ep23. 君には教えなかった東京合宿で
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音駒高校の食堂には、男子バレー部員たちの笑い声や無駄に大きな話し声で溢れていた。
10名以上の男子高校生達が、他校のバレー部員のいる場所に一挙に集められたのだ。騒がしくなるのは、必然だった。
けれど、日向と影山の無駄に競い合う声がなくなって静かになったと思っていた月島にとっては、とんだ誤算だ。
昼食を終えると、月島はさっさと食堂から出ることにした。
食事のペースが遅い山口は、まだ縁下達と一緒にのんびり食堂で過ごすらしい。
食堂から離れるためだけに廊下を歩いていると、だんだんと騒がしい声が遠ざかっていく。
漸く声が聞こえなくなったあたりで立ち止まった月島は、換気のために開いていた窓に片手をかける。
窓の向こうはちょうど中庭の辺りらしく、体育館の周囲のような殺風景な場所とは違い、花壇やベンチが並んで程よく手入れされている。
ふ、とお喋りをしながら中庭を横切っていく名前の姿が見えた。
音駒高校の制服を着て、隣には、黒尾がいる。
もちろん、烏野高校に転入した名前がいるわけがない。想像が映し出したただの幻影だ。
でも、烏野高校に転入するまでの2年間は、今、月島の脳裏に浮かんだ想像は、名前にとっての日常だった。
移動教室のために中庭を横切ったり、あのベンチに座って、友人と楽しくお喋りをしたりしていたのかもしれない。
月島から無意識なため息が漏れた時、視界の向こうで小さな生き物がのっそりと動いた。
今度は妄想でも幻影でもない。本物だ。
何だろうかーーーと少し目を凝らしてやっと、それが猫だと分かった。
以前、名前が写真を見せてくれた『ふてぶてしいところが可愛い猫』だ。
行ってみるかーーー。
まだ昼休憩は30分程残っている。いくあてもなく食堂を出てきただけで、このまま何もすることがなければ、体育館に戻って自主練をするつもりだった。
ちょうどいい暇つぶしを見つけた月島は、ふてぶてしい猫が逃げてしまわないように、少し早足で中庭に向かう。
廊下のすぐ先に出入り口があったおかげで、割とすぐに中庭にやってこれた。ふてぶてしい猫は、まだ中庭にいた。ベンチに乗って、呑気に日向ぼっこ中だ。
写真でも撮って、週明けに名前を驚かせようか。悪戯心が月島を急かす。それがいけなかったのだろうか、不意に猫と目が合った。その途端、猫はベンチから飛び降りて、後ろにあった生垣の隙間から逃げてしまった。
どうしても写真を撮りたかったわけでもないが、ただただ逃がしてしまったというのは何だか悔しい。
慌てたり、必死になったりはしないものの、月島は、猫を追いかけるために生垣をまわった。
ぽってりとした身体から伸びる短い4本の脚が飛び跳ねるように逃げていく、その先に女性の足が現れた。休日に部活のために学校に来ている生徒の運動靴とは違う。文化部だと思われる生徒の学生靴とも違う。
夏にぴったりの涼しげなパンプスだ。
猫を追いかけるために落ちていた月島の視線が上がっていくのと同時に、ふてぶてしい猫にその誰かが細い両腕を伸ばした。
「あ!やっと見つけた!ここにいたのね!」
顔を上げた月島が見たのは、ふてぶてしい猫を抱き上げて、嬉しそうに頬を寄せる名前の笑みだった。
当然だけれど、音駒高校を転校した名前は制服ではなく、だからと言って烏野高校の制服を着ているわけでもない。
淡いミントグリーンの清楚なワンピース姿の名前は、月島と目が合うと、大きな瞳をさらに大きく見開いた。
でも、驚いたのは、名前だけではない。
どうして、音駒高校に名前がいるのかーーー。
互いに、思いもよらぬところで出くわした驚きで、声が出なかった。
数秒の沈黙の後、先に口を開いたのは、名前の方だった。
10名以上の男子高校生達が、他校のバレー部員のいる場所に一挙に集められたのだ。騒がしくなるのは、必然だった。
けれど、日向と影山の無駄に競い合う声がなくなって静かになったと思っていた月島にとっては、とんだ誤算だ。
昼食を終えると、月島はさっさと食堂から出ることにした。
食事のペースが遅い山口は、まだ縁下達と一緒にのんびり食堂で過ごすらしい。
食堂から離れるためだけに廊下を歩いていると、だんだんと騒がしい声が遠ざかっていく。
漸く声が聞こえなくなったあたりで立ち止まった月島は、換気のために開いていた窓に片手をかける。
窓の向こうはちょうど中庭の辺りらしく、体育館の周囲のような殺風景な場所とは違い、花壇やベンチが並んで程よく手入れされている。
ふ、とお喋りをしながら中庭を横切っていく名前の姿が見えた。
音駒高校の制服を着て、隣には、黒尾がいる。
もちろん、烏野高校に転入した名前がいるわけがない。想像が映し出したただの幻影だ。
でも、烏野高校に転入するまでの2年間は、今、月島の脳裏に浮かんだ想像は、名前にとっての日常だった。
移動教室のために中庭を横切ったり、あのベンチに座って、友人と楽しくお喋りをしたりしていたのかもしれない。
月島から無意識なため息が漏れた時、視界の向こうで小さな生き物がのっそりと動いた。
今度は妄想でも幻影でもない。本物だ。
何だろうかーーーと少し目を凝らしてやっと、それが猫だと分かった。
以前、名前が写真を見せてくれた『ふてぶてしいところが可愛い猫』だ。
行ってみるかーーー。
まだ昼休憩は30分程残っている。いくあてもなく食堂を出てきただけで、このまま何もすることがなければ、体育館に戻って自主練をするつもりだった。
ちょうどいい暇つぶしを見つけた月島は、ふてぶてしい猫が逃げてしまわないように、少し早足で中庭に向かう。
廊下のすぐ先に出入り口があったおかげで、割とすぐに中庭にやってこれた。ふてぶてしい猫は、まだ中庭にいた。ベンチに乗って、呑気に日向ぼっこ中だ。
写真でも撮って、週明けに名前を驚かせようか。悪戯心が月島を急かす。それがいけなかったのだろうか、不意に猫と目が合った。その途端、猫はベンチから飛び降りて、後ろにあった生垣の隙間から逃げてしまった。
どうしても写真を撮りたかったわけでもないが、ただただ逃がしてしまったというのは何だか悔しい。
慌てたり、必死になったりはしないものの、月島は、猫を追いかけるために生垣をまわった。
ぽってりとした身体から伸びる短い4本の脚が飛び跳ねるように逃げていく、その先に女性の足が現れた。休日に部活のために学校に来ている生徒の運動靴とは違う。文化部だと思われる生徒の学生靴とも違う。
夏にぴったりの涼しげなパンプスだ。
猫を追いかけるために落ちていた月島の視線が上がっていくのと同時に、ふてぶてしい猫にその誰かが細い両腕を伸ばした。
「あ!やっと見つけた!ここにいたのね!」
顔を上げた月島が見たのは、ふてぶてしい猫を抱き上げて、嬉しそうに頬を寄せる名前の笑みだった。
当然だけれど、音駒高校を転校した名前は制服ではなく、だからと言って烏野高校の制服を着ているわけでもない。
淡いミントグリーンの清楚なワンピース姿の名前は、月島と目が合うと、大きな瞳をさらに大きく見開いた。
でも、驚いたのは、名前だけではない。
どうして、音駒高校に名前がいるのかーーー。
互いに、思いもよらぬところで出くわした驚きで、声が出なかった。
数秒の沈黙の後、先に口を開いたのは、名前の方だった。