ep.17 君の「すき」はシュークリームより甘い
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「これ、食べますか?」
新幹線の座席に座ってすぐに、月島はバッグの中から紙袋を取り出した。フェスで買ったシュークリームだ。
フェスの案内書を見て、名前が食べてみたいと言っていた。だから、買ったけれど、渡さないまま月島はシガンシナ広場を出てしまった。
「これ、あのシュークリーム?」
名前が、月島から紙袋を受け取ると、すぐに中を見る。
「買ったの忘れてました。」
「買ってくれてたの?」
「どうぞ。」
名前の質問には答えず、月島は紙袋の中からシュークリームをひとつ取り出す。
バッグの中に入れっぱなしにしていたから、サクサクしていた生地は湿気って柔らかくなっていた。それにぬるい。きっと、中のカスタードと生クリームも溶けてドロドロだろう。
「ん、美味しい。」
一口頬張って、名前が頬を緩める。
世界一美味しいシュークリームみたいな顔をしているけれど、少なくとも、今の状態のソレの味は落ちているに決まっている。
シュークリームを頬張る名前を見て、フェスで買ったハンバーガーランチを思い出した。
「そういえば、さっき、お昼食べてないって言ってたけど
フェスで買ったランチはどうしたんですか?」
月島が、恐竜展に行くとメッセージを送ってすぐに、名前もフェスの会場から出たのならば、ランチを食べる時間はなかったはずだ。
名前本人も、恐竜カフェに行く前に、お昼は食べていないと言っていた。
「あー…、えっと、あれは…。
フェスで、知り合いに会って、それで、あげちゃった!」
言い淀んだ名前は、少し早口で言うと、まるで誤魔化すような明るすぎる笑みを見せた。
知り合いーーーそれはきっと、黒尾のことだろう。
月島が、黒尾と知り合いだと知っているのに、その名前を出さなかった。
フェスで黒尾と再会したことを月島に知られたくないのかもしれない。
「そうですか。」
「ごめんね、勝手なことして。」
「別にいいですけど。」
そんなに美味しかったのだろうかーーーー、月島もシュークリームをかじってみた。
確かに、味はおいしい。でも、食感が残念だ。それもこれも、長い間バッグの中に放置しすぎたせいだ。
しばらくすると、雨が降り始めた。
新幹線の窓を土砂降りの雨が叩き続けるけれど、車内には雨音は響かない。
静かな時間が流れる中、いつの間にかシュークリームを食べ終わった名前は、行きもそうだったように、月島の肩に頭を乗せて居眠りをしていた。
「……。」
名前の微かな寝言は、聞こえない雨音にかき消されるほどに小さかった。
聞こえたのは、名前を肩に乗せた月島だけだ。
『す、き…。』
胸が掻きむしられそうになる程に切ないその声が、思いを馳せたその人が誰なのかなんて、考える余地もない。
いつか、彼は彼女の口からその言葉を聞くのだろうか。いつか、きっとーーーーーー。
新幹線の座席に座ってすぐに、月島はバッグの中から紙袋を取り出した。フェスで買ったシュークリームだ。
フェスの案内書を見て、名前が食べてみたいと言っていた。だから、買ったけれど、渡さないまま月島はシガンシナ広場を出てしまった。
「これ、あのシュークリーム?」
名前が、月島から紙袋を受け取ると、すぐに中を見る。
「買ったの忘れてました。」
「買ってくれてたの?」
「どうぞ。」
名前の質問には答えず、月島は紙袋の中からシュークリームをひとつ取り出す。
バッグの中に入れっぱなしにしていたから、サクサクしていた生地は湿気って柔らかくなっていた。それにぬるい。きっと、中のカスタードと生クリームも溶けてドロドロだろう。
「ん、美味しい。」
一口頬張って、名前が頬を緩める。
世界一美味しいシュークリームみたいな顔をしているけれど、少なくとも、今の状態のソレの味は落ちているに決まっている。
シュークリームを頬張る名前を見て、フェスで買ったハンバーガーランチを思い出した。
「そういえば、さっき、お昼食べてないって言ってたけど
フェスで買ったランチはどうしたんですか?」
月島が、恐竜展に行くとメッセージを送ってすぐに、名前もフェスの会場から出たのならば、ランチを食べる時間はなかったはずだ。
名前本人も、恐竜カフェに行く前に、お昼は食べていないと言っていた。
「あー…、えっと、あれは…。
フェスで、知り合いに会って、それで、あげちゃった!」
言い淀んだ名前は、少し早口で言うと、まるで誤魔化すような明るすぎる笑みを見せた。
知り合いーーーそれはきっと、黒尾のことだろう。
月島が、黒尾と知り合いだと知っているのに、その名前を出さなかった。
フェスで黒尾と再会したことを月島に知られたくないのかもしれない。
「そうですか。」
「ごめんね、勝手なことして。」
「別にいいですけど。」
そんなに美味しかったのだろうかーーーー、月島もシュークリームをかじってみた。
確かに、味はおいしい。でも、食感が残念だ。それもこれも、長い間バッグの中に放置しすぎたせいだ。
しばらくすると、雨が降り始めた。
新幹線の窓を土砂降りの雨が叩き続けるけれど、車内には雨音は響かない。
静かな時間が流れる中、いつの間にかシュークリームを食べ終わった名前は、行きもそうだったように、月島の肩に頭を乗せて居眠りをしていた。
「……。」
名前の微かな寝言は、聞こえない雨音にかき消されるほどに小さかった。
聞こえたのは、名前を肩に乗せた月島だけだ。
『す、き…。』
胸が掻きむしられそうになる程に切ないその声が、思いを馳せたその人が誰なのかなんて、考える余地もない。
いつか、彼は彼女の口からその言葉を聞くのだろうか。いつか、きっとーーーーーー。