ep.11 君は黒猫を撫でながら初恋の人を想う
Name change
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少し前から、月島が到着を知らせるメッセージを送ってから名前がやってくるまで、時間がかかるようになってきた。
とは言っても、5分も待たないのだけれど、それまではメッセージを送ればすぐに返事が来ていたし、彼女もすぐやってきていた。
でも、今日もやっぱり、メッセージが既読になったきり、名前は出てこない。
「それじゃ、お疲れさまでした!」
裏口の方から名前の声がした。
やっと出てきたようだ。
裏口が見えるところまで行くと、名前が扉を閉めようとしているところだった。
「あ、待って…!まだ続きがあってさ…!」
「そうなんだ、じゃあ、それはまた今度。」
「絶対な!」
「おつかれさまでした。」
扉の向こうから名前を呼び止めたらしい誰かに、彼女が笑顔で答える。
暗くてよく見えないけれど、疲れた表情をしている気がしたのは、やっと扉を閉じた後、彼女が大きなため息を吐いたからだ。
「待たせちゃってごめんなさいっ。」
月島に気付くと、名前は申し訳なさそうにしながら駆け寄って来た。
「…そうでもないです。」
正直、待たされていい気はしない。早く帰りたい。
けれど、なんとなく嫌味を言う気にはなれなくて、その代わり月島は素っ気なく答えた。
「今日はパンありがとうね!すっごく美味しかった!」
歩き始めてすぐ、名前はまた明るく話し始めた。
「あぁ。ならよかったです。」
「あれ、購買のパンなんだってね!清水さんに聞いた!
私も買ってみようかな~。」
「いいんじゃないですか。」
よほどあのパンが気に入ったのか、名前は今から明日の昼ご飯を楽しみにしていた。
でも、その理由はパンだけではないのかもしれない。
明日から、清水と一緒に昼食をとる約束をしたのだそうだ。
さっきから、名前はしきりに清水の名前を出して、嬉しそうに喋っている。
清水と過ごした時間が、彼女にとってとても楽しいものだったのだろう————そう思ったのと同時に、そういえば、名前から普段一緒にいるはずの友人達の話を聞いたことがないことに気が付いた。
今日の昼、どうして清水があんなに必死に名前を探していたのかは分からない。
けれど、もしかしたら3年の中で何かあったのかもしれない。
「月島君はいつもお昼はパンなの?」
「いえ、弁当です。」
「そうなんだ!いいな~、お弁当!
清水さんもねっ、美味しそうなお弁当だった!自分で作ってるんだって!
すごいよね!」
「へぇ。」
「あれ、じゃあ、どうしてパン買ってたの?
デザート用?」
名前が不思議そうに訊ねる。
弁当の後にデザート用としてクリームたっぷりのクロワッサンなんて、誰が選ぶだろう。
日向ならいけるかもしれないが、少なくとも月島の腹には絶対に入らない。
「…そうですね。」
月島がそう答えると、名前はすごく申し訳なさそうに謝ってきた。
本気で月島のデザートだと信じたようだ。
でも、嘘を吐いたと訂正する気はない。勘違いしたままでいい。
「今度から、バイトが休みの日はバレー部のマネージャーの仕事をさせてもらうことになったよ。」
「へぇ、いいんじゃないですか。どうせ暇なんデショ。」
それなら、バイトが休みでも名前には放課後の予定が出来るようになる。
だから、本当にそれは良いアイディアだと思ったのだ。きっと、清水の案だろう。
けれど、月島の返事が意外だったのか、名前は驚いたような、考えるような、複雑な表情で見上げてきた。
「…何?」
月島が眉を顰める。
「月島君、嫌がるかなって思ってたから。」
「…なんで。」
「この前も、他の部員にからかわれてたし…、迷惑だったかなってちょっと反省してて。」
「あぁ~…。」
確かに、あの日の帰り道、名前はいつもよりもおとなしかった。
部員達は、月島と名前が知り合いだったことに驚いて騒いでいたし、それに対して、自分が迷惑そうに対応していた自覚も月島にはあった。
でも、名前をバイト先まで迎えに行くようになったきっかけも洗いざらい喋らされたし、今さら気にすることは何もない。
「気にしてないんで。
名前さんの好きなようにしたらいいんじゃないですか。」
「…うん!ありがとう!」
名前がホッとしたような笑みを浮かべて、小さく息を吐いた。
嫌がられるかもしれない、と心配していたのだろう。
でも、名前の放課後の行動に対して、月島が文句をつけるようなことはないし、そんな権利もない。
だから、好きにすればいい。
とは言っても、5分も待たないのだけれど、それまではメッセージを送ればすぐに返事が来ていたし、彼女もすぐやってきていた。
でも、今日もやっぱり、メッセージが既読になったきり、名前は出てこない。
「それじゃ、お疲れさまでした!」
裏口の方から名前の声がした。
やっと出てきたようだ。
裏口が見えるところまで行くと、名前が扉を閉めようとしているところだった。
「あ、待って…!まだ続きがあってさ…!」
「そうなんだ、じゃあ、それはまた今度。」
「絶対な!」
「おつかれさまでした。」
扉の向こうから名前を呼び止めたらしい誰かに、彼女が笑顔で答える。
暗くてよく見えないけれど、疲れた表情をしている気がしたのは、やっと扉を閉じた後、彼女が大きなため息を吐いたからだ。
「待たせちゃってごめんなさいっ。」
月島に気付くと、名前は申し訳なさそうにしながら駆け寄って来た。
「…そうでもないです。」
正直、待たされていい気はしない。早く帰りたい。
けれど、なんとなく嫌味を言う気にはなれなくて、その代わり月島は素っ気なく答えた。
「今日はパンありがとうね!すっごく美味しかった!」
歩き始めてすぐ、名前はまた明るく話し始めた。
「あぁ。ならよかったです。」
「あれ、購買のパンなんだってね!清水さんに聞いた!
私も買ってみようかな~。」
「いいんじゃないですか。」
よほどあのパンが気に入ったのか、名前は今から明日の昼ご飯を楽しみにしていた。
でも、その理由はパンだけではないのかもしれない。
明日から、清水と一緒に昼食をとる約束をしたのだそうだ。
さっきから、名前はしきりに清水の名前を出して、嬉しそうに喋っている。
清水と過ごした時間が、彼女にとってとても楽しいものだったのだろう————そう思ったのと同時に、そういえば、名前から普段一緒にいるはずの友人達の話を聞いたことがないことに気が付いた。
今日の昼、どうして清水があんなに必死に名前を探していたのかは分からない。
けれど、もしかしたら3年の中で何かあったのかもしれない。
「月島君はいつもお昼はパンなの?」
「いえ、弁当です。」
「そうなんだ!いいな~、お弁当!
清水さんもねっ、美味しそうなお弁当だった!自分で作ってるんだって!
すごいよね!」
「へぇ。」
「あれ、じゃあ、どうしてパン買ってたの?
デザート用?」
名前が不思議そうに訊ねる。
弁当の後にデザート用としてクリームたっぷりのクロワッサンなんて、誰が選ぶだろう。
日向ならいけるかもしれないが、少なくとも月島の腹には絶対に入らない。
「…そうですね。」
月島がそう答えると、名前はすごく申し訳なさそうに謝ってきた。
本気で月島のデザートだと信じたようだ。
でも、嘘を吐いたと訂正する気はない。勘違いしたままでいい。
「今度から、バイトが休みの日はバレー部のマネージャーの仕事をさせてもらうことになったよ。」
「へぇ、いいんじゃないですか。どうせ暇なんデショ。」
それなら、バイトが休みでも名前には放課後の予定が出来るようになる。
だから、本当にそれは良いアイディアだと思ったのだ。きっと、清水の案だろう。
けれど、月島の返事が意外だったのか、名前は驚いたような、考えるような、複雑な表情で見上げてきた。
「…何?」
月島が眉を顰める。
「月島君、嫌がるかなって思ってたから。」
「…なんで。」
「この前も、他の部員にからかわれてたし…、迷惑だったかなってちょっと反省してて。」
「あぁ~…。」
確かに、あの日の帰り道、名前はいつもよりもおとなしかった。
部員達は、月島と名前が知り合いだったことに驚いて騒いでいたし、それに対して、自分が迷惑そうに対応していた自覚も月島にはあった。
でも、名前をバイト先まで迎えに行くようになったきっかけも洗いざらい喋らされたし、今さら気にすることは何もない。
「気にしてないんで。
名前さんの好きなようにしたらいいんじゃないですか。」
「…うん!ありがとう!」
名前がホッとしたような笑みを浮かべて、小さく息を吐いた。
嫌がられるかもしれない、と心配していたのだろう。
でも、名前の放課後の行動に対して、月島が文句をつけるようなことはないし、そんな権利もない。
だから、好きにすればいい。