ep23. 君には教えなかった東京合宿で
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7月最初の土曜、ついに待ちに待った東京合宿の日がやって来た。
前日の夜中に烏野高校からバスで出発したバレー部員達は、午前中のうちに音駒高校に辿り着いた。
眠たい目を擦る月島が他の部員達に続いてバスから降りると、音駒高校バレー部主将の黒尾と副将の海が出迎えてくれていた。
「オオ!!」
「あれはっ、あれはもしやスカイツリー!!??」
バスから降りると、早速西谷と田中が騒ぎ出した。
「いや、あれは普通の鉄塔だね。」
海が爽やかに否定した。
すると、その横で、黒尾がぶっひゃひゃひゃと変な笑い声を出して腹を抱えて笑い出す。
初めての東京に大はしゃぎの田舎者をバカにしているのを、彼は隠そうともしない。
ふ、と黒尾に馬鹿にされてムキになっている名前の姿が、月島の脳裏に浮かんだ。
もちろん、そんなシーンは見たことはない。けれど、今浮かんだイメージと現実はそれほどかけ離れてはいないのではないだろうか。妙な確信めいたものが、月島の胸の奥をザラザラとした何かとなって、まるで波にさらわれる砂のように流れて消えた。
女子マネージャーが1人増えていることに騒ぎ出した音駒のエース、山本猛虎を通り過ぎ、烏野男子バレー部一行は、黒尾の先導で体育館へ向かう。
当然だが、名前が写真で見せてくれたのと同じ景色だった。
月島は軽く周囲を見渡してみたけれど、時々会いに来るという猫の姿は何処にもなかった。
ジャージのポケットに入れていたスマホが震える。
スマホを確認すると、新着メッセージが届いていた。
見事、全ての教科でギリギリの点数で赤点を回避するというミラクルを起こした名前からだった。
先週末にも付き合わされた勉強会と帰り道のクイズ混じりの月島特製小テストが功を奏したらしい。
テスト前にカフェにケーキを食べに行くという余裕を見せた名前ではあったが、彼女の心にも危機感というものは存在していたようで、テスト前日にはほとんど寝ずに一夜漬けで勉強をしてなんとか乗り越えたという話だ。
名前からは、これを機に登録されている名前を『15点』から『天才』に変更するべきではないかと熱弁されているが、今の所、月島のスマホには『ミラクルヘッドショット』が帰ってきただけだ。
ーーーーーーーーーーーー
おはよー
早起きしたら、虹が出てた
月島くん家からも見える?
ーーーーーーーーーーーー
メッセージを読んで、無意識に視線を上に向ける。
頭上に広がる東京の空は、真っ青だ。イメージしていたようなビル群に遮られた薄暗い小さな空とは違う。
東京の中心部には近いようだが、音駒高校があるのは、郊外だった。だからなのだろう。
影山達にも言った通り、月島から名前に、東京合宿のことは伝えることはしていなかった。あれからすぐに、テスト前ということで部活動も中止になったし、影山達から名前に伝える機会もなかった。
名前は、今日もいつも通り、月島は仙台にいると思っている。
まさか、月島の数メートル先を黒尾が澤村と並んで歩いているなんて想像もしていないだろう。
ーーーーーーーーーーーー
見えないです
ーーーーーーーーーーーー
たった一行、素っ気ないメッセージを送る。
送ったと同時に既読になった後、返事もすぐに来た。
ーーーーーーーーーーーー
ざんねーん
お裾分けだよー
月島くんの今日が、良い日になりますように!
ーーーーーーーーーーーー
届いたメッセージには、写真が添付されていた。
タップして開くと、青い空の真ん中に輪っかの虹が浮かんでいる写真が表示される。
半円に七色の線が伸びるよくある虹だと思っていた。
珍しい円形の虹だったから、名前もテンションが上がって、思わず写真まで撮り、近所に住む後輩にメッセージを送ってしまったということなのだろう。
名前らしいーーー。
クスリと笑うと、何かに気づいたらしい黒尾が不意に振り返った。
「月島くんも笑ったりするんだー。」
黒尾がニヤリと口の端を上げて、挑発するように言う。
面白い玩具を見つけた、と顔に書いてある。
「別に笑ってません。」
ピシャリと否定して、月島は持っていたスマホをジャージのパンツのポケットにしまう。
けれど、目ざとい黒尾が、そんな爪の甘い証拠隠滅で見逃してくれるわけがなかった。
ニヤニヤと笑いながら近づいてきた黒尾は、月島の肩を組む。
「へぇ〜、へぇ〜。彼女からですかぁ〜??」
「違います。」
「またまたぁ。照れちゃってぇ。」
月島がキッパリと否定したところで、黒尾は聞いちゃいない。
もしここで、メッセージの相手は名前だと黒尾に教えたら、彼はどんな顔をするのだろう。
あのフェスの日、名前を見つけて駆け寄っていった黒尾の横顔が、月島の脳裏に蘇る。
ただまっすぐに名前をだけを見ていた切長の瞳、名前を呼ぶ切羽詰まったような声。
名前はずっと片想いだったと言っていたけれど、もしかしたら、彼らは両思いだったのではないだろうか。
無意識に眉を顰めていたのか、海が月島の顔を覗き込むと柔らかく微笑んだ。
「そうか、彼女かぁ。
今日からこっちに泊まりだから、週末会えなくて寂しい思いをさせてるなぁ。
ごめんね?」
的外れな海の慰めが、黒尾のツボにハマった。
黒尾がまた、ぶひゃひゃひゃと独特な笑い声を上げて、腹を抱えた。
前日の夜中に烏野高校からバスで出発したバレー部員達は、午前中のうちに音駒高校に辿り着いた。
眠たい目を擦る月島が他の部員達に続いてバスから降りると、音駒高校バレー部主将の黒尾と副将の海が出迎えてくれていた。
「オオ!!」
「あれはっ、あれはもしやスカイツリー!!??」
バスから降りると、早速西谷と田中が騒ぎ出した。
「いや、あれは普通の鉄塔だね。」
海が爽やかに否定した。
すると、その横で、黒尾がぶっひゃひゃひゃと変な笑い声を出して腹を抱えて笑い出す。
初めての東京に大はしゃぎの田舎者をバカにしているのを、彼は隠そうともしない。
ふ、と黒尾に馬鹿にされてムキになっている名前の姿が、月島の脳裏に浮かんだ。
もちろん、そんなシーンは見たことはない。けれど、今浮かんだイメージと現実はそれほどかけ離れてはいないのではないだろうか。妙な確信めいたものが、月島の胸の奥をザラザラとした何かとなって、まるで波にさらわれる砂のように流れて消えた。
女子マネージャーが1人増えていることに騒ぎ出した音駒のエース、山本猛虎を通り過ぎ、烏野男子バレー部一行は、黒尾の先導で体育館へ向かう。
当然だが、名前が写真で見せてくれたのと同じ景色だった。
月島は軽く周囲を見渡してみたけれど、時々会いに来るという猫の姿は何処にもなかった。
ジャージのポケットに入れていたスマホが震える。
スマホを確認すると、新着メッセージが届いていた。
見事、全ての教科でギリギリの点数で赤点を回避するというミラクルを起こした名前からだった。
先週末にも付き合わされた勉強会と帰り道のクイズ混じりの月島特製小テストが功を奏したらしい。
テスト前にカフェにケーキを食べに行くという余裕を見せた名前ではあったが、彼女の心にも危機感というものは存在していたようで、テスト前日にはほとんど寝ずに一夜漬けで勉強をしてなんとか乗り越えたという話だ。
名前からは、これを機に登録されている名前を『15点』から『天才』に変更するべきではないかと熱弁されているが、今の所、月島のスマホには『ミラクルヘッドショット』が帰ってきただけだ。
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おはよー
早起きしたら、虹が出てた
月島くん家からも見える?
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メッセージを読んで、無意識に視線を上に向ける。
頭上に広がる東京の空は、真っ青だ。イメージしていたようなビル群に遮られた薄暗い小さな空とは違う。
東京の中心部には近いようだが、音駒高校があるのは、郊外だった。だからなのだろう。
影山達にも言った通り、月島から名前に、東京合宿のことは伝えることはしていなかった。あれからすぐに、テスト前ということで部活動も中止になったし、影山達から名前に伝える機会もなかった。
名前は、今日もいつも通り、月島は仙台にいると思っている。
まさか、月島の数メートル先を黒尾が澤村と並んで歩いているなんて想像もしていないだろう。
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見えないです
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たった一行、素っ気ないメッセージを送る。
送ったと同時に既読になった後、返事もすぐに来た。
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ざんねーん
お裾分けだよー
月島くんの今日が、良い日になりますように!
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届いたメッセージには、写真が添付されていた。
タップして開くと、青い空の真ん中に輪っかの虹が浮かんでいる写真が表示される。
半円に七色の線が伸びるよくある虹だと思っていた。
珍しい円形の虹だったから、名前もテンションが上がって、思わず写真まで撮り、近所に住む後輩にメッセージを送ってしまったということなのだろう。
名前らしいーーー。
クスリと笑うと、何かに気づいたらしい黒尾が不意に振り返った。
「月島くんも笑ったりするんだー。」
黒尾がニヤリと口の端を上げて、挑発するように言う。
面白い玩具を見つけた、と顔に書いてある。
「別に笑ってません。」
ピシャリと否定して、月島は持っていたスマホをジャージのパンツのポケットにしまう。
けれど、目ざとい黒尾が、そんな爪の甘い証拠隠滅で見逃してくれるわけがなかった。
ニヤニヤと笑いながら近づいてきた黒尾は、月島の肩を組む。
「へぇ〜、へぇ〜。彼女からですかぁ〜??」
「違います。」
「またまたぁ。照れちゃってぇ。」
月島がキッパリと否定したところで、黒尾は聞いちゃいない。
もしここで、メッセージの相手は名前だと黒尾に教えたら、彼はどんな顔をするのだろう。
あのフェスの日、名前を見つけて駆け寄っていった黒尾の横顔が、月島の脳裏に蘇る。
ただまっすぐに名前をだけを見ていた切長の瞳、名前を呼ぶ切羽詰まったような声。
名前はずっと片想いだったと言っていたけれど、もしかしたら、彼らは両思いだったのではないだろうか。
無意識に眉を顰めていたのか、海が月島の顔を覗き込むと柔らかく微笑んだ。
「そうか、彼女かぁ。
今日からこっちに泊まりだから、週末会えなくて寂しい思いをさせてるなぁ。
ごめんね?」
的外れな海の慰めが、黒尾のツボにハマった。
黒尾がまた、ぶひゃひゃひゃと独特な笑い声を上げて、腹を抱えた。