付け根に両手を入れて抱き上げると、月島に突き出すように見せつけてきた。
ふてぶてしい猫は、相変わらずふてぶてしい顔で月島を見下ろしてくる。
特別、猫派なわけでもない。可愛くないとは思わないけれど、そんなにデレデレするほど可愛いのかは、月島には分からなかった。
すぐに、夏合宿に烏野高校バレー部も参加しているのだと理解した名前と猫を追いかけてしまうほど暇を持て余していた月島は、中庭のベンチに座って、暇つぶしのお喋りをすることになった。
誘ったのは名前で、いつもの公園のベンチが、音駒高校の中庭のベンチになっただけだ。
ここが音駒高校だと思うと不思議で仕方ないけれど、並んで座る彼女の笑顔もお喋りもいつもと何も変わらない。
「名前さんは、どうして音駒高校に来てるんですか。」
しきりに月島に猫を抱かせようとする名前を軽くあしらって、月島は疑問を投げかける。
烏野高校が合宿に参加しているとすぐに気づけるくらいに、名前は音駒高校男子バレー部の年間スケジュールを把握していた。
だから、合宿中の黒尾に会いに来たのかーーーーそんなことを考えたけれど、わざわざ合宿に合わせる必要もない。
会いたい時に会いにくるくらい、名前なら出来そうだ。
だからきっと、名前は名前で、音駒高校に用事があったというのが理由だろう。それは何なのだろうーーーちょっとした疑問くらいだったのだ。
でも、月島が訊ねた途端、名前は表情に陰を作った。
無邪気な笑顔は消えて、一瞬だけ泣きそうになった後、誤魔化すように下手くそな笑みを見せる。
「バタバタって転校しちゃったから、手続きとかが終わってないことがあったの。
今、お母さんが校長先生達と話してる。」
「そうですか。」
月島は転校というのをしたことがないから、手続きなんていうものがどれほど面倒なものなのかは知らない。
けれど、生徒1人の転校のために、わざわざ引っ越して行った学生とその親を呼び出して手続きするほどのことがあるのだろうか。
しかも、校長先生まで出てくるなんて、少し大袈裟な気もした。
でも、それを深掘りするほど、名前との仲が親密なわけでもない。今はそれよりも、気まずそうな空気を出した名前の気持ちを読んで、話を逸らすのが正解だ。
「それで、休日は昼まで寝てるって宣言してた名前さんが
珍しく早起きしてたんですね。」
月島が普段通りの嫌味で返せば、素直な名前はハッとした顔をした後に、口を尖らせて言い訳を始める。
「お昼休憩、まだあるの?」
「そうですね。後20分くらい。」
「じゃあ、私が音駒高校を案内してあげる!」
「大丈夫です、必要ありません。」
キッパリと断った月島の声は、いつもいつも不思議と名前には聞こえないらしい。
言いたいだけ言ってピョンっと椅子から飛び起きた名前は、軽やかに月島を見下ろすと「さ、行こ!」と右手を前に出す。
さっきまで彼女の膝の上でウトウトしていた猫は、いつの間にかベンチにおろされ、本格的に昼寝を始めている。
「名前さんの耳って、僕の声が聞こえないように出来てるんですか。」
ため息を吐いた月島は、楽しげに差し出されている小さな右手に仕方なさそうに自分の大きな手を重ねた。
思いがけず触れた名前の手は、あまりにも華奢で、力を入れたら壊してしまいそうだった。まるで、手の形をした硝子細工だ。
重ねるしか出来なかった月島の手を、名前はいとも容易くギュッと握りしめる。
「まさか!ちゃんと聞こえてるよ。」
名前がわざとらしく目を見開いて、ニッと悪戯っ子みたいに笑いながら、自分よりも大きな月島を引っ張り上げるようにグッと右手を持ち上げた。
そして、立ち上がり隣に並んだ月島を見上げて、大袈裟な舞台役者のように喋り出す。
「わお!とっても良い提案だね!僕も今、そう思っていたところだったんだ!
ーーーでしょ?」
「全然違います。」
キッパリと否定すればするほど、名前はいつも面白そうに笑う。
今日もまた声を上げて笑う彼女の横で、月島は大きな呆れのため息を漏らした。
ーーーそして、こっそりと小さく笑った。