ep.04 2人はもう過去になったハズ
Name change
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「失礼しました。」
名前は、一度振り返ってから頭を下げた。
柔らかく頷く母親とは対照的に、向かい合ってソファに座る校長と教頭は、とても神妙な表情を浮かべていた。
扉を閉めてから大きくため息を吐いた名前の頭上で、校長室と書かれたネームプレートが肩身を狭そうにしている。
数ヶ月ぶりにやってきた音駒高校だった。今日は、どうしても名前も母親に同行して宮城から東京に来なければいけなかったから、期末テストの補習を受けなくてもいいように、必死に勉強をした。そうして、なんとか赤点を回避した。
今朝は、苦手な早起きをして、新幹線に乗って宮城から東京まではるばるやって来た。
なんとなく廊下を見渡す。
流石に生徒の姿は見えないが、母親と受付に声をかけた時に、大きな楽器を抱える数名の生徒を見かけた。
窓の向こうから聞こえてくるのは、休日にも関わらず、こんな暑い夏の中、部活に励む運動部の生徒達の声だ。
部活動に参加している生徒達は、学業にプラスしてあれやこれやといつも忙しそうだ。
もっとゆとりを持って、青春を謳歌すればいいのにーーーーなんて思う資格があるのは、本当に青春を謳歌している10代だけだ。
(少なくとも、私は違うな。)
自嘲気味に笑って、名前は校長室に背を向けて歩き出す。
今日、名前と母親が音駒高校にやって来たのは、ストーカーの男に判決が下り、刑が決定したからだ。
名前についてくれたのは、弁護士の母親が紹介してくれたストーカー事件に強い先生だった。
母の願いは、執行猶予なしの実刑だ。実刑になったところで、長くて1年くらいの刑期になる。それでも、その間に娘は高校を卒業し、今よりは幾らか自由が効く身になる。そうなるまでは、ストーカーの男に刑務所に入っていて欲しかったのだ。
初犯ということで不起訴になる可能性も高かったが、問題なく起訴してもらうことが出来た。
でも順調だったのはそこまでで、やはり初犯というのが大きかった。
罰金だけで済みそうなところだったが、なんとか弁護士の先生が頑張ってくれて、執行猶予はついたものの1年2ヶ月の懲役刑に決まった。
歩道橋から名前を突き落とし、重傷を負わせたことを「重大」だと判断してもらった結果だ。
それは、被害者が痛い目に遭わなければ、たいした罰を与えることは出来ないということの証明でもあった。
誰かが自分を見ているーーーーーーと毎日毎日不安な日々を過ごし、怖い思いをしたたことは、考慮されないのだ。
(もうどうでもいい…。)
名前は、窓際に立ち止まり、もう一度、大きなため息を吐いた。
誰がどんな罰を受けようと、名前が宮城に引っ越すことになってしまった現実が変わるわけではない。
望むのは、ただ一つだけ。あの日に戻って、やり直したい。それだけだ。
そうすれば、誰でもいいから一緒に家まで帰ってもらおう。絶対に1人にならないように気をつけるし、家に帰るまでの途中にある交番でストーカーの相談をするのもいい。とにかく、なにかしらの対策をしていれば、今でもこの校舎は名前にとっての学舎のままで、黒尾と軽口を叩きあっては、そばで笑いあえるはずだ。
当たり前だと思っていたあの日々さえあれば、他にはなにもいらないのだ。
せっかくした早起きで、今朝はレアな丸い虹を見たから、何かいいことがあるかもーーーーと無理やり上げたテンションは、憂鬱な話ばかり聞かされたおかげで、底の底まで落ちている。
「あ!」
2階の窓から見えるのは、正門前の広場だった。
懐かしい光景の中に、音駒高校周辺でよく見かけていた野良猫の姿があった。
(いいことって、あの子との再会だったのかも。)
妙な確信を覚えて、名前は走って正門前の広場に急いだ。
名前は、一度振り返ってから頭を下げた。
柔らかく頷く母親とは対照的に、向かい合ってソファに座る校長と教頭は、とても神妙な表情を浮かべていた。
扉を閉めてから大きくため息を吐いた名前の頭上で、校長室と書かれたネームプレートが肩身を狭そうにしている。
数ヶ月ぶりにやってきた音駒高校だった。今日は、どうしても名前も母親に同行して宮城から東京に来なければいけなかったから、期末テストの補習を受けなくてもいいように、必死に勉強をした。そうして、なんとか赤点を回避した。
今朝は、苦手な早起きをして、新幹線に乗って宮城から東京まではるばるやって来た。
なんとなく廊下を見渡す。
流石に生徒の姿は見えないが、母親と受付に声をかけた時に、大きな楽器を抱える数名の生徒を見かけた。
窓の向こうから聞こえてくるのは、休日にも関わらず、こんな暑い夏の中、部活に励む運動部の生徒達の声だ。
部活動に参加している生徒達は、学業にプラスしてあれやこれやといつも忙しそうだ。
もっとゆとりを持って、青春を謳歌すればいいのにーーーーなんて思う資格があるのは、本当に青春を謳歌している10代だけだ。
(少なくとも、私は違うな。)
自嘲気味に笑って、名前は校長室に背を向けて歩き出す。
今日、名前と母親が音駒高校にやって来たのは、ストーカーの男に判決が下り、刑が決定したからだ。
名前についてくれたのは、弁護士の母親が紹介してくれたストーカー事件に強い先生だった。
母の願いは、執行猶予なしの実刑だ。実刑になったところで、長くて1年くらいの刑期になる。それでも、その間に娘は高校を卒業し、今よりは幾らか自由が効く身になる。そうなるまでは、ストーカーの男に刑務所に入っていて欲しかったのだ。
初犯ということで不起訴になる可能性も高かったが、問題なく起訴してもらうことが出来た。
でも順調だったのはそこまでで、やはり初犯というのが大きかった。
罰金だけで済みそうなところだったが、なんとか弁護士の先生が頑張ってくれて、執行猶予はついたものの1年2ヶ月の懲役刑に決まった。
歩道橋から名前を突き落とし、重傷を負わせたことを「重大」だと判断してもらった結果だ。
それは、被害者が痛い目に遭わなければ、たいした罰を与えることは出来ないということの証明でもあった。
誰かが自分を見ているーーーーーーと毎日毎日不安な日々を過ごし、怖い思いをしたたことは、考慮されないのだ。
(もうどうでもいい…。)
名前は、窓際に立ち止まり、もう一度、大きなため息を吐いた。
誰がどんな罰を受けようと、名前が宮城に引っ越すことになってしまった現実が変わるわけではない。
望むのは、ただ一つだけ。あの日に戻って、やり直したい。それだけだ。
そうすれば、誰でもいいから一緒に家まで帰ってもらおう。絶対に1人にならないように気をつけるし、家に帰るまでの途中にある交番でストーカーの相談をするのもいい。とにかく、なにかしらの対策をしていれば、今でもこの校舎は名前にとっての学舎のままで、黒尾と軽口を叩きあっては、そばで笑いあえるはずだ。
当たり前だと思っていたあの日々さえあれば、他にはなにもいらないのだ。
せっかくした早起きで、今朝はレアな丸い虹を見たから、何かいいことがあるかもーーーーと無理やり上げたテンションは、憂鬱な話ばかり聞かされたおかげで、底の底まで落ちている。
「あ!」
2階の窓から見えるのは、正門前の広場だった。
懐かしい光景の中に、音駒高校周辺でよく見かけていた野良猫の姿があった。
(いいことって、あの子との再会だったのかも。)
妙な確信を覚えて、名前は走って正門前の広場に急いだ。