ep.20 君に勉強を教えるのは大変
Name change
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「名前ちゃんに何もなくてよかったわ。」
月島の母親が、安心したように息を吐いた。
名前はレモンチーズケーキを食べながら、月島と一緒に帰るようになったきっかけを話していた。
さっきまでは、近所の洋館に越してきたのが名前だと知った母親を驚かせてもいた。
その間、月島はひとり、黙々とショートケーキを食べている。
相変わらず、ここのケーキは美味しい。けれど、どうしてこんなシチュエーションになってしまったのか、それだけは理解できずにいる。
せっかくなら一緒に食べようと驚きの提案をしたのは、名前だった。
喜んだ母親が、名前を連れて1階に降りてしまったのを、仕方なく追いかけてきた。
そして、ダイニングテーブルで、名前と月島が隣に並び、テーブルを挟んだ向こうに母親がいる。
男子高校生にとって、これほどまでに気まずいシチュエーションはあるだろうか。
名前を彼女だと勘違いしていた誤解だけは解けたようだ。それを、不幸中の幸いだったと考えるしかない。
「そう~、蛍がね~。」
母親は、嬉しそうに月島を見る。
ふふっと笑う母親の視線が居た堪れなくて、月島は眉を顰めた。
あぁ、本当に嫌だ。
「月島君はすごく優しいですよ、困ってたら助けてくれるし。
頭も良くて、勉強の説明もすごくわかりやすくて、今すぐにでも先生になれちゃいそう!」
「その割には、全く問題解けてなかったですね。」
「ちょっとは解けてたよ!」
「僕には名前さんが眠気と戦ってた記憶しかない。」
「勝ったけどね。」
名前がフフンと鼻を鳴らす。
その自信は一体どこから来るのだろう。
ついさっき自分で「寝てたかもしれない」と言ったばかりなのを忘れたのだろうか。
「惨敗の間違いデショ。」
訂正してから、月島は紅茶を口に運ぶ。
家に来るのがただの男友達だと思っていたときには、母親は、冷蔵庫にある飲み物を適当に出していいなんて言っていたはずだ。
でも今、月島と名前の前に出されたのは、客人用の紅茶だった。
普段は飲まない高級な紅茶の味は、少しほろ苦くて、あまり好きではなかった。
でも、隣の名前は、美味しいと微笑んでいた。
そんな2人を交互に見やる母親は、とても楽しそうだった。
「東京からこっちに引っ越して来るのは、不安だったんじゃない?
こっちに知り合いとかいたの?」
母親がそう訊ねると、名前は少し寂しそうな笑みを返した。
「母の地元がこの辺りなんです。」
「まぁ、そうだったの。」
「はい。それで、母が子供の頃から憧れてた洋館が売りに出されてるのを知って
思い切って買っちゃって。」
「え!それで、東京からわざわざこっちに引っ越してきたの?」
「もともと引越しの話は出ていたので、住む場所は探してたんです。
まさか、宮城に引っ越すことになるとは私も父も思ってなかったけど、
良いタイミングだって、ほとんど母の思いつきですね。」
名前が苦笑いを浮かべて答える。
思わず知った引越しの経緯は、月島にとっては驚くものだった。
でも、思いつきで月島を振り回すことが多い名前を思い返せば、名前は母親に似たのかもしれない。
「それなら、名前ちゃんのお母さんの思いつきに私たちは感謝しなくちゃね。
こんなに可愛い子と知り合えたんだもの。」
「私の方こそ感謝しまくりですよ。
1人で不安だった時に月島君に声をかけてもらえて
すごく助けられました。」
名前が視線を月島に向けた後、柔らかい笑みで答えた。
それがまた、母親を喜ばせる。そして、調子の良いことを言わせるのだ。
「名前ちゃんが寂しくなったり、1人になりたくないことがあれば
いつでも蛍を呼び出していいからね。」
「ふふ、ありがとうございます。じゃあ、毎週、勉強見てもらおうかな。」
「やめてください。僕も忙しいんだから。」
「どうせ部活以外は、部屋にこもってバレーか恐竜の本読んでるだけでしょ。」
あからさまに拒絶の姿勢を見せて表情を歪めた月島を母親がピシャリと切り捨てる。
名前は「そうなんだ〜。」と面白そうに笑う。
勝手に私生活をバラされていくようで、理不尽さを感じる。
「じゃあ、名前さんは休みの日は何してるんですか。」
どうせ昼まで寝てるんだろうーーーーそんなことを思いながら、月島は名前に口撃を仕掛けた。
でも、素直な名前は、純粋な質問だと思ったのか「うーん。」と首を傾げて真剣に考え出してしまう。
「だいたい、お昼まで寝てるかな!」
名前がカラッとした明るい声でハッキリと言う。
普通、もう少し、恥を隠して答えるものではないのだろうか。知人の母親も聞いていれば尚更だ。
名前の休日の過ごし方が想像と当たっていたことも相まって、思わず月島は笑いを吹き出してしまう。
そんな息子の様子を見て、母親もクスリと控えめに笑った。
そこで初めて、名前は、恥ずかしくなったらしい。誤魔化すように、さらに続ける。
「で、でも、テストが終わったら美容室に行くんだから!」
「へぇ。」
「白鳥沢ってとこに、評判のいい美容師さんがいたのだって調べたし!」
「それは良かったですね。」
必死な名前がおかしくて、月島は口元を手の甲で隠すと、馬鹿にするようにククッと笑った。
月島の母親が、安心したように息を吐いた。
名前はレモンチーズケーキを食べながら、月島と一緒に帰るようになったきっかけを話していた。
さっきまでは、近所の洋館に越してきたのが名前だと知った母親を驚かせてもいた。
その間、月島はひとり、黙々とショートケーキを食べている。
相変わらず、ここのケーキは美味しい。けれど、どうしてこんなシチュエーションになってしまったのか、それだけは理解できずにいる。
せっかくなら一緒に食べようと驚きの提案をしたのは、名前だった。
喜んだ母親が、名前を連れて1階に降りてしまったのを、仕方なく追いかけてきた。
そして、ダイニングテーブルで、名前と月島が隣に並び、テーブルを挟んだ向こうに母親がいる。
男子高校生にとって、これほどまでに気まずいシチュエーションはあるだろうか。
名前を彼女だと勘違いしていた誤解だけは解けたようだ。それを、不幸中の幸いだったと考えるしかない。
「そう~、蛍がね~。」
母親は、嬉しそうに月島を見る。
ふふっと笑う母親の視線が居た堪れなくて、月島は眉を顰めた。
あぁ、本当に嫌だ。
「月島君はすごく優しいですよ、困ってたら助けてくれるし。
頭も良くて、勉強の説明もすごくわかりやすくて、今すぐにでも先生になれちゃいそう!」
「その割には、全く問題解けてなかったですね。」
「ちょっとは解けてたよ!」
「僕には名前さんが眠気と戦ってた記憶しかない。」
「勝ったけどね。」
名前がフフンと鼻を鳴らす。
その自信は一体どこから来るのだろう。
ついさっき自分で「寝てたかもしれない」と言ったばかりなのを忘れたのだろうか。
「惨敗の間違いデショ。」
訂正してから、月島は紅茶を口に運ぶ。
家に来るのがただの男友達だと思っていたときには、母親は、冷蔵庫にある飲み物を適当に出していいなんて言っていたはずだ。
でも今、月島と名前の前に出されたのは、客人用の紅茶だった。
普段は飲まない高級な紅茶の味は、少しほろ苦くて、あまり好きではなかった。
でも、隣の名前は、美味しいと微笑んでいた。
そんな2人を交互に見やる母親は、とても楽しそうだった。
「東京からこっちに引っ越して来るのは、不安だったんじゃない?
こっちに知り合いとかいたの?」
母親がそう訊ねると、名前は少し寂しそうな笑みを返した。
「母の地元がこの辺りなんです。」
「まぁ、そうだったの。」
「はい。それで、母が子供の頃から憧れてた洋館が売りに出されてるのを知って
思い切って買っちゃって。」
「え!それで、東京からわざわざこっちに引っ越してきたの?」
「もともと引越しの話は出ていたので、住む場所は探してたんです。
まさか、宮城に引っ越すことになるとは私も父も思ってなかったけど、
良いタイミングだって、ほとんど母の思いつきですね。」
名前が苦笑いを浮かべて答える。
思わず知った引越しの経緯は、月島にとっては驚くものだった。
でも、思いつきで月島を振り回すことが多い名前を思い返せば、名前は母親に似たのかもしれない。
「それなら、名前ちゃんのお母さんの思いつきに私たちは感謝しなくちゃね。
こんなに可愛い子と知り合えたんだもの。」
「私の方こそ感謝しまくりですよ。
1人で不安だった時に月島君に声をかけてもらえて
すごく助けられました。」
名前が視線を月島に向けた後、柔らかい笑みで答えた。
それがまた、母親を喜ばせる。そして、調子の良いことを言わせるのだ。
「名前ちゃんが寂しくなったり、1人になりたくないことがあれば
いつでも蛍を呼び出していいからね。」
「ふふ、ありがとうございます。じゃあ、毎週、勉強見てもらおうかな。」
「やめてください。僕も忙しいんだから。」
「どうせ部活以外は、部屋にこもってバレーか恐竜の本読んでるだけでしょ。」
あからさまに拒絶の姿勢を見せて表情を歪めた月島を母親がピシャリと切り捨てる。
名前は「そうなんだ〜。」と面白そうに笑う。
勝手に私生活をバラされていくようで、理不尽さを感じる。
「じゃあ、名前さんは休みの日は何してるんですか。」
どうせ昼まで寝てるんだろうーーーーそんなことを思いながら、月島は名前に口撃を仕掛けた。
でも、素直な名前は、純粋な質問だと思ったのか「うーん。」と首を傾げて真剣に考え出してしまう。
「だいたい、お昼まで寝てるかな!」
名前がカラッとした明るい声でハッキリと言う。
普通、もう少し、恥を隠して答えるものではないのだろうか。知人の母親も聞いていれば尚更だ。
名前の休日の過ごし方が想像と当たっていたことも相まって、思わず月島は笑いを吹き出してしまう。
そんな息子の様子を見て、母親もクスリと控えめに笑った。
そこで初めて、名前は、恥ずかしくなったらしい。誤魔化すように、さらに続ける。
「で、でも、テストが終わったら美容室に行くんだから!」
「へぇ。」
「白鳥沢ってとこに、評判のいい美容師さんがいたのだって調べたし!」
「それは良かったですね。」
必死な名前がおかしくて、月島は口元を手の甲で隠すと、馬鹿にするようにククッと笑った。