ep.13 僕たちは恋人同士に見える、らしい
Name change
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名前の地元は、大都会東京の中心に程近い場所にあるにも関わらず、良い意味で普通だった。
昔ながらの一軒家が建ち並ぶ住宅街と河川敷、走り回って遊ぶ子供たちの声も、烏野と似ている気がした。
名前の両親が、引っ越し先に烏野のあの洋館を選んだのは、そういうのも理由のひとつにあるのかもしれない。
そんな地元とは対照的に、シガンシナ広場は想像以上の広さがあって、月島を驚かせた。
整えられた芝生が広がるエリアと木陰で休息するのにちょうど良さそうな木々が生い茂る丘を舗装された小道が繋いでいる。
きっと、普段は、散歩を楽しむ人たちやピクニックにやってきた家族連れで賑わっているのだろう。
けれど、今日は、名前の地元での最大級のイベントが開催されているとあって、溢れかえっている人の波に見えるのは、月島や名前達と同年代くらいの若者が多いようだった。
広場エリアの至る所でライブが行われているようで、ドラムやベースのドンドンという低音が靴底から耳の奥を震わせていたが、シガンシナ広場に入った途端に、爆発したかのような音楽と歌声が響いて圧倒されてしまった。
テレビの取材も来ているのか、撮影機材を持って歩いている集団とも何度かすれ違った。
入口付近には入場ゲートが設けられ、数名のスタッフがチケットの確認をしている。
名前が2名分のチケットを渡し、スタッフから地図を受け取る。地図には、各エリアで催されているアーティストのライブやカフェの場所、目次が記載してあった。
予定では、名前のお目当てである海外アーティストのライブを見てから、月島のお目当てである恐竜展に向かうことになっている。
東京に到着後、すぐに別行動でも構わなかった。
けれど、名前から、人で溢れるフェスで1人になるのは心細いから一緒にいてほしいとお願いされてしまったのだ。
コンビニのバイトから帰るだけなのにナンパをされたり、変な男に絡まれてしまう名前のことだ。若い男達がたくさんいるフェスに1人で放り込んでしまったらどうなるのか、月島でも簡単に想像がついた。
きっと、名前の両親も月島がフェスまで一緒にいてくれると考えて、同行を許可したのだろうと考えれば、彼女のお願いを断ることは出来なかった。
「まずどこに行きますか?」
通行人の邪魔にならないように、小道に入る前の広場横で立ち止まると、月島は名前に訊ねた。
元から時間に余裕のあるスケジュールにはしておいた。新幹線も想定よりもひとつ早いのに乗れたおかげで、シガンシナ広場にも早く着けた。
そのおかげで、名前のお目当てである海外アーティストのライブまでまだ1時間は余裕がある。
昼食をとる時間もありそうだ。
月島は、名前が行きたいと言っていた有名なパティシエがいるという簡易カフェの場所を地図上から探しながら、返事を待った。
「んー。どうしよっかー。」
心ここに在らずな返事が聞こえてきて、月島は地図に向けていた視線を隣にいる名前に移した。
名前は、地図を見ているわけでもなく、今からの予定を考えている様子もない。ただただしきりに辺りを見渡していた。
まるで、東京に初めてやってきて、人混みに驚き不安そうにしている田舎者の子どものようだ。
挙動不審にしか見えないその姿に、月島は訝しげに眉をしかめる。
「何か探してるんですか?」
「え!」
名前が驚いた顔をして、月島を見上げた。
図星ーーーと書いてあるけれど、それと同時に、気づかれたくなかったのだということも分かった。
「…今からどこに行くか聞いてるんですけど。
名前さんが決めないなら、ライブまでまだ時間あるし、適当にどこかでお昼にしますよ。」
「え!あ、ダメだよ!カフェなんかに行ってたら、見つけられない!」
名前が焦ったように言う。
きっと、口を滑らせただけだ。
何を見つけたいのかーーーと訊ねるのは、きっと正解じゃない。
「なら、どうするんですか。」
「えっと…、あ!人気のあるライブは、早く行って場所取りしておかなきゃいけないの!」
「えー…。めんどくさ。」
「だから、どこかでテイクアウトして、場所取りしてから、そこでお昼食べよう!」
名前が言う。
心ここに在らずだった割には、それなりの提案だった。
こういうフェスが初めての月島には、何が正解かも分からない。
だから、場所取りなんて面倒くさくて仕方がなかったが、名前に従うことにした。
もらったばかりの地図を一緒に覗き込んで、ライブ会場の場所とそこまでの道なりにある簡易カフェエリアで、名前が食べたいものを探す。
そして、とりあえずの道順を決めてから、漸く月島達は歩き始めた。
人が多い割には、舗装された小道は混雑しているということもなく、それなりに歩きやすかった。
それでも、人がいないわけではないし、すれ違う人たちも多い。
挙動不審な様子の名前は小道でも健在で、すれ違う人達の顔を一人一人、必死に視線で追いかけている。
“何か“ではなくて、“誰か“を探しているようだ。
「おい!もうライブ始まっちまうって!」
「早く行こうぜ!!」
「急げ!!」
後ろから駆け抜けていったのは、20代くらいの数人の若い男のグループだった。
人がすれ違えるだけのスペースがあるとは言え、そんなに広い歩道でもない。
そんな小道を猛スピードで走っていく若い男の身体が、挙動不審にキョロキョロしている名前のすぐ隣を駆け抜けて行こうとしている。
月島は、急いで名前の肩に腕を伸ばした。
「きゃ!?」
掴んだ華奢な肩を少し乱暴に自分の方に引き寄せると、名前が驚いた顔をして小さな悲鳴を漏らした。
あと少しで、猛スピードで走るガタイのいい男とぶつかるところだった。
でも、挙動不審な様子ですれ違う人の顔ばかり見ていた名前には、何が起こったか分からない。
「あ、すみませーん!」
驚いた顔をして月島を見上げる名前の少し向こうで、事態に気づいたらしい若い男が薄っぺらい謝罪の言葉を叫んだ。
月島を見上げていた名前の顔が、あっという間に小さくなっていく若い男の背中へと向く。
「もしかして、ぶつかりかけてた?」
「あと1秒遅かったら、名前さんなんて100メートルは吹っ飛ばされてましたよ。」
「え!そしたら、あっという間にカフェに着けたじゃん!」
「じゃあ、もう一回、ぶつかってもらいますか?」
「絶対やだ!
ふふ、ありがとう。すごく助かりました。」
月島の大袈裟な忠告をジョークと受け取った名前は、クスクスと笑ってから、礼を言った。
肩を拘束していた腕が離れれれば、名前はあっという間に離れていく。
それからすぐに、後ろを歩いていたらしい若い女のグループの声が騒がしくなった。
「もう本当に、すっごい危なかったんですよー。おねえさーん。」
「そうそう!アイツら、マジなんなの!」
「私なんてぶつかられたのに、あ、て言って終わりだったんだけど!
マジ、ムカつく!」
歩く速度は変えないまま、月島と名前が視線を後ろに向けた。
目が合ったのは、3人組の若い女のグループだった。月島達と同年代か。多分、10代の女子高生だ。
派手な見た目と派手なファッションは、所謂、イメージ通りのギャルというやつだった。
彼女達は目が合った途端に、その目をキラキラと輝かせた。
そして、まるで、その言葉しか知らないみたいに、早口で「やばい」「やばい」と繰り返す。
なにが「やばい」のかが分からないでいると、中央のギャルがやっと違う言葉を発した。
「なにこの最強カップル!!」
中央のギャルが、まるで叫ぶように言ったのは、そんなセリフだった。
(サイキョウ…?)
ただ歩いているだけの月島と名前は、最強である要素なんて、何も見せてはいない。
そもそも、別に最強でもない。
自分は知らないギャル用語だろうかーーーそう考えて、月島は名前に視線を向けて、助けを求める。
だが、名前にもよく分からなかったらしく、首を傾げられてしまった。
「後ろ歩いてる時から、めちゃくちゃスタイル良いカップルだと思ってたんですよー。」
「振り向き美人とイケメンのカップルとか、マジでときめくんだけど!」
「彼女助ける姿にキュンとさせられたと思ったら、顔面も最強とかなんだよ、もう〜!」
ギャル達は自分の胸に手を当てたりしながら、キャーキャーと楽しそうに盛り上がっている。
最強というのは、顔面のことだったらしい。
顔面を最強と表現をするのは、月島には納得できなかったが、彼女達が何を言いたいのかは理解出来た。
でもそれならば、最強なのは、名前だけだ。
名前は、生まれたその瞬間から、まるでそれが名前なんじゃないかと疑ってしまいそうになるくらいの「可愛い」「美人」という言葉を聞かされてきただろう。
けれど、月島は、今までの人生、イケメンだなんて言われたことは一度だってない。
たまに、親戚の集まりの時に『またデカくなったなぁ!』と感心されるくらいだ。
「いいなぁ、背が高くてスタイルよくてイケメンで、優しい彼氏!」
「バッと抱き寄せて彼女を守る姿、めっちゃカッコ良かったんですよ〜!
お姉さんにも見せたかった〜。」
「ねー!」
月島と名前に入る隙を1秒も与えず、ギャルたちは恋人を守った彼氏の月島を大絶賛して盛り上がっていた。
そして、ライブ会場に向かうからと、途中の分かれ道であっという間に去っていった。
まるで、嵐のようなギャル達だった。
「月島くん、最強で最高の理想の彼氏だって。
いや〜、彼女の私は鼻が高いですなぁ。」
嵐が過ぎ去った後、やっと静かになると、名前が面白そうに言う。
目と口がニヤニヤと笑っている。
「…そうですね。コケたら、まずは鼻を打って真っ赤にするんで
鼻は高い方なんじゃないですか。」
「…!?ち、違う!そういう意味じゃないし!!」
また、いとも容易く煽られた名前は、顔を真っ赤にして怒っている。
そんな名前の文句を聞き流して、月島は明後日の方を向く。
だって、まさか、自分と名前が恋人同士に見えるなんて、思ってもいなかったからーーーー。
昔ながらの一軒家が建ち並ぶ住宅街と河川敷、走り回って遊ぶ子供たちの声も、烏野と似ている気がした。
名前の両親が、引っ越し先に烏野のあの洋館を選んだのは、そういうのも理由のひとつにあるのかもしれない。
そんな地元とは対照的に、シガンシナ広場は想像以上の広さがあって、月島を驚かせた。
整えられた芝生が広がるエリアと木陰で休息するのにちょうど良さそうな木々が生い茂る丘を舗装された小道が繋いでいる。
きっと、普段は、散歩を楽しむ人たちやピクニックにやってきた家族連れで賑わっているのだろう。
けれど、今日は、名前の地元での最大級のイベントが開催されているとあって、溢れかえっている人の波に見えるのは、月島や名前達と同年代くらいの若者が多いようだった。
広場エリアの至る所でライブが行われているようで、ドラムやベースのドンドンという低音が靴底から耳の奥を震わせていたが、シガンシナ広場に入った途端に、爆発したかのような音楽と歌声が響いて圧倒されてしまった。
テレビの取材も来ているのか、撮影機材を持って歩いている集団とも何度かすれ違った。
入口付近には入場ゲートが設けられ、数名のスタッフがチケットの確認をしている。
名前が2名分のチケットを渡し、スタッフから地図を受け取る。地図には、各エリアで催されているアーティストのライブやカフェの場所、目次が記載してあった。
予定では、名前のお目当てである海外アーティストのライブを見てから、月島のお目当てである恐竜展に向かうことになっている。
東京に到着後、すぐに別行動でも構わなかった。
けれど、名前から、人で溢れるフェスで1人になるのは心細いから一緒にいてほしいとお願いされてしまったのだ。
コンビニのバイトから帰るだけなのにナンパをされたり、変な男に絡まれてしまう名前のことだ。若い男達がたくさんいるフェスに1人で放り込んでしまったらどうなるのか、月島でも簡単に想像がついた。
きっと、名前の両親も月島がフェスまで一緒にいてくれると考えて、同行を許可したのだろうと考えれば、彼女のお願いを断ることは出来なかった。
「まずどこに行きますか?」
通行人の邪魔にならないように、小道に入る前の広場横で立ち止まると、月島は名前に訊ねた。
元から時間に余裕のあるスケジュールにはしておいた。新幹線も想定よりもひとつ早いのに乗れたおかげで、シガンシナ広場にも早く着けた。
そのおかげで、名前のお目当てである海外アーティストのライブまでまだ1時間は余裕がある。
昼食をとる時間もありそうだ。
月島は、名前が行きたいと言っていた有名なパティシエがいるという簡易カフェの場所を地図上から探しながら、返事を待った。
「んー。どうしよっかー。」
心ここに在らずな返事が聞こえてきて、月島は地図に向けていた視線を隣にいる名前に移した。
名前は、地図を見ているわけでもなく、今からの予定を考えている様子もない。ただただしきりに辺りを見渡していた。
まるで、東京に初めてやってきて、人混みに驚き不安そうにしている田舎者の子どものようだ。
挙動不審にしか見えないその姿に、月島は訝しげに眉をしかめる。
「何か探してるんですか?」
「え!」
名前が驚いた顔をして、月島を見上げた。
図星ーーーと書いてあるけれど、それと同時に、気づかれたくなかったのだということも分かった。
「…今からどこに行くか聞いてるんですけど。
名前さんが決めないなら、ライブまでまだ時間あるし、適当にどこかでお昼にしますよ。」
「え!あ、ダメだよ!カフェなんかに行ってたら、見つけられない!」
名前が焦ったように言う。
きっと、口を滑らせただけだ。
何を見つけたいのかーーーと訊ねるのは、きっと正解じゃない。
「なら、どうするんですか。」
「えっと…、あ!人気のあるライブは、早く行って場所取りしておかなきゃいけないの!」
「えー…。めんどくさ。」
「だから、どこかでテイクアウトして、場所取りしてから、そこでお昼食べよう!」
名前が言う。
心ここに在らずだった割には、それなりの提案だった。
こういうフェスが初めての月島には、何が正解かも分からない。
だから、場所取りなんて面倒くさくて仕方がなかったが、名前に従うことにした。
もらったばかりの地図を一緒に覗き込んで、ライブ会場の場所とそこまでの道なりにある簡易カフェエリアで、名前が食べたいものを探す。
そして、とりあえずの道順を決めてから、漸く月島達は歩き始めた。
人が多い割には、舗装された小道は混雑しているということもなく、それなりに歩きやすかった。
それでも、人がいないわけではないし、すれ違う人たちも多い。
挙動不審な様子の名前は小道でも健在で、すれ違う人達の顔を一人一人、必死に視線で追いかけている。
“何か“ではなくて、“誰か“を探しているようだ。
「おい!もうライブ始まっちまうって!」
「早く行こうぜ!!」
「急げ!!」
後ろから駆け抜けていったのは、20代くらいの数人の若い男のグループだった。
人がすれ違えるだけのスペースがあるとは言え、そんなに広い歩道でもない。
そんな小道を猛スピードで走っていく若い男の身体が、挙動不審にキョロキョロしている名前のすぐ隣を駆け抜けて行こうとしている。
月島は、急いで名前の肩に腕を伸ばした。
「きゃ!?」
掴んだ華奢な肩を少し乱暴に自分の方に引き寄せると、名前が驚いた顔をして小さな悲鳴を漏らした。
あと少しで、猛スピードで走るガタイのいい男とぶつかるところだった。
でも、挙動不審な様子ですれ違う人の顔ばかり見ていた名前には、何が起こったか分からない。
「あ、すみませーん!」
驚いた顔をして月島を見上げる名前の少し向こうで、事態に気づいたらしい若い男が薄っぺらい謝罪の言葉を叫んだ。
月島を見上げていた名前の顔が、あっという間に小さくなっていく若い男の背中へと向く。
「もしかして、ぶつかりかけてた?」
「あと1秒遅かったら、名前さんなんて100メートルは吹っ飛ばされてましたよ。」
「え!そしたら、あっという間にカフェに着けたじゃん!」
「じゃあ、もう一回、ぶつかってもらいますか?」
「絶対やだ!
ふふ、ありがとう。すごく助かりました。」
月島の大袈裟な忠告をジョークと受け取った名前は、クスクスと笑ってから、礼を言った。
肩を拘束していた腕が離れれれば、名前はあっという間に離れていく。
それからすぐに、後ろを歩いていたらしい若い女のグループの声が騒がしくなった。
「もう本当に、すっごい危なかったんですよー。おねえさーん。」
「そうそう!アイツら、マジなんなの!」
「私なんてぶつかられたのに、あ、て言って終わりだったんだけど!
マジ、ムカつく!」
歩く速度は変えないまま、月島と名前が視線を後ろに向けた。
目が合ったのは、3人組の若い女のグループだった。月島達と同年代か。多分、10代の女子高生だ。
派手な見た目と派手なファッションは、所謂、イメージ通りのギャルというやつだった。
彼女達は目が合った途端に、その目をキラキラと輝かせた。
そして、まるで、その言葉しか知らないみたいに、早口で「やばい」「やばい」と繰り返す。
なにが「やばい」のかが分からないでいると、中央のギャルがやっと違う言葉を発した。
「なにこの最強カップル!!」
中央のギャルが、まるで叫ぶように言ったのは、そんなセリフだった。
(サイキョウ…?)
ただ歩いているだけの月島と名前は、最強である要素なんて、何も見せてはいない。
そもそも、別に最強でもない。
自分は知らないギャル用語だろうかーーーそう考えて、月島は名前に視線を向けて、助けを求める。
だが、名前にもよく分からなかったらしく、首を傾げられてしまった。
「後ろ歩いてる時から、めちゃくちゃスタイル良いカップルだと思ってたんですよー。」
「振り向き美人とイケメンのカップルとか、マジでときめくんだけど!」
「彼女助ける姿にキュンとさせられたと思ったら、顔面も最強とかなんだよ、もう〜!」
ギャル達は自分の胸に手を当てたりしながら、キャーキャーと楽しそうに盛り上がっている。
最強というのは、顔面のことだったらしい。
顔面を最強と表現をするのは、月島には納得できなかったが、彼女達が何を言いたいのかは理解出来た。
でもそれならば、最強なのは、名前だけだ。
名前は、生まれたその瞬間から、まるでそれが名前なんじゃないかと疑ってしまいそうになるくらいの「可愛い」「美人」という言葉を聞かされてきただろう。
けれど、月島は、今までの人生、イケメンだなんて言われたことは一度だってない。
たまに、親戚の集まりの時に『またデカくなったなぁ!』と感心されるくらいだ。
「いいなぁ、背が高くてスタイルよくてイケメンで、優しい彼氏!」
「バッと抱き寄せて彼女を守る姿、めっちゃカッコ良かったんですよ〜!
お姉さんにも見せたかった〜。」
「ねー!」
月島と名前に入る隙を1秒も与えず、ギャルたちは恋人を守った彼氏の月島を大絶賛して盛り上がっていた。
そして、ライブ会場に向かうからと、途中の分かれ道であっという間に去っていった。
まるで、嵐のようなギャル達だった。
「月島くん、最強で最高の理想の彼氏だって。
いや〜、彼女の私は鼻が高いですなぁ。」
嵐が過ぎ去った後、やっと静かになると、名前が面白そうに言う。
目と口がニヤニヤと笑っている。
「…そうですね。コケたら、まずは鼻を打って真っ赤にするんで
鼻は高い方なんじゃないですか。」
「…!?ち、違う!そういう意味じゃないし!!」
また、いとも容易く煽られた名前は、顔を真っ赤にして怒っている。
そんな名前の文句を聞き流して、月島は明後日の方を向く。
だって、まさか、自分と名前が恋人同士に見えるなんて、思ってもいなかったからーーーー。