ep.18 君は傷を僕に隠して笑う
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山口は、欠伸をこぼす口元を片手で覆う。
通学路には、同じようにダラダラと歩いている学生が数名いた。
多くの人が憂鬱だと思う月曜が来た。
山口にとってもそうだ。
そしてそれは、週末が楽しければ楽しかったほど、月曜は憂鬱に感じるものである。
まぁ、山口の土日は、土曜は午前中は部活、午後からは家で漫画を読み、日曜も朝から晩まで漫画を読むという自堕落な生活をしていただけだ。
それでもやはり、月曜は憂鬱であることに変わりはない。
「あ、ツッキー!おはよう!」
ちょうど家から出てきたばかりの月島を見つけて、駆け寄る。
これだけは、月曜だろうが金曜だろうが、小学生の頃から変わらない。
「あぁ、おはよう。」
振り返った月島は、気怠そうにしながら、朝の挨拶をする。
山口とは違い、月島は充実した週末を過ごしたはずだ。
先週はずっと悩んでいたようだったけれど、恐竜展に行くことにした、と聞いている。
小学生の頃から恐竜に興味があった月島は、今では、博士並に中生代のことについて詳しい。月島にそう言えば「博士レベルなわけないデショ」と呆れられるけれど、山口にとってはそうなのだ。彼に恐竜のことを訊ねれば、大抵なんでも答えが返ってくる。普段、口数の少ない月島が、珍しく饒舌になる程度には、とても詳細に語ってくれる。
「あ、それ!恐竜展で買ってきたの?
いいね!」
山口は、恐竜のキーホルダーが、スポーツバッグの持ち手の付け根に繋がっているのを見つけた。
ティラノサウルスの小さなぬぐるみのキーホルダーだ。
恐竜グッズは多数所持している月島だけれど、恐竜好きであることを恥ずかしいと思っているところがある彼が、人目に触れるようなキーホルダーを買って、しかもスポーツバッグにつけるなんて、珍しい。
そんなに可愛いキーホルダーを選だことも含めて、意外だ。
「あぁ…。付けてないと面倒くさそうだったから
仕方なく。」
月島が、ため息混じりに言う。
仕方なくと言っている割には、チラリと恐竜のキーホルダーを見た月島の表情は、どことなく楽しそうだった。
何のことだかは分からなかったけれど、キーホルダーを気に入ってはいるようだ。
「恐竜展、どうだった?面白かった?」
「あぁ…、そうだね。面白いのは、見れた。」
月島は、思い出すように少し目線を上げた後、フッと小さく笑みを溢した。
思い出し笑いというものなのだろうが、彼がそんなことをするなんて珍しい。驚いた。
相当、満喫したのだろう。
「どんなのがあったの?」
「普通だよ。中生代の時代別に化石の展示があって
そこに博士の見解がーーーー。」
恐竜展の展示物について、月島が説明を始める。
饒舌になった説明は止まる様子がない。そんなところからも、彼が恐竜展をじっくり楽しめたことが伺えた。
「俺も一緒に行けたらよかったんだけどなぁ…。
今月、お小遣いがピンチで。」
山口は頬を掻きながら、困ったように言う。
恐竜に興味があると言えば、それは違うだろう。別に嫌いでもないけれど、特別好きなわけでもない。
でも、友人の月島と一緒に新幹線に乗って東京まで行けたら、きっと楽しかったはずだ。
「おっはよー!」
月島の背中に何かがドンっとぶつかった。
ほんの少しだけ前のめりになった月島の向こうから、楽しそうな名前が顔を出す。
突然の登場に驚いた。
普段、名前と通学の時間に会うことはない。
家が近所なのに全く遭遇しないことを不思議に思って、一度、名前に聞いてみたことがある。
そして分かったのは、余裕を持って家を出る山口達と遅刻ギリギリで家を出る名前が、通学時間に会えるわけがないということだ。
「あ、名前さん、おはようございます!」
「朝から、テンション高すぎデショ。
もう少し、普通に登場してくれません?」
朝から、憧れの美人な先輩に会えて嬉しい山口の隣で、月島が不快そうに眉を顰めている。
捻くれ者の月島だけれど、苛立ちは素直に表情に出す。だから、大抵の女子は、月島が不機嫌になると怖がって離れていく。
でも、名前は全く気にした様子はない。
だから、月島も名前と接するのが楽で、帰りにバイト先まで迎えにいくなんて、柄にもないことをしているのかもしれない。
「ビックリした?」
「しません。」
「ウッソだ〜。ワッて顔してたよ。」
「してません。後ろからじゃ見えてないデショ。」
「分かるんだよ、名前様には。」
「えーすごーい。」
楽しそうな名前を月島が素っ気なく突き放すーーーそんな会話に聞こえる。
けれど、なんだかんだ月島も楽しそうで、むしろ、猫が戯れあっているようにしか見えない。
山口がクスッと笑うと、月島にジロリと睨まれてしまった。
「名前さん、今日は朝早いんですね。」
月島が機嫌を損ねたら面倒臭い。
山口は、気を逸らすために名前に話題を振った。
「ふふふ〜、早くコレをつけて歩きたくって
早く出てきたの〜。見てー!可愛いでしょ、私のトリーちゃん。」
そう言って、名前が嬉しそうに見せてきたのは、恐竜のキーホルダーだった。
お洒落な名前は、学校指定のバッグは使っていない。彼女が通学バックにしているのは、茶色い革製のスクールバッグだ。
最初に見た時は、さすが東京からの転校生だと感心したものだ。
そんなお洒落な革製のショルダーバッグには、前に見たときはなかったはずの恐竜のキーホルダーがついていた。
トリケラトプスの小さなぬいぐるみが可愛らしいキーホルダーだ。
月島のキーホルダーはティラノサウルスだったし、全く同じではない。
でも、お揃いーーーと思ったのは、間違いではないはずだ。
「トリケラトプスです。」
「はいはい。
おー、月島くんもちゃんとキーホルダーつけてるじゃん。えらいえらい。」
名前が、月島の髪をクシャクシャと撫でる。
長身の月島の頭に触れるめに、ピョンピョンと飛び跳ねている姿が可愛い。
「やめて。やめてください。
もう、ほんとやめて。」
月島が、大きな手を軽く振って、髪に触れる名前の手を振り払おうとしていた。
でも、本気で嫌がっているわけではないのだろう。
本当にやめてほしいかったら、彼は「やめてください。」とピシャリと言い切って、冷たく振り払うはずだ。
「もしかして、お揃い?」
山口がそう訊ねると、月島がこれでもかと言うほどに表情を歪めた。
眉の高さが左右でズレて、片方だけ目が細められてしまった。何とも形容し難い気持ちを言葉にはできないーーーとばかりに、口元も歪んでいる。
お揃い、というわけではいのか。
「そう、お揃い〜。」
名前がニシシと笑う。
悪戯っ子のような笑みに戸惑い、月島の方をみると、彼が大きくため息を吐いた。
「名前さんも恐竜展に行っただけ。」
月島が、素っ気なく言う。
なんでもないことのようにーーーー。
「え!?一緒に!?」
それってデートなんじゃーーーそう思ったけれど、それは口に出さずに呑み込んだ。
月島に怒られそうだったから。
通学路には、同じようにダラダラと歩いている学生が数名いた。
多くの人が憂鬱だと思う月曜が来た。
山口にとってもそうだ。
そしてそれは、週末が楽しければ楽しかったほど、月曜は憂鬱に感じるものである。
まぁ、山口の土日は、土曜は午前中は部活、午後からは家で漫画を読み、日曜も朝から晩まで漫画を読むという自堕落な生活をしていただけだ。
それでもやはり、月曜は憂鬱であることに変わりはない。
「あ、ツッキー!おはよう!」
ちょうど家から出てきたばかりの月島を見つけて、駆け寄る。
これだけは、月曜だろうが金曜だろうが、小学生の頃から変わらない。
「あぁ、おはよう。」
振り返った月島は、気怠そうにしながら、朝の挨拶をする。
山口とは違い、月島は充実した週末を過ごしたはずだ。
先週はずっと悩んでいたようだったけれど、恐竜展に行くことにした、と聞いている。
小学生の頃から恐竜に興味があった月島は、今では、博士並に中生代のことについて詳しい。月島にそう言えば「博士レベルなわけないデショ」と呆れられるけれど、山口にとってはそうなのだ。彼に恐竜のことを訊ねれば、大抵なんでも答えが返ってくる。普段、口数の少ない月島が、珍しく饒舌になる程度には、とても詳細に語ってくれる。
「あ、それ!恐竜展で買ってきたの?
いいね!」
山口は、恐竜のキーホルダーが、スポーツバッグの持ち手の付け根に繋がっているのを見つけた。
ティラノサウルスの小さなぬぐるみのキーホルダーだ。
恐竜グッズは多数所持している月島だけれど、恐竜好きであることを恥ずかしいと思っているところがある彼が、人目に触れるようなキーホルダーを買って、しかもスポーツバッグにつけるなんて、珍しい。
そんなに可愛いキーホルダーを選だことも含めて、意外だ。
「あぁ…。付けてないと面倒くさそうだったから
仕方なく。」
月島が、ため息混じりに言う。
仕方なくと言っている割には、チラリと恐竜のキーホルダーを見た月島の表情は、どことなく楽しそうだった。
何のことだかは分からなかったけれど、キーホルダーを気に入ってはいるようだ。
「恐竜展、どうだった?面白かった?」
「あぁ…、そうだね。面白いのは、見れた。」
月島は、思い出すように少し目線を上げた後、フッと小さく笑みを溢した。
思い出し笑いというものなのだろうが、彼がそんなことをするなんて珍しい。驚いた。
相当、満喫したのだろう。
「どんなのがあったの?」
「普通だよ。中生代の時代別に化石の展示があって
そこに博士の見解がーーーー。」
恐竜展の展示物について、月島が説明を始める。
饒舌になった説明は止まる様子がない。そんなところからも、彼が恐竜展をじっくり楽しめたことが伺えた。
「俺も一緒に行けたらよかったんだけどなぁ…。
今月、お小遣いがピンチで。」
山口は頬を掻きながら、困ったように言う。
恐竜に興味があると言えば、それは違うだろう。別に嫌いでもないけれど、特別好きなわけでもない。
でも、友人の月島と一緒に新幹線に乗って東京まで行けたら、きっと楽しかったはずだ。
「おっはよー!」
月島の背中に何かがドンっとぶつかった。
ほんの少しだけ前のめりになった月島の向こうから、楽しそうな名前が顔を出す。
突然の登場に驚いた。
普段、名前と通学の時間に会うことはない。
家が近所なのに全く遭遇しないことを不思議に思って、一度、名前に聞いてみたことがある。
そして分かったのは、余裕を持って家を出る山口達と遅刻ギリギリで家を出る名前が、通学時間に会えるわけがないということだ。
「あ、名前さん、おはようございます!」
「朝から、テンション高すぎデショ。
もう少し、普通に登場してくれません?」
朝から、憧れの美人な先輩に会えて嬉しい山口の隣で、月島が不快そうに眉を顰めている。
捻くれ者の月島だけれど、苛立ちは素直に表情に出す。だから、大抵の女子は、月島が不機嫌になると怖がって離れていく。
でも、名前は全く気にした様子はない。
だから、月島も名前と接するのが楽で、帰りにバイト先まで迎えにいくなんて、柄にもないことをしているのかもしれない。
「ビックリした?」
「しません。」
「ウッソだ〜。ワッて顔してたよ。」
「してません。後ろからじゃ見えてないデショ。」
「分かるんだよ、名前様には。」
「えーすごーい。」
楽しそうな名前を月島が素っ気なく突き放すーーーそんな会話に聞こえる。
けれど、なんだかんだ月島も楽しそうで、むしろ、猫が戯れあっているようにしか見えない。
山口がクスッと笑うと、月島にジロリと睨まれてしまった。
「名前さん、今日は朝早いんですね。」
月島が機嫌を損ねたら面倒臭い。
山口は、気を逸らすために名前に話題を振った。
「ふふふ〜、早くコレをつけて歩きたくって
早く出てきたの〜。見てー!可愛いでしょ、私のトリーちゃん。」
そう言って、名前が嬉しそうに見せてきたのは、恐竜のキーホルダーだった。
お洒落な名前は、学校指定のバッグは使っていない。彼女が通学バックにしているのは、茶色い革製のスクールバッグだ。
最初に見た時は、さすが東京からの転校生だと感心したものだ。
そんなお洒落な革製のショルダーバッグには、前に見たときはなかったはずの恐竜のキーホルダーがついていた。
トリケラトプスの小さなぬいぐるみが可愛らしいキーホルダーだ。
月島のキーホルダーはティラノサウルスだったし、全く同じではない。
でも、お揃いーーーと思ったのは、間違いではないはずだ。
「トリケラトプスです。」
「はいはい。
おー、月島くんもちゃんとキーホルダーつけてるじゃん。えらいえらい。」
名前が、月島の髪をクシャクシャと撫でる。
長身の月島の頭に触れるめに、ピョンピョンと飛び跳ねている姿が可愛い。
「やめて。やめてください。
もう、ほんとやめて。」
月島が、大きな手を軽く振って、髪に触れる名前の手を振り払おうとしていた。
でも、本気で嫌がっているわけではないのだろう。
本当にやめてほしいかったら、彼は「やめてください。」とピシャリと言い切って、冷たく振り払うはずだ。
「もしかして、お揃い?」
山口がそう訊ねると、月島がこれでもかと言うほどに表情を歪めた。
眉の高さが左右でズレて、片方だけ目が細められてしまった。何とも形容し難い気持ちを言葉にはできないーーーとばかりに、口元も歪んでいる。
お揃い、というわけではいのか。
「そう、お揃い〜。」
名前がニシシと笑う。
悪戯っ子のような笑みに戸惑い、月島の方をみると、彼が大きくため息を吐いた。
「名前さんも恐竜展に行っただけ。」
月島が、素っ気なく言う。
なんでもないことのようにーーーー。
「え!?一緒に!?」
それってデートなんじゃーーーそう思ったけれど、それは口に出さずに呑み込んだ。
月島に怒られそうだったから。